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22-2 魔界の鎧の秘密

 先に軽く一杯始めている間に、血相を変えたミハエル殿下が転移魔法で飛んできた。


「よ~、先にやらせてもらってるよー」


 暢気にグラスを持ち上げて挨拶してやる。


「馬鹿者!

 私は飲み会をしにきたわけじゃないぞ。

 魔界の鎧の主はどこだ!」


 すると、グスタフがビールグラス片手にひょいと笑顔で挨拶した。

 世界を滅ぼしかねないような狂気のスキル、魔界の鎧持ちの二人が何気なく普通に飲み交わしているのを見て、さすがの疾風のミハエルもげんなりしたらしい。


「俺にも一杯寄越せ」


 とんでもない要件を突然耳にして大慌てでやってきたので喉が渇いていたのだろう。

 俺もさっき自分がやっていたから、よくわかるわ。


 ミハエルはビールを一気に飲み干した。

 この園の敷地内は魔法の空調が効いている。

 ビールで一杯やるにはいい感じだ。


 しかし、この人も段々と口の利き方が悪くなってきたな。

 普段の態度の方が猫被りなのか。

 俺とは逆なんだな。


 今日のメニューは和食で御願いしてあるのだ。

 次に「ドラゴン刺し」が出される。


 俺が作った魔法包丁の魔法の刃で、中の方の筋まで細かく切り、その上で山本さんが自分の魔力を用いて細かく叩いてある。

 のんびりした性格の山本さんは、あれだけの無制限魔力を誇りながら、そういうところにしか強大な魔力を使わない。


 更にそれは、俺の熟成インベントリでほどよく熟成させておいた物をオリハルコンの包丁で薄く削いだ物なのだ。

 超高価にして希少な無敵の魔法金属オリハルコンさえも、この山本さんにかかっては只の良く切れる包丁に過ぎない。


 こいつは山本さん特製の出汁醤油で生姜を添えて頂くのがベストかな。

 山葵醤油でも悪くはないものだ。


 今日はドラゴンのフィレと尾の身のセットで。

 皿にはドラゴンの生ハムが、くるりと花弁のように象って添えてある。

 一緒に飾ってあるのは黄色の菊の花だ。

 こいつも絶妙な味付けがされてあって食べられる。


 俺はもう一杯ビールにしてから、日本酒を冷酒でいただく事にした。

 薄い色合いにキラキラと輝く、日本酒用の切子グラスで。

 こいつは確か日本で一番有名な一流メーカーの製品だと思う。


 透明でスモークがかかった奴が俺の好みなのだ。

 これに注ぐ美味しい大吟醸が無いのが非常に惜しまれる。

 何故あれを異世界に持ってこなかった、俺。

 自宅に買って置いてあったのに。

 さすがに山田錦の米は持ってきていないから、大吟醸は作れぬ。


 一杯引っ掛けて人心地が付いたものか、ふうと溜め息をついてミハエルが切り出した。


「君なあ、私は酒を飲みに来たわけじゃないんだぞ?」


「でも、そいつは飲みに来たんだが」と、顎でグスタフの方を示唆する。


 それを受けて、にっこりと笑うグスタフ。


「お前らな……」


「だから、ちゃんと陛下に言って、あんたも呼んでやっただろう。

 そっちが忙しい時期だから、あんたは呼ばないで二人で飲んでいてもよかったんだぜ」


「馬鹿を言え。

 話はきっちりと聞かせてもらうぞ。

 大体、何でそいつが野放しになっているんだ」


「さあ、俺もそれが不思議で堪らんのだが。

 まあ、そいつに関しては飲みながらやろうよ。

 俺もここのところ、展開しんどかったしさあ」


 そしてグスタフは、鎧を付けたままの手で器用に切子グラスを持ち、これまでの話を語りだした。

 彼は貴族家の出身で、なんと帝国の騎士だった。


「俺は、よんどころのない事情で魔界の鎧の装着を受ける事になった。

 特殊な方法により、鎧の力を受け継いだ形となったのだ。 

 あと、オリジナルには子鎧を作る能力があるという。

 帝国でオリジナルから作られたその数は十。

 俺の物は、ただの子鎧に過ぎん」


「なんだとっ!」

「おいおいおい」


 思わず椅子を蹴った、俺とミハエル殿下。


「ちなみに、そのオリジナル魔界の鎧は今俺のところにスキルとして在るぜ」


 今度はグスタフが椅子を蹴った。

 なんだか全員、立ち飲み状態になってしまったな。

 そして一頻り睨み合った後で椅子を拾って全員揃って座り、気持ちが落ち着いてからグスタフは語った。


「だが魔界の鎧を起動した時のあまりにも厳しい反作用に耐えられず、矢狂った俺に駄目元の実験台として、ある物が与えられた。

 それが、この厄介な特質の鎧なのだ。

 俺にはこれを着るしか選択肢は残されていなかった。

 俺の場合は上級貴族の出だったからな。

 それで特別にこいつが与えられたのだろう」


 なんと、そいつは武の作らしい。

 鎧に刻まれている「銘」が船橋武作になっているのが、さっき立った時、何気に見えた。

 よくあるような四角い印の中に漢字で名が入れられている奴だ。

 漢字で作られた銘なんて、この世界じゃ俺達稀人以外は誰も読めんのだろうな。


 初代国王作のチート作品が、他所の国というか敵国に流れているじゃないの。

