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28-5 披露宴

 普通ハイド王国における王族結婚式は夜まで続くパーティ形式なのだが、ここはアルバトロス王国側に御任せという事で日本式の披露宴スタイルでやられる。

 もちろん、花嫁さんのお色直しもあるため、当然最新のウェディングドレスも用意されている。


 圧巻はウェディングケーキだ。

 今回はプラスチック筐体を使用して見栄えを上げた。

 アントニオの時のような派手な魔法の演出は王族結婚式には相応しくない。

 あの時はアントニオの立場的にインパクトが必要な儀式だったしなあ。


 更に実力を上げたエリのケーキが、特製ウエディングフレームの中で輝いていた。

 今回は筐体の素材がプラスチックである事を隠そうともしない。


 逆に骨格としてのみ使用する事で独特のデザインを得ることになり、スタイリングも映えた。

 ケーキを表現する方法としてはなんなのだが、一種のインダストリアルデザインなのだ。


 これを作るにあたっては、企画会議を開きデザインを決定し、いくつも試作しては作り直した。

 更にプラスチック骨格にも、両王国縁の金属製のモチーフをドワーフ職人に至急作らせて組み込んだ。

 材質であるミスリルの加工を容易にするために、エルドア王国へ炎の精霊サラマンドラゴを派遣した。

 世界初の仕事という事で、ドワーフの国家特級技師が殴り合いで仕事を奪い合った。


 勝利を勝ち得たのは、なんとあの大王の息子の王子だった。

 あの国では国王の長男だからと言って王太子を名乗れるわけではない。

 おそらくは鍛冶師としての腕に加えて、腕っ節がいるんじゃないかとか思ってしまった。

 きっとそれで合っている。


 さらにケーキには、地球ではありえないスタイルを採用した。

 回転スライド式に各段のケーキ台が取り出せるようになっていて、その全てが食べられる物であるケーキを本人達が切り分けるのだ。


 ケーキは全五段の構成で、コースの最後に出すと御腹いっぱいになってしまって味に対する評価が落ちるので最初に配るのだ。

 地球のウェディングケーキは見栄え優先で美味しくないといわれるが、こちらは味で勝負だ。

 なんたってエリ渾身の作なんだからな。

 このスタイルなら、目を瞠るだけの見栄えと生ケーキの美味しさの両方を実現できる。


 葵ちゃんのナレーションによって、定番の挨拶が流れていく。


「それでは、ウェディングケーキ入刀です。

 お二人の初めての共同作業です。

 ナイフが入りましたら、大きな拍手を御願いします」


 割れるような拍手の中、二人の乗る台座が目的の高さまで上昇する。

 台座というか、ほぼゴンドラなんだけど。

 俺が年寄りなんで古い名古屋式ですまんね。


 その二人の前に、もはや魔道具と化したウェディングケーキが最上段をウイーンとスライドして差し出す。

 緊張してナイフを持つ手が少し震えるメリーヌ新王妃。

 だが、にっこりと微笑んで、そっと手を添える新国王。

 新王妃も安心して、この記念すべき行事を諸国の代表の見守る中で行った。


 そして切り分けたケーキを二人でワゴンで配って回る演出もやった。

 これは、この世界では斬新に映ったようだ。


 この様子は隈なく国民にも伝えられて、新国王夫妻の評判は上々の滑り出しとなった。

 何、国中に得意の生中継をしてやっただけだ。

 結婚式の時からずっと。


 もう国民は熱狂しっぱなしで、女の子なんかもう、うっとりして、あんな結婚式をやってみたいと言う子が続出しているようだ。


 ファーストバイトの演出も可能だ。

 これがまた国民に受けまくった。

 一生懸命に新郎にケーキを食べさせようとする、愛らしい十六歳のフレッシュな新王妃に国民はもうメロメロであった。


「では、ここで誓いのキスを!」


 嬉しそうな葵ちゃんが思いっきり叫んでいた。

 まあやるだろうなとは思っていたのだが。

 結婚式の方では無かったので当然ここで出るイベントなのだ。

 一応、シド国王には伝えられていたようだが、あっさりと柔軟に受け止めた御様子だ。


 凄いな。

 その一方で、花嫁のメリーヌ王妃は顔を真っ赤にしてしまってこっちを見た。

 だが俺が「当然だろ?」と言わんばかりに、不思議そうに首を傾げているのを見て、あたふたしている。


 いきなり諸侯も大注目のイベントとなってしまった。

 これも披露宴のクライマックスとして映像を青空配信中なので、彼女の新しい国民も全員が注視している。


 そして、わくわく顔の葵ちゃん。

 王妃を抱き締め、果敢にキスを試みる国王。


「きゃあ、駄目。やっぱり駄目ですう」


 可愛く泣き叫ぶ王妃様に会場は皆爆笑だ。

 国民も、その可愛さにうっとりしている。


 だが、すっと。

