22-1 その男グスタフ
そいつは、いきなりやってきた。
ケモミミ園は今クリスマスの準備で非常に忙しい。
そのせいか、何気に俺もその気配を見過ごしていた。
ん?
忙しく立ち働く俺は、視界の隅に「そいつ」の姿を認めた。
「よ~。
なんだ、グスタフじゃないか!
どうしたい、こんな年末に」
そこまで言って、俺はリモコンで一時停止ボタンを押されたかのように硬直した。
「グスタフ! お、お、お、お前~」
俺は大慌てで襟元の緊急通信機で非常事態の号令をかけた。
「エド!
第一級避難命令だ。
子供達を全員退避させろ~」
警報サイレンが、けたたましく鳴り響き、避難放送が入る。
「敵襲警報! 敵襲警報!
本園は敵の襲撃を受けた。
これは訓練ではない。
保安要員は速やかに非戦闘員の退避を。
職員は子供達を速やかに誘導せよ。
敵襲警報! 敵襲警報!
本園は敵の襲撃を受けた。
繰り返す。
これは訓練ではない」
そして放送は限りなくリピートされていく。
耳を劈くようなサイレンの大音響が、けたたましく幼稚園中に鳴り響き続ける。
それに加えてアルスと真理を緊急呼び出しする。
二人共、即座に転移魔法で跳んできてくれた。
アルスは既に自分の特殊能力を展開しだしており、『鎧男』の拘束を開始している。
しかし、鎧の効果でそれも弾かれてしまっているようだ。
俺はとっくに魔道鎧を最大出力で纏い、ゴーレム部隊を展開している。
そして俺の手には精霊砲があった。
衛星に搭載したピンポイント兵器ではない高出力砲のライフルである。
既に精霊を召還してライフルに装填済みだ。
一応、対策だけはとっておいたのだ。
「グスタフ。
てめえ! なんで魔界の鎧なんかを纏っている!」
事態は急展開だ。
あの死闘、再びなのか。
よりにもよって、このケモミミ園が魔界の鎧相手の戦場になるとは!
しかも、今回は魔界の鎧持ち同士の。
さすがに俺の方はあれを使うわけにもいかない。
だが相手は確実に俺よりも圧倒的に戦闘巧者な実力者なのだ。
ここはアルスと彼の能力だけが頼りだ。
だが奴は俺の反応に首を傾げ、ひょいと右手の平をこちらへ向けた。
あれっ、なんだ?
「あー、言いたい事はわからんでもないのだが。
その様子だと、お前も魔界の鎧について何か知ったのか?」
「ど、どういうこった」
「俺は別にこれを隠し持っていたわけじゃない。
これは以前から持っていたのだが、お前が気付かなかっただけだ」
「ええーっ。
なんじゃそりゃあ~」
グスタフの話によると、魔界の鎧は例の鎧によって封印中なのらしい。
普通は気配さえ漏れないため気付きもしないはずだが、と。
散々あの悪魔の鎧に振り回された俺には、どうやら魔界の鎧の存在がわかるようになっていたらしい。
何しろ、文字通り体で覚えたっていう感じだからなー。
「それはいいけど、いきなり何でうちに来たんだ?」
いや、全然よくはないけどな。
流れでついそう言ってしまった。
「何を言っている。
そのうち一杯飲ませてくれると言っただろう。
ようやくAランクに上がれたんで、報告がてら、お前と飲みに来ただけだ。
俺も、お前にAランク試験の御祝いを奢らせてやると言ったのだしな。
こっちはお前の御蔭で二回もAランク試験を敗退させられたんだ。
たまには愚痴くらい聞いてもらおうか。
その代わり、魔界の鎧に関する話も聞かせてやろう」
そう、こいつは俺とアントニオのAランク試験の時に煮え湯を飲ませてやった、あの物理攻撃も魔法攻撃も通用しない不思議な鎧を着込んでいた男だった。
そんなこんなで苦労はしたのだが、今はAランクまでなんとか上がれたらしい。
今回は組み合わせに恵まれて、堅実だが勝ちきれないタイプだった奴もようやく日の目を見たという。
