30-2 不思議の森の博物記
苛められているゴブリン。
そいつは宝を出せと冒険者に責められていた。
だが何分にも相手は魔物なのだ。
ここは放っておくしかないな。
仕方が無い、仕方が無いのだが……気が付くと俺は冒険者達の尻に強烈な蹴りをいれていた。
あまりにも、その冒険者どもが胸糞だったので。
「なんだよ、お前は。
そいつは魔物だぞ!」
「ああ、そいつはわかっているんだけどな」
俺はアイテムボックスを利用した装備換装機能を利用して、瞬間芸で爆炎スタイルを御披露した。
更に魔道鎧を最大出力で展開して、馬鹿でも見えるほどに輝度を上げて、まるで燃え上がったかのように見せていた。
「死にたい奴から前に出ろ」
「げ、爆炎」
「魔王!」
おい……最近、精霊魔王の精霊を省略する奴が多過ぎないか?
まあなんというか、我ながら中々の魔王っぷりを見せてしまっているので、そいつは仕方がないか。
これでもうすぐ小学校の校長先生になるんだからなあ。
我ながら実に困ったものだ。
だが校長先生が苛めを見過ごしていちゃあいかんよな。
連中は尻に帆かけて逃げ出していく。
所詮は糞蟲の集まりに過ぎないのだ。
すべての行動に覚悟の二文字が無い。
おまけに、なんか目をうるうるさせて、こっちを見ているゴブリンがいた。
なんじゃそりゃ。
そして挙句の果てに奴はこう言ったのだ。
「あ、ありがとうございました。
ウルヴー、嬉しい」
はあ? ゴブリンが喋っただとー?
俺はチラっとアルスを見たが、彼もまた驚いてるから、魔法PCの翻訳機能が働いたわけじゃなさそうだ。
爺にも目をやったが、奴はただただ目をニヤケさせて笑っていただけだった。
「なあ、ゴブリンは皆お前みたいに喋るのかい?」
そいつに率直に訊いてみた。
「いえ、人の言葉喋るの、私達ブラウンだけ。
グリーンは野蛮なよくないゴブリン。
だから、人はゴブリンを狩る。
私達ブラウンまで狩る。
私達、文化的なゴブリンなのに。
ウルヴー、悲しい」
衝撃の事実!
よ、よかった。
俺は今まで迷宮のゴブリンしかやった事ないし、それも緑のゴブリンばっかりだった。
「なあ、お前らゴブリンが何か宝物を守っているって本当?
それを風の噂に聞いたんで、ちょっと見物に来たんだ。
絶対に宝を取り上げたりしないから、ちらっと見せてもらう事は出来ないものかな」
俺は猫撫で声で交渉してみた。
そしてウルヴーはその様を笑って、こう言ってくれた。
「あなたは本当に変わっている。
ゴブリンの私を同じ人間から助けてくれたり、宝物を見せてくれと御願いしてみたり。
普通の人はそんな事をせずに、ただ殺し奪うだけだ」
「ははは、そうなのかもな。
まあ確かに俺は変わっているよな。
だって、しょうがないだろう。
俺は、この国の初代国王と同じ稀人なんだから。
まあ、お前らにそんな事を言ったってわからないかもしれないが」
「いえ、いえ! わかりますよ。
建国王ヤマト・フォン・アルバトロス!
巨匠グレゴリーの本も読みました!
彼は違う世界からやって来たのですよね!
もしかして、あなたもそうなのですか?」
ウルヴーは、そのトパーズのような目を輝かせ、咳き込むように喋った。
知的な感じの彼が、だいぶ興奮しているようだ。
まるで子供のように。
「おいおい、どこからそんな本を……」
俺は、口をあんぐりと開けて奴を見つめた。
「昔、我々の先祖は、この森で迷っていた旅人を助けました。
そうしたら、御礼にグレゴリーの本をくれました。
みんな大喜びで読みました。
その人は、しばらく森に滞在して私達に文字を教えてくれました。
彼の名は確か、ツェペリ」
「あー、その話は知ってる!
それって『不思議の森のゴブリン』を書いた人だよね!
子供の頃、爺やによく読んでもらったよ!
あれって本当の話だったのかー」
大興奮のアルスなのだが、俺はそこ以外のキーワードに注目した。
【爺や】だと?
また、いつかトラブルのネタになりそうなものが出てきたな。
まあ俺は何があってもこいつの側に付くつもりだけれど。
なんか興奮している奴ばっかりだ!
俺はうっかりと乗り損ねたぜ。
そして俺達はゴブリンの棲家へと案内してもらえる事になった。
途中、彼ウルヴーは道々森の解説をしてくれた。
「この植物は芽を出してからの成長がかなり早く、急いで木を育てたい計画ならば悪くない選択ですよね」とか「このキノコは美味しくて、また人工栽培でもよく育つので集落でも育てています」とか。
おいおいおい、こいつらってもしかして、この世界の人間よりも色々と進んでいないか?
そして彼は花をよく愛でた。
道行く先々で花について語り、その香しい香りも愛で、また花言葉について語った。
人間のそれではない、ゴブリンの花言葉を。
俺は絶句してカルチャーショックに固まってしまった。
アルスはと見ると、やはり同じように目を白黒している。
なんともはや、恐るべしブラウンゴブリン。
なんという文化人ぶりか。
今時の日本人なんかよりも、よっぽどかイケているぜ!
そして彼の語る博物記が終焉を迎えた時、ブラウンゴブリンの集落が姿を現したのであった。




