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25-2 血筋

 よくぞまあ、生まれたてで魔道鎧なんかを展開出来たものだ。

 これぞ、まさに血筋としか言い様がない。

 魔道鎧を纏って宙に浮いている赤ん坊を見て、俺は思わず感慨深い感想を抱いた。


 おっさんなど、初めてこれを発動した時は数キロ先まで吹き飛んで行ってしまい、うっかり死にかけたほどである。

 まあ魔力量が大きかったせいで、出力も並外れて大きかったのだろうが。

 大昔の黒色火薬の大砲と現代のレールガンくらい違うかもな。

 きちんと魔道鎧を習得するまで、オルストン兄弟には随分と御世話をかけたものだ。


 この子は生まれながらにして鎧を維持するだけの制御が出来ている。

 やはりアントニオの子だけあって天才だわ。


 しかし問題なのは。


「これってやっぱり、あの祝福の鎧というか、ブレッシングリングの影響なのかなあ」


「うーん、なんとも言えないな。

 単にこの子が超素晴らしい天才なだけかもしれんし!」


 あ、こいつめ。

 只の親馬鹿だった。


「しかし…… 」


 その元凶らしい俺としては少しばかり考え物の事態だ。


「あ、いかん!」


 急にアントニオが慌てだした。

 見ると赤ん坊がぐずりだして何かバランスが崩れそうになる。


 ヤバイ!

 俺みたいに、どこかへ砲弾のように飛んでいってしまうかもしれない。

 俺も慌てて魔力の繭のようなものを作り、そいつで赤ちゃんを包む。

 手先は不器用なくせに、こういうところだけは妙に小器用な俺。


 そのまま、くるくると空中であやす。

 跡継ぎちゃんも、きゃっきゃっとはしゃいでいる。

 このあたりは日頃鍛えた幼稚園の園長先生としての技術が物を言っているな。


 しかし、これはまた喜怒哀楽の激しい子だな。

 生まれたてで、これは無かろうと思ったのだが、この子の場合はもう今更だ。


 鎧が暴走しそうになると、俺がすかさず絶妙なコントロールで()なしバランスをとる。

 しかし、いつまでもこんな事をしてはいられない。

 そう思いつつも手が離せない状況だ。


 おっぱいをもらう時だけは大人しいのだが、それ以外は寝ている時だって暴れちゃう。

 この天下一暴れん坊のおっさんだって、寝ている時くらいは大人しいというのに。


 真理が俺の師匠であるアンドレさんまで迎えに行ってきて、これまた大騒ぎになった。

 生憎な事に忙しいアンディさんは仕事で出かけてしまっていた。


 ギルマスのアーモンも一緒に来て見てくれたが、当然のように処置なしだ。

 さすがの彼とて、超特殊案件である魔道鎧は手に負えまい。


 爺やさんも「私も長きに渡ってオルストン家に仕えてまいりましたが、こんな事態は初めてでございます」と目を白黒していた。

 まあ原因は俺が放ったアレだしなあ。


 これには魔王も半泣きだ。

 しかし止める事は許されない。


 うぎゃああー、と泣き喚く跡継ぎちゃん。

「おー、よしよしよし」と(あや)す魔王。


 そうこうするうちに眠るベイビー。

 ほっとして、その子をベッドに戻すと今度は寝ながら鎧を発動しはじめる。

 急速に浮き上がろうとするので、よしよしと往なす。

 最早、俺は人間揺り籠と化していた。


 アルスも来てくれたのだが、天下のSランク冒険者も唸っていた。


「うーん、ぼくもこんな話は聞いた事が無いな。

 君が習得してしまえたように、魔道鎧はオルストン家だけの専売特許ではないけれど、魔力量に魔力コントロール、どれも究極に必要なんだ。

 そして何と言っても、それをなんとしても使いこなすぞという鉄壁の意思の力が必要なんだよ。

 それには、とてつもない才能が要求されるんだ。

 僕ら強大な能力を持つSランクとて簡単には習得出来ない代物だ。


 オルストン家の人間以外で使っている人は他に数人しか見た事はないし、その人達も習得したのは五十歳以上になってからで、現役はとうに退いた求道者みたいな人達だったよ」


 これ、そんな仙人みたいな人達が扱う物だったのか。

 魔道鎧改め仙道鎧?

 オルストン家の人間は特別なのがよくわかるな。

 しかし、この子は特別過ぎる。


 やだ!

 よく考えたら、このおっさんだって五十代じゃないのさ。


「頑張ってね、園長先生。

 僕達、正月の準備が忙しいんで帰ります」


 そう言い残してアルスは帰っていった。

 エルフさんの御正月か。

 凝り性のあの人達の事だから、着物を着て材料不詳の御餅までついて、おこたに入って御節や御雑煮を食べる気にちがいない。

 山本さんの懇切丁寧な指導も既に織り込み済みだし。

 御正月には絶対エルフ新町へ行ってみたいのだが、その前にこの難題を片付けなばならん!


 しかし、どうしよう。

 文字通り手が放せない。

 トイレの時も、携帯用のトイレボックスを出して用を足すという有様だ。


 だが俺はいつもの奴で感じ取っていた。

 こいつはすぐには片付かないと。


 人間、諦めが肝心なのだ。

 あの人間ディスポーザーのような会社に入った時から、とっくに諦めはついていた。

 俺は人生で久しぶりに気を引き締めた。


 今気が付いたのだが、異世界に来てから全て勢いに任せてやってきたので気を引き締めるなんて事はあったような、なかったような。

 あの人間粉砕機のような会社で過ごした日々があまりにも過酷だったので、異世界での数々の命がけの戦いも終わってみれば妙に温く感じる。


 いやあ異世界チート様々である。

 しかし戦いは段々、俺と『まぶた』との戦いに移行していった。


「はい、コーヒー」

「ありがとう」


 真理の入れてくれるコーヒーは本当に美味しい。

 単にコーヒーを簡易ドリッパーのような袋に入れた、お湯をかけるだけのコンビニで買った物なのだが、細やかな気遣いのようなものが感じられる。

 後はカップに一式入っていて、ただ御湯を注ぐだけというインスタントタイプの奴しかない。


 武の奴め、やっぱりシスコンだな。

 妹を、なんていうか美化しすぎだよ。

 真理よりは砕けたタイプの、少し普通っぽい感じの本物妹とネットでやりとりしているので、余計にそう感じるのだ。


 あまりにも寝不足なんで、つい余計な事を考えてしまう。

 愛用のタブレットキャンデーの眠気覚ましで、一体どこまで持つものかね。

 あ、ここに寝なくてもいい奴が一人いたじゃないか。

 しかも魔法にも大層長けているのだし。


「真理、ちょっと代わってくれ。

 仮眠するから」


「え、ええ。

 でも大丈夫かしら」


 小首を傾げながら、奴も不安そうに聞いてくる。


「やばかったら警報を鳴らしてくれよ」

「わかった、ちょっとやってみるわ」


 しかし魔法を渡して任せたその瞬間、真理がミスって跡継ぎちゃんは暴走寸前だった。

 危うくどこかへ飛んでいってしまうところだったのを俺が慌てて魔法で受け止めた。

 この子は俺のように強大なHPを持っているわけではないので、そんな事になったらきっと死んでしまうだろう。


「あぶねー!!」


「ご、ごめんなさい。

 これ、(はた)で見ている分にはわからないけど、実際にやってみるとかなり難しいわよ~」


 うわ、これってそんなに高度な技だったのか。

 うーん、自分でやっているとそうは思わないのだがな。


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