実力は折り紙付きなのだから文句なしの昇格だった。
ギルドとしても、こういう手堅い実力の人間を上のランクに押したいのだ。
溜め息を吐いて、俺は鳴りっぱなしの警報を解除して子供達を呼び戻した。
思えば、今回はセブンスセンスの警告はなかった。
かといって、あの呪いの鎧がやってきたのだから退避させないわけにはいかなかった。
そういや俺のAランク試験の時に、こいつに対してセブンスセンスからの超激しい警告があったんだったけな。
その割には何という事も無く俺はこいつに勝てたので、逆に首を捻りまくる展開だった。
あれは、そういう事だったのか。
くそう。
わかるか、そんなもん。
俺のセブンスセンスはいつもシンプルな物言いで、人間みたいにはっきりと物を言ったりしないからな。
そもそも言葉で言ってくる事は少なく、それとなくといった感じに知らせてくるとか、または実力行使という事で体を勝手に動かしたり強烈な衝動を伝えてきたりする事の方が多い。
この世界に来てからは少し饒舌な感じなのだが。
その一方で子供達は大はしゃぎだった。
突然の避難放送がドキドキのサスペンスだったらしい。
「癖になりそう~」とか言っている奴もいた。
チビ達が鎧男を取り囲んで、その鎧を遠慮なくツンツンしている。
お前らは知らないだろうけど、それで封印している物は、本来ならば持ち主を幽閉するか殺すかしないといけないほど危険な代物なんだからな。
しかし、こいつは何故幽閉されずに世間をうろうろしていやがるのだ?
解せぬ。
どうしようもないので、国王陛下経由で話を付けてミハエル殿下を呼んだ。
『魔界の鎧出現』の報を添えて。
この会食の料理人には山本さんを指名する。
まあ、とりあえず一杯だな。
ああ、びっくりした。
俺もだいぶドワーフ達に毒されているのか。
いや? そういや日本にいた頃から大体こんなもんだな。
日本で世捨て人になる前は、酒を飲んでいるか仕事をしているかのどちらかだった。
それを思い返すと、それはまたそれでちょっと頭を抱えたくなってきた。
ケモミミ園の中はクリスマスの仕度でごった返しているので、屋外にテーブルと椅子を設定した。
これはアルバ王宮の備品からコピった一流品なので、なかなかに趣味のいい逸品なのだ。
ここの気温くらいは魔法で簡単に調節できる。
エアコン魔法のセッティングは、まだアルコールの入っていない飲み会初期モードにしておいた。
とりあえずコースは、お通しである蟹の解し身のポン酢仕立てからだ。
メニューは、まあ適当に御任せで美味しい物を出してもらう事にした。
飲み物は、まずビールからだ。
無駄にドタバタしたので物凄く喉が渇いていた。
今日は真理も料理の助手についてくれている。
日本にいた頃は仕事で忙しい武に代わって、小六の頃から真理さんが夕食の支度とかをしていたそうだ。
だから真理も武から相当仕込まれている。
何故それをもっと早く言わん!
まあ、本人は普段御飯を食べないからな。
「誰かのために料理をするなんて久しぶりね」と言って、少し嬉しそうにしていた。
グスタフがどんな風に御飯を食べるのかなと興味津々だったのだが、鎧の面を上げて顎のパーツを取り外していた。
飲食の方法が意外と普通でがっかりした。
見える範囲で顔だけを見ると、なかなか男前な感じだな。
むしろ爽やかな感じすらする。
普通、爽やかな好青年が幼稚園へ愚痴を溢しには来ないけどなあ。
パーツを外しても特に効果が減ったりはしないんだな。
俺なんかだと、外せる部品とかはうっかりと無くしそうだ。
まあ無くしたら自分で作るけどさ。
というか、最初からコピーで予備部品を作っておけば事足りるしね。




