35-3 大神官魔王
可愛い大神官に会えると思って、にこにこしてやってきた商人達の集団が、俺の顔を見て不思議そうにしていた。
「いらっしゃいませ。
本日はようこそ、おいでくださいました」
日本では、こういう挨拶をする商売には縁がなかったが、たまにはいいものだ。
俺は訪問客を素晴らしい(黒い)笑顔で出迎えた。
妙に改まった猫撫で声で挨拶をしてくる俺に、彼らも何か嫌な予感がしたらしい。
「こ、これはグランバースト公爵様、御機嫌よう。
本日はこんなところで、一体どうされました?」
最近はアルフォンス商会から色々と素敵商品を融通しているため、大手商会で俺の顔を知らない奴らはいない。
だがアルバトロス王国で一本指に入る暴れん坊である俺の御機嫌を損ねると、あのバイトン公爵よりもマズイかもしれないとか思われているようだった。
さすがにそれは心外なのだが、こういうのを日頃の行いが悪いとかいうんだろうな。
「なあに、ちょっと大神官が倒れてな。
本日はこの俺が代理だ。
ここは一つ、大神官魔王とでも呼んでもらおうか」
俺が凄みのある笑顔で説明してやったら、奴らの表情に明らかな絶望が走った。
「すみません。
ちょっと気分が優れませんので、本日は御暇させていただきます」
だがそんな言い訳を許すような、この大神官魔王ではないのだ。
ジェシカに代わり、大枚御布施を取り立てるという重要な任務があるのだから。
「ええい、逃がすものか。
召還、神聖エリオン」
そう宣言してファルを呼び出す。
後光が差すような、ありがたみのあるバックの特殊効果の光に、辺りが神々しく輝いた。
そういう視覚効果を持つ魔法を作っておいたのだ。
それは俺の過剰魔力放射の効果を利用したものなのだ。
更に追加で魔力をぶちこみまくってあるので、無駄に神々しいという奴だな。
今日はその御零れに与る奴らが大量にいるんで、魔力が無駄にならないからいいけど。
バックダンサーとして精霊達も顕現して飛び回った。
莫大な魔力のおやつ付きでファルと一緒にやる御仕事は連中も楽しかろう。
「お、おお……神聖エリオン様」
その姿を前に、その場にいた全員が平伏した。
すかさず可愛らしいニンフ達が御布施袋を持って回る。
いきなり呼ばれたのでファルが少し戸惑っていたのだが、こう言って頼んでおく。
「あの子達の後について、商人達の頭を撫でて回ってやってくれ」
よくわからない風だったが、ニンフ達の後をついて回ったファルが頭を撫でて歩く。
「よしよし、偉い偉い」
「ありがたや、ありがたや」
さすがに海千山千の強欲な商人共も、今日ばかりは御布施をケチるのは無理だった。
ふっふっふ、たっぷりと搾り取ってやったぜ。
ファルに頭を撫でられると、レインボーファルスの放射する霊的効果により凄まじく気持ちがいいので、動物も魔物もイチコロなのだ。
慣れない人だと、一瞬にして恍惚の人になってしまう。
顔も財布の紐も緩みっぱなしだ。
次の客は隣の大陸から来ている大使御一家だった。
そこは確かアルバトロスとも比較的仲がいい国のはずだ。
やはり、この大陸外でもロスを信仰している国は多い。
まさか神聖エリオン御大から祝福を与えてもらえるとは思ってみなかったらしくて、大感涙の御様子で寄付もかなり弾んでもらえた。
国の関係で、外交が上手くいくようにという祈願のために来ているので、国家予算からお金が出ているようだ。
そこでサービスとして、その国の国旗をバックに神聖エリオンと御一緒に記念写真を撮ってやった。
ファルの加護もたっぷりとつけて。
「見るだけで有難い写真」の出来上がりだった。
本日の精霊カメラマンは、神官服を身に纏った妖精さん風のスタイルだ。
