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21-3 魔界の鎧

 この日は、色々案内してもらった後に宿舎へ案内されて晩餐会となった。

 背の低い子供がいるので、俺が出したローテーブルの前に直座りだ。

 本来ならば苟も名誉貴族、いや血族公爵扱いの名誉王族たる者が他所の国でこんな無作法はありえないのだが。

 そもそも、子供の留学なんかで王族と食卓を囲んだりはしない。


 なんていうか、晩餐というより晩御飯な雰囲気だな。

 こっちの方が気楽なんで助かるけど。


 トーヤは王妃様と一緒に御飯だ。

 俺は当然、おっさん同士で親方と一緒に飲むのだ。

 最早これが当然の流れとなりつつある。

 俺もこういう流れが嫌いなわけじゃない。

 むしろ日本では、これが当然といった風情だったのだから。


 まずはビールで乾杯だ。

 王妃様も軽く一杯御付き合いしてくれる。

 ドワーフの女性もいける口なのだが、公式の場で男みたいに飲みまくったりしない。

 そもそも女性は基本鍛冶場には入らないので。


 中には男同様に鍛冶場へ入り浸り、その後も飲みまくったりする剛の者もいるが、それは普通に許されているので別に問題ない。

 ただ、それが一般的ではないので、王妃様もドワーフについてよく知らない人から「貴女は鍛冶場に入らないの?」などと訊かれると苦笑するらしい。


 御腹がくちくなってトーヤがダウンしたので、俺が抱えてベッドへ連れていく。

 御風呂に入れたかったのだが、ダウンしてしまったのならしょうがない。

 トーヤは部屋でゴーレムに見させておいて、俺は一人で風呂へ行く。


 風呂場には筋肉達磨が勢揃いしていた。

 風呂上りにまた美味いエールをというわけらしい。


 大変むさくるしいが、回れ右をするつもりはない。

 それくらいなら筋肉達磨を放り出せばいいのだ。

 さすがに客先でそんな失礼な真似はしないけど。

 まるで相撲部屋の御風呂みたいだ。


 軽く風呂上がりのビールをやりながら、親方と話の続きをした。

 話題は例の魔界の鎧についてだ。

 さすがに豪胆そのものの親方も、あれの話に関しては渋い顔だったが、国王として色々見聞きしたことを話してくれる。


 帝国での魔界の鎧の一件は既に各国に漏れ伝わっており、帝国の新皇帝も先代からの負の遺産には頭が痛いものらしい。

 水面下で確認する動きも相次いでいたようで、中には真っ向から帝国を非難する動きもあったという。


 そして親方も魔界の鎧に関してこのように語ってくれた。


「あれは災厄そのもの。

 一体どこから現れたものなのかすら見当もつかん。

 帝国の前身である国が生み出したとも言われているがな。


 今や歴史の中の暗黒部分として、一部の人間にしか語られない代物なのだが、今もなお実在していたとは実に驚きだわい。

 アルバトロス王国が、どうにかこうにか封印したと言われているが、それが何故今は野放しになっているのか。


 あれは、関わる人間の精神を負の影響下に置いてしまう代物よ。

 これを装着すれば普通なら死んでしまうのだろうが、以前に現れた者は見事に適合したらしい。

 そして多くの人間を負の影響下においた。

 時間が経つに連れ、その影響範囲や力は広がる一方で、止めどもなく大陸中に溢れたのだ。

 各国の重鎮も気が触れたようになり、鎧の主に従った。

 その主自身も、すでに正気を保ってはいなかったのだろう。


 全ての国家の王も軍部も、そしてSランクの冒険者までも発狂した。

 ただアルバトロス王家の者は、初代国王より伝わる魔導のおかげか正気を保ち続け、あれを主ごと封印した。

 どのように封印したのかまでは知られておらん。

 危険な内容だったのでアルバトロス王国が秘匿したのだろう。

 それ以来、あの鎧の噂を聞く事はなくなった。

 それはもう数百年前の出来事であったのだ」


 全然軽い話じゃなかった。

 俺はウイスキーに手を出す事にした。

 今夜は眠れなくなりそうだ。


 だが、ちょっと待て。

 主ごと封印?

