23-1 待ちに待った休日
アルバトロス王国王都アルバ。
そのロス大神殿の大神官ジェシカは激務の毎日だ。
そんな彼女にも月に一度くらいは休みが貰える。
本部から本日の仕事を替わってくれる人が来てくれるのだ。
その日は朝からそわそわして非常に落ち着かない。
一応まだ神官服は着ているものの、私室の方にはお出かけ用の御洋服が準備されており、丁寧にブラシがけが行われている。
精霊の中にはそういう仕事をしてくれる者もいるのだ。
配下の男性神官は何名もいるのだが、「美少女」ではないので交代は無理なのだ。
ロス神教神殿のあざとい方針として、あくまで大神官を勤める者は穢れ無き乙女でなくてはならないという建前がある。
本音は、美少女で民衆を釣って信徒を集めて寄付を強要するというものだ。
信者もみんな本当の事は知ってはいるのだが、大神官が強欲な禿親父であるよりは美少女である方が好ましいので、この慣習は延々と続いている。
主神ロスを崇めているのだから、神殿に寄付したりするのは別に構わないと思っているし。
もっとも、神殿の御偉いさん達の強欲さには皆辟易しているのだが。
肝心の精霊達も心の穢れた連中よりは、ジェシカのような真面目で清らかな少女の方がいいのだ。
以前、男の神官に代理を任せたところ、精霊達が臍を曲げてしまって仕事にならなかったという事情もある。
アルフォンスのように、精霊の方から男性に擦り寄っていくような例はそうそうない。
「遅くなりました~。
部署の引継ぎに時間がかかってしまって」
神殿本部からの応援者ロゼッタが来てくれた。
「ありがとう。待っていたわ~」
軽く挨拶してから本日の予定を軽くレクチャーする。
商業ギルドや商会の関係者がわんさか加護を求めてやってくるので、そのあたりがメインだ。
神殿本部も金が唸っていそうな客を優先している。
実質的な慈善事業は各地の教会が担っていて、本部は甘い汁を吸うだけだ。
その残りの分から、建前のための慈善事業や、地方への交付金も出てはいるのではあるが。
まあ、その辺の御相手はロゼッタも手馴れたものだ。
禿げたおっさん達相手に愛想笑いを浮かべ、精霊達を使役するだけだ。
ただ、あちこちへ応援に回る毎日なので、見方によってはジェシカよりも仕事はキツイ。
やっと引継ぎが終って、ホッとする表情のジェシカ。
まだ十五歳だが、この国のロス教においては看板娘と言ってもいい。
「やっと出かけられるわ~。
ありがとう、ミレー」
ミレーと呼ばれた具現化して人化した精霊は、にっこりと笑って服を差し出す。
代わりに神官装備を受け取り、御手入れを始める。
他にも靴や手荷物などを準備してくれている。
嬉しくなって、ジェシカはふわっと魔力を注いでやる。
他の精霊達も寄って来て、その御零れに与る。
「お前達も留守中を御願いね」
了解とでもいうように、くるくると回る精霊達。
早速ロゼッタに呼ばれて、全員ふらふらと神殿方面に漂っていく。
これでアルフォンスのように気前よく強大な魔力をくれる人が現れると、まるでビデオの早送りかと思うような動きで高速移動するのだが。
すっかり仕度の出来たジェシカはいつもの神官姿と違った、知った顔が見たら新鮮に映るだろう魅力に溢れていた。
街行く男が皆振り返るのは間違いないところだ。
ジェシカは早速街へと向かう事にした。
神殿は精霊の好む、神秘的な山の山頂付近に建てられている。
いつも、そこから王都の街を眺めては嘆息するジェシカなのであった。
だが今日は違う。
精霊に頼んで乗せてもらい、空からビュンっと街までまっしぐらなのだ。
なんといっても、超とびきりの美少女である。
それなりに御小遣いもあるので服も素晴らしい物を身に着けており、なかなかセンスもいい。
しかし、神殿の御偉いさんが怖いので誰も声をかけない。
もしこの子が、どこかの司祭の御手付きにでもなっていようものなら!
うっかり声でもかけようものなら豪い事になるのだ。
そんな事とは露知らずに休日を満喫するジェシカ。
現役の大神官が御手付きになっている事はないのだが。
そのような事をすれば、精霊達の機嫌を損ねてしまう。
御手付きになっているのは、スカウトされたものの才能が不足して、大神官になり損なった少女達である。
だが一般の人はそんな神殿内部の事情は知らない。
また街へ行く時は、一応腕の立つ精霊を連れてきているので、何かあるような心配はまず無いのだが。
さすがに犯罪組織の連中も大神官には手を出したりはしない。
特に今は精霊魔王が頻繁に大神殿へ出入りしているので、大神官に手を出そうものなら、あれを即座に召還する事になる。
そして本日の大神官様は可愛い洋服や小物を求めて、あちこちの御店巡りをされるようだ。
女の買い物は長い。
精霊達は御菓子を買う具合が気になるらしい。
せっかく神殿を出てきたので、もはや精霊御用達であるエリのところへ行きたいのだ。
それか、あのケモミミ園だ。
そっちなら、魔力と御菓子の両方がいただける!
乗り物役の飛行精霊や護衛の精霊、他にもこっそりと付いて来ている奴とかが身悶えしている。
普段は結界の中で大人しくしていないといけないので、こんな時にしか自分達からは行けないのである。
だが、せっかく楽しんでいるジェシカの機嫌は損ねたくない。
と言う訳で、みんなでかわいこぶって、すりすりと甘えまくる。
ジェシカも彼らの気持ちはわかっているので、「どうしようかなあ。キッチンエリへ行ってもいいけどなあ」とか言ってみる。
これでまた精霊達のすりすりが激しくなる。
するとジェシカは、また楽しそうにして言うのであった。
「しょうがないなあ。
じゃあペドロ、アドロスのフードコートまで飛んでちょうだい」
喜び勇んだペドロは、うっかりとジェシカを置いていきそうになる。
「もう、慌てないで。
今日は久しぶりの休日なの」
そう言いながらも彼女は楽しそうだ。
貴重な大神官の休日は、まだ始まったばかりなのだ。




