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21-4 まずは大物から

 トーヤは、昨日からの念願だった鍛冶場に入っている。

 親方の顔も嬉しそうだ。


 もう、わくわくの止まらないトーヤ。

 そして轟々(ごうごう)と炉の燃え盛る鉄火場に息を飲むトーヤ。

 じっと鍛冶場の様子を見つめるブラウンの瞳。

 異様に太く力強いドワーフの腕により、金床へ叩きつけられるハンマーの群れ。


「凄い音が鳴っているが、お前ミミは大丈夫なのか?」


「だいじょうぶ。

 音の聞こえ方は、ちゃんと調節できるの」


 そうだったのか!

 初めて知る獣人の秘密。

 大丈夫か、ケモミミ園園長。


 トーヤも、しばらくは見学のみだ。

 いろんな人の所を見て回る。


 その後で、なんだか小さな鍛冶セットを出してくれる。

 獣人は力が強いので、見かけよりは頑張れそうだが、どうだろうか。

 ガンガンと見様見真似で一生懸命に叩いてみるトーヤ。

 だが、なんだか凄く熱心に叩いている。


「お前、豪く熱心だけど何か作りたいものでもあるの?」

「うん、これ」


 そう言ってトーヤが取り出したものは、なんと『ミシン』であった。


「うっわあ。

 さすがにそれは、ちょっと無謀じゃないか?

 そいつは超精密機械だし、最初はもうちょっと手軽なものにしない?」


「いやっ、僕はミシンを作りたいのっ!」


 もう、頑固だなあ。


「そいつはなんだ?」


 だが、その虎の子の機械は親方の目に止まった。


「これはねー、こうやって使うの」


 トーヤはミシンを使って、ささっと雑巾を縫い上げた。

 それを見た親方は目を瞠る。


 いつの間にか他のドワーフも集まってきていて、その子供用のミシンを矯めつ眇めつ弄り回している。

 ハンニバル大王様のこんなに真剣な目は今まで見た事がない。


「おい、これは一体何だ?」


「これはミシン。

 正しくはソーイングマシンだ。

 俺の国で使っている縫い物をするための機械だよ。

 もうこいつは俺の国じゃあ骨董品扱いなんだぜ。

 こんなもの、電気の来ないような辺鄙なところでしか使っていない」


 あるいは趣味の品としてだな。

 内部の機構は壊れてしまっていても、シックな御店の中に飾る御洒落なディスプレイと化しているような物まである。


 もう仕方が無いのでミシンについて親方に説明してやろうと思ったのだが。


「電気ってなんだ?」


 ……まず、そこからだわな。

 体で理解するようにサンダーを食らわせてやろうかと思ったのだが、苟も相手は一国の国王なので、さすがにそれは断念した。

 まあこいつらは初級魔法のサンダー如きでどうにかなるほど柔な連中ではないのだが。


「知らなきゃ知らないで済むようなもんさ。

 この世界で言う魔力みたいなもんだ」


「ちょっと、そいつを弄らせろ。

 こいつは、もっとないのか?

