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19-3 登頂者の宴

 おやつタイムも終了して、王女様達は精霊の森を探険に出かけた。

 その御供をするのは弟王子のエミリオ殿下だ。

 エリはポールとマリーを連れて一緒に行くようで、一応真理とアルスがついていっている。


 ファルは母ちゃんの頭の上がいいらしい。

 そして俺は、同じくその傍で無線式の魔力充電器としてスタンバイだ。

 ルーバ爺さんはその茶飲み友達状態で、エルフさん達は崇拝するレインの近くを離れない構えのようだった。


 おチビ猫はエミリオ殿下と手を繋いでいった。

 ベビーカー代わりの真理がいるから電池が切れても大丈夫だろう。

 一応騎士達はついていったし、葵ちゃんもそっちへ行ってくれた。


 御菓子のオーラを纏う山本さんは精霊達にもてもてだ。

 和菓子は使う砂糖の量が半端じゃないからなあ。


 彼も精霊に集られてかなり嬉しそうだ。

 今までと違って、日本での店舗販売のように御客さんがいるのが嬉しいんだろうな。

 しかも、あれだけがっついている御客さんなのだし。


 まず子供達は山を目指していた。

 山といっても精霊の森にあるサイケな色合いの岩山というかオブジェというか、単にそういう物なのだが。


 おチビ猫がアップを始めた。

 おいちにーさんしー!

 やる気満々だな。

 危なくないように保護者が空中筐体のカメラアイで監視しておく。


 そして、おチビはダッシュを決める。

 おチビさん達特有のなんでもアスレチックだ。

 一応、安全のためのサポート体制は手厚い。


 よじ登る。よじ登る。よじ登る。

 そして振り返って思わず固まる。

 細い尻尾を膨らませて。


 そう、彼女はついに越えてしまったのだ。

 あの難攻不落の滑り台を。

 岩山に掴まって、思いっきり叫んでいた。

「ニギャアアーー」


 しょうがないので、おっさんが御迎えに行く事にした。

 まるで夢中で木に登ったはいいが、その後は怖くて降りられなくなってしまった子猫のようだ。


 転移魔法&フライで向かい、救出する。

 それからレミを、おチビさん抱っこしながら一緒に下を見下ろす。


 レミも最初はヒシっとおっさんに掴まっていたが、次第に登頂者として誇らしげな表情に変わっていく。

 そして可愛い紅葉の御手手の人差し指でピシっと頂上を指差す。


 よし!

 行こうかチビ。

 復活した、このおっさんの力を見せてやろう。


 おチビを抱えてポンポンっと山岳山羊のように飛ぶ俺。

 そして頂上へ降り立った二人。

 地上からたった二十メートルの高さだけど。


 おチビは一生懸命に下で待つ人達に手を振っていた。

 みんなも精霊達も手を振ってくれた。


 今までもケモミミ園のみんなは、そっと横目で俺の具合を見守っていてくれたような気がする。

 あれこれと魔法や武器を手にして、俺はいつもチート丸出しで誰かに負ける事など想定外だった。

 あの絶対強者バランさえも、この世界の常識を越える強引な手段を用い闇討ちにして葬ってやったというのに。


 だが油断して、あっさりとニールセンに負けた。

 相手は引退した爺だと高を括って。

 自分だって相当いい歳をしているくせに、はっきり言ってチート頼みのド素人もいいところなのに、元は帝国軍の猛将軍だった強面を甘く見て。


 この世界では一回負けたところで、本来ならば人生完全終了を迎える厳しいルールなのだ。

 まるでプランクトンや小魚、小動物や草食動物の最期のように。

 はっきり言って黄泉比良坂の手前で寸止めとなる崖っ淵だった。

 奈落の黄泉へ落ちる寸前に、襟のフードの先が縁にひっかかった際どい状態で。


 最初に出会ったあの盗賊どもとは違って、帝国元将軍は俺の油断を見逃してくれるような甘い相手ではなかった。

 チートでもない魔法でもない昔ながらの能力一本と仲間の救援によってかろうじて生き残れたが、もう少しでこんな異世界にて御陀仏になるところだったのだ。


 きっと、さぞかし浮かない顔をしていたのだろう。

 みんな、かなり気にしてくれていたものらしい。

 ありがとう。


 今は何かこうスッキリした顔で手を振っている自分がいた。

 園長先生、もう大丈夫だわ。


 晴れやかな気分で飛ぶと、多くの精霊達がついてくる。

 復活した御祝儀の魔力を振り撒いているから。


 上空へ。

 そして今度は地上すれすれの低空へ飛ぶサービス。

 それから、ひょいっとエミリオ殿下を攫って飛ぶ。

 いきなりの事だったので、御付きの王国騎士が慌てている。


 もっともルーバ爺さんは笑って見ているのだが。

 そういや迷宮で初めて爺さんと会った時も、こんな感じに担いで走ったっけな。

 エミリオ殿下が大喜びだ。

 王子様は、なかなかこんな感じの扱いは受けないからな。



 それから森の探検へ行った。

 そして精霊が教えてくれる不思議キノコの在処。

 これがまた、びっしりと辺り一面に生えているのだが。


 しかし、これ……食っても大丈夫な奴なのか?

