18-4 ブラウン伯爵
ドランから子供達への土産物を大量にせしめた後に、ブラウン伯爵のところへ顔を出した。
この前は派手に脅かせてしまった門番が顔を引き攣らせていたが、取り次いでもらってすぐに執事さんが彼のところへと案内してくれた。
「やあ、グランバースト卿。
公爵になられたそうですね」
「ああ、もうなんかバタバタしちまっていたんで、俺も知らない内にね」
ばたばたどころか死にかかっていたがな。
応接室というかサロンにいた彼は案外と元気そうな顔をしていて意外だった。
この前から、そう時間は経っていないような気がするのだが。
何かこう憑き物が落ちたような感じがする。
まあ、この人はあんな状態だったんで、戦なんかに狩り出されたりもしないしね。
彼はくすくすと笑って、こう続けた。
「それにしても暴れん坊ですね。
第二皇子派は皇子本人を含めて、全員死ぬか失脚ですから。
ついでに、そのうちにアレもお願いしますよ。
公爵殺しの公爵様」
「それは違うな、ブラウン伯。
もう皇子殺しの公爵様だよ。
なんたって皇子殺しの称号は正式に王国から授与されているんだからな。
まあアレだって元は皇太子になる予定だったはずの皇子様だし」
それを聞いたブラウン伯爵は爽やかに笑うと、使用人に運ばせたばかりの御茶を俺に勧めながら話を切り出した。
「ところで、今日はどんな御用なのです?」
「ああ、前に言っていた埋め合わせの話なんだが、今は貴族社会でどんな具合なんだい?」
「そうですね。
今は以前から考えておいたような事をやってみたいと思って準備していたのですが、何分貴族社会で爪弾きの状態なものですから」
そのように少し寂しそうに言うブラウン伯爵。
元々半虚ろな世捨て人となっていたような俺とは違って、彼は社交的な性格のようだから、そういう事は堪えるのだろう。
「ああ、その件なら、さっき新皇帝に頼んでおいたから。
そのうちに色々と片付いたら、何かの折に社交界へ皇帝直々に招待がくるだろう。
彼も君と同じで連中から色々と痛い目に遭わされていたから、君とはあの公爵一党からの被害者同士みたいなもんだしなあ」
「え、本当ですか?」
彼は身を乗り出さんばかりの様子で凄く嬉しそうだ。
こういう感じが本来の彼の姿なのだろう。
まあ、そういう活気のある顔が出来るようになったのはいい事だ。
「ああ。
呼んでくれないなら、俺と一緒に新年の挨拶に行こうぜ。
うちのファル、神聖エリオン様も連れて。
お前を苛めていた連中がどんな顔をするかなあ」
俺も悪い顔が止まらない。
「お、お手柔らかに頼みますよ~。
せっかくの貴族社会へ復帰するチャンスなのですから」
「わかっているよ。
そんな無碍な事はしないさ。
冗談抜きで、今度うちのファルと仲良くして見せつけてやれよ。
山本さんをくれた人に、あの子も冷たくはしないさ。
あの人は凄いよ。
今うちで一番凄い人材なんだし」
「そうなのですか。
それは良かった事です。
あの彼がどうしているか心配だったのですよ。
なんというか、最初に会った時も酷く所在無げにしていましたからねえ」
「ははは、彼はそういうタイプの人だよね。
でも子供達には大人気だよ。
彼はそういう性格の人なのだし、彼が作ってくれる御菓子がまたね。
それと、あんたにはこれをやるよ。
アルバトロス王国でも、あんたと同じような境遇だった人がいてな。
元々はその人のために用意した物なんだ。
その人の奥様はなんと、あの悲惨な悲劇の渦中にあったパルミア家の御嬢様だ」
そう言って俺は、アントニオにやったのと同じような素敵素材を広げてみせた。
「パ、パルミア家!」
あはは、さすがに帝国貴族の間では未だにアレな反応を呼ぶ名前だったか。
しかも、あの事件当時の主役であった皇太子ドランが新皇帝として即位したばかりだからな。
「それでアントニオとそのパルミア家の御嬢様は、もう誰からもケチをつけられないようにアルバトロス王家協賛にてアルバ王宮で結婚式を挙げさせたのさ。
まあ色々あったんで、貴族連中との復縁ツールとして彼らにもこのラッピング素材を渡してある」
ブラウン伯爵はそれらを手にとってみて、それが持つ素晴らしい価値を認めたようだ。
「これは凄いですね。
本当にこれを頂いてしまって宜しいのですか?」
「ああ、アルバトロス王国の方では違う奴に権利を与えてあるのだから、一応ブラウン伯の権利はこの帝国だけという事にしておいてくれ。
量が足りなけりゃあ、またあげるから大丈夫だ。
その時は連絡をくれ。
もし国外から引き合いがあった時は、その時も連絡をくれ。
なるべく便宜は図ろう。
連絡手段として、このスマホもやろう」
彼にスマホの使い方を教えてやったら凄く興奮していた。
普通は王家くらいしか持っていないような通信アイテムだからな。
よし。
これでブラウン伯爵に対する、とりあえずの義理は果たしたぞ。
山本さんも恩人であるブラウン伯の先行きが明るくなって一安心だろう。
心置きなく蟹味噌シリーズの製作に取りかかってもらえる。
後で早速蟹を仕入れていかないとな。
ブラウン伯の話では、リヒター伯爵は出征を拒否し自宅軟禁状態であったのだが、それは新皇帝の命令で解除され、今は大事な仕事を任されているようだ。
まだまだ信用できる人材が少ないらしく、仕事を山盛りに持たされているらしい。
まあリヒターはそれで文句を言う奴じゃないだろう。
あれはあれで得がたい逸材だ。
帝国の新体制は、見事に軟禁コンビによって賄われているようだ。
結局リヒター伯爵の言っていたように帝国にも新しい風は吹いた訳だし。
あいつも、さぞかし本望な事だろう。
安心して仕事の山に埋もれるがいい。
また今度、様子見がてら挨拶にでも行くか。
ブラウン伯爵の屋敷を御暇してから、街の広場へぶらぶらしに行ったら、立て看板にて早速エロフ関連の布告が出されていた。
何何?
