23-2 フードコートにて
フードコートは本日も大変な盛況を見せていた。
貴族専用の馬車のターミナルは、第一から第二まで馬車で溢れており、馬車整理の係も忙しそうにしている。
本日は野外劇場にて人気の催しがあるので、VIP専用の停車場も満員だ。
フードコート外の馬車ゾーンまで誘導するため、アドロスの商業ギルドからも応援の人員がやってきていた。
劇場は予約も一杯で、立ち見客が溢れている。
それでもジェシカの場合は特に心配無いのだが。
先に一度キッチンエリへ立ち寄る。
芝居を見ながら頂く、美味しいおやつを仕入れるためだ。
それに、ずっと督促が小煩い連中も大勢いるので。
「こんにちは、エリちゃん」
「あ、ジェシカさん、いらっしゃい~」
最早、貫禄といった感じのオーナーシェフぶりである。
この子が一年前にダンジョンでスライムのような雑魚魔物に食われかけていたとは俄かには信じられない。
「今日は休日なの。
御勧めは何かしら。
この子達にも何か見繕ってちょうだい」
するとパパッと具現化して必死にアピールする精霊達。
おまけの奴らが思ったよりもかなり多くて、思わず顔を顰めるジェシカ。
「まあいいか、滅多に無い休日なんだから」
精霊の顕現に思わず驚くフードコートの客達だったが、大神官ジェシカの姿を認めて納得する。
そのうちの一人が前に進み出て跪いた。
「大神官ジェシカ様に於かれましては益々御清栄の事かと。
ここで出会えるなど、なんという幸運なのでしょう」
ジェシカは少し苦笑いした。
このブルーム伯爵は大変に敬虔な主神ロスの信徒だ。
大きな商会を経営しているが、この国でも清廉な人柄で知られている。
孤児院にもたくさんの寄付をくれ、色々と慰問などを行ってくれている。
無論ロス神殿にも莫大な寄付を頂いているので、それには彼女もとても感謝しているのだ。
彼はジェシカから見ても大変好ましい人物ではあるのだが、やたら堅苦しいのが欠点である。
実を言うと、あまり休日に顔を合わせたりしたくない人だったりするのだ。
しかし、海千山千の有象無象の相手をしていてうんざりした時などに会いに来てくれるとホッとするような人物である。
彼女としても、あまり無碍にはしたくない人なのだ。
「ごきげんよう、ブルーム伯爵。
今日は休日で、御芝居を見に来たの。
その前に何かおやつをと思って。
この子達も待ちきれない様子でね」
ハッと気がつくと精霊達は伯爵の周りに集まって、すりすりして胡麻をすっている。
こういう清廉な人物は精霊達から見ても好感が持てるのだ。
これがバイトン公爵やベッケンハイム公爵のような人物だったら、みんな泣いて逃げ出すのだが。
「こ、こらあ、あんた達……」
「ま、まあまあジェシカ様。
いかがなものでしょう。
本日のおやつは私の方から寄進させていただくというのは」
ブルーム伯爵は大神殿を訪れる時に、よくおやつを持ってきてくれるのだ。
精霊は御菓子好きだという話が最近聞こえてくるようになったので。
そんな人に御強請りをしない精霊達ではなかった。
強請られている御本人は、滅多に無い展開に大喜びで舞い上がっているのだが。
精霊達に手を引かれ、伯爵はキッチンエリの店内を巡る。
精霊達は、もう遠慮無く御菓子を指差してショーケースから出してもらっている。
オーナーのエリも鼻歌で相手をしていた。
ブルーム伯爵は大の御得意様だ。
王都に幾つもある孤児院の子供向けにも、よく爆買いしてくれる人なので。
ジェシカはやれやれといった顔で見ていたのだが、実をいうと懐的には非常に助かる。
思っていたよりも多い結構な数の精霊がついて来ていたので、内心では少し冷や汗物なのであった。
ここの警備はエリーンがメインスタッフだ。
しばらく見ないと思っていたら、ずっとこっちにいたらしい。
まあ、あの食い意地からすれば無理もない話なのだが。
エリーンは色々と小器用な奴なので、エリも随分と助かっているようだ。
最近はケモミミ園の和菓子職人に関心があって(無論異性としてではない)あちらへの出張申請も提出済みだ。
