27-3 エルフの御茶屋さん
広場では、エルフさんによる御茶のサービスが始められていた。
エルフ茶屋というか、只の日本茶屋スタイルである。
これが貴族の子弟に大人気だ。
山本さんとエリも出張で参加してくれて、そっちは団子茶屋にした。
特に本職である山本さんが天下無双だ。
何しろ、さっきの正月歌の御利益を確認すべきシーンなのだ。
主役のロゴス先生を囲んで、皆で押しかけた。
「いらっしゃいませ~」
着物姿のエルフさん達が御出迎えだ。
店内は、鼻の下を伸ばしまくった貴族の若者、いや馬鹿者達で溢れていた。
しかし園長先生のそれも伸び切っていたのだった。
だが困った事に席が無い。
空間拡張するか?
いや、せっかくの正月晴れなのだから、和風オープンテラスと洒落込むとするか。
以前、武の墓参りに行った時に使ったミニ園遊会セットを引っ張り出し、隣のスペースに展開する。
きっちりと空間を区切ってエアコン魔法を効かせたので暖かい。
「私、こういうの好きです。
あの正座というのは苦手なんですが」
こういう趣もシルベスター王女には好評のようだ。
うん、正座はね。
一応は日系人だとはいうものの、みんな只の外人さん、いや異世界人なんだものな。
「いや、無理しなくていいんですよ。
俺だってやってないですから」
俺は膝を悪くしていたので、法事なんかへ行っても、いつも足は崩させてもらっていた。
今ではそれも再生スキルにより治ったのだが、今更苦手な正座は面倒だなあ。
一行に山本さんがいるので御菓子はあっというまに届く。
御店の看板娘のレナは、人間で言うところの十四歳くらいの外見で時が止まってしまったようだ。
超美少女なので貴族の子弟どもの間で人気炸裂している。
「お待たせー」
エルフさんについては、その境遇はよく知られている。
そんな辛い目に遭ったにも関わらず、この明るさ。
その辺も、この子の人気の一端を担っている。
俺も顔馴染みの子だ。
子といっても、俺より遥かに年上なんだけれど。
エルフさんの淹れてくれる御茶は、何故かすこぶる美味い。
アルスなんか、こんな失礼な事を言いやがるのだ。
「悪いけど、それと比べちゃうと園長先生の淹れてくれた御茶なんて雑巾の絞り汁みたいなもんだね」
アルス、なんという事を!
飲んだ事があるのか、雑巾の絞り汁を。
それはともかくとして、エルフ茶はとびきり美味いのである。
こういう茶屋は、エルフ新町にも試験的に出展済みだ。
今回の出展はアンテナショップの意味合いもある。
ズラリっと和テーブルに甘味メニューが並んだ。
甘酒・みたらし団子・大福・餡子の串団子・ワラビ餅・ぜんざい・串抹茶団子・きな粉餅。
テーブルに伸びる、巫女服や神使服の袖。
振り向くと、匂いを嗅ぎつけたらしい神使の群れがいた。
さっそく園遊会会場を拡張して追加注文した。
みんな美味しい美味しいって言っているが、さっきのメンバーはいつも美味しいって言うんで、神聖エリオン御神籤効果のほどがよくわからない。
自分でも食してみる。
うーん、心なしか美味い気もする。
気のせいなのかもしれないが、これは効果があったという事にしておくか。
あ……れ? 餅?
