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2-5 冒険者たち

 進化したアイテムボックスの威力は凄い。

 思いついたらサクサクと色々な物が作れてしまう。

 ネット情報やPCの力が使え、脳波でコントロール出来る超高性能な原料無限供給の3Dプリンターが連動しているようなもんだ。


 はっと気がついたら、もう七時間が過ぎていた。

 遅めの夕飯を食っていたら、ギルマスがまだ若そうな冒険者達を連れてやってきた。


「おお、まだ居てくれたか!

 すまん。

 遅くなってしまったので、もう帰ってしまったかと思ったぞ」


「ああ、気にしないでくれよ。

 こっちこそ、ギルマスだって忙しいだろうに悪いな。

 時を忘れて内職仕事をしていたら、こんな時間になってしまった」


 俺はフォークに刺さった肉を振り上げて挨拶した。


「その内容が気になるが、まあいい」

「おい!」


 ふん、ただの日本式の工芸品と魔法を作っていただけだぜ。

 特にたいしたものではない。

 俺のオリジナルなんて、特にどこにもない。

 その威力は絶大な物であったが。


 俺は残りの肉を手早く胃袋に詰め込んで、場所をギルマス執務室に移した。

 ギルマスの仕事が溜まっているのだ。

 本日の仕事遅れの最低一時間分は確実に俺のせいだ。


 そして彼らは自己紹介をしてくれた。

 まずは、少し厳つい感じがする顔付きだが人当たりのいい感じにチームを紹介してくれるリーダーらしき彼。


「リーダーのエドウィンです。

 どうかエドと呼んでください。

 明日からうちのパーティと一緒に迷宮に潜ってもらいます。

 訓練という事ですので浅い階層でやりましょう。

 うちのシーフと一緒にやってください。

 デニス」


「チームエドのシーフ、デニスだ。

 よろしく」


 いかにもシーフらしく軽装をして敏捷そうで細身の、薄めの空色の瞳をした若者が笑顔で挨拶してくれた。


「よろしく」


「次は、あなたの護衛を担当する戦士です。

 ロイス」


「よろしくな、アルフォンスさん。

 商人さんなんだって?」


 こちらはがっちりとした体格で、いかにも寡黙な戦士といった風貌だ。

 革製の軽鎧に包まれた筋肉の厚みが並みの人間とは違う。

 おっさんなんか、昔から線が細くて肩の肉など無いに等しい。


「ああ、そうだ。

 宜しく」


「後衛の弓士、エリ-ン。

 うちの紅一点です」


「よろしくね」


 そこそこ可愛いといった感じの女の子だった。

 だが顔に満遍なく貼り付けられた愛嬌が、それを補って余りある魅力を湛えていた。

 地球でも、よく見かけるタイプだった。


 実に好感が持てるな。

 その余って帽子からはみ出している真っ赤な髪が、緑の瞳と相まって印象的な女の子だ。

 冒険者と呼ぶには少し相応しくないほど、全体的になんとなく御洒落な感じは否めない。

 そのさりげないセンスの良さは認めよう。


「どうも。

 よろしく~」


「しかし凄いな。

 商人なのに、剣も扱えて魔法も凄いんだって?

 オマケに収納持ちか。

 まるでダンジョンへ挑むために生まれてきたような人だな」


 俺の訓練担当の青年は、短髪にした透き通るような金の髪を指で弄りながらそう言ってくれた。


「ああ、ギルマスにランクを上げたほうがいいって言われたんでね。

 素人の御守りで申し訳ないが、今回は宜しく頼む」


 俺は、その場でサブマスのレッグさんに書類を作ってもらい、代金前払いで彼らとの契約を手早く終えた。


「それでは明日の朝六時の鐘が鳴ったら出発します。

 ギルドに集合という事で。

 馬車はもう手配してありますので」


「ありがとう。

 それではまた明日!」


 俺はエドウィン達に挨拶して別れた。


「ギルマス、色々とありがとう。

 じゃあダンジョンを楽しんでくるよ」


「完全に物見遊山だな」


 アーモンは書類の山と格闘しながら会話している。

 あまりそっち方面の戦いは得意じゃなさそうだ。


「ああ、多分浅い層の魔物は怖くない。

 罠とかが怖いな。

 とっさに身を守る魔法を出す訓練をしないと本格的に潜る気になれない。


 まあフライの魔法があるし、無限に使える回復魔法とポーションもごっそりあるのだし、そう問題はないと思っているけど。

 いきなり天井が崩れてきたり、針山の落とし穴、押し潰される空間なんかがあったりするとヤバイ」


「ははは。まあ頑張ってくれ。

 じゃあな」


 ギルマスは書類から目を離さずに、声だけで見送ってくれる。

 俺はふいに足を止めて、聞いておいた。


「あ、もっと強力な回復魔法は覚えられないかな?

