24-7 イブの奇跡
エディは思った。
「ああ、もう体の感覚が無いや。
ついに天使様が御迎えに来たのかなあ。
もう五日も御飯を食べていない。
寒くて体が凍えそうだけれど、御飯を食べていないから体が温まらないや。
ちぇっ、いい事なんて何にもない人生だったな。
今度生まれてくる時は、絶対に人族のお金持ちの家の子に生まれてきたいなあ」
そして彼は見たのだ。
いきなり空中に現れてやってきた人達を。
「あ、御迎えの天使様だ。
キレイな翼だなあ。
なんか、赤い服を着た女の人も一緒だ。
御母さん……」
「真理、間に合ったか?」
「う、うん。大丈夫だと思う。
あなたが来てくれて良かったわ。
ゴッドヒールが、ゴッドヒールが……かき消えたの!」
魔力を馬鹿食いして確実に効果を発揮する課題達成型魔法であるゴッドヒールが効果を発揮しないという事は……つまり、そういう事なのだ。
だが聖夜のイブに奇跡は起きた。
子供は生きていた。
俺はとっさの閃きで祝福の翼を展開した。
この子に、例のブレッシング・リングを丸ごとぶちこんだのだ。
閃きの凄かったアルスは、こういう修羅場を潜ってSランクになっていったのだろうか。
そして俺達は、その子を連れて直ちにケモミミ園へと帰還した。
ぐったりとした子供を抱いて帰って来た俺達に驚く面々へ軽く説明して、彼をベッドに寝かせる。
いつの間にかドワーフ国王夫妻が到着していて、女将さんが面倒を見てくれていた。
こういうのって、やっぱり本物の御母さんの出番だよな。
はっと気が付いてみると、ここに本物の御母さん経験者はこの人とエリの母親のリサさんしかいないわ!
リサさんも心配そうに覗き込んでいた。
この人は自分も大病を患っていた人だからな。
子供達も入れ替わり立ち代り様子を見に来ていたし、王子王女様方も心配そうに覗きに来ていた。
やがて、ピクっと体を震わせて男の子は目を覚ました。
円らなブラウンの瞳でこっちを見ている。
トーヤと色合いの被る可愛らしい狐っ子だ。
ほどほどに冷ました、薄めのスープを出してやった。
女将さんがスプーンで飲ませようとしたら、男の子は皿ごと奪い取って直接飲み干した。
口元から溢しながらもグイグイと飲んでいき、キュ~グググーというような体に染み込んでいく音が周りにも聞こえた。
これならもう大丈夫そうだな。
「御代わりっ!」
その子が真剣な様子で空の皿を差し出す様子に、見守っていてくれたみんなも思わず笑っていた。
とりあえず、もう一杯スープを飲ませてから、具の少ないとろとろに煮込んだシチューを食べさせた。
時間をかけてじっくりと煮込み、野菜は溶かしこむようにしてもらったので、栄養たっぷりでも体にそう負担はかからないだろう。
御腹が少し膨れて人心地がついたらしい、その男の子は訊いてきた。
「ここはどこ?」
「ここは天使様の城さ。
だが天国じゃないから安心しな。
とりあえず、御飯の続きを食べようか」
次にフレンチトーストを凄く柔らかくした奴を出す。
ゆっくり食べるように言って。
そして、ラストはプリン。
プリンはもう夢中になって食べていた。
それを食べ終わったら眠くなったのか、彼はすぐにパタンと横になって寝てしまった。
獣人の子は生命力が強い。
普通の人族の子ならば、こんなに急に御飯を食べさせてはいけないのだろうが、まあ問題なかろう。
たくさん食べられたので、この子はちゃんと生きられるだろう。
俺は彼の傍についていて、メディカル魔法でチェックする。
子供を大勢預かっているので開発した魔法だ。
まあ預かっているといっても親は誰もいないから、実質的に全部うちの子だな。
体温・心拍数なんかを魔力による測定で計測して、異常があると俺の魔法PCに警告が出るようにしたものだ。
この魔法を常時展開で発動しておく。
マーカーと同じで、ウインドウ1Pで一人分設定できるようにしてあるのだ。
