表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/1334

18-6 いつものごとくに

 とりあえず、エロフ全員をなんとか新しい街へと押し込んだ。

 総勢五千五百人だから実に壮観な眺めだ。

 もれなく美男美女の集団なのだからなあ。


 エルフの里でもないのに、右を見ても左を見ても美形なエルフばかりの街が誕生したのだ。

 ある意味で凄いよな。


 あの街にはアルスを送っておいたので、なんとかしてもらおう。

 もう防衛のため、彼にケモミミ園にいてもらう必要はないのだし。


 あいつが妙に大興奮で自分からあの街へ行きたがったのだ。

 相変わらずな奴である。

 あいつも「もうしばらくここにいる」とか言いつつ、ずっといるよな。



 その翌日、こっちはいよいよ本命の蟹の交渉に挑む。

 早速皇宮に乗り込み、舎弟の奴に蟹を要求する。


「ああ、蟹なんて好きなだけ獲っていけ。

 ただし、地元の漁師さん達の邪魔はするなよ」


 ドランは相変わらず執務室で書類の山に埋もれている。

 フランチェスカさんが笑顔で御茶を入れてくれた。

 この人も皇帝以外の人には当たりが柔らかいよな。

 皇帝のケツを叩く役割の人なんだから、それで当り前なのかもしれないけど。


「じゃあ、その旨を書類に書いてちょうだい」


「やれやれ。

 蟹なんてものに、どうしてそこまで拘るものか」


「煩い。

 蟹と聞いて騒がない日本人がどこにいるかー!」


 うちの親父ったら、思いっきり歳を食ってから海老蟹アレルギーなんかを発症してやがって。

 頼むから俺に遺伝していないでくれよ。

 俺も子供の頃は若干アレルギー気味だったからな。

 まあ親父の場合は後天的に患っていたみたいだから大丈夫だとは思うのだが。

 烏賊にも当たっていたような気がするな。

 ただでさえ食性とかが歳を追うごとにあの親父に似てくるんだからな。


 ああいうアレルギーも発症したり治ったり、その範囲や程度が重度になったり軽度になったりと変化に富んでいるけどなあ。

 防毒ならぬ防アレルギーのアイテムでも何か作っておいた方がいいかなあ。

 自分的には結構切実な問題だから、こいつは研究してみよう。



 それから早速、帝国の海へとフライの魔法で向かった。

 ここは北の方の海だから冷え冷えとしている。

 俺は寒いところは苦手だなあ。

 エアコン魔法を作って凌いではいるが。


 港には漁船っぽい感じの帆船が、それなりの数があった。

 全長十メートルくらいの船だ。

 漁の道具が無造作に積まれているので、きっと漁船だろう。


 今から蟹を獲りに行くらしい。

 乗っけていってくれと頼んだが、あっさりと断られた。


 しかも皇帝直筆の書類を見せたのだが、やっぱり断られた。

 ドラン、ざまあ。

 全く権威がないな。


 あるいは、もしかして漁師達って字が読めんのか?

 俺もこの世界では人の事は言えないのだが、これでも暇をみて精進しているのだ。

 だって来期から小学校の校長先生になるんだからな。


 もう仕方が無いので自前の蟹漁船を出す。

 それは全長五十メートルのオールオリハルコン製で、マストに爆炎のエンブレムがはためいていた。

 対魔物用にまるでハリネズミのように武装しているし、対水中兵装も充実している。

 その上で漁に相応しいように広い甲板を備えているのだ。

 その見慣れない巨大な魔法金属製の船を目にして、漁師達は皆度肝を抜かれている。


 どいたどいた!

