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2-4 訓練と工作の日々

「よし、ダンジョンへ行こう(行楽として)」


 なんだか知らんのだが、強力な魔法をたくさん覚えたので、こんなおっさんのくせに大変強気だ。

 ダンジョンの中なら大暴れしても、きっと怒られんだろうしな。


 魔法なんていうチートな物は、異世界では大変にありがたい元から持っている自前のスキルの御蔭と、そしてコネを通して金づくで覚えただけのくせにな。

 だが、それらの習得には日本円にして六~七億円相当の金はかけたのだから、それも大概だよな。

 しかも本来ならもう十五億円くらい出さないと習得出来ないはずのものをディスカウントして覚えたのだから御得以外の何物でもない。

 それだってセブンセンスの与えてくれた全魔法適性や大量の魔力があった御蔭なのだし。


 まあ、この前のグリオンの時のように無様な事にはならないだろう。

 あれはこの世界に関する知識が何もなかったし、何の心の準備がなかったからどうしようもない。

 キャンプ気分で浮かれて酔っぱらっていたしなあ。


 あの頃は大型刃物のような武器しかなかったが、今では各種爆発物や魔法という強力な武器もあるのだ。

 何よりもガイドさん付きのサファリに行くような気楽なものなのだから。


 戦い方は覚えよう。

 一応、あれこれと考えもあるのだし。

 そうやって準備しておかないと、のほほんとしていたら、この物騒な世界ではいずれ思いっきり困る破目になるのではないか。


 早速、前に案内してくれた職員にダンジョンへの行き方を聞き、鍛錬を見てくれる教官の手配を御願いした。


 現地には冒険者のための街があり、そこで申請を出せば仮探索者証を発行してもらえる。

 それさえあれば王都の出入りでまた並ばなくてよくなるが、一度はダンジョンに入り現地ギルドにて獲物を提出しないといけない。

 そこで正式な探索者証を発行してくれる段取りになっているのだ。

 これは一回発行してもらえば、ずっと使える物だ。


 初ダンジョンで獲物を獲れなかった奴は、また王都に入るのに三時間以上並ぶのだ。

 さすがに、あれは勘弁だな。

 しょぼくてもいいから、何らかの獲物を獲ってくるとしよう。


 Cランク以上になると王都入場はフリーパスとなり、並ばずにスパっと通過できる。

『資源鉱山』からの有用な土産は速やかに持ち帰ってもらわないといけないからな。

 ギルマスが言っていたランク上げをした方がいいという、他の理由とやらがこれの事だろう。

 まだ駆け出しなんだから、それに関してはまた落ち着いてから御話をという事らしい。


 Cランク以上の冒険者は王都以外の都市でも同様に入場はフリーパスだ。

 他の身分改めが厳しい国にも普通に入国出来るらしい。

 ただし悪用すると厳しい罰則がある。

 もちろんギルド資格も剥奪だ。


 という事で、当座の目標はCランクだな。

 ここまでは正規の試験をやらずに、各ギルドマスターの権限で上げられるランクだそうだから。

 ベテランや若手有望株なんかは、ここが頭打ちとなるボーダーラインなのだ。


 上級魔法があるから、それくらいの事はなんとでもなるだろう。

 別に一人でランク上げをやらなくてもいいしな。


 というか危険極まるだろうダンジョンにおいて、仲間のサポもなく自分の力だけでランクを上げていく方が無謀だわ。

 そんな馬鹿な奴がいたら大概の場合は墓場直行コースなんじゃないのか。


 俺の身体ステータスも鰻上りで赤丸上昇中だ。

 盗賊に襲われた時だって普通の矢では怪我一つしていなかった。

 普通ならあの時に焼け死んでいたり弓で射殺されていたりしたわな。

 異世界にチートは必須。


 まず、鍛錬場で初級魔法の鍛錬を行なった。

 精密に狙った威力で狙った場所へぶちこでんみた。


 レーダーMAPを利用して、アビオニクス連動射撃も試みる。

 御陰様で俺の魔法は、ズラっと並んでいる的の真ん中に、次々と綺麗に命中していく。


 へ、こいつはバッチリだな。

 くくくく、世の中を上手に渡ろうと思ったのなら、やっぱりイカサマに限るぜ。

 選挙にパチンコ打ちその他、イカサマな裏道からしか成功出来ない業界なんぞいくらでもある。


