38-4 授業は実践で
とりあえず、お話も終わったので帰ろうかと思ったのだが生徒に呼び止められた。
「先生、せっかくの機会ですから、何か魔法を見せていただけませんか?」
高等部の生徒が何人か来て強請ってきた。
すると他の生徒も集まってきた。
「そうだな。
この中に冒険者になりたい者はいるか?」
何人かが手を挙げた。
ここに来ているのは貴族の子弟ばかりではないし、男爵家や子爵家の三男以下とかいう人もいるのだ。
また官僚を目指さない、魔法をよく使える平民なんかもいる。
「そうか。
冒険者になると迷宮に潜ったりする事もある。
アドロス迷宮の場合、天井からスライムが降ってくる事も多い。
アドロスの迷宮で一番死亡率が高いのが、この『天井の殺し屋』と呼ばれるFランクの魔物だ。
お前らも、あそこへ行く場合は必ず頭に防護のための装備を忘れるな。
一度やられた後に被れるように、予備の帽子を持って行くといいぞ。
では私の対処の一部を見せよう」
俺はゴーレムを迷宮に送り込んで、スライムを一匹捕まえてこさせて呼び戻した。
いきなり現れて、手にべったりとスライムを貼り付けたゴーレムに生徒が思わず後ずさったが、気にせずに続ける。
「スタン」
俺の魔法を受けてバシっと丸まって落ちるスライム。
それから人差し指と中指を揃えて、銃のような形を作り生徒に見せる。
「これはファンクションモーションといって、言葉ではなく動作でクイックに魔法を呼び出す方法だ。
よく使う簡易な魔法を使うのに適している。
そして、これが火炎放射器の魔法だ
よく見てイメージを掴んでおきなさい」
指先から少し離れた場所から、シューッと噴出した炎がスライムを蒸発させた。
「こういう魔法は、天井に潜むスライムを掃討するのに便利な魔法だ。
あそこの迷宮は暗いから、炎で照らしながら掃討すると非常に具合がいい。
迷宮内は魔素に溢れているから魔法の燃料には事欠かない。
まあ一番いいのは感知系を鍛えておく事だ。
それも個々の適性とかがあるから、なんとも言えないのだが。
そこはパーティとしてチームを組む手もある。
プロの冒険者はそうしている。
諸君らも色々と覚えられる魔法はなるべく覚えておく事だ。
死にたくなければね。
もし冒険者になるつもりなら」
冒険者稼業が命がけの仕事なのは理解出来ているようで、冒険者志望の生徒達は真剣な表情だ。
「あと、そうだな。
魔力の鍛錬は丹念に毎日やったほうがいい。
今迄出会った奴らを振り返ると、どうもその辺の事をサボっている感触がある。
まあ苦痛というか面倒なものなのだから無理もないが、それでもやった方がいいぞ。
鍛錬をすると魔力の使い方も上手くなって魔力消費量も減り、逆に魔力量は増えるはずだ。
それも年齢や資質によって違ってくるはずだが、やらないよりはやった方が絶対にいい。
きっと、いざという時に助かるだろう。
例えば、アドロスのように帰還石がないダンジョンで魔力が切れても魔物達は待ってくれない。
むしろ喜んで殺しにかかってくるだろう。
いくら魔素に溢れるダンジョンの中だからといって、一度に大量の魔力を消耗すれば魔力が切れてしまう事はあるのだから。
魔素から魔力を産み出すのには一定の時間がかかるから、通常はすぐには満タンへ回復しない。
特に元から魔力量が少ない奴なんかは要注意だな。
そういう力も鍛練で向上する。
魔力の鍛錬をやっていない奴は、今日からやっておけよ~」
簡単な実戦講義を終えて生徒達と笑顔で別れて学園長室に戻ったら、学園長がヤバそうな器具を並べて何かをやっていた。
ちょっと警戒しておく。
なんとなくシールドを張ってみたが、案の定それらが爆発した。
お約束かっ。
朦々と立ち込める色彩豊かな煙の中で、風魔法で有毒そうな煙を近寄らせないようにしつつ、学園長に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ヴエッフ、エホンエホン。
いや、失敬失敬。
ちょっと来期の授業に使う魔法薬を調合していて失敗したよ。
あははは」
大丈夫かいな、この学園。
俺は次回この学園に来るスケジュールを頂いて、今日のところは退散する事にした。
あと若干心配になったので、話を聞くためにミハエルのところへ御邪魔した。
「よ~、王都学園の学園長って、どんな人なんだい?」
「ん? あの人か……」
今、微妙な間が空いたな。
「なんで、そんな事を訊く?」
奴も少し胡乱そうな顔で訊く。
「ああ、なんか知らんが王都の学園で臨時講師をやる羽目になった」
「そ、そうか。お前がか~」
更に浮かない顔をするミハエル。
「いや、いきなり要請の手紙を送りつけてきたのでな。
俺は忙しくなりそうだから、わざわざ学園まで断りに行ったんだが、うやむやのうちに引き受けさせられてしまった。
別に俺がやりたいって言ったわけじゃないぞ」
「ああ、そうだろうな。
あの学園長の事だから。
あそこには、うちの妹もいるんだ。
お手柔らかに頼むぞ。
あの学園長は優秀な方だし人格にも全く問題はない。
父上からの信頼も厚いのだ。
だが、あの性格がなあ」
そうだろうなあ。
学園長が思いの他濃かったので、講師の仕事を断れなかったじゃないか。
臨時講師生活は無事には済まない予感でいっぱいだったが、受けてしまったものは仕方が無い。
まあ、なるようになるだろう。
生徒には悪いが多少の修羅場は覚悟してもらおう。
かくして、この園長先生は王都学園の講師に就任したのであった。
とにかく色々と魔法や魔道具などは準備しておこうと決意したのだった。