確保した大量のおやつを持って、ジェシカは野外劇場へと向かった。
アルバ大神官たるジェシカは特別扱いで、通常でもこういう場所では当日いきなり行っても席を確保してくれる。
一般席とは異なり、その手のVIP用の席はいつでも確保されているのだ。
それを抜きにしても、ここでは顔パスだ。
なんといっても精霊魔王の直営施設なのである。
アルとジェシカが親しい事はよく知られている。
親しいどころか、アルから見てジェシカは時に紙一重の生命線だったりするのだ。
今日はブルーム伯爵の予約席に御招きいただいた。
最前列をそれなりの数が用意されている。
御付きの人達が一緒だったのだが、婦人と娘以外の人間は「VIP席」へと追いやられた。
彼らも驚いたようだが、滅多に無い事なので役得として楽しむ事にしたようだ。
日頃の感謝を込めて使用人の人達も招待されていたのだ。
そういうところからも伯爵の人柄が偲ばれる。
VIP席の客が何事かと尋ねてきたので、使用人達が説明してあげたら目を見開いていた。
顕現した精霊達と触れ合って、まだ幼い御令嬢も大はしゃぎだ。
元々の席に残った執事さんとメイドさんが、精霊達の分もあれこれと面倒をみてくれていた。
この伯爵家の人達は皆気分の良い人ばかりだったので、ジェシカも休日を御一緒するのはとても楽しかった。
芝居を楽しんだ後は、キッチンエリでランチだ。
本日の御目当ては最新メニューだ。
アルフォンスから導入を聞いていたので、非常に楽しみにしていたのだ。
「味噌フォンディユ」
それは名古屋にある某店のメニューだ。
これで地ビールで一杯やると美味いんだ、とアルフォンスが言っていた。
ジェシカは一杯やるわけではないが、非常に楽しみにしていたのだ。
味噌汁は何度も飲んでいるが大変美味しい。
この料理は、ぐつぐつと煮込んだ濃厚な味噌スープの中に色々な串揚げを突っ込んで味噌を絡めて食べるものだ。
「それって、ただの味噌串カツじゃん!」などと思われるのだが、実は微妙に違う。
文字通り、チーズフォンディユのフォンディユ用チーズが、特製のフォンディユ用味噌になっているだけである。
串カツ用のこってりとした味噌だれよりは、もっとさらっとした感じでいかにも液体といった感じのソースだ。
食べ方もフォンディユそのものだ。
貴族様には微妙な食べ物かなとジェシカは内心では思っていた。
気を付けないと服も汚れそうだし。
傍から見たら、大神官にもあまり相応しくないような気もするのだが。
一応、大きめの前掛けは用意されていた。
更には何故か精霊達もがっついていた。
これは珍しい。
精霊も具現化したときのエネルギー源として御菓子を好む性質はある。
最近ではアルフォンス関係のせいで、逆に御菓子を食べるために具現化する事が殆どなのだが。
精霊達も、だいぶ稀人に毒されてきているようである。
連中は口の周りを味噌でべたべたにして、御一緒していた伯爵家の使用人の皆さんに拭き拭きしてもらっている。
キッチンの御客達も、精霊のそんな姿を珍しそうに見ていた。
今はフォンデュと書くのが一般的なのでしょうか⁇
ネットがなかった昔の時代は皆フォンディユと書いていたような気がします。
(作者の気のせいの可能性もあり)
姉が購読していた、フランスを重視していた女性向けの雑誌で、「御洒落な言い方」として敢えて使われていた可能性もあります。
元々「アルプスの少女ハイジ」のアニメで有名になった料理なので、あの当時になんという呼び方が正規だったのでしょうね。
フォンデュで検索しても、ブログなどでフォンディユと書いている人も少なくないようです。
たぶん、それなりの年齢の方だと思います。
文部省や新聞などが、いつの間にか勝手に名称を変更している場合もありますし。
アメリカ生まれの検索寡占企業のグーグルが、通常一般的に使われている日本語を検索で受け付けずに、カタカナ変換が上手く出来なくておかしな日本語を強要してくる場合も見受けられます。
あれをやられると、ちゃんと原語で検索出来ずに困ってしまうのですが。