 それにこれでは小さすぎる」


 仕方がないので、標準の家庭用タイプをドンっと出して並べてやる。


「生憎とドワーフ用の大型サイズはないから、そいつで我慢してくれ」


 そんな相撲取り専用みたいな物、地球のオリジナルミシンにだってないわ。

 そんな物を誰が買うんだよ。


 足踏み部分は間隔が狭くて両足が入らないだろうから、ペダルは片足で踏んでもらうしかない。

 奴らならそれでもパワーは十分だろう。


 仕方がないな。

 今度、こいつら用に幅広タイプのミシンを作ってやるとするか。

 普通はそんな偉丈夫がミシンに取りつくような事はないので、本来なら必要ないのだがな。

 ドワーフの女性だって普通サイズの物が使えるぞ。


 みんな三度の飯よりも好きな鍛冶を放っておいて、一斉にミシンに取り付いている。

 それはドワーフを見慣れている人にとっては異様な光景に映るだろう。


 トーヤが手馴れた手付きで大人用ミシンを分解していく。

 ミシンがあっという間に手際よくバラバラになっていった。

 じ、実に手慣れていやがるなあ。

 手付きが鮮やかな事この上ない。


 危ない、危ない。

 もうやたらな物はその辺に置いておけないぜ。


 そして、さっそく部品に取り付く筋肉達磨達。

 あと、学習用に中身の機構が見えるようにカバーを切り取ったタイプも出してやる。

 それからミシンの動きを教えるための機構モデルの模型も出していく。


「うーむ」


 それらを見て唸る筋肉達磨の集団。

 相変わらず暑苦しいな。


 そこへ王妃様達が寄ってきて、話を聞くと目を輝かせてミシンに取り付いた。

 女性達にミシンを取り上げられて、指を咥えるドワーフの男ども。

 本来はそれが正常な姿なのだ。


 いいけど、お前ら。

 仕事しろや。

 それだと、うちの子の留学にならんだろうが。


 だが何か専用の部屋が用意されて、親方がミシンを出せという。

 まあいいけど、ミシンはタダじゃないからなー。


 機械の動きを学ぶために、ドワーフの男共全員が一斉に縫い物を始める。

 なんとも異様な光景だ。

 日頃は鍛冶場に篭り切りの筋肉達磨共が、背中を丸めてちまちまとミシン仕事をしている。

 昔ながらのちっぽけなミシン椅子が可愛そうだ。

 たっぷりと俺の強化をかけてあるのだけれど。


 あれって、なんであんなに小さいんだろうな。

 殆ど小学生サイズだ。

 かなりしっかりした造りにはなっているんだけど。

 あれもミシンの下の足踏み部分の上に収容出来るようになっているからじゃないかと思うのだが。

 うちはそうしていた。


 どうでもいいけど、こいつら初めて使うミシンをさらっと使いこなしているよね。

 まあ最初にやり方は教えたんだけどさ。

 これを作った俺だってすぐには使えなかったというのに!


 こんな骨董品のような物は子供の頃に弄ったなりだからな。

 小学校高学年の頃に家庭科の授業で雑巾を縫ったのが最後じゃないか?


 部品や模型も既にきちんと展示されているし。

 ドワーフどもは、もうすっかりミシンに夢中だ。

 おーい、鍛冶仕事しろよー。


 仕方がないのでウイスキーの瓶を開けて、トクトクトクとグラスに注いでみた。

 皆クルっと振り向いて、しばらくグラスを睨みつけていたが、そのまま前を向いてミシンに向き直った。


 おお、これはかなり重症だな。

 仕方が無い、こいつは自分で飲むとするか。

 氷を作ってカランっと音を立ててグラスに放り込むと、全員がこっちをチラっと見た。


 その「氷なんか入れるんじゃねえ、酒が薄くなるだろうが」みたいな視線はやめてくれ。

 お前らみたいに、ウイスキーみたいな強い酒を原液で瓶ごと流し込んでいる方がおかしいんだよ。

 西部劇に登場する荒くれ者だって、ウイスキーなんかはスキットルの容器に入れてチビチビとやっているだけだというのに。


 とにかく「動きは体で覚えろ」みたいな感じなんだろうか。

 止む事のないミシンの作動音の群れをBGMに俺は一人で飲んでいた。

 うーん、こういうのもなんだな。


 やがて、どこかの国の人が「謁見」にやってきた。

 とうとうミシン作業場が謁見場になってしまった。


 御使者様? が面食らっている。

 てっきり鍛冶場へ連れてこられたと思っていたんだろう。

 しばらくボーっと見ていたが、何をやっているのか気付いて彼らもまた驚愕した。

 どうやら使者達も質問をしたいらしいが、ドワーフ達の醸し出す雰囲気がそれを許さない。


 というよりも、そいつらを放っておいていいのか?

 謁見させるために呼んだんじゃないのかよ。

 本当に困った親方だな。


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[気になる点] 仕方がないので、標準の家庭用タイプをドンっと出して並べてやる。 「生憎とドワーフ用の大型サイズはないから、そいつで我慢してくれ」  そんな物、地球のオリジナルにだってないわ。  足踏み…
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