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25-4 神聖エリオンのファインプレー

 もう思い余って、うちのミミ軍団を呼んでみた。

 あの子もファルが(あや)すと少しは効果が認められた感じだったので。


 みんな、可愛らしい赤ちゃんに大喜びだった。


「わーい、あかちゃん、かわいい~」

「ベロベロバー~」


「なんか、ひかってういてる。

 かっちょいい~」


 みんな赤ちゃんはファル以来なので、楽しくてはしゃいでいる。

 やっぱり子供と一緒にいると、あの子も比較的大人しいようだ。

 なんていうか手が抜けるというか。

 油断も隙もないのは変わらないのだが。


「アルス、真理。

 すまんが万が一に備えて見ていてくれ。

 子供達のいてくれるうちに少し休みたい。

 あいつらも、そのうち電池が切れるだろうし。

 こうなったら寝ながらの制御を試みる」


 それを聞いて、さすがに二人共呆れたのだが、他にどうしようもないので了承してくれた。

 俺も目を開けて寝るのは割と得意な方なので、やれそうな気もする。

 高校の授業の時とか本当にやっていたんだよ。

 見ていた同級生が呆れて後で教えてくれた。


 はっと気がつくと、誰かに揺り起こされていた。


「おはよう。

 子供達はとっくにダウンだよ。

 凄いね、本当に寝ながら制御しちゃうんだ。

 赤ちゃんが不安定になると、すっと右手を上げて宥めてたよ。

 さすがはプロの園長先生なだけの事はあるね」


 アルスに妙な褒め方をされたが、まあ少しは休めたのでいいか。

 だが、俺の不毛な戦いはまだまだ続くのであった。

 コーヒー、栄養ドリンク、タブレット、ガム、強力眠気覚ましのドリンク、しまいにはサンダーを弱めに使った電気ショックまで用いていた。

 魔王園長でなければマジで死にそうなレベルの責め苦だった。


 もうこの戦いは本日で四日目に突入した。


 あー、この魔法の繭の制御を用いた何かの魔道具ないし魔法を作るという手もあったのかー。

 回らない頭で今なんとなく思いついたのだが、問題はそれを誰が作るかだ。

 少なくとも、今の最悪な状態の俺には絶対に無理な芸当だ。


 真面なコンディションであるなら、この状態でもなんとかやってみせるのだが、今の状態ではさすがに無理だろう。


「真理、なんとかお前さんが制御魔法か魔道具を作れないか?」


 とりあえず、俺と赤ん坊に付き添い中の『元錬金魔王の助手』に聞いてみた。


「う、うーん。

 自分で完璧な制御が出来るならいけるかもだけど。

 さすがに、これはキツイわ~。

 不安定なものだと、却って子供が飛んでいきそう」


 そうでしたか。

 まあそんな気はしていたんだけどな。

 かつて、今ほど船橋武に一緒にいてほしいと思った事はない。


 ん? 武だと?

 武といえば宝物庫か。

 あそこにあった遺産の御宝に解決法が……無かった。


 うーん、思いつく手思いつく手が、全て駄目出しだな。

 ここまで苦戦するなんて、俺にしても非常にレアな案件だ。


 その時、御昼寝から起き上がったファルが、とことことやってきた。

 何を思ったか、よいしょっとベビーベッドに這い上がって赤ちゃんの横に寝転がった。

 そういや、この子はここでそんな風にしていた事もあったな。


「よしよし、大丈夫だからねー」


 そんな神聖エリオン様の慰めを受けて赤ちゃんは安心したのか、鎧の暴走も一時的に鎮まる。

 ファルに撫でられて、その子はキュッと可愛く目を閉じた。

 霊的なパワーを持つファルに撫でられると半端なく気持ちがいいからな。

 そんな様子を見ていて俺もなんとなくわかってきた。


 かつて、俺もあんな風に魔道鎧をコントロール出来なくて不安な感じだったのさ。

 この魔法の鎧の制御は、不安な気持ちが更に不安定な状態を呼んで、そのせいで更に制御が難しくなるという、まったくもって非常に厄介な代物なのだ。


 そんな時、アンドレ師匠が言ってくれたんだ。

 俺の背を絶妙なタイミングでポンっと叩いて。

「なあに、こんなものは只の鎧さ。気軽に着込んでくれよ」と笑いながらね。


 なんか、それで俺もすっかり気楽になってしまって「じゃあオルストン家謹製のオーダーメイド鎧、ありがたく着させてもらいますね」などと軽口を叩いていて。

 そして、いつの間にか使えるようになってしまっていた。


 この子にとって、そういう相手って……。


「アントニオ! 今すぐ魔道鎧を(まと)え」

「何だと!?」


 いきなりそのような事を言われて驚いた顔のアントニオが叫んだ。


「いいから、早く!」


 だが、さすがは俺から話の早い男と見込まれるアントニオだけの事はある。

 次の瞬間、そこには一族最高の誇りを纏う男がいた。


「それで、これからどうするんだ?」


「そんな物は決まっているじゃないか。

 修行をつけてやれよ。

 父親直々にさ。

 その子を安心させてやってくれ」


 アントニオは、しばし俺の顔を見ていて、それからすーっという具合に愛息へ目線を移して。

 次にアンドレさんと顔を合わせ、大きく笑顔で頷かれて。

 そして親馬鹿な父親は破顔した。


「そ、そうか。そうだよな。

 この子はオルストン家の跡を継ぐ子なんだものな。

 そうら、レオン。

 それは怖いものなんかじゃないぞ。

 お前の一生の宝物なのだ。

 さあ、御父さんと一緒に魔道鎧の使い方を覚えよう」


 するとレオンちゃんは、途端に(むずか)るのを止めて素晴らしい笑顔になった。

 それを見た俺も魔力の繭の制御を解いた。


 もう心配は要らないだろう。

 あの子はオルストンの誇りを、まさに生まれながらに受け継いだ子なのだ。


 父親にそう話しかけられて安心しきったその子は、父親に倣いスパッと完璧な魔道鎧を展開してみせた。

 それを見て驚くオルストン家の面々。

 そして、俺は……。




 気が付いたら、いつのまにかケモミ園の俺のベッドで寝かされていた。

 どこかであったな、こんな展開が。

 正直に言って、今回の方が三倍以上辛かった!

 この前はすぐにやられてしまって意識を失っていたからな。 

 

 武門の誉れも高いオルストン伯爵家の歴史に、更にとんでもない歴史が刻まれた。

 しかし、ここまで酷い『(かん)の虫』は地球でも聞いた事がない。

 おっさんは敢え無くぐったりと、この忙しい年末に思いっきり寝込んでしまった。


 しょせん、魔王も泣く子には勝てないのか。


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