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20-2 プログラム開始

 観客席には、御客さん達が詰めかけている。

 しかし、チビ達にはそれほど緊張した様子はない。

 来賓は顔見知りの人が殆どだからな。


 馴染みの王子・王女と御付きの人に、これまた御馴染みの王国騎士団の御歴々が来ていた。

 また、街の人達が応援と娯楽を兼ねて大勢来てくれている。


 まあ、元々幼稚園や小学校の学芸会ってそういうもんだよね。

 基本的には学校関係者と父兄が来るもんだ。

 後は来賓の方々がね。


「今からケモミミ幼稚園第一回学芸会を始めます。

 皆様、どうぞ御緩と御観覧くださいませ」


 園長先生の挨拶はサクっと終了した。

「この世界初」などという文言はどこにもない。

 この園長先生の挨拶はいつも短い。

 学校時代に先生、特に校長先生の話の長さにはうんざりしていたので。


 最初は御歌から。

 まずは小さい子の部からだ。

 みんな、わふわふとミミを揺らしながら並んで国王賛歌を歌う。

「英雄の歌」という奴だ。


 ここで言う国王というのは、もちろん初代国王の事である。

 式典の際などに騎士団などでもよく歌われる定番の歌だ。


 そして観客が驚いた。

 子供達は難しい歌詞も歌詞カードを見る事もなく歌い上げたので。

 まあ、単に丸覚えさせただけだけどね。

 これも御菓子で釣って歌詞を覚えさせたのだ。

 ポータブルプレイヤーで繰り返し歌を流して。


 却って子供だからこそ、そういうものはすぐ覚えるのさ。

 中には一発で覚えちゃう子なんかもいる。

 俺の子供の頃にも、そういう人がいたな。

 始まったばかりの番組の一回聞いただけの主題歌を、通学団で翌朝に集まっている時にもう完璧に歌っているんだ。


 続いて、大きい子の歌の部が始まる。

 これは少しオペラ仕立てにしてみた。


 一人凄い子がいるのだ。

 狼獣人の女の子で、五歳の子だ。

 種族と歳は同じなのだが、もちろんカミラではない。

 遠吠え出来るのもあって狼獣人の喉の性能は凄い。


 年長組は照明係や大道具係などの難しい作業にかかっているため、学芸会の主役は五歳児が中心だ。

 件の狼っ子だが、小さい子ながらなんていうかもう、殆どプロといってもいいレベルだった。

 子供のキンキン声でというのもまた一興だ。


 将来はこの道で食っていけそうだな。

 いつかフードコートの劇場で実習させてみようか。

 一曲歌い終わって、場面を変える度に大きな拍手が沸く。


 演奏が凄い子もいる。

 主に弦楽器でやっているが、なかなかのものだった。


 音楽は地球で著作権も切れている、著作権者が亡くなって七十年以上経った奴ばかりだ。

 それでも、こういう劇に使うとまだまだいける。

 外貨ならぬ円稼ぎのために地球の動画サイトに上げるので、著作権はチェックが必要なのだよ。


 FTTPなどの影響で、急に著作権者の死後百年先まで著作権は保護って言われると後で困っちゃうけどな。

 そこは既得権益という事でなんとかしてほしい。

 そういう話に関してはアメリカみたいに煩い国でも、そうつべこべと言わないはずだ。


 訴求法なんていう馬鹿げた代物は世界中どこでも認められないからだ。

 とわゆる「法の不遡及」という法律の大原則だ。

 法律の施行は施行日が大事だから、それを無視してしまったら、後だしジャンケンで何でもやってしまえるので法治国家として成り立たなくなってしまう。


 ラスベガスのダウンタウンにある古いホテルなんかは、カジノとホテルのセット経営に関する法律が変更されても、それ以前からある物件に関しては以前同様に既得権益が認められている。