こいつはカルテ魔法とでも呼んでおくか。
他の子が病気になった時にも使えそうな魔法だ。
一応、真理のスマホにもデータを送るように設定した。
俺達も交代で晩御飯を食べた。
俺も今夜は酒を自粛した。
心配しなくても、本日は俺の分までたっぷりと飲んでくれるゲストがいるしな。
さすがに奴も遠慮して、俺を宴会に引っ張っていかなかった。
そんな真似をやったら、あの親方だって女将さんにどつかれるのがオチなのだが。
明日もケモミミ園ではクリスマス会をやるので、この子も少しはクリスマスの御馳走を食べられるだろう。
「ありがとう。
後はあたしが見ておくから、あなたも休んでちょうだい。
クリスマスなのに御酒も飲めなくて悪かったわね」
真理が引き継ぎを申し入れてくれたので任せる事にした。
彼女は眠らなくても大丈夫なので、こういう時には助かる。
一応、新開発の魔法を使用していたので大事を取って俺が見ていたのだ。
「ははは、なんの。
俺は園長先生なんだからな。
でも、やっぱり天使に転職するのは止めておくよ。
子供を天国へ連れて行く役目なんかゴメンだ。
やっぱり、ここの天使って地球でいうところの死神の役割なんじゃねーの?」
笑って真理と交代した俺は、軽く一杯入れてさっと寝る。
まだ今夜の役割は終っていないのだ。
時間が来たので、魔法PCのタイマーで目を覚ました。
俺は起き上がって広間に出て行く。
周りを見ると、みんなサンタ装束で白い袋をしょっている。
ここからはサンタの御時間なのだ。
子供達はぐっすりと寝ているので、その枕元にプレゼントをおいていく。
お前達、いい子にしていたから、ちゃんとサンタさんが来てくれたぞ。
ふと、窓の外を見ると無数のサンタさんが窓の外を「飛んで」いた。
シャンシャンシャンシャンと鈴の音を鳴らして。
俺が作ったトナカイゴーレムと一緒にソリに乗って。
そう、今夜はクリスマスイブ。
精霊達をサンタさんに仕立てて、子供達へのプレゼントを配らせにいったのだ。
とりあえずは、この王国と帝国の分しかないけど。
俺もお金にはまだまだ余裕はあるけど、何もかもはやれない。
もしどうしてもトコトンやるというのなら、この世界を制圧して世界の帝王として君臨するくらいの覚悟がいる。
やろうと思えばいつでもやれるけど、それをやったらきっと、それは自分の考えていたのとは違った不幸な結末しか呼ばないものになるだろう。
スカイドラゴンのペドロが青い鱗に包まれたシャープなシルエットで引くソリが下りてきて窓辺に止まる。
奴は悪戯っぽい目で笑う。
こいつはトナカイにソリを引かせず自分で引いているのだ。
当然ソリの上にはトナカイがサンタ帽を被って座っていた。
あはは、それもいいかな。
俺は笑って、そんな彼らを見送る。
そしてペドロに魔力を振りまいてやったのだが、なんか他のソリまでみんな寄ってきてしまうので苦笑する。
彼らに、ふわ~っと魔力を纏わせてやる。
輝く精霊とソリの群れ。
煌きの聖夜。
一番輝いているのが、魔力にがっついている精霊達なんだが。
今日は端から奢りの約束だ。
思う存分輝け、サンタども。
さすがに全部の子供にというわけにはいかないので、孤児院の子供や特に貧しい家の子とかが中心だ。
後は、そこにすらいられない子達とか。
俺から直接手の届かない子達へ、ちょっとでも届くように。
そのうちに、この世界にも父親などが扮する本物のサンタが現れるようになるだろう。
慈善家の虎仮面だって現れるかもしれない。
サンタが立派に経済の一翼を担い、その存在意義を主張する日が来る事を願って、メリ-クリスマス。
精霊魔王と神聖エリオンから愛を込めて。
しっかりと寝こけているファルの寝顔を優しく撫でながら。
メリークリスマス。
クリスマスにお話が合わせられて、よかったです。
クリスマスイブなのに、作中には何故か病人食っぽいものしか出ていませんが。