この精霊さんの加護も写真につくのだ。
大使は本国へ加護ごと送るようだ。
更にサービスとして、俺がよく使う腕利きの強面精霊を写真の護衛につけた。
道中、クラーケンでも襲ってきたら捕獲しておくように、たっぷりとおやつ兼用の魔力バッテリーを持たせて。
あれの大型魔核はまだ欲しい。
その精霊には俺の腕輪を持たせてあるので、クラーケン如きに負ける事はありえない。
強面な精霊さんに「タコ揚げ」を頑張ってもらおうか。
大使さん、また御贔屓にね。
是非この国とも良い関係を保ってもらいたいものだ。
一応、俺もこの国の名誉公爵だったりするし、まあたまには公爵らしい仕事もしないとね。
ファルを抱っこして魔力を与えていると、ニンフ達や他の奴らも寄ってきたので、ふわりふわりっと彼らにも魔力を投げかけてやる。
精霊どもにも御菓子を振舞って一緒に休憩していると、もう次の客が来た。
なんかもう面倒なんで、次はファルに御神籤を持たせてみた。
運試しの御神籤一枚で白金貨十枚徴収か。
もはや完全にぼったくり商売だな。
何、これを二回引くだけの金がないと俺のミスリル剣は買えないぜ。
こんなものは小金小金。
「こ、これは神聖エリオン様!」
そう言いながらファルを迎えてくれたのは、この王都アルバ商業ギルドの大立者であるハインツ氏だ。
彼も元々は貴族に連なる氏族の一員だったのだが、貴族の三男坊で商売により身を立てた人が平民に身をやつしたのが一族の始祖だ。
そのせいか大変気品がある。
髪にそれなりに白いものが混じりだした顔にも、皺一つ一つにまでしっかりと誇りが刻まれている。
ロスに対する信仰も並々ならぬものがあるとか。
いや、何ね。
今心配になって様子を見に来たらしいミレーが隣で解説してくれていただけで。
そんな事を、このアルさんが知っている訳がないじゃないの。
この人も、この大神殿の上得意さんだった。
「やあ! 御神籤引いてー」
にこにこして、巫女さん姿で(いいのかな神殿で)御神籤箱を持って出迎えているファルが箱ごと手を前に差し出した。
ハインツ氏は跪いて、恭しく御神籤を引いた。
パーーーーっと、例によって強烈な霊光に光輝いた御神籤箱から出てきたものは。
『神聖エリオンの手毬歌。
手毬遊びをするかの如く、心も体もリズミカル。
仕事や学業に恋愛など、物事がとてもリズムよく進んでいく。
そして精霊がリズムよく入れ替わり立ち代り加護を与えてくれる』
これは、なかなかいいものが出たな。
そういや最近葵ちゃんが、日本の手毬歌をファルに教えていたような気がする。
加護を与えるに相応しい人格の人が相手だと、こういう良い加護が出るんだよなあ。
御神籤を持って喜び勇んでリズミカルに踊る中年男にはやや引いたが、追加で御布施をいただいたのでよしとする。
俺が抱っこしたファルにバイバイされて、ハインツ氏は踊りながら退場していった。
どうやら副作用として、しばらくハイな状態が続くようだ。
神殿の仕事の方が一区切りついたのでジェシカの様子を見に行った。
「ミレー。
どうだい?
ジェシカの具合は」
「ありがとうございます。
先ほどから熱も少し下がってきて、今よく寝ているところです」
「もう大丈夫そうよ。
しばらくは寝かせて休ませておいた方がいいわね」
女将さんも、にこやかにジェシカの頬を撫でつけながら、そう言ってくれた。
そうか、それなら一安心だな。
さすがはプロの御母さんだ。
「こっちは商売順調だぜ~」
「もう! 精霊魔王様ったら、御戯れを」
ミレーが呆れたような顔で言い、女将さんも口に手を当ててコロコロと笑った。
ははは。
まあ、こういうのも商売の一種なんだけどね。
司祭の爺達が少しやり過ぎなだけで。




