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21-5 栄光のトーヤ

 それからというものの、ドワーフ共がミシンにかかりきりだ。

 色々なパーツに挑戦しては無残に散るという行為を繰り返していた。

 だから、とんでもない精度が要ると言っておろうが。

 今のこの世界の技術水準で考えれば非常に厳しいものがある。

 そもそも、この国に工業規格みたいな物自体がないんじゃないのか?


 親方は針に挑戦しては砕けるを繰り返していた。

 いや、そこが一番難しいところなんだが。


 トーヤめ、また要らん事を始めおって。

 この国は最早再起不能なのかもしれん。

 どうしたもんかな、これ。


 仕方がないな。

 とりあえず、CKDキットでも組んでやるか。

 いや、まずはSKDから始めよう。


 俺がいた会社ではCKD、コンプリートノックダウンしかやっていなかったが、いきなりミシンのCKDは無理だろう。

 部品一つ一つを組み立てるのに等しいからな。


 ここはひとまずSKD、ある程度は部品がアッセンブリになっているセミノックダウンから始めよう。

 やらないと、この連中がいつまで経ってもこのまんまだ。


 これは技術拡散になるが、今やこの国はアルバトロス王国にとっても安全保障で重要な役割を果たしている。

 その辺を絡めて国王陛下と折衝するか。


 あとアントニオのところの縫製工場との絡みもある。

 売り先はアルバトロス王国から許可を受けたところのみ、サービスパーツの供給や修理もそれに準じるようにしておこう。


 どうせドワーフどもは、ミシンを作るだけ作れれば満足するのだし。

 後は割とどうでもいいのだろう。

 よく商売になっているな。

 きっとドワーフの女の人がしっかりしているんだ。


 それを提案したら親方が飛びついてきた。


「それだあっ!

 是非それで話を進めろ。

 いや俺も一緒にアルバトロスまで話をしにいこう」


 などと言っているし。

 呆れた。

 日頃はあれだけ人の話を聞かないくせに、こういう時だけ……。

 窓口はミハエル殿下にしておくからな~。


 親方があまりにもせっつくので、その場でスマホを鳴らして国王陛下に話をすると、爆笑してOKしてくれた。


 大陸中心に位置するドワーフの国と重要で大きな関係を結ぶという、大きな安全保障問題が一つ片付くのだから、そう悪い話でもないという事のようだ。

 普通だと真面に話すら出来んからな、この国。


 一旦電話を切って待っていると、ミハエル殿下から電話がかかってきて迎えに来いという。

 彼も舌舐めずりをしている気がする。

 先日は、たっぷりと煮え湯(酒)を飲まされたからなあ。


 早速ミハエルを連れてきたのはいいが、親方は相変わらず人の話を聞いていない。

 そのSKDというのを早くやらせろと、もうそればっかりを一方的にまくしたてている。


 さすがにムカっときたのか、ミハエル殿下がかなり無茶な要求をしたのだが、そんなものはそれでいいから早くミシンを作らせろと親方が熱弁をふるっている。


 本当にいいのか……それで?


 とにかく、ミシンについては全ての権利がアルバトロス王国に帰属する。

 輸出・販売・部品販売・修理にいたるまで一台単位でアルバトロス王国からの許可が必要、しかも価格・関税なども全てアルバトロス王国が決める。

 ミシンは戦略物資扱いとし、アルバトロス王国の定める基準に反する国には一切の輸出が不可能。

 更に以後、条件については全てをアルバトロス王国のみが好きに改定・定める事が出来る。


 おいおいミハエル殿下ってば、さすがにそれはやりすぎじゃねえの?

 しかも一台単位の許可って、お前。

 それって絶対に自分で自分の首を絞めていないか?