 まあ千年も経てば国の形さえ大幅に変わるレベルの話だしなあ。

 俺も気を付けないといけないな。


「これは魔界の鎧さえ封じる代わり、絶対に脱ぐ事は出来ない。

 脱いだが最後、魔界の鎧は解き放たれ恐ろしい惨劇に発展する」


 それを聞いて、俺の顔色がちょっと悪くなった。

 何故かというと、アントニオのAランク試験で最後の手段としてグスタフから封印の鎧を剥ぎ取るつもりだったので。


「実験台で死んだ人間は七人。

 俺を除き、鎧の持ち主はまだ二人いる。

 何故か、そいつらは生き延びた。

 そして帝国からも忽然と消えた。

 そいつらは手練れのようだったが、まだ子供のような年だった。

 おそらく今も生きているのではないかと思うのだが。


 不幸な生い立ちなどに付け込まれ、そんな目に遭わされて、世の中を恨みきって復讐を企てているのかもしれない。

 あれはそんな目だった。

 鎧の装着とは別の手段を使われたらしい。

 帝国は入手した魔界の鎧で、兵器として実用化するために色々と実験していたのだ。


 だが、結局兵器化は出来なかったようだ。

 あれはそう簡単に扱えるような代物ではない。

 もし兵器化出来ていたら、さしものアルバトロス王国も一巻の終わりだったろう。

 いや、下手をするとこの世界の全てすらもな」


「うわあ」


「ちなみに、アントニオのAランク試験の決勝戦に登場したアンデッドは、その死んでしまった装着者の成れの果てだ。

 他の六体は装着者の死と共に即時消滅した。

 何故かあれだけは、そのまま消滅してしまわずに、あの半端な状態で残ってしまったらしい。

 あれの呪いを受けて本人は死亡したが、子鎧本体ではなく、その消滅寸前の究極に高まった状態の呪詛と死者が適合してアンデッド化したのではないかと予測されているが、本当のところは誰にもわからん。


 さすがに、あれは帝国も持て余していたんじゃないか。

 あんな物が逃げ出したら、また大惨事もいいところだ。

 上手い事あれを処分出来たので、連中もホッとしていたのかもしれん。

 あるいはアンデッドになってしまった被験者本人すらもな」


「う、道理であれが無茶苦茶に手強かった訳だ……普通、あんな奴はいないよな」


 グスタフの話を聞いたミハエルは物凄い顔をしていた。

 ああ、俺も頭が痛くなってきたな。

 こんな厄介な物が後二個も野放しで、しかも帝国からも消え失せていただなんて。


「お前が戦った戦争で帝国が敗北し、ニールセン侯爵も死んだので何かこうしがらみが消えたような感じでな。

 Aランクになったのを報告がてら、なんとなくここへ顔を出したのさ」

 

 グスタフは、さばさばした感じにそう言う。

 彼の存在は第二皇子派が秘匿していたので、表向きは存在しない事になっている。


 殺してしまえば消えるとはいえ、せっかく本人の意思で封印されているものを、へたに刺激しては薮蛇になる。

 そのままグスタフが寿命を迎えてくれれば、それで何事もなく災禍は免れるのだから。

 その存在を掴んでいる国もあるらしいのだが、敢えて放置されていた。

 うっかりと手を出して暴発でもされたら堪らない。

 万が一の事があった場合には、その事実を暴露して帝国の責任を追及する構えだったらしい。


 グスタフの話によれば、子鎧は宿主が死んでも移動せずに消滅するだけだというし、再び再生する事も出来ないらしい。

 まあそれが出来るくらいなら、とっくに数が補充されているわな。

 だが、俺も冷酒を味わいながらそれについて考えてみた。


「なあ、俺はこんな鎧を発動する気は無いんだけど、このまま俺が寿命を全うしたらオリジナルの鎧はどうなるんだ?」


 グスタフも考え込む風でやや首を捻ると、こう語った。


「どうなるんだろうな。

 まだそんな例は報告例が無い筈だから。

 高齢のニールセン侯爵があのままだったのなら、そいつが見られたのかもしれんが。

 その時は魔界の鎧が解き放たれていたのかもしれん。

 そして、次に何者のところへ辿り着くのか」


 ミハエルも青い顔でじっと俺を見つめている。

 そ、そんなを顔をされてもなあ。


 今の若返った俺って、自分でも残りの寿命がどれだけあるのかよくわからないんだし。

 今のところ、死にそうな気配はまったくないのだが。

 むしろ、地球にいた頃の方がよっぽどカウントダウン的な状態だった。


 もし再生で寿命が伸ばせるのなら、最悪はこの俺もあの親鎧と共に生き続けるなんて事も想定せねばならんのだろうか。

 うーん、人魚の肉を食った八百比丘尼の最期は確か……即身成仏だっけ⁇

 うわあ、ありがくねえ!


 そろそろ、少し御腹に溜まるものが欲しい頃だなと思い、傍で給仕してくれていた山本さんにちらと視線を送ると、にっこりと素晴らしい笑顔が返ってきた。


 そして彼は、いそいそと鼻歌交じりに厨房へと戻っていった。

 まあこの世界の一大事も、食い物関係一筋の彼にとってはあまり関心の無い話題だしね!


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