26-4 異世界の元旦
「あけまして、おめでとう~」
「おめでとうございます~」
ケモミミ園のみんなには、日本の新年の挨拶を教えてある。
この世界では、「主神ロスの恵みに感謝を」みたいな挨拶をするらしい。
基本、主神ロスへの感謝祭みたいな日々なんだから当然か。
本日元旦の朝御飯は御雑煮だ。
こいつは小さい子供には要注意な代物だ。
しかし、やはり御餅は出したい。
そのために体内異物の除去の魔法を開発してある。
エコーの魔法で探査して、エコーを媒介にしてアイテムボックスへ回収する。
イメージ次第で、案外となんでも出来るもんだな。
本当に便利な世界だ。
俺が常にいるとは限らない。
真理には、この魔法を渡しておいた。
それと定番の掃除機。
細いノズルで餅を吸い取るのだ。
掃除用ではなく、そのためだけに掃除機を開発したのだ。
もちろんアタッチメントを変えれば普通に掃除にも使えるがな。
御餅に限らず飴玉その他にも使えそうだから、ケモミミ園にも用意だけはしてある。
後は逆さにして背中バンバンとかだな。
そういったネットの知識を印刷して、職員達には渡してある。
餅は細かく切って、御汁を飲みながら食べるように指導してある。
あとは食べている時に、あんまり笑わせたり脅かしたりしないようにさせないと。
うちの場合、これが一番危ないのだ。
餅は、この世界に持ってきたパックの餅しかない。
そいつから、アイテムボックスの分解機能では餅米は出来なかった。
御餅つきがやれなくて残念だ。
もし俺が元の世界に未練があるとするならば、親の墓参りと餅米の入手のためと言っておこうか。
山本さん謹製の各種の御節料理もズラリと食卓に並ぶ。
伊達巻き、海老のうま煮、黒豆、田作り、昆布巻きなどなど。
こっちに来る時に、弁当の助六寿司を持ってきていたので、なんと昆布巻きに使う|乾瓢《かんぴょう』まであるのだ。
あれは結構特殊な物だからな。
また今度、材料になる作物も捜しておこう。
確か、浜に生えている植物の実なんじゃなかったかな。
桜でんぷや錦糸卵も山本さんが作ってくれたので、散らし寿司なんかもオーケーだ。
蒲鉾は、ロス神殿の紋章入り、爆炎エンブレム、ケモミミ図柄などがある。
ロス神殿の紋章入りの蒲鉾は、ジェシカにも御土産に持たせた。
ローストドラゴンに各種酢漬けや漬物、ブリっぽい魚の煮たもの、紅白なます。
年の初めから御馳走で御腹一杯だ。
彼ら孤児には、それは重要な事だ。
去年の新年の御祭りの後、歳初めの頃は大概の子が食うや食わずやの生活だったろう。
食後に子供達を集めた。
「子供達、並べ~。
御年玉だよ~」
わあっと殺到するが、子供達は御行儀良く並ぶ。
彼らは学んだ。
ここでは、きちんと並んでも後から行った者が不利益を受ける事はないのだと。
ここから出ていったら、その先はどうなるかは彼らが今まで身を持って体験してきた。
その上で、ここでは並ぶ。
胸を張って。
彼らが自信を持って、ここを出ていって頑張れる体制。
それを終生かけて作ってみたい。
だから、ここでは敢えて孤児院標準の十二歳ではなく、この世界の成人である十五歳、そこまでは面倒を見る。
その後は自分で頑張るんだよというスタンスを年端のいかない幼稚園児の時から叩き込んだ上で。
スパルタだ! と日本の人なら言うかもしれないけど構わない。
レミの歳(ただ今二歳)では、今の日々は記憶にも残るまい。
多分通常は三~四歳から最初の記憶が残るだけのはず。
中には赤ちゃんの頃、あるいは下手をすると胎児の頃の記憶を持っている人も結構いるらしいけど。
だから物心ついた頃から鉄は熱いうちに打つ。
地球の意識では酷いと思うかもしれない。
でも、ここでは当たり前レベルだ。
むしろ、それが思いやりのようなものとなる。
ここは日本でも地球でもない厳しい世界なのだから。
御年玉を貰って、子供達はみんなウキウキだ。
新年の祭りは五日まで続くのだ。
御年玉を待って並んでいる間も「どこ行こうか~っ」と大はしゃぎなのだ。
三日間遊ぶ分の御小遣いは入っている。
去年は御小遣いどころか、明日のカロリーの確保も厳しかった。
それでも、この祭りが無為だったわけではない。
祭りの御零れは、必ずやストリートチルドレンにまで到達する。
ここは苟も大陸有数の大国の王都近辺なのだ。
そうでなくば武の人生が浮かばれない。
そんな事は絶対に認めないぜ。
少なくとも両世界合わせた中でも、絶対にこの俺だけは。
俺にとって奴はこの世界での無二の盟友。
たとえ一度も会った事が無くても。
そしてこれから会う事も決して叶わない、黄泉の国へ渡ってしまった人間だけれども。
奴以下の仕事しかここに残せないなんて、あの世であいつに合わす顔がない。
まあ、さすがに国は作らないけどね。
餅つきか~。
子供達に見せてやりたい。
あの美味さは昭和生まれの俺ですら殆ど味わった事が無い。
だが真理は、さらっとこんな事を言う。
「御餅なら、御主人様がついていたわよ~」
「マジで!?」
「ただ、原料がね……」
「あ、ああ、うん」
「異世界、いえ地球に餅米を買いに行けるといいわね」
「そうだなあ。
俺、この世界に来て、今初めて地球に帰りたいと真剣に思ったわ」
そこまで特に帰りたくないなんて、俺はどれだけあの世界で報われなかったんだか。
でも、やっぱり親の墓参りと餅米の買い付けには行きたいな。
あと親の仏壇も取ってこないとな。
レミやファルをデパ地下のスイーツ天国に連れていってやりたいし。
ああ、もちろんその時はエリも連れていかないと。
どうせ精霊共も勝手についてくるんだろうな。
というか、奴らって地球でちゃんと存在というか顕現出来るのか?
有名スイーツ店の犇めく東京まで足を伸ばしてもいいのだが、あそこは俺自身が不案内だし。
勝手知ったる地元なら、まあなんとでもなる。
俺は日本人であの国に戸籍も住所もあるけど、チビ達はパスポートもなければ、厳密にいえば通常の人類ですらない。
いつの日かレインも連れていってやりたい。
父親のように愛する武の国で、あの娘は何を思うだろうか。
それまでに、あの子の体もなんとかしておかないとな。
今のままだと人化はとても無理なようだし。
精霊の鎧でなんとか出来ないものだろうか。
ファルと母子で暮らせるようにしてあげておきたい。
どうせ俺の寿命の方が先に尽きるのだから。
ファルはいつ成体へ成長し終わるものか。
日本へ行くのならジェシカも連れていってやらないと。
寺や神社がたくさんある京都へ連れて行きたいな。
王族の御子様達は難しいかもな。
主にセキュリティ関係が。
まあ、うちはその辺の事情は大概だから、どうにでもなるかな。
それよりも、日本への不法入国の方が問題だ。
下手に許可を取りにいくと面倒な事になりそうだし。
かといって、日本の警察や役所相手に何かやらかすのは、ちょっと考え物だ。
ただ俺達は派手にこちらの世界へやってきたので、政府は事情を把握してくれているはずだ。
まあ、今のところ日本へ帰る方法は無いし。
その時になったら考えよう。
一年の計は元旦にあり。
今年は、そっち方面の諸々の関係も真剣に考えてもいいのかもしれない。