 グレーターヒールみたいな」


「うーむ、そいつは難しいな。

 あれは俺にも使えん。

 今このあたりでそれを使えるのは、王都のロス大神殿の大神官くらいだろう。

 その他であれを使える人間となると王族くらいのものだろう。

 大神官は非常に優秀な人材だ。

 幼い頃より出色の大神官候補だった。

 あそこは金を積めばなんとかなるのかもしれないが。


 しかし、大神官は業務が忙しい。

 予定が詰まっているだろうから、すぐというわけにはな。

 そいつは、ちょっと御預けだ。

 彼女個人の時間を特別に割いてもらえるような特別な伝手があるなら話は別だが。

 まあ訊くだけは訊いておいてやろう」


「ああ、頼むよ」


 俺は了解して、今度こそギルマス執務室を後にした。

 賑わってきたギルドの喧騒を後に、そろそろ日の傾いた王都の街並みを歩く。


 街や建物を形作るパーツの一つ一つが、やや丸みを帯びた造形の、柔らかい感触のする風景であった。

 そしてペンキのような塗料で美しく彩られている。

 色取り取りの塗料は錬金術師の作であろうか。


 ちょっと前まで日本にいたのに、今はこの風景が呼吸をするかの如くしっくりとくる。

 記憶の中にある日本の方が他国のように感じるのだ。

 なんだか不思議な気持ちだった。


 十年以上ほったらかしの古家が、もう自分の家ではないような気がするのと同じような感覚かな。

 人は過去に生きるのではなく、現在と未来に生きる生き物なのだ。



 宿に帰ってから、またちょっと工作を始めた。

 今度はナースユニットを作ってみる。

 こいつは自動で回復魔法やポーションを使ってくれる飛行筐体だ。

 これがあれば、万が一自分が危険な状態異常で戦闘不能になってもなんとかなるかな。


 完全に石化しているとか気絶しているとかでなければ、アイテムボックスから射出する事も出来るだろう。


 明日は早いから、もう寝よう。

 魔法PCの目覚ましは五時にセットする。



 異世界十七日目を迎える。

 魔法PCの目覚ましでパッチリと目が醒めた。

 頭の中で目覚ましが鳴る感覚というのも面白いもんだ。


 顔を洗ってトイレへ行き、定番の食べ慣れた朝飯をしっかりと食った。

 そういや昨日は風呂に入り損なったな。

 ダンジョン用に作ってあった、簡易のシャワーユニットを出してザッと一浴びした。


 それから宿を引き払ってギルドまで五分で着いて、現在は五時五十分だ。

 セーフ!


 ギルドのホールに入ると、チームエドはもう全員が揃っていた。


「やあ、商人さんはさすがだな。

 ちゃんと時間前においでだ。

 これが貴族の人とかだと平気で一刻遅れてきたりする。

 その癖、そういう人に限って横柄な口を利いたりするんです。

 剰え、遅いぞまだ目的地へ着かんのか、とか言ってきてね」


 エドは笑ってそう言うのだが冒険者稼業って大変すぎる。

 よかった!

 これが本業じゃなくて。


「ははは。

 さあ、出かけましょうか」


 馬車は大きくなかったが、それほど乗り心地は悪くない。

 日本製の酔い止めは飲んだし、尻の下と背中にはでかいクッションを敷いておいた。


 アドロスまでは二十キロ。

 こちらでも距離の単位は日本と変わらない。

 そういう物って初代国王あたりが持ち込んだのだろうか? 


