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24-1 ジングルベル

 ケモミミ園はもうクリスマスムード一色だった。

 セーフハウスから小学校予定地まで、みんな広がって思い思いに飾りの仕度をしている。


 真剣に飾りを繋いでいってる子、愛用の段ボールのデコを最優先にする猫族、一生懸命に絵を描いている子に色々な裁縫をしている子達。

 声をかけると、皆嬉しそうにこう言ってくれる。


「クリスマス、楽しい~」


 準備も楽しんでくれているようで何よりだ。

 各所にあるクリスマスツリーの前でオーナメントとにらめっこしている子。


 LED電飾が絡まって身動きが出来なくなり、三色カラーに彩られている奴。

 よく見たらそれはカミラであったので救出しておいた。


「おまえ、何やってるの」


「あんまりきれいなんで、はりついてみていたら、ほんとうにはりついちゃった~」


 俺が作ったスイッチを入れると踊るサンタ人形の魔力に呪縛されている奴。

 それは日本のデパートなんかでクリスマスに見かける玩具だ。

 これもよく見たらレミだったので、そっとミミをもふって解呪しておいた。


 ケモミミ園の厨房では忙しく立ち働く人達がいた。

 クリスマス用の作り溜めの料理を作っては、アイテムボックスに突っ込んでいく人。

 あちこちへ配るランチボックスを作っている人。


 それと、つまみ食いをしている奴。

 よく見たら、そいつはエリーンじゃねえか。

 子供じゃあるまいし、本当にしょうがねえな。


 新作料理のレシピと真剣に睨みあっている人。

 希望する子供達と、調理実習をする職員さん達。


 おっさんは庭に立てる大型ツリーの準備をしないとね。

 アドロスの、エリが屋台を出していた中央広場や、王都の一般区画にある祭事用第一広場にも立ててきてある。

 殆ど建てるに等しい巨大な奴を。


 今年のクリスマスは派手にやろう。

 去年はやらなかったし。


 というか大混乱の最中だったので、あの頃は何をやっていたのかすらもよく覚えてない。

 ダンジョンへ行っていたんだったっけかな。


 何しろ、こっちの世界へ来たのがもう十一月の後半だったからなあ。

 日本じゃもうクリスマスムード全開だったわ。


 特に当初は慣れない異世界で慌ただしくて。

 それと盗賊なんかも大量にぶっ殺していたような気もするし。


「にしむくさむらい」の侍月だったし、概ね投下槍で殺っていたんで、まあ侍っぽい感じで大体合ってる?

 俺の生まれ故郷である西三河っぽい血塗れなニュアンスもよく出ていたようだ。 


 あと、プレゼント商品の作成にも熱が入る。

 これはもうイメージ作成のスキルが全開である。

 職員さんに対しても日頃の苦労を労わないと。


 学芸会のように大掛かりなものではないが、ケモミミ園を丸事ひっくり返したかのような大騒ぎだ。

 それも含めてのクリスマスなのである。


 なんとかかんとか頑張って、ケモミミ園の庭にもツリーを立てた。

 そいつは高さ二十メートルくらいある奴だ。


 これは子供が上りそうで怖いな。

 こいつはプラスチック製で表面がツルツルな上に、足がかりになるような下の方の枝がないようにしてあるんだけど、パワー溢れるケモミミっ子は油断がならねえ。

 この世界では綺麗なプラスチック製の物の方が物珍しくて人気になるかもしれない。


 魔法で強化してあるので、状態固定と相まってドラゴンが蹴っても倒れないような代物だ。

 ゴーレム共が飛び回って、そいつに飾り付けをしている。


 園内にはあちこちに普通サイズのツリーがあって、みんなで飾り付けに入っている。


 当然、エルフ新町にも行ってみた。

 資料と機材だけ渡しておいたのだが、一体どうなったものか。

 あそこには実際のクリスマスというものを知る人材が誰もいないのだ。


 だが行ってみたら、なんと完璧な日本にいるかのようなクリスマスムードで一杯だった!

 信じられねえ。

 ネットから拾った華やかなクリスマスソングが流れているし!


 モールやツリーで街中が飾り立てられ、何故かやってもいないクリスマスセールの幟があちこちに!


「やあ、園長先生。

 クリスマス楽しいね~」


 真っ赤なサンタ装束に身を固めたアルスが陣頭指揮を執っている。

 さすがはSランク。

 人生で初めてやる、渡しておいた資料映像以外では見た事が一度もないはずのクリスマスがもう様になっている。


 本当かいな。

 だが、エルフさんはみんな楽しそうだ。

 超美形な女性エルフさんのサンタコスチュームが眩しすぎる!

