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29-4 帝都決戦

 翌日、午後までに四回蟹がかかったが、結局全部逃げられてしまった。

 俺は昨日、最初にかかった奴が逃げる時にマーカーを付けておいたのだ。

 そいつは昨日合計三回上がってきて、三回とも見事にトンズラした蟹だ。

 今日の分も入れると合計七回だ。


 ふざけやがって。

 最後には完全にそいつの目が笑っていやがった。

 思いっきり小馬鹿にされてる。

 そういうのって人にだってわかるようなものなんだよな。


「本日の漁はここまでだな」


 やや疲れた様子の海賊王が宣言した。


「まったく、こんなにバラすなんて前代未聞だ」


 海賊のお頭も溜め息をついた。


「実は……」


 俺の口から明かされる不毛な真実。

 それには全員が驚愕し、そして憤慨した。

 さすがの貴公子も苦い顔だな。


「それは間違いなく『奴』ですね。

 伝説の賢者、クラブエンペラー!」


 ……なんか、変な御店みたいな名前の奴だな。

 また何か妙な展開だと思っていたら、そんな野郎だったのか!


「グランバースト卿!

 明日、奴が上がってきた時には、あなたの魔法で奴を捕らえていただけませんか?」


 やや御怒りの御様子の海賊王が頼み込んできた。

 毛蟹どもめ、海賊王のプライドを傷つけ、ついにその逆鱗に触れてしまったのか?


「いや、それでは生温い。

 今から奴の居城、奴の帝都へ殴りこみだ。

 俺はもう奴の土俵で勝たないと気が済まない。

 野郎に明日の朝日は拝ませねえ。

 みんな、気合入れていくぜ!」


 日本の水産基準だと深海に分類されている二百メートル以下の深さに住んでいるだろう蟹が、朝日を拝むのかどうかは知らんけどね。

 まあ、太陽光は海中で意外な深さまで届くのだと、五百メートル以下の深海に沈んでいる古代沈没船の調査チームなんかも言っていたのだが。


「「「おおおー‼」」」


 海賊団の雄叫びが蟹漁船の甲板に木霊した。


「奴を引きずり出して甲板に放り出すから、みんなでボコボコにしよう」


 俺は水中蟹漁船クラブクイーン号を取り出した。

 畜生、俺のネーミングセンスがハイドの海賊国王とそう変わらん!


 こいつはティアドロップ型で先端が尖りまくりの形状なのだ。

 水中銃ならぬ、水中砲をも多数内臓装備した、大型の毛蟹漁専用潜水艦なのだ。


 機動力を重視し、出陣前に余計な抵抗となる後付けのトラップ類はもう全て引っぺがした。

 俺は転移魔法で直接船内へ乗り込むと、キャプテンシートにドカっと座り、そいつに命じた。


「発進、ただちに潜行せよ。

 目的地、クラブエンペラー ・マーカー」


「アイアイ・キャプテン」


 涼やかな女の声が船内に響いた。

 そう、こいつは船型のゴーレムなのだ。

 大昔のSFに登場したティアドロップ型の小型宇宙船をモデルにしている。


 これには最近急速に進歩させたマジックAIを搭載している。

 ドラゴンの大型魔核をベースに奢ってあるのだ。


 重力魔法とアクア系の水中移動魔法に、ハイド船のようなウォータージェットの魔法も組み合わせてある。

 制御補佐に強力な水の精霊を装填してあるので、その機動はありえないものになっている。

 もちろん全身ベスマギル製の超頑健なボディだ。


 俺は魔力を唸らせ、ふんだんに注ぎ込むと、魔法の呪文でムチをくれた。


「いけや~!」


 もはや潜水艦とは思えぬ速度で深海へ潜行していく。

 耐圧バリヤーを施してあるので、水圧など最初から存在していないかのようだ。


 バリヤーで周りの海水すら弾いている。

 動力源にベスマギルバッテリーを使用しているので、凄まじいスピードで海を引き裂いていく。

 船は水圧さえも切り裂き、目標へと向かって一目散に落ちていった。


 俺のレーダーマップとリンクさせてあるので、あっというまにマーカーの示す位置まで辿り着いた。

 俺は舌なめずりをしながら奴を索敵する。


 いた!

 絶対に逃がさないぜ!


 だが奴は蟹として有り得ない挙動を示した。

 水中ジェットで超高速の移動を始めたのだ。

 あの鈍重で複雑な形状のフォルムのくせに速い事速い事。


 おい!

 イカじゃねえんだぞ。

 相変わらず出鱈目な世界だな。


 慌てて後を追わせたら、大音響と共に軽く衝撃が伝わってくる。

 なんだ、なんだ?