 蟹将軍、いや蟹名誉公爵アルフォンス様の御通りだぜ。


 スパっと高速で沖に出て、蟹のいそうな場所をスキルでサーチする。

 これはまた本物の蟹将軍どもも、ごっそりといらっしゃるようだ。

 くくく、こいつは獲り放題だぜ。


 しかし、魔物の赤点も多数存在したのだ。

 俺はただちにゴーレム共を射出し、魔物共はザクザクと仕留めてアイテムボックスの肥やしにしてやった。

 蟹に被害が出ないように細心の注意をさせてはいたのだが。


 水中兵器は最後の手段だ。

 そんなものを使ったら、せっかくの蟹が衝撃波で粉々になってしまう。


 また鰹の一本釣りじゃないのだが網で浚うと蟹が痛むから、ゴーレム達に命じて丁寧に蟹を傷めないように一匹ずつ手で拾ってこさせる。

 最近はゴーレムも手先の器用さに絞って、重点的にチューンナップしているのだ。


 蟹はズワイガニっぽい奴だ。

 こいつは蟹味噌がいけそうな雰囲気だな。

 形も良くって、おまけに大きさもナイスだ。

 日本だと一匹数万円しそうなほどの上物であった。


 誰も獲りに来ないから増え放題だしね。

 でかい魔物エイとかがいると、バキュームカーのように蟹を吸い込んでいきそうだが。

 烏賊と鮪の関係じゃないが、海産物って値段の安い生き物が高価な生き物を餌にしている事が往々にしてある。

 回転寿司の皿の値段は野生の海王国では通用しない場合が多々あるのだ。


 ゴーレム達は潜っては蟹を獲り、船にホーミングで帰還する。

 とりあえず蟹は生簀に突っ込んでおいた。

 そして、それを持ってケモミミ園に転移した。

 さっそく蟹に群がる子供達。


 食い物というよりは、ほぼ遊び相手だ。

 もちろん料理されて出されば、もりもりと食うのではあるが。


 ケモミミ幼児対蟹の戦い。

 ほぼ、ザリガニ対猫に近い感じの対決だ。

 ちょっかいをかけるケモチビに対し、蟹はハサミを伸ばしパチンっと挟もうとする。

 ケモチビはさっと素早く身を翻すので挟まれてしまう事はない。


 これが単一乾電池をへし折る芸を持つと言われる巨大なヤシガニ(足六本のタラバガニのようにヤドカリの仲間)や、三歳くらいの幼児の指なら切断してしまうというドウマンガニ(ノコギリガザミ)のようなマッチョタイプの危険すぎる蟹なら絶対に遊ばせないのだが、まあ丁度いいくらいの相手だ。

 甲羅だけで三十センチはある大きめの蟹だから、なかなか見応えのある対決になった。


 おチビ猫が、ささっとおっさんの後ろに隠れる。

 目から闘志は失われてはいないようだったが、さすがにVS蟹はもうちょっと大きくなってからな。

 動画サイトでも、経験や警戒心が希薄な子猫は蟹やザリガニ相手に悲劇の主人公になる場合がある。


 山本さんが頃合を見て、魔石コンロとでかい鍋を持ってきてくれて、皆の前で茹で始める。

 俺も蟹が真っ赤になって茹で上がるところを見ていたかったのだが、俺には船へ戻って蟹を取ってくる使命があるのだ。


 生きた蟹はアイテムボックスに入れられないので、船とケモミミ園を何回か往復する。

 船ではゴーレム達が氷で蟹を仮死状態にしていた。

 もう少し生きた蟹を持たせたい。


 残りは雷魔法で感電死させて生蟹としてアイテムボックスへ突っ込んだ。

 死んでいるのに生蟹とはこれ如何に。


 一旦船をゴーレムごと仕舞い、ケモミミ園へ戻る。

 仮死状態にした奴はアイテムボックスに仕舞えないので、仕舞わずにおいた幾人かのゴーレムに持たせて持ち帰る。


 丁度、御昼に差しかかろうかという時間だった。

 もう、おっさんは飲んでしまう事にした。

 今日は駄目、もう我慢出来ない。

 これが帝国と戦争中なら我慢したのだけれど。


 蟹とビール、いやあ最高の組み合わせだ。

 ポン酢や蟹酢、その他のタレなども山本さんが作ってくれてある。


 もう、みんなではふはふと食った。

 子供達も夢中で食ったし、葵ちゃんも夢中だ。

 調理している山本さんだけが食べられずに申し訳ないな。

 後でゆっくりとやってくれ。


 職員さんやゴーレムも御手伝いだ。

 でも山本さんも楽しそうだ。


 真理に頼んでアルスの分も届けてもらう。

 エルフさんは蟹を食べるだろうか。

 彼らはあまりに美形なので、絵面的に蟹に齧り付いているシーンを想像し難い。

 見てきたい気もするが、もう足に根が生えた。

 これから蟹味噌と日本酒の出番なのだ。


 今日は山本さんの手が空かないから、蟹味噌豆腐はまたの御楽しみだ。


 おチビ猫も美味しそうに食っている。

「蟹め、やっつけてやったぜ」みたいな顔で。

 本当に可愛いったらありゃあしない。


 今のところ海老蟹アレルギーを起こしてる子はいないようだ。


 なんていうか、この帝国で獲った蟹を食っていると、やっと帝国との抗争に勝った実感が湧いてきた。

 これは国家間で正式に取り決められた、戦時賠償の正式な権利なのだ。

 やっぱり蟹足のコピー品なんかじゃ満足出来ない。

 なんか、あれだとカニカマみたいな気がしてしまって。


 蟹はやっぱり水揚げした奴をその場で丸ごとバンバン調理してもらって食わないとね。

 味も形も色々と楽しめるし。

 日本から持ってきた貴重な食い物はコピー品でも仕方ないけどなあ。

 

