30-1 冒険者の噂
去年から冒険者の間で、大変噂になっている事があった。
それは『ゴブリンの宝物』という物についてだ。
初めてその話を聞く連中は大笑いするが、それでも次第に引き込まれていくものらしい。
なんじゃそりゃ。
小学校で使う教材を色々と準備して、採用した教員さん達と一緒にケモミミ小学校開校の準備をしていたら、警備の冒険者の話が漏れ聞こえてきたのだ。
「それは何のお話なんだい?」
「ああ、園長先生。
それがですね、実に傑作なんですよ。
ギルドに書類の関係で行った際に小耳に挟んだんですけど。
あの最弱魔物の定番、ゴブリンの宝物についての話なんですよ」
さもおかしそうに、彼はそう言った。
「ゴブリンの宝物ねえ」
俺も首を捻って呟いた。
「いや、なんでもこの王都から三日ほど行った北東の森に、昔から住んでいるゴブリン達がいるらしいのです。
彼らが、何かを必死に守っているような様子なのだと言うんですよねえ。
そこのゴブリンは弱くて普段は逃げ回っているのですが、ある場所へ行くと死に物狂いで反撃してくるらしいんで。
それで妄想たくましい連中が、連中が何か宝物を隠してるんじゃないかって騒いでるんだそうです。
まあ、よくあるヨタ話ですよ」
そうだろうか。
そんなにも弱いゴブリンが必死になって人間に抵抗して守る物。
何かがある。
俺の感覚はそう感じ取る。
こいつは面白い。
これは是非行ってみるべきじゃないだろうか。
しかし……。
俺はチラっと小学校教員さん達の方を見る。
それを察知したみんなは苦笑して、こう言ってくれた。
「学園長先生、行きたいのなら行ってきてもいいですよ。
学校本体や設備も既に作ってくださっていますし。
教材なんかもほぼ出来上がってますしね。
マニュアル作りの方も進んでいますから、しばらくの間は大丈夫です」
「そ、そーお?
それじゃ、御言葉に甘えて少しだけ行ってきちゃおうかしら」
面白そうなのでエルフ新町へも出かけ、アルスにも声をかける。
エルフさんにも訊いてみたのだが、やっぱり首を捻り知らないという。
まあ、ここのところずっと囚われのエロフ生活だったしね。
精霊の森にも行って聞いたがレインも知らなかった。
ファルが一緒でなかったので、ちょっとがっかりされてしまったし。
御山へ行って聞いたら、なんとバルドスの爺は知っていた。
「そうか、あれは稀人にとっては面白い物なのかもしれんな」
俺は俄然興味を引かれた。
それは大昔からあったのだという。
「武の奴は行かなかったのかい?」
「あやつは、建国から忙しかったからのう」
む! それじゃあ、まるで俺が凄く暇しているみたいじゃないか。
日頃から勤勉にこつこつと仕事を進めておいたから、突然でも出かける御許しが出たんだからね。
だが俺はその時、奴が少し含む言い方をした事に気が付いていなかった。
というわけで生き証人も一緒に誘って、伝説の宝を探しに行く事にした。
三人だけだから車でさっと行ったんだけどね。
空を飛んでだけど。
アルスは車が大層御気に入りだ。
あと空飛ぶ乗り物なんかも。
御正月も一人で器用に凧を乗り回していたし。
さすがはSランクだけの事はある。
来年の正月はアルスも自作した凧を乗り回すつもりなのらしい。
今度からSランク以上への昇格条件に「一人で凧を乗り回せる」というのを入れてはどうだろうか。
アントニオはどうかな。
まあ、あいつの事なのだから、やればきっと簡単に出来そうだ。
みんな飛行魔法を持っているので、万が一落ちたってどうって事はないしなあ。
現役三人のSランク以上の冒険者が出来るんなら、それも当然のハードルだよな。
やはり大空から眺めると、眼下には日本とは全く違う光景がパノラマ的に広がっていた。
それに山や岩などの形、そして荒野の趣きなんかも、一般的な地球のそれとは少し異なる気がするのだ。
ちょっと大きな街を離れると、殆ど人間の手が入っていない感じがするし。
街道なんかも、おおざっぱな主要街道はそれなりだが、そうでないところは只の道なので目立たない。
こうして空から見ると、やっぱりここは異世界なんだなと、つくづく思う。
荒野と森と、日本ではあまり考えられないような風景が続いていく。
地球でも外国ならどうかわからないのだけれど。
この国も日本の数倍の広さがあるからな。
ただ、あちらこちらに農村は見える。
その朴訥な風景が、またなんとなく心が安らぐ気がする。
あれやこれやと実に忙しい一年余りだった。
また小学校が開校すれば、そっちの行事もあるから、まだ当分の間は忙しいかな。
たまには、こんなゆったりとした時間もいいもんだ。
春の遠足は野外学習関係もいいかもしれないな。
そんな事を考えながら、俺は雄大な景色を楽しんでいた。
今日は気楽な物見遊山なのだし。
間もなく、バルドスの言うところの『ゴブリンの宝の継承者』達の棲家に着くはずだ。
「うむ、この辺りだ。
ここらで地上へ降りてみよう」
ドラゴンも満喫する空の旅は、もうすぐ終わりを迎えるようだった。
こんな探索も久しぶりだから、わくわくするな。
俺って、せっかくの異世界で、こういう成分が足りなかったような気がするんだ。
それにしても豪華なメンバーだ。
アルスはSランクだけれど、能力的には明らかにそれ以上の人間だろう。
エンシェントドラゴンはSSランクだけど、その中でもバルドスは論外の規格外といっていい存在だ。
そして俺は異世界チート持ちの稀人SSSランクだった。
しかし、この超豪華メンバーで探す探索対象が、ただのゴブリンなんだけど。
まあ魔物を討伐するんじゃないから別にいいのか。
そもそも案内人が一緒にいるのだし。
車から降りてからはハイキング気分で、もう鼻歌で探索していたのだが、レーダーマップは前方に何かを捉えていた。
まあ物見遊山なんでゆっくり行く事にした。
だが、目的地であるゴブリンの森の手前で何か騒ぎが起きていた。
それを同じく感じ取っていたバルドスの爺が、眉間に皺を寄せている。
という事は……。
俺はファストの魔法を自分にかけて、そこへ向かってダッシュした。
「あ、園長先生。待ってよ」
アルスが慌ててついてくる。
チラっと後方へ目を向ければ、バルドスは歩いているにも関わらず、走るアルスとまったく距離が離れることはない。
五千年を極めし者か。
たいしたもんだ。
森の手前の開けた場所で、冒険者達が下卑た笑いを浮かべ、その少し色合いの変わった種類のゴブリンを痛めつけていた。
そのゴブリンは怪我をした仲間を庇い、一人で冒険者から一方的にやられている。
それは、ただの虐めの現場であった。