俺は茶屋の奥へ行って、山本さんに訊いてみた。
「ねえ、もしかして材料の餅米って出せるの?」
「ええ、出せますよ。
あれ? もしかして餅米が欲しかったんですか?」
き、気が付かなかった。
なんて間抜けな。
山本さん自身も、幼稚園兼児童養護施設のような場所で正月に餅つきをするという発想が抜けていたらしい。
いかにも、のんびり屋の山本さんらしい話だけどな。
ま、まあいいや。
雛祭りとかもあるし、正月は来年もある。
そして、そっと試してみる。
実はまだずっと忘れていたものがあったのだ。
『パックの赤飯』
これをキャンプに持ってきていたのを今の一幕で思い出したのだ。
なんと材料に分解したら、ちゃんと餅米を作れてしまった。
小豆も入っているじゃねえか~。
「なんてこった……」
今日のところは、そいつもそっとアイテムボックスの中へ仕舞っておいた。
証拠隠滅は大事な事さ。
まあ地球産の良い食材が入手出来たと言う事でよしにしておこう。
神社では御神酒も配っている。
よく見たらそこに群がっているのは筋肉達磨の集団だった。
「親方、あけましておめでとうございます」
可愛い御稲荷様が元気に御挨拶だ。
「おう、トーヤ。
新年おめでとう」
いつの間にか日本の正月っぽい挨拶を交わしている異世界ドワーフ王がいた。
王妃様も御神酒を飲んで頬を染めている。
「あけましておめでとう、トーヤ。
エディも元気そうね」
エディは、ちょっと恥ずかしそうに俯きながら御挨拶する。
「あけましておめでとう、おかあさん。
あわわわ」
うっかりと言い間違えて赤くなるエディ。
日本の小学生の子でも女の先生でやる定番の行事だよな。
あの日、女将さんが一生懸命にまるで自分の子供のように看病してくれたので、エディは女将さんの事を本当の御母さんのように思っているのかもしれない。
それを聞いた女将さんは、ちょっと嬉しそうだ。
エディは寝てしまった時も涙を流しながら「おかあさん、おかあさん」と言いながら魘されていた。
傍に付きっ切りだった女将さんがずっと手を握ってやっていたのを思い出す。
しかし、ドワーフ共め。
御神酒を飲み尽くさんばかりの勢いだな。
まあそれもよかろう。
なんたって、今日はドワーフ連中をイベントのために呼んでおいたのだ。
祭りに景気付けの酒は必要だよな。
『奉納乱れ太鼓』
実に奴らにぴったりの催しだ。
戯れに魔物革で出来た丈夫な大太鼓を作って与えてみたのだが、年末年始に酒を飲みながらノリで練習していたらしい。
甘味を食べ尽くして、ちょっと幸せな気分で奉納を見にいくとする。
ドワーフ軍団は王宮前広場のど真ん中に陣取り、その警護は王国騎士団だ。
日頃強面な騎士団長ケインズも、なにやら楽しげに観察している。
そして太鼓の演奏が始まった。
五台ほど並んだ、叩く面が上を向いた大太鼓。
両手をリズミカルに、しかしパワフルに打ち鳴らし、そしてバチ同士をカンっと打ち合わせる。
バチも職人らしく自分達なりに厳選して作ってみたようだ。
乱れ打ちながら、次々と打ち子が入れ代り立ち代りでガンガンと打ち鳴らす。
そして一人の戦士、いや打ち手が前に進み出て凄まじいリズムを刻む。
これは、なんと16ビートか!
最早、これは御太鼓ロックといってもいいのではないか。
俺の脳裏を、モヒカンやスキンヘッドのパンクロックな屈強戦士ドワーフの群れが、世紀末の荒野をアメリカンバイクに乗って駆け抜けていった。
無論、肩にはトゲトゲのついたパッドも装備して。
さすがに正月早々凶悪過ぎるぜ。
ドラゴンも裸足で逃げだしそうだ。
そして、ついに真打登場だ。
国親方自ら、今度は叩く面を横に向けた超特大太鼓に向かった。
特大のバチをその両手に、雷の如くに打ち鳴らした。
浅く打ち鳴らし、低い音からやがてドンドンドンドンと一気に盛り上げ、高く大きな響きへ。
ドンドコドンドコと、波の高低をリズムよく打ち鳴らしていくそのバチは、親方自ら創り上げた謹製の品に違いない。
目を瞑り、しばしの瞑想の後にくわっと目を見開き、一気に削り上げる。
そして荒削りだが、確かな一打ちを刻み出す最高のバチが完成する。
そんな情景が目に浮かぶような、確かな一打の積み重ね。
どれだけ職人気質なんだか。
見る人を捕らえ、目を離すことも出来ぬ呪縛へと引きずり込む。
とても一週間あまりで身につけたとは思えない巧みな技だ。
そしてクライマックスには、親方と選ばれし精鋭のドワーフ五人との競演が始まった。
その間というか合いの手の如くに、他のドワーフ連は両手に持ったバチを頭上で打ち鳴らす。
嵐のような打撃音のセッション、そしてその後急激に訪れる静寂。
誰ともなく始まった拍手の雷鳴が彼らを包み込んだ。
異世界の御正月を締めたのは、いかにも異世界らしいドワーフという人外の集団であった。