 地道な鍛練の積み重ねのみで、俺如きド素人が歴戦の冒険者のいる立ち位置に並ぼうだなんて大甘もいいところだ。


 自分への付与も、あれこれガンガンと試してみる。

 昭和生まれの年寄りだから、ある物は何でも使う派なので。


 魔法剣は毎日振っているのでいいとして、剣術・槍術・弓術・盾術は昨日扱かれたのでスキル化している。

 あのギルマス、本当に教え方が上手いわ。


 それから弓でアローブーストと命中補正のトレーニングをしておく。



 そうやって俺が一人で訓練をしていると、すっかり顔馴染みになった職員さんがやってきた。


「午後から、職員の手が空くので戦闘の訓練をしましょう。

 料金は大銀貨一枚になります」


 さっと大銀貨を渡して「毎日習いたいのだが」と言ってみる。


「訓練は何日くらい御希望ですか?」


 金を巾着に仕舞いながら職員さんが訊いてきた。


「ダンジョンに潜っても大丈夫と御墨付きを貰えるまで。

 最後にギルマス本人によるチェックがあるので」


「わかりました。

 では、今日は早めに食事をとっておいてください」


 ゲロを吐かないようにっていう事かな。

 食事は軽めにしておくか。


 食後一時間くらいして腹もこなれてきた頃に教官がやってきた。

 三十代くらいの男性がやってきて、まず一通りの動きなんかを見ると言われた。

 その人はギルドの職員さんのようだ。

 こういうものは、引退した冒険者の仕事口の一つでもあるらしい。


 剣と槍は訓練用の木製のもので、それを彼に向かって打ち込んで、弓は的に向かって撃って見てもらう。


 次は命中補正無しでと言われ、そのまま撃ったが驚く事に的に当たった。

 これがスキル化という事か。

 俺は、この世界に来る前は弓なんて触った事すらなかった。

 銃は海外で何度か撃ちまくった事があったが、それすらもあまり才能がなかったというのに。


 あれだって初めて撃つのに、才能だけで的の真ん中あたりに全弾命中させるようなとんでもない奴がいるのだ。

 会社にもそういう奴が一人いたっけな。

 12・7ミリ口径のデザートイーグルでそれをやってのけるのだから大概だ。

 ああいうものは生まれ持ったセンス、才能という奴なのだ。

 少々の経験では決して追いつかない高みに最初からいる。


 俺なんか真面に的へ当たるのは、反動が小さくて軽く扱いやすい357マグナム拳銃で、あの映画で御馴染みの赤い光で的を狙う、馬鹿でも当たるようなインチキスコープ射撃だけだった。

 よく考えたら、今魔法やスキルでやっている事もそれと似たようなもんだな。

 いや、あれ以上だ。


 盾も使い方を見てもらってアドバイスをいただいた。

 結局、今は剣と槍を重点的にやる事になった。

 魔法剣を使えるので、それがいいだろうと。


 弓は魔法補助が強力だし、そもそも魔力量の異常に多い魔法使いなのだからと。

 命中補正のスキルがあるので、HP任せで矢をぶっぱなせば大概当たる。

 俺の弓矢は魔法のサポートを受け、まるで誘導ミサイルのように命中する対物ライフル用の五十口径自動追尾弾であるかのように命中率も破壊力も凶悪だ。


 あれも確か光学系のジャマーなんかを使われると外れちまうから、そういう魔法があれば使い物にならんな。

 それは魔法に対しても同様の命中疎外の効果もあるかもしれん。

 どっちかというと、それは自分が欲しいような魔法だな。


 防御系の魔法も使うので、盾よりも身体強化を重視した機動力で戦うようにアドバイスを受けた。


「あなたはレビテーションやフライも使えますから、なおさらですね。

 盾は収納がありますから、いざという時に必要ならば出して使えばいいでしょう。

 よく鍛えれば、あなただってギルマス並みの冒険者になるのも夢じゃないですよ」


 教官は、そうアドバイスをくれる。


「あのおっさん、昔の現役時代は高ランク冒険者だったの?」


 そう訊かれた彼は苦笑いしながら言った。


「ギルマスは最高ランクであるSランク冒険者でした。

 ここは由緒正しい伝統ある最初に出来た冒険者ギルドなので、普通はそういう方がギルマスになるのです」


 Sランク冒険者の強さとか、まったくわからないのだが、きっと現役の頃は凄かったんだろう。


 五十代半ばから始まるSランクへの(ちょうせん)

