23-4 オールスターズ
休日の最後の締めは宮殿の御風呂へ向かった。
ジェシカもアル同様に、王宮大浴場の使用権を貰っていた。
それはどちらかというと、大神官としての禊という物に近い内容であったのだが。
彼女は御風呂へ行く前にアルフォンスからアイテムボックスを貰っていた。
さっき山本さんの和菓子とエリちゃんの御菓子を、どっかりと入れておいてくれたものだ。
それを見て精霊達も大層御機嫌なのだった。
御風呂へ行くのはジェシカ・エリ・アルフォンス・神聖エリオン様、そしてこそっとレミちゃんであった。
本来ならば関係ないレミちゃんを連れていってはまずいのだが、うっかりと見つかってしまって駄々を捏ねられたのでアルフォンスが連れて行く事にしたらしい。
まあ、それもいいかという話になった。
前にも連れていっていた事があるのだから今更なのであった。
英雄公爵様のやる事に、そうそうケチは付かない。
「ファルとレミは女湯に行かせるとジェシカが休暇にならないので、今日はおっさんと一緒に入ろうな。
御風呂オモチャは今日も完全装備だぞ」
また御風呂には王太子殿下とかが放り込まれているのかもしれない。
そろそろ、目の下に隈を作ったミハエル殿下も御一緒している頃合なのではないだろうか。
年末年始は王宮もイベは目白押しだ。
ミハエル殿下なんか忙しくて堪らないはずなのだけれど。
魔界の鎧の件でだいぶ時間が無駄になったそうだから、本当に目の下に隈が出来ているかもしれない。
「今日はスカイドラゴンの精霊ペドロがいるので空から行く事にした。
おチビと大空の散歩を楽しみたい」
アルフォンスがそう言い出したので、彼が大量に魔力を注ぐとペドロがぶわっと大きくなり、全員が余裕で背中に乗れた。
それを見たおチビさん達が大はしゃぎで、ジェシカも思わず微笑を隠せない。
その美しい銀色の髪がスカイドラゴンの背の上で、適度なスピードで気流になびいている。
ペドロが気持ちのいい程度の風に抑えてくれてあるのだ。
大空から見る大王宮の佇まいは、千年に及ぶ伝説の通りに大層美しかった。
ジェシカも王宮の御風呂は久しぶりであった。
アルフォンスとおチビ連は愛用の洗面器を持ち、おまけに首からタオルをぶら下げている。
それに大神官であるジェシカも一緒なのだ。
王宮の廊下をすれ違う雅な方々が、思わずガン見してきた。
アルフォンスが下駄を履いていないだけまだマシな格好なのであったが、さすがに王宮で相応しいという感じの振る舞いではない。
しかも神聖エリオン様まで御一緒しているし。
というか、むしろファルが銭湯スタイルで先頭を切っていた。
その目立つ様を見て、ちょっと恥ずかしそうにしていたジェシカなのであった。
「やれやれ。
でもおチビさん達はアルさんが引き取ってくれたのでホッとするわね。
神聖エリオン様と御一緒の御風呂も悪くはないのだけれど、まだあの年齢なので自分が御世話係になってしまうし。
さすがに休日にそれはちょっとなあ。
ファル様は、見るからにはしゃぐ気満々であるのだし」
湯殿に行くと、メリーヌ王女以下の三王女様が揃い踏みである。
他にベルベット、アニオン公爵令嬢もいる。
当然、彼女達の御付きの侍女連も御一緒だ。
ついでにエリも誘ってきたので、主要美少女キャラが勢ぞろいだ。
何かの意図を感じないでもないのだけれども。
神聖エリオン様から「エリちゃんも一緒に行こう」と誘われてしまい、さすがのエリも苦笑していた。
「いくらぺったんこ系キャラとはいえ、さすがに十一歳にもなって男湯は許して」
それにあのおっさんなら、「おお、エリも来たか」の一言でチビっ子枠に入れられてしまいそうだし。
エリも心なしか、ぺったんこから卒業してきたようなしてないような。
寄せてみたら、もしかしたらある……かもしれないと、ちょっと脇の下に手を入れて掌の付け根で肉を寄せてみる。
だがまるで手応えのない感触に、虚しそうな表情を浮かべるしかなくて哀愁が漂う。
頑張れ、成長はまだまだこれからである。
