22-4 鎧の暴走
なんとか、グスタフの魔界の鎧を剥ぎ取る方法はないものだろうか。
あれこれと考えた末に、結局ファルの歌を試してみようかという結論になった。
俺が食らった魔界の鎧によるダメージを弱めて、最終的には無効化してくれたのだから何らかの効果はあるのではないかと思って。
どの道、俺に取り付いてスキル化している魔界の鎧は片付けておかないと、俺はおちおち死んでもおれん。
レインに相談に行ったら、それはもうカンカンだった。
「あれを引っ張り出した馬鹿がいるのですかー。
あれを封印するのに、この私がどれだけ苦労したと」
「何の話~?」
この鎧は初めて出現した際に世界を滅亡の危機に陥れたが、当時のアルバトロス国王が武が作った空中庭園とやらを呼び出して魔界の鎧をその中に封印した。
それを封印したのは、なんとレインだったらしい。
当初、武は愛する王妃様に天空に浮かぶ大地の物語を聞かせたところ、よく理解してもらえなかった。
ならば実地に見せようという事で武が作り出したものが空中庭園という物だったらしい。
色々とチートを実装していて、困った事があったら使うようにと代々の国王が持たされていたものだそうだ。
今もそいつがどこかの空を飛んでいるのか?
いや飛んでいたら、そこに封印したはずの鎧はここに無いよなあ。
「ええっ!
あなたも、あれを持っているというの!?
ひいい、万が一の事でもあったのならば間違いなく世界が滅ぶわ~」
人一倍アレな稀人である俺もそいつをスキルとして持ってるという話を聞いて、天下のレインボーファルスが悲鳴を上げて頭を抱えた。
なかなかシュールな絵になったもんだ。
スキルというか、俺が持っているのが正真正銘の本体なんだが。
「あれこそ、まさしく世界を滅ぼしかねない災厄だったわ。
私がレインボーファルスであったからこそ為し遂げた封印よ。
これが並みのファルスであったのなら返り討ちに遭い、世界はまた暗黒の時代へ落ちていたでしょう」
やれやれ、なんていう代物だよ。
この俺が殺されかけただけの事はあるな。
なんて厄介な危険物なんだ。
おいグスタフ。
一杯飲みに来がてらに、こんな厄介なブツを追加で持ち込むんじゃねーよ。
とりあえずファルの歌を試すことにしたのだが、その前に保険をかけよう。
ミハエル殿下に宝物庫への再入場許可を求めた。
奴は、ぶつぶつ言いながらも許可はくれた。
当然一緒に行く監督者はミハエル本人だ。
以前は駄目だった、ある物のコピーを試しに行ったのだ。
パッと見にそうは見えないのだが、非常に複雑な魔力回路を形成しており、俺のコピーを受け付けなかったのだ。
そういう事なので、助手として真理も連れていく。
真理はこの手の物には精通しているので。
なんたって、これの製作者の助手を務めていたんだからな。
そして、なんとかそいつの再現に成功した。
ガイドがいてくれると、さすがに一味違う。
そいつは大量に製作してミハエルにも渡しておく。
あれから俺も経験を積み、各種技量も向上したのだ。
ついでに他の物も、真理の解説によりコピー出来る物は一緒にいただいておいた。
いつ何が起こるのかわからん。
とにかく保険だけはかけておいた。
そして帝国へ向かい、皇帝ドランに話を通した。
「また、なんと厄介な事になっているのだ。
頼むから下手を打たないでくれよ。
あれが野放しになったりしたら、帝国がまた全世界から非難される」
奴も辟易とした表情でそう言った。
「なんか情報はないのか?
ニールセン一派がやらかしていたことなんだから、帝国内になんらかの手がかりがあってもおかしくはないけど」
「あの瞬神が、そんな下手を打つと思うのか?」
あれ? 無いかも。
ドランも頭を抱えて、机の上につっぷしてしまった。
フランチェスカさんも処置無しポーズで万歳だ。
それから王国へ戻り、とりあえずファルさんの御歌の時間のようだ。
俺はファルを連れてグスタフと共に「ガラスの園」へと転移した。
「ファル~、じゃあちょっと御願いね~」
「あーい」
そして、お歌が歌われたのだが、なんだか様子がおかしい。
初めは鎧の気配が小さくなるような感じがしたのだ。
「お、これならいけるかな?
さすがレインボーファルスの祝福の聖歌だ。
まあ、相手は所詮子鎧なんだしな」
しかし突如としてその気配が急激に膨れ上がり、俺もグスタフも思いっきり青ざめた。
「い、いかん。
鎧が暴走する。
アル、今すぐ俺を殺……」
だが奴も全てを言い終えることは出来なかった。
世界は巻き起こる爆発的な禍々しい光の奔流に包まれた。
武の作ったチート鎧が、魔界の鎧の暴走によって力を抑えきれずに粉々に弾けてしまったのだ。
そして……魔界の鎧は、暴発……しなかった。
グスタフの無敵の鎧は見事に砕け散り、あのおぞましき魔界の鎧が顕現していたのだが、奴の頭の上で何かが踊っていた。
禍々しい気配はそいつの働きにより華麗に押し留められ、グスタフも俺も全く正気だ。
「ど、どうなっているんだ……」
動揺を隠し切れないグスタフが呆然と呟いた。
「ああ、これは『呪いの封者』と言って、こういうシーンで使うようにアルバトロスの初代国王が作っていたものだ。
宝物庫の中にあったのを今回ようやっと再現できたものさ。
やれやれ、結局保険が生きる羽目になってしまったな」
新技術、呪いの封者(武が風車とかけているらしい)で魔界の鎧はなんとか封じた。
なんていうか、それはあの強烈な呪いに砕けずに、風車のようにくるっと回る感じに往なすらしい。
そして今、そいつはグスタフの頭の上でくるくると回っているのだ。
なんらかのギミックが仕込まれているらしくて、少々頭を傾けたりしたって、それが頭の上から落ちてしまう事はなかった。
しかし実物は、どう見ても只の呪いの藁人形にしか見えんぞ!
まあこれだって物凄く複雑で精密な魔導技術の塊なのだ。
コピーするのに大変苦労した代物なんだから。
だが、この後どうするよ、これ。
禍々しい真っ黒な瘴気の塊のような魔界の鎧が丸見えだわ。
頭の上で踊っているアイテムのせいで、グスタフが只の間抜けにしか見えんのだが。
仕方がないので、そのまま精霊の森へ連れていきレインに相談した。
彼女は森を出る訳にはいかないので、境界ぎりぎりのラインまで出てきてくれた。
装着者がコントロール出来ていないような魔界の鎧なんていう物を、あの聖域に入れてしまうわけにはいかないからな。
「きゃああ、魔界の鎧ー。
え? これがただの子鎧なんですって?
他にもまだあるというのー!?
きーっ」
あ、神聖エリオン・アルファ様が発狂なさった。
そして、げんなりしたようなレインが、こう頼んできた。
「アルさん。
あの子を、ファルを連れてきてちょうだい。
今の弱ってしまっている私には、そいつの封印をするのは無理があるわ。
あの子と二人ならなんとかなるかもしれない。
あなたもあの子に魔力を分けてくださいね」