 ニールセンは死んだけど、魔界の鎧は滅びていない?

 

「なあ、親方。

 鎧の主が死んだら鎧はどこへいくの?」


「何、宿主を殺した相手に憑りついて、そいつをまた呪うのさ。

 それが延々と連鎖していくから厄介なのよ、あの呪わしき遺物は」


 俺は思わずグラスを落としてしまった。

 それ、今俺のところにあるわ。

 さすがにそれは親方には言えなかったが。


 コピースキルじゃなくて、あれが本体だったのか。

 スキルリストに、ちょこんとさりげなく鎮座ましましていたから気が付かなかったぜ。


 俺の魔法PCの場合は、こんな非常識な物も普通にスキルリストに並べちまうんだな。

 さすがは『俺の中のあいつ』が作ってくれただけの事はある。

 あいつもやる事が相変わらずだなあ。


 普通は、幽閉・封印・殺す。

 そういう対応なのかあ。


「信じているぞ……」

 ミハエルの言葉が脳内で木霊した。

 マジですか。


 そういや、オルストンの爺やさんも使わなければいいと言っていたな。

 なんだ、脅かすなよ。


 親方に挨拶して、今夜はもう寝る事にした。

 ああ、びっくりした。

 ミハエルめ、ちゃんと色々な事を教えておいてくれよな。

 まあ秘匿案件で、あんまり言っちゃいけないんだろうけど。


 トーヤ君は実に可愛い寝顔で寝ていらっしゃる。

 ちょっと嬉しくなって、起こさないようにそっとミミとかもふってみる。


 まあ、この子達がいるんだ。

 俺は呪いなんかには負けない。


 いざとなったら、その場で対抗する魔法をすぐに作ってやろう。

 俺には八百万の神々と、あれからまた増えた二千万以上の精霊がついているんだ。

 不思議と地球で縁のあった神もいるのだ。

 あ、現存しているレインボーファルス親子もいたわ。


 それと、こっそりと宝物庫から頂いてきた「初代国王の遺産」も各種揃っているのだしな。

 相手が呪いだというなら、それなりに対処法はある。


 他者を呪うと言う事は、おそらく何者かの今際の際に世界を呪う想いのような物が、何らかの力と合わさって具現化したものだろう。

 もしかすると山本さんのようなスキル持ちだったか、あるいはそういう働きをもたらすような、なんらかのアイテムや魔道具があったものか。


 膨大な魔素と真っ黒に染め上げられた魂の奥底から絞り出すような呪詛の融合体。

 この世界では、そんなところだろうか。


 これはまた豪い物を飼う羽目になったもんだな。

 まあ『セブンスセンス』を飼う羽目になった時以来の大物だろうか。

 あの頃は俺もまだ地球の住人だったのだが。

 まだ若かったから、あんまり細かい事は気にしなかったしなあ。


 さすがの俺も顰めっ面だ。

 こういう時は寝てしまうに限る。



 翌日、起きてからトーヤ先生の張り切る事張り切る事。

「園長先生、早く行こう~」と小煩い。


 御狐様に服の裾を引っ張られながら食堂へ向かう。


「親方、おはようございます」


 すっかり弟子入り気分だな。

 まあ礼儀正しいのはいい事だ。


「おう。おはよう。

 今日は鍛冶場へ行くぞ~」


 朝っぱらからバクバク御飯を食べる小僧を見て、目を細める国親方。

 鍛冶は体が資本なのだ。

 朝飯は大事である。

 そういう事で、この国でも今では白米の御飯が採用されている。


 吞み潰された外交官の奴らなど、朝はダウンしていて姿も見せやがらないのだから。


 俺も当然の御代わりに臨んだ。

 親方も負けじと、御代わりのための茶碗を差し出す。

 よく見たら、御代わりをよそってくれているのは、なんと王妃様だった!


 割烹着もよく似合うね。

 王宮の人達から、女将さんって呼ばれていそうだ。


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