 あまりにも始まるのが遅すぎる冒険ストーリーに、全く胸がときめかなかった。

 だって今俺はEランクなんだぜ。


 こんなサラリーマンだって引退寸前といえる歳までやっている冒険者なんか、きっとどこにもいねえよ。

 自衛隊員だって、もう定年退職するような歳だわ!


 相手の技量や特性をよく見て教えてくれる親切指導により、半日で剣と槍のレベルがそれぞれLv3にまで上がった。


「これだけでも普通に潜るだけなら、あなたのように強力で多様な魔法を御使いになられる方ならば一人でもダンジョンへ行けるくらいですね。

 ただギルマスのチェックがあるなら、もう二日くらい鍛練をやった方がいいでしょうね」


 俺も頷いて金を渡し、あと二日分の訓練を御願いする。

 あいつはスパルタだからな。

 だが、それも親切心からなのだ。


 奴の言う事を真面目に聞かない若い奴なんて、きっと簡単に早死にするのに決まっているのだから。

 俺も伊達に歳は食っていないので、そういう事は肌感覚でわかる。

 理屈でなく理解出来るような特殊能力さえあるのだから。


 俺は自主的に居残りをして、弓スキルもLv3まで上げておいた。

 ここまで来れば普通の矢を用いても、地球の装甲車の装甲を余裕で撃ち抜ける威力がある。


 もっとも、あんなもんは油断していると魔法の矢どころか徹甲弾を用いた三十口径ライフルですら余裕でぶち抜かれそうだ。

 超硬いタングステン芯の特殊弾なんかを用いれば、千メートル先から厚さ五十ミリくらいの鉄板を撃ち抜けるかもしれない。


 もし二十五ミリの鉄板を撃ち抜けるという五十口径の重機関銃で側面を狙われたら、九ミリ程度の装甲しか持たない兵員輸送用の装甲車なんかは、あっという間に穴だらけになって、中で跳ね回った数発の弾丸の破片のせいで寿司詰めになっている兵隊が十人くらい全滅する。


 敵に狙い撃たれるようなヤバイ場所なら、兵隊は装甲車から降りてギリースーツでも着て匍匐前進していた方がまだ安全かもしれん。


 ロケット弾を一発撃たれたらお終いだし、戦車も破壊出来るような航空爆弾を使用した簡易式の特殊地雷なんか踏んだら最悪だわ。

 最近は自爆ドローンの特攻やミサイルを積んだ無人機があるからAFVなんか狙われ放題で超怖い。


 俺の魔力で放つ魔法なら、一発で重戦車でもなんでも御陀仏さあ。

 今度そのうちに地雷魔法でも開発するかな。

 セブンスセンスが手伝ってくれればオリジナル魔法も作れちゃいそうだ。

 元々は、あいつこそが魔法PCの製作者なんだからな。


 あとズルをして鉄の鏃を魔法金属に材料置換して大量にコピーしておいた。

 この矢一本で、へたな大剣よりも高価なんだぜ。

 さすがに、こんな希少金属を用いた超高価な消耗品を売り物にするのは憚られるがな。

 上級回復薬やミスリル剣なんかよりもヤバそうだぜ。

 うへへへへ。



 ダンジョンへ潜るための準備も怠らない。

 あっちこっちで美味い料理を買い集め、じゃんじゃんと自動コピーする。

 これが一番大事だな。


 キャンプ飯ならぬダンジョン飯だ。

 キャンプと一緒で、きっとこれが一番の楽しみになるはず。

 何しろ、他の仕事熱心な奴らと違って俺は行楽目的で行くんだからな。

 行楽に行くのなら素敵な御弁当がなくっちゃなあ。


 ゲ-ムと一緒で、せっかくダンジョンがあるのに潜らないという手はない。

 そもそも、ここってやる事がそう無いんだよな。

 異世界なのに宿屋でスマホゲームばかりしていたって仕方がない。


 武器や防具も店で買ったりコピーしまくってきた。

 その全てをミスリルやオリハルコンへ素材転換コピーをして、更に魔力強化の魔石も組み込んである。

 服や寝具もコピー三昧だ。

 

