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23-3 ブルーム伯爵邸

 それから、アドロスにあるブルーム伯爵邸へ御邪魔する事になった。

 ブルーム伯爵から招待されたエリも一緒にやってきている。

 彼女も顧客の実態を知るために、滅多に行けないであろう貴族屋敷の見学は望むところなので。


 家の外観からも、伯爵の人柄が伺われるような品の良さだ。

 彼は最近のアドロスの発展に対して関心が高く、王都の屋敷とは別に、ここにも別邸を構えていたのだ。


 棄民の街アドロスの呼び名は過去の物になりつつあるが、それでもこの屋敷のように素晴らしい邸宅は他にない。

 悪徳な連中を追い出して治安の良くなった事が招いた成果の一つともいえる。


 貴族の中には豪華さに拘るあまり、ごてごてと下品に屋敷を飾り立てる向きもあるが、そういう人達は御本人様達の品も残念な事が多い。

 神殿に来た時も、ジェシカの事を無遠慮に好色そうな顔付きでじろじろ嘗め回すように見たりするのだ。

 当然そんな奴らは精霊からも嫌われる。

 何をしに神殿へ来るものやら。


 精霊達も家の中を流れる穏やかな気が気に入ったものか、我が家のように寛いでいる。

 猫型の奴にスカイドラゴン、薄い羽根付きの幼女コンビ、虹色のもふもふ狼や格好いい甲虫タイプ、はたまた幼女系ハーピーっぽい感じの奴。


 いろんなタイプの奴らがゴロゴロしている。

 これは滅多に拝めない物凄い光景なのだが誰も動じていない。


 猫型の奴がひょいっと御嬢様の御膝に飛び乗り、甘い御茶菓子を強請る。

 御嬢様はきゃあきゃあ言って、またしても大はしゃぎしている。


 まだ七歳なのだ。

 こういう事が楽しくてしょうがないのだろう。

 いつもなら御客様の前なので親も少しは諌めるのだが、今日は特別なので大目にみてくれる優しい両親であった。


 精霊達と一緒に御庭で転げまわる御令嬢。

 それから小さく顕現し直したペドロに乗っけてもらいながら庭の中を優雅に空中散歩していて、他の奴らもそれについて回る。

 伯爵はそんな様子を感慨深く見守り、ゆっくりと大神官との思わぬ茶会を楽しむのだ。


 夫人はまだ若く美しかった。

 ただ美しいというだけでなく、内面の美しさを映すような感じの品のある容姿だ。

 きっと美しく年を取っていくタイプだなと、ジェシカは眩しそうに彼女を見ていた。

 自分はこんな風に年を重ねていけるだろうか。

 そのような感慨をもって。


 彼女は神殿のあまり良くない部分も散々見てきている。

 この年でもう、はっきり言って苦労人である。

 時にジェシカは、ふっとそんなような感慨に囚われるのであった。

 今はまだ若いからそういうことはないのだが、そういうものがこの先顔に張り付いていくのではないかという懸念があるのだ。


 神殿本部にもそういう厳しめの顔立ちをした方がいらっしゃる。

 そう、それはジェシカの先輩方である大神官OBの方々である。

 皆独身の、神に一生を捧げた敬謙な人達であった。


 今日この一家を見ていて、こんな風に家族を持ちたい。

 そんな強い思いに囚われた。


「今のままじゃありえないけどね……」


 少し寂しそうに笑うジェシカを慰めるように精霊達が寄り添う。

 そしてジェシカもこう思うのだ。


「そう、私にはこの子達がいるじゃない。

 大切な家族が」


 ブルーム伯爵邸を御暇して、今度はケモミミ園へ向かう事にした。

 当然、エリも一緒だ。

 今やキッチンエリの調理人はエリだけではない。

 弟子も順調に育っているので、突然店を空けても問題はなかった。


 エリの転移魔法で、全員あっという間にケモミミ園へ着いた。


「あれ? ジェシカじゃないか。

 今日はまたどうしたんだい?」


 精霊達が襲いかかると表現するのが相応しい勢いでアルフォンスにむしゃぶりついていった。

 いつものように、それらを両手でじゃらしながら魔力を与えつつ、アルフォンスはジェシカに話しかける。

 

「うん、今日は休日なの。

 この後王宮の御風呂へ行こうかと思って」


「へえ、いいな。

 俺も久しぶりに王宮風呂へ行こうかな。

 あ、中を見ていけよ。

 今はクリスマスの準備をしているところでさ。

 あと、それとまた精霊達に頼みたい事があってね。

 何、今度は戦いじゃなくてな」


 中へ入ると、子供達がきゃあきゃあ言いながら色紙細工を作っている。

 最近入ったばっかりの子も真剣な様子で、折り紙を糊でくっつけている。


 こんな事をやるのは初めてなのだが、「なにやら楽しい事が始まるらしい。全部自分達の手でやり遂げる」のだと理解出来ているようだ。

 そのような事は人生初の行事なのだ。

 なんだかよくわからなくても、期待に胸を膨らませているようだ。


 ここは気楽なセーフハウスゾーン。

 誰かに何かを強制されることはない。

 最近は膝を抱えて蹲る子は、とんと見かけなくなった。

 ここの雰囲気に押されて蹲るどころではないらしい。

 行事に次ぐ行事が目白押しなのだから。


 子供の人数が増えた事もその一因なのだろう。

 大勢が騒いでいる中で、キョロキョロしながらも自ら流れの中に飲み込まれていく。

 人生の流れが確かに変わったという手応えと共に。


「精霊に頼みたい事って何かしら」

「それはな、クリスマスイブという日の晩に……」


「まあ、素敵ね。

 精霊達には声をかけておくわ。

 魔力の供給は御願いね」


 思いもかけずに用件が一つ片付いたので、アルフォンスも御機嫌だ。

 何しろ学芸会という一大行事を終えて、あとはクリスマスと正月を待つだけなのだ。


 今年は御節料理も期待できるのだし。

 年明けに一つ大きな行事を抱えているので、今だけは気楽なものだ。

 心の御荷物だった魔界の鎧の一つを思いもかけぬ方法で片付けられたので心も軽い。


 そっちの年明け行事の関係者も丁度来ているのを発見したし。


「エリ、そっちの方はどうだい?」


「もう準備万端よ。

 アルお兄ちゃん、当日は宜しくね」


「ああ、当日はアルスの奴も招待されている。

 警護に気を配るのは奴に御任せだな。

 ケモミミ園の方は真理やゴーレムに任せておけば問題ないだろう。

 冒険者達もいる」


「楽しみね~」


 エリがうっとりとして言った。

 最近はどんな重要なイベントであろうと、彼女が全力をもって成し遂げ、その名声に更なる精進を積み上げていくための糧でしかないのだから。


 精霊達は山本さんを見つけて、取り囲んでおやつの催促をしている。

 彼も笑いながら、おやつをどかどかと出している。


 この人にも、いつのまにか精霊の加護がいっぱいついている。

 もしこの人に何かあったら、顔色を変えた強面の精霊達が押し寄せてくるだろう。

 本人はそんな事、気にもしていないのだが。


 当然エリにも加護はたくさんついているのだが、もちろん例によって本人は何も知らない。


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