『皇子殺しのグランバーストがエルフを欲しがっているので、国内にいるエルフの奴隷は全て彼に差し出すように。
これは正規の戦時賠償の一環であり、敗戦した我が国に拒否は許されない。
拒否した場合、そいつのところへ早々にあの暴れん坊の精霊魔王が御邪魔する事になるだろう。
その場合は我が帝国も皇帝も、何があっても一切関知しない。
以上』
これまた、なんともストレートな文章だな。
あいつの性格が滲み出ている気がする。
もう文書でも各家へ回されているだろうから、アルバトロス王国大使館の方には問い合わせが殺到していて、大使館員がてんてこ舞いだろう。
おっといけない、この件に関してタヌキ大使に連絡するのを忘れていた。
とりあえず慌てて大使館に転移して、彼に謝っておいた。
「いや、大使殿。
本件に関する連絡が遅れて申し訳ない」
「いえ、それは別に構わないのですが、このエルフ達はどうしますか」
見ると、もうエルフを置いていった気の早い連中がいて、既に百人を越えているようだ。
大使館の空いた部屋に、ほぼ寿司詰めの状態であった。
全員、所在無げにしていて俯いてしまっている。
ずっと暮らしていた、慣れ親しんだ場所から放り出されてしまったし。
この長生きな人達にとっては、そういう事が余計に堪えるのかもしれないな。
特に女性の表情は死んでいる感じなので凄く怖い。
まあ彼らが置かれていた状況から考えれば無理もない話なのだが。
彼らを引き取ってしまうのはいいのだが、あれをどうやってフォローしようか……。
「ああ、ちょっと待ってくれ。すぐに受け入れ準備を整えるから」
ただちにアルバの王宮へ飛んで、王都の近くに新しく街を作らせてもらうように頼んだ。
本当なら、こんな新しく街を作るような重大な案件は、役所を通してきちんと許可を貰わないといけないはずなのだが、緊急なので特別に国王陛下へ御願いして強引に許可をもらい、フライで飛んでその土地へ向かった。
とりあえず、ざっくりと整地をしてみた。
こんな作業はもう手慣れたもんだ。
次に暇な時に作ってアイテムボックスの中に仕舞っておいた街のパーツシリーズを出して、ザクザクと組んでおいた。
まず塀から。
ドーンと御仕着せで、とりあえず囲いを作って街にする予定の区画を囲んでみた。
こいつは土魔法でドーンと一気に作成した。
とりあえずの塀があればいいので。
あちこちに暫定で門も作っておいた。
住人の気に入らなかったり何か不都合があれば、後でまた作り直せばいい。
次に幼稚園用の建物をドカンっと山のように並べて、道は石畳で覆い尽くしていった。
道路の端には、魔導で排水処理をするU字溝を作っておいた。
中に設備や家具を配置したりするのはゴーレム達に任せた。
もう、とりあえず雨露さえ凌げればいいというような感じに街を組んだので、思いっきり大雑把な感じになってしまった。
今夜彼らの寝るところがあればいいという発想で、超突貫で組んでみたのだ。
そうせんとエルフ達が皆野宿になってしまうしな。
食卓に魔導コンロや水魔法の水道なんかは用意しておいたので、なんとかなるだろう。
ベッドと布団も置いてある。
とりあえず第一陣を転移魔法で連れてきて、その中からまだ目の光がしっかりしていそうな感じの奴を選んで仮の責任者に任命した。
街の代官、そして各ブロック長などだ。
その他ブロック毎に食事・衛生・治安・カウンセリングなどの責任者を矢継ぎ早に任命した。
まだ彼らと碌に話もしていないんだけど。
大丈夫。
これが日本の会社なら入社したら、何の説明も無しに現場へいきなり連れていかれて、そのまま仕事をさせられるだけだから。
しかも当日残業は確定さ。
この俺がそうだったよ。
しかも自分の車で、トラックに乗せられなかった緊急品を得意先へ納品して、そのまま直帰という事になってしまって驚いた(ノンフィクション)。
ここの総責任者は日本人の俺なんだし。
頑張って捌かないと、この後も後続の人達が次々と来るだろうしな。
あの新皇帝は有能だ。
きっと意地糞になって大量のエルフを送り込んでくる事だろう。
これは俺と俺の舎弟である奴との勝負。
絶対に負けるわけにはいかない。
蟹の交渉の前にこんな勝負が始まるとは、なんか嬉しくなるな。
殺し合いなんかよりは、こっちの方がよっぽど素敵だ。