 本当に、さりげなくすっと。

 チュっという感じでシド国王が彼女の唇を奪った。


 新王妃様は、「え? え? え? えーー!?」という感じで驚いて固まる。

 そのなんとも可愛い様子がまた、全国民に馬鹿受けだった。


 会場でも、冷やかす口笛の嵐が吹き荒れた。

 当然、それは葵ちゃんの仕込みだ。

 若き国王の悪友どもがオールキャストで出演中だった。


 もう真っ赤になってシドの胸に顔を(うず)めるメリーヌ王妃。

 今、とても幸せだった。


 この披露宴スタイルは、これを機にこの国でのスタンダードとなっていく。

 この式の後、多くの料理人がキッチンエリへと修行に赴いた。

 やがて暖簾分けした店がハイドにも現れた。


 そして、この世界にも「菓子職人」という専門職が生まれる事になった。

 それはまたハイド王国においては「ハイドケーキ」と呼ばれる新しいスタイルへと変化していった。


 やがて交易を通じて大陸の外へも情報が拡散し、エリは世界各地の菓子職人達から「大師」と呼ばれ崇められるようになった。

 だが本人は長くその事実を知らなかった。

 まあ知らない方が幸せな事もあるよね。


 メリーヌ殿下の先祖の国の料理という事で、色々な料理が振る舞われる。

 それは、この世界の縁起物という事でドラゴン料理がメインとなる。

 国の象徴でもある鷹の形を象った、色々なドラゴン料理が提供される。


 大皿に盛られたドラゴン刺し、ドラゴンのタタキ、ドラゴンカツ。

 このあたりは中華料理っぽい演出だ。

 他にドラゴン和風スープ、ドラゴン肉じゃが、おだまき蒸しなどもある。


 あ、うん。

 もうこれは日本の料理じゃないかもしれない。


 そして日本酒も出される。

 あと、俺が持ちこんだ日本のワインや国産三十年物のウイスキーも供された。


 そして御飯と御味噌汁が出される。

 これが初代国王の国の基本の食事であると説明しておいた。

 この国は米が流通しているので、それも意外と容易く受け入れられた。

 しかも出されたのは魚沼産コシヒカリだしな。


 日本食は美容に良いとの説明に耳ピンな貴族の女性達。

 一瞬、彼らの頭に「ミミ」が見えたような気がして目をこする俺。


 味噌汁は旨みの塊みたいなものなので、外国人にも受け入れ易い食品でもあった。

 なかなか評判はいい。

 味噌汁は会社の食堂でもブラジル人にも大人気だった。


 まあ普通、結婚式で普通の御飯と味噌汁のセットは出さないけどね。

 御飯とお味噌汁は御客さんには洋食風に皿で出されたが、新郎新婦は普通に御茶碗で箸を使っていた。


 シド殿下はアルバトロス王国に留学していて、今でもしょちゅうデートしにきていたので、彼にも日本食はよく振舞われていた。


 シドは柔軟な人で、初めてのラーメンを俺が示した手本通りにしっかりと日本式に味わって、周囲を驚かせていた。


 さすがは交易国の王にならんとする人である。

 その辺りは、うちのカルロス君より一枚も二枚も上だ。

 カルロス君といえば、あれが結婚するのは一体いつの事になるのだろうか。

 そういや、あれはハイド絡みのトラブルのせいで今も独身なのであった。


 デザートは当然のように和菓子を選択した。

 華やかな異世界産フルーツをプルプルの透明な葛の中に封じ込めて。

 その不思議な舌触りに多くの感嘆の声が上げられた。


 エリの滑らかプリンも和風容器に詰めて提供された。

 これはどこへ行っても評判がいい。


 美しく富士山を象ったアイスクリームの山も登場した。

 富士山も説明がなされ、これは縁起物であるという説明で、他の縁起物である鷹についても日本の縁起物であるから、それが国旗に採用された理由の一つなのではとの推論も添えられた。

 茄子に関しての紹介はまたの機会にな。


 肉じゃがについては、初代国王の故郷では家庭ごとにレシピがあり、美味しい物を作れるのがいい奥さんだと伝えた。

 男のハートをガッツリ掴むために、若い娘も慣れぬ料理に取り組むのだと説明しておいた。


 初代国王の作っていた肉じゃがは絶品であったと初代国王の妹さんから聞いたとも伝えた。

 思わず手料理道に燃えるメリーヌ王妃。

 当然、家庭教師は山本さんになる。


 彼はハイド王国稀人料理指南役の肩書きを頂いた。

 山本さん、いくら美少女だからって人妻相手にあまり鼻の下を伸ばさないようにね。


 日本の真理さんからは船橋武謹製の船橋家特製肉じゃがレシピを取り寄せてあり、御祝いの言葉と共に翻訳されたレシピと御祝いの歌のビデオメールが贈られた。

 もう感激のメリーヌ王妃であった。


 かくて、苦難の末に結ばれた若き国王夫妻は、アルバトロス・ハイド両王国を結ぶ輝く絆となったのであった。


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