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38-1 王都学園

 もうすぐケモミミ学園も卒園式を迎える。

 だがそれは小学校設立を意味し、子供達にとっては新たな出発点でもある。


 そして記念事業のような物も企画があるため、あっちこっちで大わらわの状態だ。

 といっても、もう粗方の準備は終了しているのだが。


 とはいえ行事が立て続けであるので、それなりには大変だ。

 来賓には、もう予定表をとっくに回して確保してある。

 一番重要なのが王室メンバーなのだし。


 もっぱらメインの参加者は王子様・王女様だ。

 それに今はケモミミ園にプリティドッグのミニョンがいるから、絶対に王妃様もついてくるのに決まっている。


 騎士団には当然来てもらわないといけないが、騎士団長のケインズには既に言ってあるし、エミリオ殿下が来る時には元王国騎士団長であるルーバ爺さんが来てくれるので、そっちの関係は何も問題は無いのだ。

 そもそも、ここは巷で『魔王城』と呼ばれているくらいだから悪党なんかは絶対に近寄らない。


 今は帝国もそう問題は無い。

 襲撃があるとしたら、あの『魔界の鎧』の持ち主くらいだろう。

 この糞忙しい時に、要らんちょっかいをかけてきたら、魔界の鎧だろうがなんだろうが問答無用で仕留める。


 衛星精霊砲は今も健在だ。

 あれも今は大型砲を搭載してある。

 もう前の時ほどコソコソしなくていいからな。

 俺も自前の精霊砲を使用可能な天使の翼を持っているし、精霊を装填して使用する精霊ライフルもある。


 この間の通常魔法を封じられた異空間では、うっかりと即射撃が可能な精霊ライフルを出すのも忘れてしまっていた。

 相変わらずなおっさんだ。

 まあ、その御蔭で精霊樹の番人を仕留めなくて済んだので幸いだったのだけれど。

 きっと、それもセブンスセンスの仕業なのに違いない。

 俺にはよくある話だ。



 そんな忙しい毎日であったのだが、とんでもない事を言ってきた奴がいた。

 王宮から使者がやって来て、俺宛ての手紙を置いていったのだ。

 差出人は貴族のようだ。

 紋章の彫られた指輪で押して、真っ赤な蝋で封をした貴族の使うタイプの手紙だったし。


 そんな紋章なんか見たって相手が誰なのかなんて俺にはわかりやしない。

 俺は異世界からやって来た、一介の名誉公爵に過ぎないのだから。


 この世界にも紙はあった。

 値段はとても高いけれども。


 アドロスのケモミミ園まで、王宮からだと手紙が届くのは往復で一日がかりなんだよね。

 早馬じゃなくて、のんびりと馬車で届くのだ。


「拝啓 魔王様。


 初春の頃、皆様におかれましては、いよいよ御清祥の事と御喜び申し上げます。

 平素は格別の御厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。

 この度、我がアルバ王立学園におきましては、臨時魔法講師を迎え魔法教育を強化する運びとなりました。

 つきましてはグランバースト公爵にその役を依頼したく、御願い申し上げます。


                                      敬具」


 またなんかビジネス文書みたいな手紙が届いたな。

 しかも宛先が魔王様宛になっているし。


 この国では、貴族が(したた)める文書というものは、こういう形式らしい。

 他所の国の貴族の手紙みたいに四の五の長々と書いていない。

 挨拶文は簡潔に、という事か。


 どうせ武が残した「挨拶文の書き方」とかが伝わっているのに違いない。

 初代国王はサラリーマンの鏡のような奴だ。


 差出人はアルバ王立学園学園長となっている。

 通称、王都学園と呼ばれているところだな。

 奇遇だな、この春から俺も学園長なんだけど。


 この王都学園って、確かシルベスター王女達が通っているところだよな。

 あとハイドの海賊王夫妻も通っていた学校のはず。


 また無理難題を言ってくるな。

 おっさんだって、こう見えて忙しいのよ。

 面倒だが、直に断りに行ってこよう。

