表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

186/1334

28-1 王族結婚式

 御正月も明けて、次の大きなイベントが待っていた。


「王族結婚式」


 第一王女メリーヌ殿下の結婚式だ。

 同時にシド王太子が戴冠してハイドの新国王となる。


 前に伯爵であるアントニオの結婚式をやったが、あれとは比べ物にならない一大イベントだ。

 是非俺達にも協力してくれと、シルベスター王女からエリに去年のうちにもう話があったのだ。


 当然、うちも総力を挙げる事となる。

 まあいつものペースでやるわけなのだが。

 正月明け早々、一大イベントの幕開けなのだ。


 主役はエリと山本さんだ。

 何しろ、稀人の直系子孫の結婚式なのだ。

 うちに来たオーダーは「稀人風結婚式」であった。

 そしてプロデューサーは、もちろん葵ちゃんだ。

 工作マシン担当、必要ならネットで有料データの購入、それと精霊関係をやるのは俺の管轄だ。


 あと王都の高級服飾店には、日頃から貸与してあるミシンや地球産の技術で作った高級布地を活用してもらっている。


「光栄ですわ。

 こんな凄い仕事を任せていただけるなんて!」


 御店の御針子さん達は目に見えるほどの張り切りようだ。

 御針子は御針子でもミシン御針子さんなのだ。

 彼女達の瞳の奥に爛々と闘志が燃えていた。


 うちのチビ御針子さん達も何故か張り切っている。

 いっそ職員さん同伴で短期留学第二段といくかな。

 記念に一人一針だけでも縫わせてもらうか。

 みんな、いい経験になるだろう。


 ミシンのメンテのためにトーヤを派遣しておくか。

 少なくとも肩書きだけには不足が無いし。


 ハイドで行われる結婚式なのに、そんな日本式でいいのかと思ったのだが。


 今は無き、あの大要塞たる空中庭園でバラン相手に壮絶な死闘を演じたというシド王太子。

 彼もあの壮大な空中庭園を生み出した稀人の文化に興味があるらしい。

 熱意たっぷりの年下の可愛い新婦さんに(ほだ)された可能性も少なくないのだが。


 まあオーダーを受けた以上は、とことんやるのがうちの流儀なのだ。

 俊英のメンバーでスペシャルチームを組んだ。

 気を抜くような所はどこにもない。

 小数精鋭でやり抜く所存である。


 まずはハイドについての情報収集がいる。

 まずは情報局長の御見舞いからだな。

 だが。


「……ミ、ミハエル。あんた」


 そこには別人のようにげっそりとやせ細ってベッドの上に臥せり、目の精気が失われた男がいた。

 殆ど末期のガン患者のようだ。

 実際、寝所には御通夜のようなムードが漂っている。


 だからやめろ、俺の前でそういう事は。

 会社でガンを患いながらも、別人のようになりながら最後まで出てきていた人とかいたし。

 他にも胃ガンで腹を断ち割られて、頼むからもっと病院においてくれと泣き叫びながら、病院から放り出された奴とか。


 会社は言うのだ。


「病院を出たんだから、もう完全に治ったんだよね!

 早く出社しろ!

 明日からでいいから」


 そして、そいつは「まだ、こんなに膿が出てくるんだけど」と、笑って切腹後の腹を見せてくれた。

 胃ガンの原因は殆ど、会社からの「いじめ」のような内容だった。

 後日夏に見かけた彼は、頭の皮が頭蓋骨に張り付いて骸骨のようになっていた。

 その時は、もうこいつ死ぬかなとか思ったけど、その夏を生き延びた。


 手術直後に五年後の生存確率三十五パーセントだと笑っていたが、七年経っても生きていた。

 笑っている人間は簡単には死なない。

 免疫細胞も笑ってくれるからな。


 こんな事くらい笑い飛ばしちまえよ、疾風の王子様。

 俺は必殺の再生スキルを行使した。


 その直後、そこには「寸分(たが)わず再生された」金髪の貴公子がいた。

 再生スキルは人間に使った時、別に若返りを齎すような能力ではない。

 その人間の体に刻まれた一番の状態に戻すだけだ。

 疾風の王子様は今がまだピークなのか。

 ちょっと羨ましいな。


 憮然とした表情の王子様に、俺は鬼のように早速仕事を申し付けた。


「ハイドの風俗・風習についての情報が欲しい。

 特に結婚式についての。

 大至急だ。

 とっとと起きろ、このシスコン王子。

 お前の御大事の妹の結婚式だぞ」


 あの大事件から二年、いやもう三年近いのか?

