24-3 王宮のクリスマス
王宮のいつもは落ち着いた中庭に、そいつは傲然と聳えていた。
巨大クリスマスツリーだ。
異様にだだっ広い、あの王宮前広場にも同じ奴が鎮座ましましている。
もしこの王都が、米軍の山をも崩すと言われた超大型爆弾で絨毯爆撃を食らったとしたら、この二本だけが無傷で残る。
そこまで丈夫に作ってある。
そして丁度、それを見上げている顔見知りがいた。
「やあ、エミリオ殿下。
如何です? クリスマスツリーは」
「アル! 最高だよ。
どんどんクリスマスの飾り付けが出来ていくね。
もう楽しみで、暇があると見に来ているんだけど」
うんうん。
王子様は初めてのクリスマスツリーの出来に夢中なようだ。
建てる時もちゃんと見に来てくれていたし。
やっぱり子供はこうでなくっちゃ。
護衛の子爵令嬢さんも、にこにこしてそれを見ている。
「やあ、御久しぶり。
出来上がったら派手に電飾しますよ。
それはもう綺麗ですから、楽しみにしていてください」
「それは楽しみです。
当日はここでガーデンパーティをやるのでしょう?」
「ええ」
当日はサプライズな魔法も用意してある。
エミリオ殿下には思いっきり楽しんでもらうとするかな。
上の王子様方は、きっとクルシミマスになっていると思うんだけど。
この素敵過ぎる異世界初のイベントの影で、幸せでなくて皺寄せが行く哀れな人達もいるんだな、これが。
王宮の調理人の人達は、クリスマスを目指して目の色を変えている。
厨房に顔を出したら、さっそく声がかかった。
「グランバースト卿、是非味見を!」
出されたものは鳥の骨付き腿肉で、これがもう熱々なのだ。
皿ごと鼻の前に持っていく。
思わず俺の顔も綻ぶ。
そして一口齧る。
うん。
日本の奴と同じ物だ。
エリ、山本さん、葵ちゃんなどが交代でここに入り浸った甲斐があったというものだ。
間に合ったか。
俺は回答の代わりに缶ビール、しかもプレミアムな奴を収納から出して蓋を開けた。
調理人の間にも笑顔が広がる。
「これはつまみに値する。
しかもプレミアムビールの」
これはそういう意味なのだから。
これが駄目出しだと何も出ない。
「駄目でしたでしょうか」と訊かれても、ただニコニコしているだけなのだ。
悪くないなと思えば、第三のビールが出る。
いいと思えばビール。
合格ラインはプレミアム系で、それも各種あって、ここではちゃんと格付けがある。
今日出したプレミアムビールは量販大手メーカーの物ではない、かなり高い奴だったのだ。
それを見た調理人達は、笑顔で御互いに肩を叩き合って、ここまでの苦労を労いあった。
俺がこういう悪戯をしているので、王宮料理人の連中は日本のビールの銘柄に異様に詳しくなった。
もちろん、王宮にもアルバトロスの魔導技術で作らせた大型冷蔵庫と共に、それらは俺が供給させてもらっている。
「稀人を王家の始祖に持つこの国にあって、初めてのクリスマスが成功するかしないかは、この国にとって最高に重大な事なのだ。
その成否は主に、君達調理人の肩にかかっている!」
最初に国王立会いの下、そのように演説してみた。
だって、どうせなら成功してほしいじゃない。
それを聞いて国王陛下もうんうんと頷いており、調理人全員が蒼白になっていたけれど。
だが、俺は支援は一切惜しまないとも宣言した。
その場で国王陛下の許可をもらい、調理人全員にアイテムボックスを支給した。
それには最高の素材から調味料・レシピ・魔道具・タブレット端末・問い合わせ用のスマホまで突っ込んであり、それらの使い方もトーヤから懇切丁寧に指導させてから渡しておいた。
もちろん日本から持ち込みした大量の物品や、そこからアイテムボックスの機能を用いて展開して作り上げた食材その他も、そこに含まれている。
