28-6 王族の新婚旅行
通常、この世界では日本風の新婚旅行はやられないのだが、俺達の提案でそれは実現した。
新婚旅行には添乗員として俺と真理、そしてファルやアルスが付き添った。
まずは、いきなりアドロス迷宮最深部、我がドラゴン牧場からだ。
転移魔法で向かったダンジョンの最奥にて三頭のドラゴン一家と御対面する。
記念写真はいかが?
若干、顔が引き攣っているメリーヌ王妃。
だが引き攣っているだけで済ませている分、カルロス御兄様よりも上なのかもしれないな。
メリーヌ王妃の膝は特に震えていないようだ。
さすがは本人が強力な魔法使いだけの事はある。
確か魔法は姉妹一凄いのではなかったか。
たぶん、頑張れば自力でドラゴンを狩れるはず。
ただドラゴン相手の戦闘は俺っぽくやれればいいのだが、アントニオ式のガチンコになると辛い。
結構展開に左右されてしまうのではないかと思うので、グスタフとかアルスあたりの希少な上級冒険者が付き添いなら可といったところか。
まあ旦那になった人が凄いので、その必要はなかろうが。
このハイド王国新王妃様は性格的にドラゴンスレイヤーには向いていなそうだ。
そういう点に関しては姉妹で一番攻撃魔法が凄くて、性格も勝気で活発なシルベスター王女の方が向いていそうだ。
そして氷雪の貴公子の二つ名持ちの王様が言った。
「ちょっと俺にやらせてくれないか?
御土産にドラゴンが欲しい」
うん、新婚旅行に御土産は付き物だよね。
普通は王族がそんな事は言わないけど。
「シド陛下、御手並み拝見」
面白がってあっさり了承する俺と、苦笑するメリーヌ王妃に対応は分かれた。
「后を頼む」と言うや否や、彼はヒラリっと華麗に三頭のドラゴンの前へと舞い降りた。
そして、ちょいちょいと指を手前にかき出す仕草を見せつける。
まるで「お前の粗末なブレスを先に撃たせてやる」と言わんばかりだ。
その挑発を受け憤怒に燃えるドラゴン。
迷宮に支配されていて自我が無いといわれる迷宮ドラゴンではあったが、そこは腐っても高位魔物であるドラゴンなのだ。
人間なんぞに小馬鹿にされて怒りに燃えぬわけがない。
三頭まとめて、まるで火を吹くような怒りに燃えて、いや火どころか最強のブレスを放っている。
だが、それは目に見えない何かに阻まれていた。
シド国王は軽く片手をあげて防いでいるだけだ。
そこには目に見えない氷の壁があった。
あるいは冷気といった方が正しいのかもしれないが。
そこには摂氏十万度を越える高熱の、最早熱光線と化した炎と、零下二百度以下の冷気の壁との激しいせめぎ合いがあった。
だが、片や三頭がかりでの全力で、片や片手間。
既に対峙した瞬間に勝敗は決していた。
ドラゴンブレスの弱点は、その持続時間の短さにある。
全ての敵を焼き尽くす強大な威力が仇となるのだ。
迷宮の無尽蔵に湧き上がる魔力で駆動されるシドの氷雪魔法に敵うはずもない。
やがてブレスの尽きたドラゴン一家は冷気に包まれ始め、大いに泡を食った。
つまり、強者の前にて決して見せてはいけない隙が生まれた訳だ。
そこへ巨大な氷の剣の斬撃が三つ。
見事なまでに同時にコントロールされた緻密な、しかし威力の篭った魔法の剣撃の前に、三つの首が大音響と共に地に墜ちた。
高価なドラゴンの血液も、一滴すら溢さぬ艶やかさ。
まさに氷の貴公子と呼ばれた由縁だ。
ハイド王国の新国王陛下は魔法を駆使し、鮮やかにドラゴンスレイヤートリプルの称号を手にし、新王位に花を添えた。
俺やアントニオが苦労して手に入れたドラゴンスレイヤーの称号を、よくもまあ簡単に手にするもんだ。
しかもトリプルだ。
これがハイド人、氷雪の貴公子と呼ばれた男か。
この人、どう見ても花の似合うような貴公子なのに、なんでこんなに強いんだろうな?
本来なら、氷は熱には弱いから分が悪い組合せの戦いなのだ。
だが、その素朴な疑問は近日中に判明するのであった。
何しろSランクのバラン相手にメリーヌ殿下を守る戦いを繰り広げたらしいから、その凄さにも納得はいくものなのだが。
あいつは灼熱のバランという二つ名で呼ばれたほどの奴で、当時も分の悪い戦いでシドが苦戦したと聞く。
いやあ、やっぱりあの男は闇討ちしておいて正解だったわー。
あの強者との戦いは、氷の貴公子にとっては相性が最悪だったはずなのだ。
辛い戦いは貴公子をも著しく成長させたという事だろうか?