 銃型の魔法の杖も作っている。

 見た目は只の金属製の玩具みたいなものだ。

 車の部品とかを加工して銃のような形に作り、材料置換の機能で魔法金属化する。

 そいつに魔石を組み込み、さまざまな魔法の付与を与えてある。


 狙撃銃に機関銃、サブマシンガン、ピストルタイプなど使い勝手がいいように作ってみた。


 狙撃銃は双眼鏡やカメラのレンズを加工したスコープを取り付けて、超精密射撃を打ち込める。

 機関銃は自分の魔力を使って連射しまくれる。

 手で魔法を放つよりも圧倒的に早い。


 大型魔法を連射したら凶悪な事この上ないだろう。

 分隊支援火器に当たる軽機関銃と、台座タイプの重機関銃も作成した。


 サブマシンガンは、狭いダンジョン内で魔法をバラまくのにぴったりだし、ピストルタイプは主に近接戦用だ。


 どれもこれも見かけは大雑把な作りだから要改良の品だな。

 まるで第二世界大戦中に作られてフランスへ支援のために送られたが、大変不人気であまり使われなかったというリバレーターという簡易タイプの単発銃のような武骨さだ。


 これを銃器に美しさを求めるタイプのガンマニアが見たら「銃に謝れ!」とか言って俺に詰め寄ってきそうだ。


 俺の地元の大企業グループでは、残業時間に会社の機材を使って銃を製作していて捕まった奴が何人もいる。

 今ならそいつらも自宅で3Dプリンターを用いて、どんな銃でも自宅で作り放題だ。

 従来の常識を超えた自由な発想で個人が銃器を作れちゃう時代だからな。

 もちろん警察に見つかったらアウトだけどさ。


 ネットに放出された設計図を用いれば、小中学生にだって3Dプリンター銃を作れそうだ。

 まあそんなレベルで作っている、なんちゃって魔法銃だ。


 とにかく色々と作り散らかしてみた。

 そうしたら、いつのまにか加工工作というスキルが身についた。

 おそらく地球で長年関わってきた製造業での経験が生きているのだろう。


 これは魔法PC派生のユニークスキルという事で、個人特有の適性というか特質に従って発生する技能のようなものだと思う。

 いつか大型の魔砲も作成してみたいものだ。



 残り二日、午前中は工作三昧で午後は訓練、そして帰りに買い物だ。

 そして帰ってからは、宿でまた工作三昧という日々を送った。


 御蔭様で身体強化はLv10、二百万HPにも達した。

 俺の圧倒的な補正をもってしても段々と上がりにくくなってきている気がする。

 HPの補正もカンストしてきているのかもしれない。


 それは結構な数字じゃないかと思っているのだが実際のところはよくわからない。

 隠蔽されているから、この数字は魔道具を使っても人からは見えないはずだ。


 戦闘スキルは軒並みLv7にまで上がった。

 これも稀人補正が効いているのかもしれない。

 シ-ルドや付与も瞬く間にレベルが上がってLv5まで上がる。


 初級魔法も軒並みLv5になっていたので、そっちは一人でもレベルを上げられるので後回しにしていた。

 俺の場合は、なにせ圧倒的な魔力量で強引にブーストするという奥の手があるので、これでなんとかなるだろう。



 工作ばっかりしていたおかげで、なんとアイテムボックスが進化した。

 最初からチートなんで、あれで終わりなんだと思っていたんだが。


「イメージ作成」というスキルが新しく追加になった。

 要は工作に使っていたスキルや魔法なんかの工程をスキルとして一纏めしただけらしい。

 いわば見取りと同じようなスキルだ。


 結構スキルが増えてきたので、一つに纏める必要が出て来たから進化したのだろう。