 点々模様のある毒々しく赤いキノコは、典型的な毒キノコのベニテングダケを思わせるな。


 だが精霊は笑っている。

 大丈夫そうだな。

 鑑定すると、「精霊の森のキノコ」とある。

 しかもエリクサーの主原料とあった。

 エリクサー!?


 まあ、なんだか知らないのだが、ありがたく貰っておくとするか。

 これは食ったら美味いのだろうか。

 効能よりも味の方が気になる。

 俺はキノコが大好きなのさ。


 そしてコピー……出来た。

 うーん、主原料か。

 副原料は一体何なのだ?


 どうせどれもこれも、かぐや姫が要求するような、とんでもないような物なのに違いあるまい。

 このキノコだって普通じゃ絶対手に入らないものだぞ。


 そもそも、ここでいうところのエリクサーが何を意味するのかわからない。

 地球のゲームなんかでは、大概は特殊な特級の回復アイテムなのだが。

 帰ったら誰かに聞いてみよう。



 森を抜けて、ふと見渡せばサイケな色合いの水晶の樹や虹色に輝く結晶板が目を焼く風景が広がっていた。

 そして丘へ上ると、息を飲むような景色が広がる精霊の谷が網膜のスクリーンに映り込む。


 雄大な景観に、まるでオーラの風のような極彩色の煌めきに、目が吸い付いて離れない。

 という訳で、ここで御弁当を食べる事に決定した。


 俺がピクニックシートを広げると、早速出しておいたバスケットからカップケーキを引っ張り出すレミ。

 今日のカップケーキはレーズンか。

 俺がじっと見ていると、一心不乱に齧っていた。


 うん、大丈夫そうだ。

 ちっちゃい子にレーズンってどうなのかと思ったけど。

 まあ好みにもよるかな。


 俺が小さな子供の頃には、微妙な好みの扱いだった食い物のような気がする。

 酵母関連みたいな食い物だし、半乾燥食品だからな。

 あの半端な舌触りなんかも苦手だった。

 子供の味覚は敏感というか神経質なのだ。


 あれも大きくなったら気にならなくなって好物になったのだが。

 給食でたまに出る食パンスタイルの葡萄パンとかは大好きだった。

 教室にあったコークスで焚く古い達磨ストーブの上に載せて焼いていたっけ。


 俺の弁当は、もちろんおにぎりだ。

 俺が美味しそうに食べているのが気になったのか、チビがカプっと一口齧った。


「ヒュイー」


 どうやら美味かったらしい。

 チビがこんな声を出すのは聞いた事がない。

 おにぎりとカップケーキを交互に見て、どちらを食おうか迷っている。


 試しに葵ちゃん謹製の俵おにぎりを出して渡してやった。

 だが思いっきり値踏みされている。

 カップケーキの王座を手放しがたいようだ。


 しょうがないので半分に割ってやると中にちゃんと具が入っている。

 甘ジャケだった。

 パクっと一口いってからニコ~っと笑うので残りも持たせてやった。


 カップケーキは足の間に確保しつつ、両手に俵おにぎりを持っている。

 そういう仕草をするのは、まだ食い物が足りなかった頃の習性が残っているのだろう。


 アルスは相変わらずエルフさんにべったりだ。

 昔、彼らと何かあったのだろうか。


 御姫さまのコーナーは華やかだ。

 王子様が一名、王女様が二名と、貴族令嬢の侍女さんが三名。

 それに公爵令嬢が一名だ。

 一人だけアワアワ言っているだけの平民が混じっていたが。 

 周りの騎士さん達も全員が貴族ないし、その子弟らしい。


 そんな中でエリ姉弟三人が完全に庶民派だ。

 いや、ただの平民だった。

 だがみんな、楽しそうにわいわいと仲良くやっている。


 エリが色々とこしらえる間は、ポールとマリーをシルベスター王女やベルベット・アニオン公爵令嬢がせっせと面倒見ている。

 

 精霊達もデザートのおこぼれに与れるのではないかと、彼らの周りをうろうろしているのであった。

 傍から見るとありがたい精霊だらけで凄い光景なのだが、連中の中身がとても残念なのをエリは知っている。


 そんな中身が残念な凄い人はエリも見慣れているので、華麗にスルーしていたが。

 あいつら精霊は人じゃないけれどな。

 

 デザートタイムには、適宜に精霊どもにも御菓子を作ってやるエリなのであった。

 御寿司や鉄板焼きなんかじゃないが、やっぱり目の前で作ってくれる奴の方が美味いのである。


 足りない分は俺がコピーしてある物を配っておいてやった。

 そしてエリは、この後帰るまでずっと精霊共につきまとわれる羽目になるのであった。


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