 こんなミニスカサンタと日本にいる頃に会いたかった。


「こんにちは。

 クリスマス楽しみですね」


 うーん、笑顔も眩しいぜ。

 クリスマス、俺はこっちで過ごすんじゃ駄目かな。

 いやミニスカサンタの出張サービスという手もあるぞ。

 可愛いエルフさんは子供にも大人気だしな。


 ここのツリーはエルフさんに合わせて、敢えて世界樹っぽいスタイルにしてみたのだが、エルフの皆さんからは「何ですか? これは珍しい形をした木ですね」と言われてしまった。


 無いのか、この世界に世界樹。

 俺はちょっとだけ、がっかりした。

 この世界は一見するとファンタジーっぽい感じなのだけれど、地球と同じように普通な感じの事が多過ぎる。


 まあこの世界には可愛いエルフさんが大勢いてくれるので、そのような些事は快く許そうじゃないか。

 長寿種族であるエルフは気の長い人達なんで、相変わらず生活の術は目処が立ってない。

 まあこのクリスマスの様相を見る限りでは、そのうちになんとかなるかな。

 ちったあ活気も出て来たようだし。



 それからアドロス商業ギルドへ跳んだ。

 商業ギルドのギルマス・ロゴスを発見して声をかける。


「準備の方はどうだい?」


「まあまあですね。

 みんな張り切っているんですよ」


 目の前の広場を見ると、ゴーレム達が指示される通りに巨大ツリーに飾り付けをしていた。

 こっちは高さ三十メートルってところかな?


 俺が作った飾り付けを、商業ギルドの人達が真剣な表情で検分している。

 すまん、それはこの世界じゃまだ作れない物質で出来ているの。

 代用品は頑張って開発してくれ。

 言ってくれれば、俺も一緒に考えるし。


「メリークリスマス!」


 知り合いの商人が声をかけてくれた。

 貫禄たっぷりのおじさんで(俺と同じ歳だった!)サンタ姿が実によく似合う。

 できたら、うちのクリスマスに来てくれないものかな。


「いやあ、このクリスマスというイベントは素晴らしいですね。

 何もかもが回っていく。

 物もお金も技術も」


 さすがは商人だけあって、中々わかっていらっしゃる。

 こういうイベントは、やっていかないと駄目なんだ。

 そうすれば、この世界で膝を抱えて蹲る子供の数も少しは減るだろうか。



 それからオルストン領へ跳んでみた。

 一応ツリーなんかは届けておいたのだが、奥さんは大きな御腹を抱えてソファの住人だ。


「やあ、こんにちは。

 もうすぐですね」


 マルガリータさんもにこにこして、御腹をさすりながら嬉しそうに話してくれる。


「もういつ生まれてもおかしくないわ。

 あのクリスマスツリーっていう物は本当に綺麗ね。

 ありがとう」


「アル。

 こんなに幸せな気持ちで生きていけるなんて、ほんの一年前には想像も出来なかったよ。

 本当にありがとう」


 アントニオの奴も実に嬉しそうだ。


「よかったじゃないか。

 そういや、あの頃はお前も尖がっていたよな」


 俺の頭の中を、脳内プレーヤーがダイジェストで思い出を再生していた。

 あれ? 主に俺がこいつに無茶を言っていたような映像しか見えないんだが。


「ははっ、それを言わないでくれ。

 でもいいんだ。

 あの頃の俺があって、今の俺があるんだから」


 俺はひょいと立ち上がると、奥さんの前に進み出てしゃがみ例の物を起動した。


「精霊の鎧」


 そして『祝福の翼』を展開してみた。


 それを見た二人が思わず目を瞠る。

 例の天使の羽根を展開すると、精霊の助け無しでも祝福の物質化が始まる。

 あとは俺の魔力でなんとかするのだ。


 俺達三人を囲むように、まるで祝福が物質化したような、あの不思議な『ブレッシング・リング』が取り巻いた。


 そう、俺はとうとうあれをスキルとして起動する事に成功したのだ。

 何しろ、あの悪魔のような魔界の鎧がまだ二個も残ってやがるんだからな。

 そいつがうちのケモミミ園を襲撃しないなんていう保障はどこにもない。

 とにかく【必殺】が必要なのだ。


『祝福の翼』は魔力補助をしてやれば、グスタフの野郎にも使える事が判明している。

 もうスキルとして親鎧から子鎧へと能力をリンクさせてあるのだ。

 それに奴にはたっぷりとベスマギル・バッテリーを押し付けてあるし。


 まるで『アントニオ二世』のようになってきているグスタフ。

 今は、まさにそういうポジションにいる奴なのだ。


 俺の相棒枠と言うか、一蓮托生な親子(元魔界の鎧)漫才コンビでチームを組んでいるのだから。

 本物のアントニオ二世には、俺がただ今絶賛祝福を与えている真っ最中なのだ。


 グスタフ。

 世界を守るために自分の人生を犠牲にし、いつでも命さえ差し出せる覚悟のある男。

 俺なんかと違って奴は真性の高潔な騎士なのだ。

 騎士の家庭に生まれ、物心つく前から騎士としての教育を受けてきた人間だ。

 あいつにならベスマギルを持たせても大丈夫だろう。


 この祝福の鎧は、精霊達の力を借りて奴の心根が生み出した物なのかもしれない。

 多分、親鎧の方こそが、その御零れに与っているのだ。


 その強い霊的パワーを持った巨大な輪は俺達の周りを生き物のように動き回ったかと思うと、すっと

マルガリータさんの御腹に吸い込まれていった。


 ゴッドブレスユー、ベイビー。

 君の両親は、少々幸の薄い人生を生きてきた。

 その分の配当は君に。


「これは、なんか凄いな。

 魔王は廃業して、天使にでもなるのかい?」


 驚いたような、お道化たような、どっちともつかない表情でアントニオは笑った。

 そういや、この世界にも天使がいたんだったな。

 そう思いながら、俺も笑い返した。


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