37-4 下に~、下に
せっかくなので、エミリオ殿下にもワンコと遊ばせてあげようと思って王宮に連れていったら、あっという間に人集りが出来た。
普段なら絶対に俺と目を合わせたりしないような奴らも寄ってきて、可愛いワンコにもう夢中だ。
「すごい。
本物のプリティドッグを拝む事が出来たなんて!」
「こ、これは可愛すぎる。
たまらんなあ」
「なんて手触りがいいのかしら。
それに綺麗な毛並みねえ」
恐るべし、プリティドッグ。
この『貴族殺し』の魔王アルフォンスが、貴族連中の間でほぼ空気と化している。
今まで会った中で最強の魔物かもしれん。
エミリオ殿下の部屋に辿り着くまでに、相当の時間がかかってしまった。
まあ、こいつが可愛いんだから仕方が無い。
「わあ、可愛い~。
ねえ見て、爺や。
可愛いよ、この子~」
うん。
エミリオ殿下も、とっても可愛いよ。
このコンボなら国民を完全に悩殺できるな。
ルーバ爺さんも殿下のはしゃぎように目を細めて微笑を浮かべた。
ミニョンも殿下が気に入ったようで、物凄い「すりすり」を御披露してくれた。
噂を聞きつけて、何故かミハエルがやってきた。
あ、もしかして勝手に王宮へ魔物を連れ込んだのが、ちょっとまずかったのかな。
「凄いや!
本物のプリティドッグだ~。
話には聞いていたから、一度でいいから撫でてみたかったんだよな~。
おー、可愛い~」
いや違ったようだ。
というか、「あんたは一体誰だ」って突っ込みたくなるような幼い感じの喋り方になっている。
幼児退行か!
「ああ!
ミハエル御兄様、ずるいですわ。
出遅れてしまいました~」
やや出遅れてノックも無しに飛び込んできたスエット姿のシルベスター王女が悔しそうだ。
「ささーっと。
プリティドッグ、ゲット~」
その間隙をつくかのように、同じくスエット姿をした公爵令嬢であるベルベット嬢が滑り込んで、ミニョンを確保した。
「きゃー、出し抜かれたわ~」
「ふふ、早い者勝ちですわよ~」
「可愛いな~」
ハミル王女殿下も、しっかりワンコと遊ぶつもりのようで既にブルマー姿だ。
うん、殿下も可愛いらしいよ。
あわあわ言う子ジェニュインは出遅れて、体操着のまま周りをうろうろしている。
もう王子様の御部屋で上へ下への大騒ぎだ。
こ、これは。
うん、多分なんかのスキルだな。
やっぱり魔物だわ、これ。
弱い生き物だから、なんらかの形で他の生き物を魅了するのかもしれない。
まあ害が無いからいいんだけどね。
もう、うちの子なんだし。
そして、ついに王妃様がやってきた。
ああ!
しっかりとジャージ姿だぜ。
一国の王妃が、あの格好で自国の王宮の中をすっとんできたのか。
しかも、この由緒正しい古き大国であるアルバトロス王国で。
ありえねえ……。
端から犬と遊ぶ気満々なんだな。
この国が、段々とドワーフ国化していくような気がする。
「ああ、憧れのプリティドッグ!
なんて可愛いの。
私、この魔物に会いたくて冒険者になったのよ。
子供の頃に御父様に強請ったけれど手に入らなくて。
ならば、いっそ自分で手に入れようと思ってね。
でも結局ちゃんと会えなくて。
こんなところで今になって会えるなんて~。
まるで夢のようだわー」
ワンコを末娘ごと御膝に乗せて、もう夢中でもふっている。
見事な胡坐をかいて。
それでAランクまでいってしまうんだから、この人も大概だなあ。
このワンコ、大国の王妃様でも簡単には手に入れられないのか。
なんか王家の人達が全員幼児退行している気がする。
ミニョンも弄り回されて嫌がるどころか、国の頂点にいる高貴な方達が自分に夢中なのがわかるものか、至極御満悦な様子だった。
もうここまで来ると、他の王族の面子も反応を見てみたくなるな。
まず王太子であるカルロス君から襲撃した。
王妃様(ジャージ姿)を筆頭に進んでいく高貴な方々の大名行列。
それを見た通り過がりの人々が何事かと驚いた。
姫様方もスエットの上下や体操着だしな。
しかも先頭を偉そうに歩いているのが、何しろ犬だ。
そして関わった人達を次々に魅了して行列に取り込んでしまう。
段々とマジで参勤交代かと思うような人数になっていく。
それを見た、王太子の執務室を警護する兵士が仰天していた。
「お、王妃様?
それに姫様方も……その格好は一体!?
ええっ? 魔物?」
だが、あっという間に彼も墜ちた。
落ちるどころか、もう完全に撃墜されている。
ミニョンの、その可愛さにやられてしまったのだ。
「可愛いっすね、ワンコ」
もうデレデレもいいところだった。
いいのか、警備の兵士がそれで。
まあ王族自身がこの有様なのだから御咎めもないよな。
「おや、一体何事なんだい?」
騒ぎを聞きつけて顔を出した王太子殿下が、皆の注目している足元に目をやると、なんとも可愛らしいものが彼を見上げていた!
「おお~、これは可愛らしい犬ですね。
いや、これはもしかして魔物なのか。
おや?
こ、これはプリティドッグ!
これが……なるほど。
いやこれは母上が欲しがっていたわけだ。
子供の頃にね。
寝る前によく聞かされましたよ。
こいつを求めて母が諸国を旅した物語を。
なんていうかもう、実に英雄譚でしたねえ」
そう言いながらしゃがみこんで、にこにこしながら子犬の頭を撫でる次期国王陛下。
次期国王陛下に撫でられている子犬の方も至極御満悦な様子だった。
王妃自ら子供を寝かしつけるために聞かせる物語が、若き頃の自分の冒険物語なのか。
しかも伝説の犬を求めてのお話だ。
それが一国の王妃様、当時の公爵家御令嬢のやる事だとは。
今の御姿を拝見すれば、それも容易に信じられるな。
よし、後は国王陛下だ。
仕事に呪縛されているので名残惜しそうにワンコを見送るカルロス君を置いて、一行は陛下の執務室へと向かった。
結果は、壊れたかと思うほどの国王陛下のはしゃぎっぷりだった。
「ロッテ、ロッテ!
可愛いぞ、こいつ。
いやあ、そうか。
これがお前の求めていた、あのワンちゃんの真の姿なのか。
わはははは」
今度、日本の真理さんに聞いてみよう。
武の奴め、絶対に犬好きだったのに違いない。
その後も王妃様を先頭に、御犬様に付き従う大名行列は王宮内を練り歩き、いつ果てるともなく続いたのであった。
そして大名行列の王室メンバーは王国騎士団を引き連れて、その日はケモミミ園にて御泊りになった。
ワンコを御布団に引っ張り込む権利は、当然のように王妃様が勝ち得たらしい。