 スキルという形で使うと、今まで出来なかった事が色々出来そうだ。

 アイテムボックスというか、魔法PCの中の機能全てを使用して加工が出来るようになったので。



 そして異世界十六日目となる。

 もう十二月なんだな。

 ここも結構寒くなってきた。

 この国は大陸の北側に面しているのだ。


 この王都の在る辺りは緯度的には名古屋近辺くらいのようなので、北海道や東北北陸みたいに極端に寒い訳ではないのだが、それでも南の南国のようにはいかない。


 ここは大陸の内陸部にあるので、同じ緯度でも名古屋のように夏は沖縄よりも暑い日がざらにあったりとか冬は東北並みに寒かったりなどというおかしな事はない。


 朝からギルドに顔を出し、ギルマスのチェックの予約をした。


「今日は忙しいから、午後からだな」

「へーい」


 それまでは一人で鍛錬する。

 この三日間で教わった事の復習を丁寧に繰り返す。


 俺も既に物覚えはあまり良くない(むしろ忘れる!)年頃なのだが、体で覚えたので問題なくやれた。

 体だけは若返っているのだ。

 脳細胞が若くなっているせいか、記憶力も鮮明になっている。


 思考だけは五十代の年寄りのままなのだけど。

 どうしても若い者に比べると、慎重というか行動がおっとり刀になってしまう。

 心だけはいつまでも若いつもりでいても、経験を積んだ年寄りは本当に若い無鉄砲な奴とは絶対に何かが違うのだ!


 まあ異世界をとことん楽しむつもりなら本当は若い内に来た方がよいのだが、異世界で長生きしたければ歳を食ってから来る事を強く御勧めする。

 異世界ライフは蛮勇によっては為らず、だ。


 俺は黙々と汗を流す。

 二時間は頑張ってみた。

 まあ、これくらいが限界かなあ。

 日本でジムへ行っていた時も、まあこんなもんだ。


 それから早めの飯にして、御茶を飲みながらギルマスを待つ。



 やがて、支度をしたギルマスが来てくれたので試験開始だ。

 おお、今日は前よりも動ける感じだな!

 HPのレベルが上がったせいもあるのかもしれない。

 それだと只の力押しなので内容的にはあまり良くないのだが。


「どこからでも来い」


 そう言って待ちに徹するギルマスを、訓練用の模擬剣でガンガンと攻めてしっかり動く。

 さすがレベル上げしただけの事はある。

 あと正式に訓練を受けたのは大きい。

 何よりもスキル化が物を言っているようだ。


「今度は、こちらから行くぞ」


 そして俺は受けに回り、かなり激しい木剣の打音を五分ほど響かせてから合格をもらった。


「これなら、まあいいだろう。

 ただ、行先がダンジョンだからな。

 お前も感知系は鍛えていないだろう。

 そっちは実地でやれ。

 金はあるんだから、しっかりしたパーティを雇い、一緒に活動してダンジョンに慣れさせてもらえ。


 行くのは明日からか?

 それなら手頃なパーティに声をかけておいてやろう。

 今日はずっとギルドにいろ」


「ラジャ」


 というわけで、ギルドの食堂の隅っこを占領して座ったままで工作三昧となった。

 銃関連をネット画像を元に、さらに正確な形に作りこんでいく。


「イメージ作成」の効果は素晴らしい。

 俺の手加工だと、特にデザインが壊滅的になってしまう。

 所詮はコピー専門でやらせてもらってきたのだしな。


 今まで、ハサミやトンカチ・ナイフで加工していたような感じが、金属やプラスチック用の3Dプリンター・旋盤・ボール盤・フライス盤・DIY工具・リューター・彫刻刀・グラインダーなんかで精密に加工しているかのようだ。