 船体には衝撃吸収のエンチャントが施してあるので、あまり衝撃はこなかったのだが、衝突した対象物には凄まじい衝撃が走ったようだ。

 スクリーン越しに解析してみるが、なんだかよくわからない。


「なんじゃ、これは」


 そしてAIが宣告してきた。


「水中スライム、大量発生中。

 こいつらは衝撃を吸収して海水中に放出します。

 これは水中スライムの集合体であるスライムシーの形態です」


 たーっ。

 間抜けにも野郎の罠に嵌ってしまった。

 おのれ、蟹の分際でー。

 これが並みの強度の潜水艦だったら衝突した衝撃でペシャンコになって、とっくに御陀仏もいいところだ。


 つくづく、ふざけやがって。

 この分だと昔に潜った奴も散々だったみたいだな。


 スライムシーは船ごと締め上げて押し潰そうとするが、オリハルコンさえ凌駕する最強の魔法金属で出来た船体なので、当然こっちはビクともしない。


 あ、 クラブエンペラーの野郎が岩陰からこっそり覗いていやがる。

 これには、さすがにムカつくなー!

 ええい、どうしてくれようか。


 チビ共、待っていろよ。

 でっかい毛蟹、必ず御土産に持って帰るからな。


 ようし、これを使おう。

 食らえ、必殺の「燃焼マグネシウム」。


 燃え盛る大量のマグネシウムが、水分子の酸素を奪いながら激しく燃え上がった。

 むろん、水中の酸素も奪っていく。 

 不足分は酸素を供給してやるが、それは蟹に届く前に、燃え盛り広がる光輝の水中劫花(ごうか)に消費され尽くした。


 スライムシーを駆除した上、周囲の酸素を奪ったので蟹がバタバタしている。

 連中は酸素を求めてジェット噴射で、次々と海面というか、勢い余って海上へと浮上していく。

 クラブエンペラーの奴も飛び上がった。


 その後、他の生物のために海中の酸素は元通りになるよう供給しておいた。

 こういう海中の無酸素塊って生き物にとっては本当にありがたくない代物なんだよな。

 魚なんかが大量死する、ほぼ死のトラップだ。


 さあ覚悟しろ、クソ蟹ども。

 上空には、大型飛行筐体の群れによって張り巡らされた魔力のカスミ網が広大に広がっていた!


 次々と網にかかり魔力で拘束される毛蟹達。

 さらに、下からゴーレム部隊によって射出された魔力網でサンドイッチされ、空気から酸素を取り込みながら泡を吹いた。


 やったぜ。

 くそったれな蟹共に、文字通り一泡吹かせてやった!


 クラブエンペラーがもがいていたが、俺は無慈悲に蟹漁船の上へと放り出してやった。

 颯爽と襲い掛かる海賊団、いや討伐隊!


 さしもの皇帝陛下も、プロの漁師によってボコボコにされて目を回していた。

 さて、これからどうするんだ?

 海賊の王様よ。


 シド陛下は、じっと奴を見ていたが、(おもむろ)にこう言った。


「グランバースト公爵。

 こやつは蟹の身でありながら我等を見事に翻弄し、精霊魔王と呼ばれるあなたをさえ、きりきり舞いさせた。

 殺すには実に惜しい将よ」


 そしてシド国王は俺に目線を移すと、ニヤリと笑ってこう続けた。


「どうだろう、グランバースト卿。

 続きは来年の御楽しみとしては」


 俺は肩を震わせて、こう反応するしかなかった。


「くっくっくっ……はっはっはっは。

 シド。

 あんた、やっぱり最高の海賊王だぜ。

 わかった。

 じゃあ皇帝陛下、来年またな!」


 そういうや俺は奴にゴッドヒールを放ち、風魔法で持ち上げて棲家へと返した。

 たいそうな水飛沫を上げて、泡の絨毯が消えた頃に奴は水面から姿を消していた。


 他にも、カスミ網に捕まっていた雌蟹も全て海へ戻した。

 続いて小さめな奴も放流する。

 子蟹などは無条件放流だ。


 協議の末、必要分だけを取り後の蟹は全て放流した。

 海洋資源保護の観念が、この異世界に生まれた瞬間だった。



 そして今、俺達は浜辺で一斗缶に薪を入れて燃やすストーブで暖を取っていた。

 浜茹での気分を出すためだけに、わざわざ一斗缶を作成したのだ。

 こういうのは俺の得意技だな。


 馬鹿でかい魔導コンロの上に、これまたでっかい鍋が煮えたぎっていた。

 山本さんの指揮の下、スーパーAI仕様の大型ゴーレム達が果敢に巨大毛蟹と格闘していた。


 傍らには、愛妻を伴った海賊王シドと海賊達、そしてうちの子達がいる。

 護衛のハイド王国騎士団もいた。


 アルバトロスの騎士団もいるのは、エミリオ殿下や姫様方がいるせいだ。

 みんな甘酒を片手に、豪快な浜茹でを楽しんでいる。

 子供達には風邪を引いたりしないように、日本の高機能素材で作った服を着せてある。


 俺とシド国王は来年の皇帝との再戦を誓い合い、皆で楽しい浜辺の時を刻んでいった。


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