35-2 アルバトロス ロス神殿本部
俺は、いきなり転移魔法でアルバトロスのロス神殿本部へとやってきた。
「うわあ、魔王だー」
「きゃあ、お助けー」
俺を見るなり、神殿本部の神官や司祭が逃げ惑った。
なんて失礼な奴らなのだろう。
俺はやや御機嫌斜めで、ずかずかと中へと足を踏み入れていく。
そして顔見知りの若い司祭を見つけたので声をかける。
「おい、大司祭はどこにいる?」
「お、奥の方に。
ご、御案内します(ころさないで)」
そういや、つい最近帝国の大神殿で大暴れに暴れてやったのだった。
また俺の悪評が行き渡っているな。
あの映像も世界中継してやったんだっけ。
世界中の大神殿にも中継しておいたのだった。
震え上がる司祭の後に続き、どう見ても執務室には見えない豪華なドアを設えた部屋のドアを蹴破った。
そこには、またしても裸の若い女の子とベッドの中にいる大司祭の爺がいた。
ここもかよ。
「き、貴様は!」
俺はニコニコと笑み(黒)を浮かべ、爺の残り少ない髪の毛をギシっと握り締め、そのままの格好で部屋から引きずり出した。
「やめろ、放せ。うおお、わしの髪が~」
ぶちぶちと抜けていく髪をかき集めるようにして、爺が喚き散らすが一顧だにしない。
そのままズンズンと表の神殿の方へと進んでいき、参拝者のたくさんいる場所へ情け容赦なく放り出した。
「お前ら、本当に懲りないなあ。
またレインを呼び出してやろうか?」
ぎょっとした顔でこちらを見て青い顔をする大司祭。
もう威厳もへったくれもあったものじゃない。
なんとか奴に羽織る物を渡そうとしている神官がいるのだが、そんな事を俺が許すわけがない。
強力なウインドウォールを構築し、それに阻まれた神官がもがいているのを眺めていた。
「な、何故こんな事をする……」
涙目で、髪を引きちぎられた頭頂部を押さえながら聞き返す大司祭。
「お前らがアホばっかりだから、ロス大神殿の大神官がついに倒れただろうが。
今までは、ここはまだマシな方だと思って御目溢ししてきたが、もう勘弁まかりならん。
召還、精霊の森の大神官ジョリー!」
「ははっ」
ケモミミ園から、俺の後ろにしっかりとついて来ていたジョリーが進み出る。
みるみる蒼白になる大司祭。
頭頂部の、髪の抜けたところだけが赤くなっている。
「お前ら、性懲りも無くまたやらかしてくれたな。
もうこれ以上レイン様の御機嫌を損ねるのは憚られる。
よって、この神殿本部も精霊の森預かりとして……」
そして俺の方をチラと見て、俺が頷くのを確認してからジョリーは続けた。
「精霊魔王を一時的に大司祭の地位につけて、当座は大神官の代理も御願いしておく。
覚悟しておけ」
その場にいた全ての関係者の顔にマッハの速度で絶望が走る。
いつかはこうなると思っていましたとでも言いたそうな女性神官が、片手を額に当てながら首を振っていた。
「とりあえず、お前ら。
神殿における女の子の連れ込みは禁止する。
精霊共に見張らせるからな」
俺の宣言に、まるで死刑宣告を受けたかのような司祭共。
そして若い男性神官達からは意外と歓迎ムードが見受けられた。
神殿でも、あれをよしとする者ばかりではないのだろう。
あれらの下っ端神官達には特に恩恵など無かったのだろうし。
アドロスの代官を思い出すような展開だな。
こいつらには目をかけておくとするか。
神殿本部を制圧した俺は、とりあえずドワーフ国の宮殿アトリエパレスへと転移魔法で跳んだ。
さっそく検索して御目当ての人物を発見した。
どうやら親方の仕事場にいるようだ。
今日は珍しくハンニバル大王が御茶を飲んでいた。
「へえ、珍しい事もあるもんだな。
親方が御茶を飲んでいるなんて。
天から酒の雨でも降るんじゃないのか」
「何、そうしたら全部わしらドワーフで飲み干してやるわ。
第一、仕事中は飲まないぞ。
たっぷりと汗かいて、仕事が終わってから飲むのがいいんじゃないか」
そうだったのか。
そういや、いつもそうだよな。
「アルさん、本日はどうなさったのです?」
俺の分の御茶も淹れながら、マリンシア王妃に訊ねられた。
この国って王様の客には王妃様が御茶を淹れてくれるのな。
まあ、それはいつもの事だけど。
「実は、女将さんに御願いしたい事がありまして……」
俺はジェシカの事情を話しておいた。
ここはプロの御母さんの出番なのだ。
「そう。あの子も大変ね。
アルさんも色々と力になってあげてちょうだい。
じゃあ、今から一緒に行けばいいのね。
あなた、ちょっとアルバの大神殿まで行ってきますわ。
しばらく帰れないかも」
「おう。儂はもう一仕事だ」
そう言ってドワーフ国王夫妻は立ち上がった。
女将さんは、いかにも御母さんっていう感じの服に着替えてきた。
ゆったりとした服装で、親しみの持てる感じの奴だ。
俺が持ち込んだ素材を用いて地球デザインで作ったものだけど。
セータ-にストレッチパンツ。
いかにも小さい子がいる日本の御母さんとかが着ていそうな感じの服だった。
地球デザインの服も彼女にプレゼントしてあるのだ。
うちの子達なら、思わず遊んでもらいに突撃しそうな格好だ。
「それでは行きましょうか」
そして女将さんを連れて行った先、そこは神殿の奥にあるジェシカの部屋だった。
当然、母親の写真なんかあるわけもない。
この世界に写真は一般的には存在しない。
真理なんかには魔法映像を記録出来る仕組みが搭載されているが。
「ううっ。
おかあさん、みんな。
あたしを、あたしだけを置いていかないで」
まだ魘されているのか。
いつもの繁忙さに埋もれて、普段は心の底で抑圧されていたものが吹き出してるのだろうか?
赤ちゃんの頃の、いつもは封印されている悲しい記憶が噴出しているのかもしれない。
そんなジェシカの様子を見て取るや、ベッドの横に陣取り彼女の手を握る女将さん。
ここは女将さんに任せておこう。
側近精霊のミレーも付きっ切りだ。
色々な看護用品や、病人食セットなども置いておいた。
そろそろ客が来る頃合だな。
今日の大神官はスペシャルだぜ。
御祝儀は思いっきり弾んでね。
予定表を眺めると、最初の客は王都の大商人達となっている。
思わず黒い笑いを浮かべ、ほくそえむ大魔王がそこにいた。




