20-1 スパルタ教育
日本人の人が見たら、このケモミミ幼稚園はかなりスパルタに映るだろう。
小学校でやるような事を平気でカリキュラムに組み込んであるし、中学校でやるような職業実習をやるケースも稀ではない。
そういう在り方にしてあるのは、この世界の厳しい現実があるからだ。
このケモミミ園の子供達の存在こそが、正にその生き証人だ。
通常、孤児院にて育った人族の子供達でも、満十二歳になったら出ていかなくてはならない。
この世界の成人は十五歳。
一般家庭の子供達は、その年までに進路を決め、それまでに親からあれこれと学ぶ事も出来る。
だが、彼ら獣人の子供達には難しい。
親を失ってしまっては社会が庇護してくれない。
孤児院にも入れずストリートチルドレン街道まっしぐらである。
その件で初代国王であった武を責めるつもりなど毛頭無い。
一人の人間が出来る事など、所詮は高が知れているのだ。
しかも千年も経ってしまったらなあ。
何がどうなってしまうものやら。
あいつのケモミミ子煩悩ぶりについては今に続く生き証人が何人もいるのだから、そんな話をするのは野暮っていうものだ。
俺も、俺の出来る事をするまでだ。
来年度から小学校を建立する。
それはこの世界初の偉業であり、建設などという生易しいものではない。
完全にシステムごとの創設なのだ。
そして、その先は三年間の専門課程を予定している。
それで成人の歳に達する。
その先に専門学校としての冒険者養成学校を作ってもいいと思っている。
中学相当の学校が既に専門学校のような内容で、そっちは一年単位で三回は専門課程にトライ出来るし、同じ事が学びたければリトライだ。
違う過程が学びたければ、そう選択すればいい。
俺が作るこの世界の中学校を、日本の中学校と同じカリキュラムにするつもりはない。
むしろ、その即戦力となりうる専門学校的な、同じ過程の反復教育の線を狙っている部分もある。
そうやって色々なチャレンジをして自分の道を見つけていってもらいたいと思っている。
本来そんな風にするのが無茶なのである。
だが、そうせざるを得ない部分もあるので仕方がない。
最初から、そうやって出来る限りの事をしてから、このケモミミ園から送り出してやるつもりだった。
不思議と心が折れてしまう子は一人もいなくて、今のところ脱落者は出ていない。
やるもやらないも、すべて自分次第だ。
無理にやらせたりはしないが、これまでに食うや食わずやで厳しい生活をしてきたのだから幼い心にもわかっている。
ここで頑張らなかったら、きっとどうにもならないんだっていう事が。
成人になったら、きちんと園から送り出す。
今までのような庇護は受けられない。
不安や不満もあるだろう。
それでも自分の力で生きていかねばならない。
そして自分の手で、自分の人生を掴みとっていってもらいたいと願っている。
何か新しいカリキュラムを導入する度に、真剣な表情で食い入るように見つめるあの子達を見ていると、時折胸を締め付けられるような想いも湧き上がってくるが、それは俺の胸の中にそっと寝かしつけておく事にする。
ともかく今は学芸会に全力を尽くすのみだ。
俺は敵を倒し、文字通りの死闘を演じた。
散々攻められたり攻めてみたりした挙句に、ラストは親玉同士の凄絶な殺し合いで終了した。
そうまでして守りたかったものが、ここにはある。
ちょっと危なかったけれど、俺もなんとか生き残った。
後は全身全霊で園長業務に取り組むのみだ。
あの厄介な魔界の鎧というスキルの件は気になるが、それに関しては王国も帝国も動いている。
そういう事は偉い人達に任せておくさ。
そう。
今日はもう学芸会当日なのだ。
おっさんの熱意が伝わったものか、職員さん達も大いに燃えてくれている。
子供達の中にも大道具係や小道具係を好む子もいる。
おっさんもどっちかというと、そうだった。
そういう事は適性を見る重要な資料になりうるので、個人の進路指導の資料として映像に撮っておく。
個人別に映像画像などをふんだんに使用した資料をまとめてあるので、後で子供達から将来に関しての相談を受けた時には本人にも一緒に見てもらえる。
魔法のシーンの演出で色付きスポットライトも使用する。
もっと高度な奴も作れたが、丸い穴のあいた厚いボール紙に色付きセロファンを貼り付けたものを使う。
いわゆるゼラという奴だ。
おっさんが小学生の頃もあれを使っていた気がするな。
普通は小学校以上で使っていたようなものだが、うちはスパルタなので幼稚園からやっている。
それなりに何かをやれる年長さんがスポットライト係だ。
変に劇なんかをやるよりも、こういう作業の方が小さい子には難しかろうと思って。
他にも重要な役どころは職員も手伝いながら、あくまで園児中心でいく。
これも相当練習させた。
職員と一緒に来賓の受付などの業務もやらせた。
こういうのも向き不向きがあると思うので、交代でやらせるようにしている。
向かない事をやらせて無理をさせるつもりはないのだが、一通りの結果は見たい。
拙いながらも一生懸命に対応する子供達へ、来賓の方々からの好意的な笑顔が向けられる。
御来場の方々には、この世界で初めてであろうイベントを是非とも楽しんでいっていただきたい。
本日のメインイベントは劇で、タイトルは「英雄の頂」だ。
これは、この国ではもっとも有名な物語である。
「英雄の頂」
それは、このアルバトロス王国の建国記の一部から抜粋し、この国で広く読まれている物語である。
作者は巨匠グレゴリー。
この人物の詳細は不明なのだが、建国記に纏わる物語を多く残している古典名作の作者としてよく知られている。
彼の作品は絵本にもされて、この国では子供の頃に読んだことがある者も多い物語だという話だ。
識字率が極端に低い村などでも、教会で神父様などが読んでくださる。
英雄の頂、それはこんな物語だった。
どこからともなく現れた冒険者ヤマト。
彼は不思議な力を持っていた。
ある日彼が旅をしていると、家も無く彷徨っている子供達に出会った。
不憫に思った彼は少し彼らの世話をしていたが、領主の家来から因縁をつけられた。
さっそく返り討ちにしたヤマトだったが、後で仕返しに来た連中に子供達が襲われてしまう。
そこで子供達を救ってくれた者こそ、「紅蓮の風」の通り名で呼ばれる女性冒険者ミレーユだった。
後の初代王妃となる人物である。
そして二人は力を合わせて悪徳領主を倒し、ヤマトはその小国の領主となる。
それが初代国王が伝説にその名を登場させた初めての物語だった。
なんかそういう事は俺でもやりそうな物語だなあと言ったら、真理の奴が笑っていた。