 日本刀作成もチャレンジしてみた。

 ネット動画に上げられた鍛冶師の仕事の見様見真似で、イメージ作成のスキルによって、そこそこの鍛造オリハルコン製が完成した。


 俺は剣道をやっていて初段だった。

 型で段の取れるスポーツ剣道なんて実戦で役には立たないだろうが、どうも西洋剣は性に合わない。

 あれは相手を叩き潰すような打撃武器として発展した物が多いからな。


 一口に西洋剣と言ってもいろいろあるのだが、相手が金属鎧を着ているような世界だと、どうしても打撃系の、重い大剣長剣をぶんっと振り回すような剣術になりがちだ。

 洋画なんかを見ていても、剣の型はそんな感じだ。

 叩き切る時でさえ型は大振りな気がする。

 日本の殺陣とは明らかに異なる。


 また、ここでは魔物を相手にする事まであるので。

 ぶっ叩くだけなら、モーニングスターや斧なんかの方がずっといい。

 鎖付きのトゲトゲ付きの鉄球なんかも楽しそう。


 今度、いっそ自分で作ってみるか。

 あれは御店で見かけないんだよな。

 あるいは鎖鎌という手もある。


 西洋にも切るタイプの剣はあるし、そういう戦い方もあるのだが、日本刀のような斬る事に特化したような特殊な刀はないようだ。

 こっちの剣での戦い方は一通り習ったが、所詮は付け焼刃なのだ。


 個人的には引き斬る刀を使いたいのだ。

 剣の持ち方一つとっても、どうもしっくりとこない。

 剣の持ち方や取り回しは日本剣道の物が身についている。

 それすらもへっぽこなんだけどな。


 思考制御で動く超高性能万能工作機械が魔法を使いまくりで機能しているようなものなので、刀製作一つ取ってもインチキ出来るにもほどがあるが。


 刀は何かで試し切りをしたくて、妙にうずうずする。

 江戸時代あたりで市中へ辻斬りに行く奴の気分って、こういう感じだったのかな。

 俺はどうしてもっていう時だけ、しかも悪人しか斬りたくないぜ!


 魔法もイメージで組んでみた。

 元々魔法自体もイメージが全てというものだ。

 それも本当のところはどうなのかわからないのだが、俺はそうやってセブンスセンスで覚えてしまったので、どうしてもそうなる。


 ナパーム・クラスター・ミサイル・MIRV・レーザー・太陽光収束魔法・ビーム反射魔法、火炎放射器など、地球の知識から思いついた魔法をガンガンと構築していく。


 それらのベースは、実際の兵器や空想物語の中でアイデアが使い古されたような物ばかりで、ありきたりの物ばかりだ。

 そういう物はイメージがはっきりしているので非常に作りやすい。


 フライを付与した空中移動筐体に、ストーンバレットやその他魔法を付与して打ち出す空中機動ユニットも作成した。

 ボディはオリハルコン製で、それ自体の耐久性も強い。

 オリハルコン製は人前で出せない場合があると困るので、ミスリル製の物も作っておいた。


 作るのは簡単で、筐体を動かすためのフライやレビテーション、そして魔法の発射機構なんかを付与をするだけだから形を作ればすぐできるが、使いこなせるかどうかはまたは別の話だ。


 それでも全機一斉に、指定した同方向に弾幕を張るくらいのコントロールは可能だろう。

 俺も自分が作った物は魔力でコントロールして動かせる。


 魔物が数を頼みにかかってくるようなシーンがあるといけないから作ってみたものだ。

 物語の中では、魔物にそれでやられてしまうようなケースはいくらでもある。

 世の中は油断大敵なんだからな。


 バリヤーを付与したユニットも作った。

 こっちの方はすぐ使えるだろう。 

 自分の周りに浮かべておくだけなのだし。

 魔力で動かしているだけなので。


 あと、撮影用のカメラ台座付きの空中機動ユニットも作成しておいた。

 これも空中移動筐体に手持ちのビデオカメラの機能を付与してみただけなのだが。

 イメージ作成のスキルには、こんな事も出来る。

 やっぱり情報の記録は大事だと思う。


 俺は昔から遊びに行く時とかには、これでもかというほど準備に余念がないタイプだ。

 これは歳を食うほどに酷くなる。

 歳を食うと酷く心配症になるからな。


 これだけ凄い装備を用意していっても、最初のダンジョン探索の相手はゴブリンとかスライムなんだろうな。


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[一言] 誤用報告 >どうしても慎重というか、行動がおっとり刀になってしまう。 慎重と似た意味で使っているように見えました。 ---------- おっとり刀=押っ取り刀 意味:急な出来事で、刀を腰…
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