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29-1 討伐の鬨の声

 戴冠式を兼ねたシド国王夫妻の結婚式は大成功だった。

 そういうわけで、シド陛下から俺に褒美が届けられた。


 それは『討伐隊参加の御知らせ』だった。


 なんだ、それは。

 最初はそんな風に首を捻ったのだが、中身を見て納得した。

 それは『毛蟹討伐』の御誘いであったのだから。


 嫌な予感はしていた。

 地下迷宮最深部で、新婚旅行の最中にドラゴンを討伐する貴公子からの御誘いなのだから。

 まあ妙に親近感は湧くのだけれども。


「褒美は蟹」


 しかも、毛蟹!

 だが、それは彼の国においては常に討伐対象の魔物だった!


 全長二十メートル。

 そう簡単には狩らせてはくれない。

 甲羅も滅茶苦茶に固いらしい。

 しかして、大きいからといって大味などという事はない。

 極上の美味であるとの事だ。


 話を聞いた山本さんの真剣な表情を見て、ここが天王山とばかりに開発済みであった新型深海スーツのメットの緒を締める蟹狩り師がいた。


 いざ出陣!

 目指すは毛蟹!

 子供達がついてきたがったが、それはさすがに無理だ。


 真理も笑って子供達の頭を撫でながら宥めた。

 これがまだ普通サイズの蟹が相手なら一緒に連れていってもよかったんだけどね。


 とりあえず水中活動用のゴーレムを、更にチューンナップする。

 移動や加速にもキレを持たせておいた。

 相手の力量がよくわからないからな。


 探査系はよく充実させておく。

 これはもう、水中カメラ付きのゴーレム魚探みたいなもんだ。

 ゴーレムには形態チェンジの機能も持たせた。

 水中を高速で移動するための形状を保てるように。


 アントニオも毛蟹討伐に誘ってみたが、どうにも反応が悪い。


「ん? 蟹?

 そうだなあ。

 御土産を楽しみにしているよ」


 奴はレオンちゃんにべったりなのであった。

 普通は貴族家で、こんなに父親が子供につきっきりだなんて許されないのではないかと思うが、まだ体制の整っていない新興貴族家の特権だろう。


 生まれた直後にあんな事があったので、余計に思い入れが強いとみえる。

 ああ、俺もレオンと聞いただけでタイフーン・ベイビーのトラウマが鮮やかに蘇るぜ。


「分かった、任せろ。

 でっかいのを獲ってくるぜ!」


 こいつにも蟹の美味さを仕込んでおかんといかん。

 散々一緒に暴れて、ドラゴンさえ分け合った仲なのだからな。


 とりあえず、俺だけで毛蟹討伐隊へ合流する事にした。

 ドワーフの親方は、今ミシンの製作に燃えているから来ないだろうしなあ。


 グスタフも誘ってみたが騎士としての鍛練に勤しんでいるみたいだし、本来なら一緒に行きたがるだろうアルスもエルフの町を離れたくないようだった。


 そして現地に跳んだ時の第一印象。

 うーん、討伐隊……というか、もしかしてこれって漁業組合なのか?


 見事なまでに、ほぼ全員が漁師さんで構成されている討伐隊だった。

 おそらくは国中から集まった腕利きの漁師さん達なのだ。

 しかも実は海賊の会合だと言っても、事情を知らない人なら信じてくれそうなくらい強面な御面相の面々だ。


 そこへ颯爽と現れるシド国王。


「「「ちーす」」」


 全員、手を後ろに組んだ休めのポーズで体育会系の挨拶を決めやがった。

 もうこの国に対する印象がまったく変わってしまうな。

 いや、シドの性格や港の漁師さん達の雰囲気を見ているので、薄々は知っていたのだけれど。


「ああ、気を楽にしてくれ。

 今年も蟹漁の季節がやってきた」


 ああ、この王様ったら。

 はっきりと言っちゃったよ、蟹漁って。

 狩りとか討伐とかの二文字はどこへいったのよ。


「本年は特別ゲストを迎えた。

 噂に名高いアルバトロスの精霊魔王、我が麗しの姫君の祖国アルバトロス王国のグランバースト公爵だ」


 ヒューヒューと国王に対する冷やかしの口笛が飛びまくる。

 この王様、国民から愛されてんな、おい。


 まあ現場主義の御方のようだからなあ。

 どうでもいいけど、俺の身分で名誉の二文字が抜けているよ。


 俺も当然のように「ウィースっ!!」っていう感じで元気に挨拶をしておいた。

 皆さん、それはもう嬉しそうに歯を剝き出して笑い、親指を立てた拳を突き上げる。

 最高だな、こいつら。

 全員が蟹漁のプロなんだ。


 俺達はチームだ。

 一つの目的のために集まったのだ!


 爽やかなスマイルの貴公子、黒い笑顔を纏った魔王、凶悪な御面相の海賊達。

 何かが、少し……違うような気がした。


「では、早速出発する!」


 凛とした声でシド国王が宣言した。

 てっきり海竜が引く船が出てくるのかと思ったら、普通に木造船が出てきた。

 ごつい鋼板は張られているようだが。


 何故か帆はついていないのだが速そうな船だ。

 そんな俺の顔を見て豪快に笑う海賊王。


「ははは。

 卿、さすがに今では海竜に船を引かせてはいませんよ」


 やっぱり、昔は海竜に引かせていたんだね。

 そんな気がしていたんだよ。

 この国のエンブレムは、そういう絵柄だもんな。


「楽しみだなあ、蟹漁。

 やはり伝統の漁法があったりするのですか?」


「いや、力づくでぼこぼこにするだけですよ」


 素晴らしい笑顔で、そのように、にっこりと笑顔を返してくるシド国王。


 その世界有数の貴公子然とした風体で、言う事やる事が全て体育会系丸出しなんだけど。

 その割にはいつも優雅で、女性に対しても細かい気遣いの出来る男だったりするのだ。

 この物語に肩までどっぷりと浸かりながら、典雅な王族物語を奏でられる稀有な人材だな。


 そして俺達は船へ乗り込んだ。

 魔導機関を搭載しているというか、これは船自体が丸ごと魔道具なのか?


 見ていると、船の後ろから水流が流れるような感じで押し出されていく。

 うん、魔法のウォータージェット推進だな。

 まさか、これも武の発案なのか?


「いい船でしょう。

 蟹漁ポイントは結構遠いのですが、これならばすぐに船をつけられます」


「この船は一体どこで手に入れられたのですか?」


「随分前にドワーフの国で。

 いやあ、手に入れるのには本当に苦労しましたよ……」


 それは、さぞかし大変だったろうな。

 というかドワーフめ、自国に海も無いくせに、こんな凄い船を作ったのだと?

 相変わらず滅茶苦茶な連中だな。


 しかも、この有り得んような発想力はどうだ。

 もしかして、あの国に稀人でも迷い込んでいたのか?


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