 他の子達も少し難しい事をやらせているので、皆真剣そのものだ。

 職員さん達もフォローにかかりきりだ。


 あと音楽に特殊な楽器も導入していた。

 山本さんが趣味でやっていたグラスアルモニカ、あるいはグラスハーモニカと呼ばれる代物だ。


 これは特殊な形状のガラスの回転体を手でなぞって音を出す仕組みだ。 

 以前に俺が趣味で作っていたものを山本さんが発見して日の目を見たという。

 俺は自分じゃ上手に演奏出来ないんでね~。


 それぞれのコップに、各々決まった量の水を入れたコップで音楽を奏でるアレが、元の原理になっている楽器なのだ。

 もちろん、コップを棒で叩くのではない。

 それは、俺や子供達がやる分野なんでね。


 手の平でコップの上を撫でて音を出すのだが、あれは俺には難しい。

 一応音は出るけど音楽にはならないんだよね。

 だから本式に大きなガラス楽器を製作したのだ。


 あれも演奏次第で、独特な凄く綺麗な音が出るのだが、俺なんかは音が出さえすれば満足というレベルなのだ。


 なんといったらいいのか。

 とにかく不思議な音色を出すので、ここで採用してみたのだ。

 PCでサンプル音が聞けるサイトがあったような気がするね。


 水を入れたワイングラスのようなグラスの淵を手の平で回すようにして鳴らしてみるといい。

 なんとも言えぬような不思議で美しい音がする。

 自分でやってみて、普通のコップよりも、ああいう感じのガラス容器の方がよかった気がする。

 ちょっと手を水で濡らさないと駄目かも。

 演奏の映像では、そうしていた気がする。


 それを演奏しやすい楽器の形にしたものがグラスハーモニカなのだ。

 グラスアルモニカという言葉は発音で最初のHを取ったフランス語かもしれない。

 これは日本では作っていなくて、アメリカの会社なんかで作っている。


 これがまた結構お高いのだ。

 割れ物のガラスだから輸送にも気を使うし。

 バイオリンなんかでも輸送中の温度とかに気をつけないと、組み立てに使った膠が溶けてバラバラになってしまうらしいけど。


 超高価なストラディバリウスなんかでそれをやっちまったら膠が駄目になって、あれは確か再組み立てが出来ないはずなので、もう取り返しがつかない。

 組み立ては可能だろうが、あの美しい調べは二度と出ないものらしい。

 あの膠の再現は出来ないし。

 絵画なんかも、きちんと温度管理をしないと絵の具が溶けて輸送中に超高価な名画が豪い事になってしまう。


 フィナーレではみんなで一列に並んで歌った。

 道具係りの子も並んで混じって。

 観客席からは子供達に素晴らしい拍手が送られた。



 そして、いよいよ本番の劇が始まる。

 再び年長組は各自の持ち場へ配置についた。


 荒野を吹き渡る風の音をスピーカーで流す。

 こいつは俺が自分で本物の荒野にて録音してきた奴だから実に臨場感がある。

 魔法アンプのパワーは迫力のある快音を作り出してくれている。


 赤いライトで炎を表わして、担当する子供がナレーションを入れる。


「ここは、かつて今から千年以上も前にイシュタルと呼ばれた小国。

 そう、そしてここから物語は始まったのです。

 私達が住むアルバトロス王国の物語、初代国王の物語が。

 巨匠グレゴリーの描いた、『英雄の頂』の物語が」


 客席からほお~っと言う嘆息が漏れた。

 漢字たっぷりの? ナレーションの見事さもさることながら、この作品は古典名作であると共に少し扱いも難しい作品なので、まずその出だしの部分に感心してだ。


 建国記のファーストストーリーであるが故に、へたに弄れないのだが、かといって凡庸にしてしまうのもまた考え物だという。


 演出なども含めて、扱う者の力量が問われる本当に難しい作品なのだ。

 今回は俺が書いた脚本を、葵ちゃんが山本さんを助手に仕上げてくれた物なのだ。

 しかも最終的に俺が書いた部分が片鱗も残っていないわ。


 そして物語は続いていく。


 迫力のある男の子の声が聞こえてくる。

 とても幼稚園児とは思えないほど低くて太い豊かな声量だ。


 これは虎獣人のアンソニーだな。

 そういや、この子は最初にレミを拾って仲間にしていたグループでリーダーをしていた子で、この子だけはエミリオ殿下と同じ歳なので、本当なら小学校一年生か二年生相当なのだった。


 その分は少し大人びていて、小さい子には凄く人気がある。

 間違って、時々小さい子から「御父さん」と呼ばれている事があるが、そんな時に彼は目を細めてその子の頭を優しく優しく撫でてやるのだった。

 将来はきっと、いい御父さんになる事だろう。


「おお、なんということか!

 主神ロスは我らを御見捨てになったというのか。

 かつて、この世に存在した神聖エリオンさえも失われたこの世界。

 ロスよ、我ら迷える大地の子らを救いたまえ」


 ここで、ドンドコドンドコと激しい太鼓の音楽。

 太鼓をかき鳴らす子供達が実に楽しそうだ。


 しかし、この確かなリズム感は獣人特有のものか。

 地球でいえば黒人のバネとリズムに相当するレベルなのではないだろうか。


 間違っても盆踊りの世界の住人である日本人なんかには絶対に届かない、彼方の世界であった。

 音楽の世界に限らず、地球における彼ら黒人の積み上げてきた偉大な実績の数々について考えると、この子達も先が楽しみになるな。



 そして場面は変わり、一人の男が歩いている。

 いや、一人じゃないな。

 十人いる。


 いやあ、十一人いなくてよかった!

 あの十人しかいないはずなのに十一人いるという作品は、宇宙を股にかけた凄まじい波乱万丈劇だからな~。

 さすがに幼稚園の学芸会の演目としては如何なものか。 


 そして主役はいっぱいいるんだな、これが。

 それがよくわかっておらずに戸惑う、この異世界の観客達。

 まあわかんないよな、地球の幼稚園の学芸会事情なんてさ。


 たとえば桃太郎とかを演じる園児が大勢いるというあれだ。

 俺の子供の頃には無かった風習だよ。

 でも、さすがにちょっと人数を盛りすぎただろうか?


 そして一人ずつ順番に台詞を喋っていく。

 上手な子もいれば、たどたどしい子もいるが、みんな一生懸命だ。

 がんばれ。


 町の惨状に驚いた船橋武の心情を全員で表わしている。

 言葉・身振り・表情で、各人各様に英雄を演じている。


 グレゴリーの原作自体が芝居仕立てというか、そんなような物なので、こういう形で劇をやってもそんなには違和感がない。


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