21-1 ドワーフの国へ
学芸会も無事終了し、後はクリスマスを指折り数えて待つばかりだ。
うちは日本でやるようなクリスマス発表会は特にやらないので、そのあたりは実にのんびりしたものだ。
強いて言うなら、クリスマスの準備は園をあげてみんなでやるので、そのあたりの成果が発表みたいなものなので。
色取り取りの折り紙を切ってから糊付けをして輪っかにしたり、ツリーに飾る色々なものを手作りしたり。
また、きらきらした各色のモールでツリーを始め、園内のあちこちを飾り付けしたりとか。
気の張らない集まりのパーティなんか、材料さえあれば、もう園児達が自分達で準備くらい出来そうだ。
御料理もサンドイッチのように簡単な物には挑戦させるつもりで、対象年齢五歳以上の料理教室を行っている。
という事で、このクリスマスまでの比較的暇な期間を利用して、かねてから考えていたイベントをやろうと思う。
それは園児の短期留学である。
今までも五歳以上対象で、社会見学へ行ったり講師を御招きしたりなどの行事は随時実施してきたわけだが、御泊りでの時間のかかる実習はやっていなかった。
この間の件でドワーフの国王と飲みながら話をして決めたので、記念すべきケモミミ幼稚園第一回留学はエルドア王国に決定した。
対象者は当然の事ながらトーヤ君で、引率は園長先生である。
クリスマスは学芸会と違って、大掛かりな舞台装置も大道具も不要なので、ある程度の物は作っておいたから俺がいなくても準備の方は大丈夫なのだ。
何か必要なら、こちらで作製して他の人間のアイテムボックスへ転送したり、あるいは転移魔法で一旦帰ればいいだけなので。
帝国とはもう決着が付いているので何の心配もない。
全てにおいて安泰である。
気になるのは例の魔界の鎧なのであるが、今のところあれに関しての情報は入っていないし、直接俺に因縁のある相手ではないので特に問題はない。
まあ、俺がその本体を持っているという事を除けばの話なのだが。
というわけで、早々にトーヤを連れてエルドア王国の王宮へ御邪魔する事にした。
一応、うちの国からは正規に出国したが、向こう側は相変わらず無人なので無視する。
手続きをしたくても、その係が誰もいないのだし。
久しぶりに車を出してドライブする。
だがトーヤときたら、こいつを分解したくて堪らないらしい。
車内であっちこっちを弄り回して、きょときょとしながら眺めているし。
車を出したのは失敗だったかな~。
そういや俺も子供の頃は車で遊びに行くと大はしゃぎで、運転していた親父に襲いかからんばかりの勢いで弾けていた。
親父の部下もいっぱい乗っていたのに。
いや危ねー。
当時はチャイルドシートは愚か、シートベルトの着用義務もなかったしな。
そういや誰もシートベルトを付けていなかったな。
あの飲酒運転や事故の常習犯だった駄目親父の運転なのに。
もしかしたら、みんな車に乗り慣れていなかったのかも。
単に時代的に気にもしていなかったのかもしれない。
当時は皆が乗用車に乗っているわけではなかったからな。
エルドアの王都までは五百キロほどあるので、地上ドライブはやめて車ごとフライで飛行する事にした。
空から見るのはまた違った興味があるらしくて、トーヤも窓に齧りついていた。
割となんの変哲もない風景なのであるが、空から見ればまた趣が違う。
本来ならトーヤも、まだチャイルドシートが要る筈の年齢なのだが、このボディは魔法による衝撃吸収効果などもあるため免除してある。
何かあったら転移魔法で逃げ出せるし。
転移も駄目、魔法も阻害となっても、衛星の時に使った重力系のスキルがあるので大丈夫だ。
さらに万が一に備えて、ハングライダーまで作って飛行試験済みである。
むろん、パラシュートなんかも作ってある。
パラシュートに使っている紐なんかもキャンプ用品のロープとして持ち込み済みなのだ。
やがて例の工房、もとい王宮が見えてきた。
面倒なんで、そのまま中庭に着陸してやった。
向こうも慣れたもので衛兵一人やってこない。
王宮のくせにいいのか、それで。
顔見知りのドワーフを見かけたので、挨拶して親方のところへと案内させる。
相変わらず親方は、鍛冶場で精を出しておられるようだった。
最近、こいつの事は国王と呼ばず親方と呼ぶようにしている。
絶対にそっちの呼び方の方が似合うと思うの。
「よっす。連れてきたよー。
うちのトーヤ君だ」
「おー、来たかー」
といいつつ、まったくこっちを向こうとしないので酒瓶を後頭部に向かって投げつけた。
奴は振り向きもせずに左手で受け止めて、ようやくハンマーを下ろした。
そのままだと蓋が開けられないからな。
そして奴は何も言わずに蓋を捻って、ゴクゴクと飲み干す。
ウイスキーを丸ごと一本なのに、飲みだすではなくて飲み干すだから困ったものだ。
「ふむ。
こいつは新作ブレンドか?」
「ああ、一応親方の感想を聞いておこうかと思って」
「まあまあだ。
しかし、オリジナルの酒が美味過ぎるからな。
だが、これも悪くない。
例の強制熟成という奴で作ったのか?
だが、酒は年月を経てこそ真の味わいも出るというもんだぞ」
だったら、もっとありがたがって飲めよ……。
「で、そいつは誰だ」
また始まったよ。
いつも、これだ。
「トーヤだ」
「そうそう、そうだった。
分解魔王なんだって。
宜しくな」
トーヤ君もしっかりと御挨拶をする。
「トーヤです。
今六歳です。
本日は宜しくお願いします、親方」
この国王、子供から親方と言われて豪く嬉しそうにしている。
もう正式呼称も、国王はやめて国親方とかにした方がいいんじゃないだろうか。
「じゃあ、さっそく鍛冶だ」
「待て待て。
まず案内からだ!」
油断も隙も無いな。
「おう。じゃあ行くか」
国王自ら、幼稚園児の研修の案内役を務めるようだ。
まあ今日は酒が一本入っちまったから、もう仕事をする気にならんのだろう。
うっかりとトーヤが酒を飲まされていないように気を付けないとな。