俺ならゴメンだ。
バランをこそこそと暗殺したもの。
背中からじゃなくて頭の上からだったけど。
バランの野郎は、あの精霊の必殺攻撃を初見で躱すような、とんでもない化け物だったし。
初見どころか見る事すら叶わぬ、文字通り天からの裁きだったはずなのに。
その後は、ゆっくりと真理の部屋で御茶をした。
人生の最期に初代国王が、遺してゆく者のために作った部屋を感慨深く見回す二人。
「御土産付きドラゴン討伐のアクティビティは終了しました」という事で、お次は「精霊の森ツアー」だ。
当然派手に正面からの、森かきわけコースで入場する。
メリーヌ殿下はまだ連れてきていなかったので、丁度いい機会だ。
「わああ。凄い!
森が生きているみたいよ」
「これは凄いものだな。
これが神聖エリオンの居城、精霊の森なのか!」
そして舞い踊る顕現した精霊達。
これは仕込みなど必要ないし、連中も慣れたもんだ。。
俺が来て魔力を振りまくだけの簡単な御仕事だ。
ついでに御菓子も大量に撒いておいた。
そして神聖エリオン自らの御出迎えに感激する二人。
「御二人とも、いらっしゃい。
精霊の森へようこそ。
こちらへどうぞ」
その優美な姿を晒し、全長十メートルもの巨躯を誇るレインボーファルス・アルファが自ら里を案内してくれる。
「可愛いお嫁さんね。
大事にしてあげてね」
武の子孫の少女に慈愛の眼を向ける、主神ロスの祭神。
愛娘も連れて来てくれているので、更に思いは一入だ。
精霊の丘の有り得ないような神秘の光景を前に、ひしと寄り添うカップル。
世継ぎの誕生もそう遠くないな。
世界の安定と平和のために頑張ってくれ。
うちの平和のためにも。
実はそれが狙いの、この新婚旅行企画であったのだ。
お次はベビー用品でサポかな!
そして名残惜しげな神聖エリオンに見送られて御山へと向かった。
バルドス一家が勢揃いで出迎えてくれる。
「わあ、御后様綺麗~。
王様も素敵ー」
ジェニーちゃんの幼い心に刻み込まれた、王様カップルの艶姿。
ついさっき、シドがドラゴンを退治してきたばかりなのは内緒だ!
バルドスに言わせれば、「迷宮ドラゴンなんぞ、ドラゴンのうちに入らぬ」だそうだけれど。
確かに迷宮に支配された迷宮ドラゴンの場合は、知的魔物であるドラゴンの特質が生きないからな。
社務所にて、シドが安産祈願の御守りを購入した。
思わず顔を赤らめるメリーヌ殿下。
いやいや、これって大事な事だから。
アントニオの時は効きすぎた?
そして御正月の使い回しだがファルの御神籤を引いてもらった。
すると、いっぱい精霊の加護が付いた。
本家本丸から借りてきた、大物精霊も揃い踏みだ。
この二人のような人間は精霊からも好かれる。
結婚式にもいっぱい集まってきていたし。
精霊の加護を持っていた稀人の子孫は精霊が見えるそうだし、本人も大概の場合は連中から好かれて加護を貰えるようだ。
まあバイトンのような奴は別なのだろうが。
だが若き日の気のよかった頃のバイトン公爵ならば、どうだったろうか。
それはもう知る術もないが。
今日の御神籤は「神聖エリオンの祝い歌」だった。
『結婚した若い夫婦に終生、愛情と精霊の加護を与え、子宝にも恵まれる』
なかなかいい物が出たな。
でも歌は昆虫がダンスを踊る、結婚式で定番のアレだった。
葵ちゃんの仕込みなのが、もうバレバレだ。
次はエルフ新町へと向かった。
エルフさん達の御店が始まっていて、新婚さん向けの御土産も作られていた。
「新婚のオミヤゲに赤ちゃん向けは気が早くないだろうか?」
「いえ、貴族の方にリサーチすると欲しい物にちゃんと名前が上がるんです」
うん、それは納得だ。
貴族にとって世継ぎは大事だものね。
シド殿下も買いまくっていた!
早くも子煩悩男二号の誕生か?
その様子をを見て、ちょっと嬉しそうなメリーヌ殿下。
そして、お次はここに常駐している「祝福の騎士」による祝福の儀だ。
俺も「天使用装備」に換装してグスタフに付き合う。
「祝福の輪の二重奏」
踊るように、大きくダイナミックに横に縦に激しく踊りまわる、まるで雲で出来た竜のような祝福の塊。
もうこいつは半ば精霊化しているような気がするぞ。
そしてラストは、たくさんの玉のようになり乱舞して、凄い勢いで『メリーヌ王妃の御腹の中』へ吸い込まれていった。
それを見て、おっさんに衝撃が走った。
懲りずにまたやってしまったのか?
「あのう……もしかして、御腹にもう御世継ぎちゃんが?」
俺は、おそるおそる聞いてみた。
「い、いえ。
私達、まだそんな」
トマトのように真っ赤になりながら、メリーヌ王妃が答える。
うーん、それでも油断が出来ないなー。
すいません、2分遅刻です。