 キロという単位は地球という惑星の大きさから換算した単位だから、あまり科学が進んでいなそうなこちらの人が決めたとは考えにくい。

 この世界には、ここが惑星という星の上だという概念すら無いはずだ。


 馬車は四時間くらいでダンジョンへ着くそうだ。

 速度は地球の馬車とたいして変わらないな。

 冒険者らしく途中休憩もなし。

 いつの間にか、俺はぐうぐうと寝ていた。


「アルフォンスさん、 アルフォンスさん」


「あ、ああ。

 もう着いたのかい?」


「ええ、よくお休みでしたね。手がかからなくて助かります」とエドは笑って言った。


 そして少々おどけた口調だが、気取った感じで挨拶してくれる。


「迷宮都市アドロスへようこそ」


 うん、やっぱりこういう定番の儀式がなくっちゃなあ。

 俺も思わず笑顔になり、彼らもそれに倣ってくれた。


 さっそく街を案内してもらう事にした。

 冒険者の街だけあって、なかなか活気がある。

 宿屋、酒場、娼館、賭博場、武器防具屋、茶店、装備品の店、食料品店、服屋、土産物屋、荷物持ちの従者の斡旋所、魔物素材の販売店などなど。


 王都とはまた別の意味で華やかだ。

 街が纏う雑多な雰囲気に、いかにもここが迷宮都市であると知らされる。


「今日は街の雰囲気に慣れてから、肩慣らしに迷宮一階の探索を少しばかりやろうと思います。

 ここは地下迷宮ですので、地下一階という意味です。

 予定通り一週間の滞在となります。

 潜りっぱなしでもいいですし、毎日上へ戻ってもいいです」


「どうするかな。

 そのあたりは潜った感じで決めたい。

 毎日戻りたい気持ちはあるけど、それだとあまり訓練にならないな。


 大概の物は前もって準備してきたから、お店は冷やかして歩くだけだ。

 このメンツなら何年も暮らせるくらいの用意はあるよ。

 売っている魔物素材は気になるが。

 帰りには何か買いに寄ってみたいね」


「そ、そうですか。

 さすが収納持ちでお金持ちの商人ですね」


「武器もいい物をいっぱい揃えてあるしね」


 お昼までに街を一通り見て回って、昼飯を食べながらレクチャーをしてもらう。

 昼食は、いかにもこの街らしくパンに魔物肉の炒め物を挟んだ物や、あるいは魔物肉の串焼きなどを出してくれた。


 それらも王都で食べる物に比べたら粗野な味付けではあったが、それがまたいい。

 こんな物は日本じゃ食べられないんだからな。

 俺は海外なんかへ行くと、そういう物を食べたい口かな。

 鰐はオーストラリアでしこたま食ってきたぜ。


「ここの魔物の分布や素材なんかの解説書も出ていますので、後でそれを買ってから迷宮へ行きましょう。

 御値段はそれなりにしますが大丈夫ですよね。

 初めて潜る人は、絶対に持っておいた方がいいです」


「わかった。

 君のお勧めなんだから是非買っていこう。

 中は暗いのかい?」


 あの魔物と出くわした山中の夜を思い出す。

 昔から闇は嫌いだ。

 その影に何かが潜んでいるような気がして。


「迷宮によっても違いますが、ここは基本暗いです。

 地下洞窟タイプですから。

 入り口は人工的に明るくしています。

 内部でも、光苔のようなものが生えているところは明るいですね」


「ふむ。

 ちょっと支度するので待っててくれ」


 空中移動筐体に、アイテムボックス内のLEDライトのイメージを付与した。

 天井が死角にならぬように上面にも光源を配置する。


 これはUFO型というか、フライングディスク型のランプを上下張り合わせたような形状だ。

 要するに、ほぼ一般家庭の天井についてる電灯そのままのスタイルだ。

 それを裏表二つ張りあわせただけ。

 光量は魔力次第だから、サーチライトのような眩さからムードランプの朧な光まで自由自在だ。


 念のため地球から持ち込んだ輝度の高いガスランタンや、明るさが4800ルーメンくらいの強力なライト類も用意しておく。

 車に積んであったロープなんかも、しっかりと強化をかけてある。


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[一言] 地球での公里はだいたい4kmなのは人や物が 地平線や水平線に隠れる距離が基準だから似たそうだ 日本でも中国でもヨーロッパでも皆同じ略4km に成ったそうだこの世界でも同じだと地球の 多次元世…
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