 蟹フォークの開発も進めようと決意した。

 きっとこの世界にも毛蟹がいるはず。

 あれは小さいから、絶対に蟹フォークが欲しい。


 いつものなんちゃら製品でなく、逸品を作成する事を誓った。

 あれは手に馴染み切るほど使っていた、文字通り手の内にある物なのだから。

 さすがにキャンプへ蟹フォークは持ってこなかったが。


 子供達が蟹漁へ行きたがったが、寒いので風邪を引きそうだしな。

 それに冬の海に落ちると命が無いからなあ。


 日本の児童養護施設なんかでも、水回りのイベント招待はさほど聞いた事がない。

 万が一、水の事故があったら関係者全員が頭を抱えてしまう事になるので、招待があってもまず施設側が二の足を踏むと思うのだが。


 海はおろか、温泉やプール施設ですらあまり聞かない。

 プールくらいなら、子供達が学校や市民プールなどへ自分達で行くだろうし。

 大概は安全な映画やスポーツ観戦、後は観光バスで遊園地などの招待が定番だ。

 後は食い物屋さんからの毎年の御誘いなんかか。


 前に三河湾で、児童養護施設の子供達をディンギーのような小型ヨットに乗せてあげる恒例イベントがあるのを知って驚愕した事がある。

 速度の遅い小型ヨットだと、地域限定でしか見られない希少生物のスナメリが並走して遊んでくれる事もあるそうなので、それはもう楽しいのだろうけど。


 でもあそこって、釣り船からでも見られるような一メートルくらいの鮫の五十匹くらいの群れも結構いるし、真っ黒で透明度の低い海だから水中に鮫がいてもよくわからないしなあ。

 大きくなるような鮫も、小さな子鮫のうちは外敵の少ない湾内にいるんだよね。

 小魚みたいに凄く群れているし。


 鮫って基本的に熊と一緒で憶病な生き物なので、自分より大きな生き物には噛み付かないはずなのだが、幼児だとサイズ的に間違いが起こる可能性があるし。


 あいつらって目が悪いので、水面で人間がバシャバシャやっていると弱った魚がじたばたしているように見えて、食える物なのかどうか御試しで噛み付いてくるらしい。

 特に遊びに行って思いっきりはしゃぐ子供はなあ。


 子供っていつも生傷が絶えないから、うっかりと血でも垂らそうものなら凄く遠くからでも嗅ぎつけてやってくるはずだ。

 鮫は二キロ先からでも一滴の血液の匂いを嗅ぎつけるというからなあ。


 自分があそこで遊ぶのなら、そこそこ大きなクルーザーがいい。

 小さなクルーザーで、産卵にやってきた気の立ったシュモクザメの御母さんと出食わしたくない。

 B級鮫映画じゃあるまいし、そうそう滅多な事はないのだろうが、それでも最大で体長四~五メートルにもなる鮫と水中で出くわすのはゴメンだ。


 昔は、二メートルくらいしかない頭の尖った大人しい種類の鮫にもビビっていたくらいだしな。

 今なら鮫なんか力づくでティムして水中スクーター代わりにしてやるぜ。


 三河湾でメジャーなシュモクザメなんかは比較的大人しい種類の鮫だ。

 そもそも、あの独特のハンマーのような形をした頭は魚を探知するためについているのだから、人間なんかに用はない。


 外国の動画なんかでは、よく大きなシュモクザメが浜辺に打ち上がって海に戻れなくなってもがいているところを、人間の屈強な若者に尻尾を引っ張ってもらってレスキューされ、なんとか御情けで海に戻されているようなしょうもない奴らだし。


 まるであの自力では碌に泳げなくて、海面まで浮き上がってくるとすぐ波に流されて浜に打ち上げられてしまうリュウグウノツカイかと思うような連中だ。

 さすがに、あそこまで遊泳力が無い事はないと思うが。


 あいつらシュモクザメの出産場所である三河湾や伊勢湾において、奴らに人が齧られたという話は西三河で半世紀以上も生きてきて特に聞いた事がない。

 気の荒い野生のイルカの方が絶対にヤバい。

 あいつらってマジで人間を噛むからな。

 不思議と海のギャングの二つ名を持つシャチは通常人間を襲わないらしいが。


 ホオジロザメも近海にいる事はいるらしいが、連中もまた顔に似合わず臆病な奴らで大きな港には近づかないし、確か伊勢湾辺りは海流の具合なんかで通常は湾の中まで入ってこないのだと思った。

 ホオジロザメなんて、所詮はただのシャチの餌だしな。


 本当にヤベエのはイタチザメ辺りだわ。

 他にオオメジロザメも結構やばかった気がする。

 あれって淡水の中でも生きられるから川を遡上してきそうだし。

 嵐の後で、氾濫した川から流れてきてゴルフ場の池で見つかった事もあるよな。

 


 この異世界の海には鮫なんか問題にもならないような、でかくて凶暴な魔物がいるから、それがまた問題なのだが。

 また今度、何か海での御遊びのイベを考えるかな。

 うちはゴーレムに護衛をさせれば大丈夫だろう。

 俺や真理もついているのだし、そうそう滅多な事はないはずだ。


 今日はおっさんも酒が入っているから子供達と一緒に御昼寝タイムだ。

 だがその安息タイムも長くは続かない。

 寝転がってすぐに御腹の上に三人ほど乗ってきている。

 うーん、もうちょっと寝かせてー。


 足の裏をくすぐりに来る奴や脇腹を突きにくる奴に、髪の毛を引っ張る奴などがいっぱい群がってる。

 俺はガバっと起きて叫んだ。


「こりゃあ~」


 おっさんの叫び声を受けてケモミミがパーっと散らかっていく。

 それを追いかけるおっさん。

 花瓶が落ちて割れ、その他色々とひっくり返る。

 職員も含めてケモミミ園は大騒ぎだ。


 帝国との戦争は終った。

 今はこの心和む一時に身を委ねたい。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