 交換部品もあるんだぞ。

 決済書類の枚数が……。


 まあやりたいなら好きにすればいいんだけどさ。

 俺はもう知らないからな~。

 責任は自分(の仕事量と体力)で取れよ~。


 やっとミハエル大先生の許可が下りたので、ドワーフは全員で万歳三唱モードである。

 乾杯ムードでミハエル殿下を宴会場に連行しようとしたので、「グランバースト卿、後は御願いしますね」と言い捨て、ミハエル殿下は慌てて転移魔法で逃げていった。


 やれやれ。

 後はいずれCKDへと移行する話を詰めねばならんのだが。

 今、この世界でミシンの構造や仕組みに一番精通している人材が実はこのトーヤだったりする。

 日本のミシン屋さんの跡継ぎなのだしな。

 組み立てもバラシも自由自在だ。


 俺も作る方は得意なのだが、ミシン自体に関してプロみたいに精通しているわけじゃない。

 送ってもらったデータ通りに部品を製造し、アイテムボックスの機能で合成して作っていただけだし。


 葵ちゃんも縫い方には精通しているのだが構造に詳しい訳ではないし、あの人はメカに弱いからな。

 そのあたりは吸収力と好奇心でいっぱいの子供に敵うはずがない。

 飲みながらそんな話をしていたら、親方がいきなり真剣な面持ちで書類を(したた)め、俺に突きつけてきた。


 何々?

 トーヤをこの国の国家特級技師に任命するとあるな。


「ドワーフの国家特級技師って一体なんだ?」


 だが、一緒に飲んでいた宰相さんが(この人って只の親方のパシリなんだと思っていた)何か感動して叫んでいる。


「凄い。

 これはもう、エルドア王国史上最年少の偉業でありますぞ!」

 

 どうやら、この国で最高の技師に与えられる称号らしい。

 うーん……うちの子はまだ幼稚園児なんだけれども。


 もう好きにしてくれ。

 トーヤも幼稚園優先だからな。

 あ、もうすぐ小学校か。

 そろそろ転移の腕輪をやってもいいかな。


 いや、まだ野放しにするのは危険過ぎる。

 全世界を股にかけて、あれこれとバラシまくりそうだ。

 御伴に誰をつけようか……。

 アルスにでも相談するか。


 だがトーヤ自身は国家特級技師就任を、軽く「いーよー」みたいなノリでOKした。

 まあ本人がいいと言うならいいけどなあ。


 さすがに頭が痛いな。

 ちょっとしたプチ留学のつもりだったのに、どうしてこうなったものやら。


 女将さん、もとい王妃様も笑っている。

 ミシンが手に入るので嬉しいのだろう。

 後は多分、多少は金勘定も入っている気がする。

 まあ、そう黒いような雰囲気は感じないのでいいけれども。


 なんというか、「食っていければいい」みたいなニュアンスが感じられる。

 宰相に訊けば、この二人は凄いおしどり夫婦らしくて。


「例え何か不測の事態で国を失っても、旦那が好きな仕事を出来ていて、自分があれこれと切り盛り出来ていればそれでいいのです。

 そうなったらそうなったで国民も皆好き勝手に仕事をしていくだろうから。

 もちろん、そうならないように『女将さんが』気を使ってはいるのですがね」


「うーん、いいのかそれで」


 だが宰相さんは笑ってこう言った。


「それでいいのですよ。

 ドワーフなんて昔からこんなもんです」


 とにもかくもトーヤの留学は一旦これでケリをつける事にした。

 まだまだ、この国とは付き合っていく事になるのだしな。

 トーヤ本人がマイペースで飄々としているので、もう俺も気にしない事にした。


 そういや俺の甥っ子もこんなもんだった。

 トーヤと似たような性格だったが、大人になったらいつの間にか一流企業の立派な技術者になっていたわ。


CKD・SKDに関しては、私らの世代では小学校高学年の社会科の授業で習ったと思うのですが、最近は習わないのでしょうかね。

「CKD・SKDと言われても説明がないと読者に通じない」という人がいました。

進出国での現地生産が進んだので減ってきたという事もあるのでしょうが、私が勤務していた会社では普通にCKDをやっていました。

ゆとり教育であれこれと学習する内容が省略されたのでしょうかね。

輸出が盛んな製造業では普通にやられている事だと思いますが。

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