そして、ついに彼らはやり遂げたのだ。
とうとう完成したのだ。
自分達の力で作り上げたクリスマスの定番料理を。
『異世界料理人の手による骨付きローストチキン・照り焼き』
それはもう素晴らしい出来であった。
皿を彩るクリスマス風の飾りつけも、クリスマスカラーがワンポイントの日本のスーパーで売っている物そのものだ。
そういう風に作った、手で持つところのアルミホイルも専用の物を作成して渡してある。
これで、この国ではもう、このクリスマスにこいつがあれば日本人が絶対に泣いて喜ぶ定番料理が、不滅のメニューとして『王室料理』に残る事になったのだ。
日本ならばスーパーで手軽に買えちゃうこれが、異世界では絶対に買えないのだから。
俺はありがたくクリスマス・ローストチキンを頂きながら、文句なしで彼らを称えた。
「君達には更なる精進を望みたい。
きっと船橋武、いやさ初代国王も、今日の成果を見たら涙を流して諸君らを褒め称えたであろう。
もっとも、涙の量よりも涎の方が多かったろうけどねえ」
そう言ったら、より感激された。
どちらかといえば笑いを取りにいったのに。
そして気合を入れた彼らは間髪入れずに次のメニューに取り掛かっていった。
あくなき求道の道、それはもちろん外交における晩餐なども含む王国への多大な貢献と、俺達異世界島流しになっている日本人の舌と胃袋にも貢献してくれる道なのであった。
当然この俺も、いや稀人の総力を挙げて彼らへの支援は惜しまない。
山本さんも引き続き王宮料理人の指導へ通う事になるだろう。
また彼にとっても、それは楽しい仕事となるのだろうし。
また日本文化にまったく馴染みがない、和食の店へ行った事もない人達に教えるのだから、それは果てしない求道の道のとば口でしかないのだ。
次にミハエル殿下を冷やかしにいった。
執務室へ行くと、ぐらっぐらっと上半身を揺らしながら、鬼気迫る勢いで仕事をしている疾風の王子様がいた。
見たところ、とても疾風とは思えない御様子なのだが。
目の下に王太子以上の隈を作っていたし。
御付きの人に視線を送って目が合うと、そっと頭を振られた。
これはあかんな。
軽くリフレッシュヒールの魔法をかけて、栄養ドリンクと眠気覚ましドリンクの差し入れを置いて、俺はそっと転移で消えた。
次にそーっと王太子カルロス君の執務室を隙間から覗くと、何かにとりつかれたかの様子で書類を書きなぐっている、げっそりした眼光鋭い何者かがいた。
あれは既に修羅。
こちらはもうそのまま、そっ閉じしておいた。
あと、年明けイベントの大事な打ち合わせが残っているのだが、今日はメインの関係者が王宮にいないのが判明している。
その関係もあって、とりあえず御姫様方のところへ行ってみるか。
御部屋へ直接。
普通はそういう事をしてはいけないのだけれどね。
部屋の前の警備の衛兵に取次ぎを頼んで、ほどなく通される。
「やあ、シルベスター王女殿下。
御機嫌うるわしゅう」
「グランバースト卿、これはいいところへ。
丁度打ち合わせをしていたんです」
父親譲りの素敵な銀髪を、ふわりと靡かせて十三歳の王女様は輝くような笑顔で出迎えてくれた。
公式の場では銀髪ドリルにセットされているのだが、今日はラフっぽくカールされた状態で流している。
この凄く大人びた感じの子は、将来は国同士で奪い合うような凄い美人に育つのだろうな。
「卿はクリスマスはどちらで御過ごしですか?
あちこちでクリスマスを主催なされると聞いたのですが」
すかさずベルベット、アニオン公爵令嬢から質問が入った。
「ははは、その件ですか。
当日のサプライズとして新魔法の御披露目という事で、実は……」
「えー、それは凄い。
私達も一緒でいいんですよね」
「もちろんですよ。当日は楽しく過ごしましょうね」