その他のぺったんこ系キャラは、そのような事など気にもしていないようだ。
メリーヌ殿下は凄い。
輝くような十五歳の完璧成人ボディだ。
何しろ、もうすぐ大好きな人のところへ御嫁に行くのだ。
この方は帝国に狙われていたので、成人してからも帝国との決着が着くまでシド王子との結婚式は延期されていた。
本一冊分にもなるような分量の、大恋愛の末のゴールインであったのに。
アルバトロスとハイドの両国の婚姻関係は、地域の平和と安定にも大きく貢献するだろう。
帝国も今ではもう脅威となりえない。
少なくとも今の皇帝がいる間くらいは。
メリーヌ王女も、もうすぐ妹達とも会えなくなるからと言う事で一緒に御風呂にしたらしい。
結婚式にはジェシカも立ち会う予定なのだった。
「いいなあ。
私はまだ相手すらいないのですけどね」
ジェシカにとっては結婚云々の前に、自分が大神官であるという大障壁があるのであった。
シルベスター王女も輝かんばかりの眩しさで、不思議な謎の光が大活躍だ。
何よりもハミル王女の存在がエリの心の救いらしい。
「ハミル様、一緒に成長していこうね。
抜け駆けはなしよ」
そして男湯からは、おチビコンビの喧しい歓声が聞こえてくる。
きっと、広い湯船でアルフォンス謹製の御風呂おもちゃシリーズが全開なのだろう。
魔法も使っているようだし。
はっと気が付けば、男湯と女湯の境の壁の上の隙間を全長数メートルもの大きさを誇る戦艦大和(御風呂玩具)が悠々と遊弋しており、おチビ連がその上で大はしゃぎしていた。
チビを乗せた「砲塔」が、ゆっくりと旋回していた。
この戦艦大和には、乗っている子供が落ちないように落下防止の付与がなされている。
戦艦大和はジェシカも前に映像で見せてもらった事がある。
それは「宇宙」とやらへ行く奴の方であり、彼女にはよくわからない内容だった。
王宮の御風呂は、こんなものまで余裕で浮かべられるほどに広いのだ。
例によってシルベスター王女殿下達は侍女も交えて、過激なふざけっこをしている。
今日はミレーヌ王女にも仕掛けてしまっている。
「もう姉妹とこんな事も出来ないのだし」と第一王女様も本日は無礼講の構えの模様だ。
彼女は一人だけ、限りなく大人に近いボリュームなのだが。
相変わらずエリやハミル王女などは混ざる事が無理そうだった。
そんなおチビ連や女湯の喧騒を耳にしながら、男湯では二人の王子が目の下に隈を作って、仲良く雁首揃えてぐったりとしているらしい。
やっぱりミハエル殿下も王太子殿下と御一緒していたようだった。
今日はエミリオ殿下も参加している。
王太子殿下の肩を揉んであげている様子などは、もう殆ど親子だ。
その長男と末っ子の年齢差は実に二十三歳にもなる。
王太子殿下はまだ独身なのだけれども。
アルフォンスが足ツボマッサージをしてやると、カルロス王太子殿下は、ぐぐぐっと悲鳴を押し殺して耐える。
いずれは一国の王になる身の上、何のこれしきと王太子殿下は踏ん張った。
ミハエル殿下も、諜報のトップたるものが、この程度の事で根を上げてはと一応は踏ん張ってみたのだけれども。
「ぐおおおっ。
痛い!
ちょっと痛いですよ、アルフォンス。
わざと痛いようにやっていませんか?」
「うん、わざと」
そう言ってアルフォンスが笑う。
そしてラストは二人にリフレッシュの魔法をかけてやった。
この方達はしばらく駄目だろう。
年末年始、まだまだ王宮のイベントは続くのだ。
国民にとっては楽しい季節も、王子達にとっては忍耐の日々なのであった。
御風呂上りにアルフォンスがこの世界に持ち込んだフルーツ牛乳を頂きながら、そのようにアルフォンスが男湯の模様を語るのをジェシカも聞いていた。
「うんうん、いつもの事ですね」
かくして神官の貴重な休日は大変有意義に過ぎつつあり、その終わりを迎えようとしていた。
「はあ、明日からまた仕事かあ」
ジェシカは思わずぼやいたけれど、すかさずエリがこう言って慰めたのだった。
「ジェシカさん、人間辛抱だよ」
この作品の美少女キャラは、どうも苦労人が多い。