 王国の施設から正式に届いた手紙なんだから、あまり失礼な事も出来ない。

 その場で転移して王宮へ跳んだ。



 はて、王宮から手紙が来たのでここへやって来たのはいいが、見たところ学園なんていう物はどこにも無かったよな。

 はてさてと首を捻っていると、おー、ベル君がやって来た。


「よー、久しぶり。

 元気か、準男爵」


「あはは。

 今は男爵に昇進しましたよ。

 アルフォンスさんも名誉公爵になられたんですよね。

 これから学園まで用事で出かけるところです」


 ベル君は片手に下げた、資料なんかが入っていると思しき鞄を見せてくれた。


「おー、それそれ。

 それって王女様達が行くところだよな。

 どこにあるんだ、そこ。

 ちょっと連れていってくれ。

 なんか俺に臨時講師をやってくれっていう話なんだが、忙しいんで今から断りに行くところなんだ」


「はあ。

 それはまた無謀な事を。

 まあ、あの学園長の事ですからねえ」


 やや呆れたような口ぶりでベルグリットは肩を窄めた。

 まあ確かに、こいつにもかなり無理をさせたけどな。


 むしろ、魔王たるこの俺に講師をやらせようなんて突拍子もない事を思いつく、先方の学園長の方が気になる。

 また、とんでもない奴でなければいいのだが。


 歩きながらベル君に訊いてみた。


「王都学園の学園長って、一体どんな奴なんだい?」

「まあ、会えばわかりますよ」


 なんといったものやら、という雰囲気を漂わせてベル君は天を仰いだ。


 俺達は石造りの通路を庭園に沿って歩いていった。

 そういや、こっちの方にはあまり来ないよな。

 趣のある感じの中庭の方が御気に入りだし、王宮ではエミリオ殿下のところへ行く事が多い。


 上の王子連のところへは転移魔法で行っちまうしな。

 本当はそれもいけないんだけれど、特にミハエルのところへ行くのは緊急時の場合が多いから、のこのことセキュリティの厳しい王宮内を歩いてなんていられんわ。



 やがて少し静かなゾーンに入り、庭園というよりは木々の木陰も散見する散歩道へと移っていった。

 そこは髪を靡かせる風さえも爽やかに感じるような佇まいであった。

 なんていうかこう、キャンパスっぽい雰囲気?


 権謀術数が犇めくような王宮や総合庁舎とは、些か異なった趣であった。

 まあケツの青い餓鬼共が通うところだな。


 将来は陰謀などを巡らす事になるだろう貴族の子弟もいっぱいいるのだろうが、所詮はまだまだ青二才、この魔王みたいな黒いおっさん達とは比べるべくもない。


「へえ、王宮にこんなところがあったんだなあ」


「ええ。

 学生や講師以外はあまり用が無いゾーンですからね。

 あ、こっちです」


 ベル君が向かった場所は、なんていうか……校舎みたいなところだ。

 この世界じゃ見た事のない、地球タイプの校舎だった。

 石造りだが、イギリスとかアメリカにありそうな由緒正しきっていう感じの校舎だった。


 俺は懐かしさのあまり、その場にしばし立ちすくんでしまった。

 いや、外国の大学みたいなとこに行った経験があるわけじゃないんだがね。


 それは正しく『アースアルファ』たる俺達の故郷の、地球デザインそのものだった。

 懐かしさのあまり涙が出るぜ。


 涙ぐんでいる俺を見て、ベル君が驚いて声をかけてきた。


「アルさん、どうしたんです?

 大丈夫ですか?」


「い、いや。

 これは初代国王が建てたのかい?」


「ええ、そうです。

 王国史によれば、異世界の学園を模したものだとか。

 あ、アルさんも稀人なんでしたね」


「ああ、つい懐かしくてね。

 あいつも、そうだったんだろう。

 他にも、こういう物があるのかなあ」


「ええ、そうみたいですよ。

 僕はそんなに詳しくは無いんですが」


「大丈夫だ。

 うちには、千年物の生き証人がいるから」


「あはは、そうでしたね。

 じゃ、学園に参りましょうか」


 そして俺達はそのような軽い会話に勤しみながら、王都学園に向かって歩を進めていった。


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