 空中庭園事件の時、いやあれは魔界の鎧事件でもあったのか。

 こいつも妹メリーヌのために裏で相当駆けずり回ったらしいし。


 御菓子で釣った王族付きである侍女さん達の話からは、かなりのシスコンぶりが伺われた。


「もう少し病人を労わったらどうだ?」


 布団から元気に這い出てきた自称病人がそう言った。


「もう病人じゃないから。

 あんなの稀人の国なら、上官がうちまで来て引きずり出すレベルだ」


 俺の時も来たな。

 辞めさせずに無理やり仕事をさせられたから、とうとう再起不能になったけど。

 だが本当に働けなくなった途端、通常の退職規定は無視してポイっと放り出された。


 課長も俺の目を見ないようにして通告してきた。

 でも彼は色々と俺の事を庇ってくれた人だったので、逆に申し訳なかったな。


 奴の前の机に、蓋を外した栄養ドリンクをドンっと置き、ぐいぐいと捻じ寄せてやった。

 溜め息を吐いた疾風の仕事人は、諦めてそれを飲み干した。


「これもまずいが、まあウィルストン家の青鰭蜥蜴の煎じ薬よりはマシかな」


「なあに、飲み慣れれば病み付きになるから。

『ド、ドリンク』と声を振り絞り、震える手を伸ばしながらドリンクを求めるようになる」


 そう言って、御付きの人に六本入りの物を二箱くらい渡しておく。

 それを嫌そうに見るミハエル。

 奴ほどの人間ともなると聞いていなくても知っているのだ。

 こういう物は、その場では効果があるのだが、無理が出来てしまう分だけ体には余計負担がかかるのだと。


 俺はあまり気が進まなかったのだが、王太子の方も覗きに行ってみた。

 そして開かずの間を、そおっとこじ開けてみた。


 封印を解かれたその場所は、なんか……なんか……御通夜を通り越して、御葬式のようなムードが香り立っていた。

 俺も御線香の匂いを幻臭した。


「なんという事だ」

「国王陛下に、なんて御伝えしたらよいものか」

「せめて、御世継ぎでもいらしたなら」


 おいこら、大国の王太子が「魔法使い」のまま死ぬんじゃない。

 俺は慌てて中に飛び込んで、驚く従者どもを尻目に王太子へ再生のスキルをかけた。


 だが、その次の瞬間に俺は自分の目を疑った。

 そこには、そこには、「あんた誰?」って言いたいような、二十歳そこそこのスリムな美青年が体を半分起こして呆然としていた。


 なんていう事だ。

 元々の素材はよかったのか。

 そうだよな。

 あの王妃様の息子で、疾風の王子様やエミリオ殿下の実の兄貴なんだから。


 元々文官肌で、しかも執務室に座りっきりだったから小太りでパッとしない感じになっていただけなのか。

 生真面目な性格が災いしたのだろうか。

 ドランくらい適当に息抜きをしていれば、こんな事にはならなかったものを。


「やあ、王太子殿下。

 意外と御元気そうではないですか。

 臥せっておられたせいで随分とスリムになられましたね!

 人間、適度な運動は必要だと思いますよ」


 そんな訳あるか! と言いたそうな人々の視線を力押しで撥ね退けて、俺はしゃらっと言ってのけた。


「そうか、そういうものかもしれないね。

 今度から日課に運動も取り入れよう。

 あ、御見舞いに来てくれてありがとう」


 カルロス君。

 もうちょっと人を疑う事を覚えた方が、きっといい王様になれるぜ。


 それにしても、見かけだけは弟よりも若返っちまったな。

 まあ、あの天然若作りの過ぎる彼の母親よりはマシだろう。

 その辺の話を人から突っ込まれても「母親譲り」の一言で済んじまいそうな按排だが。



 とりあえず、国王陛下には現状を報告しておいた。


「そ、そうか。少しスパルタが過ぎたかの。

 わしが若い頃には、こんなもの生温いと言われたもんだが」


「そ、そうでしたか」


 この王家に生まれなくて本当によかった。

 とにかく、王様だの王子様だのになりたい奴らの気が知れんな。

 名誉公爵万歳だぜ。


 この王太子、今のうちになんとか売っておきたいな。

 直に元の体形に戻るだろうし。

 毎回同じ言い訳をするのは俺がキツイ。


 まあ売るというか、単に嫁取りなんだが。

 周辺国家の安定のために。


 御免、ウソです。

 本当は我が家の平和のためにね!


とりあえず、5章まではなんとか改稿してみました。

まだちょこちょこいじっていく予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