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18-3 帝国へ

 いよいよ帝国へ取り立て、もとい交渉に出かけることにした。

 今日はレミとファルは御留守番である。


「おみやげー」

「はいはい」


 それもついでに皇太子の奴からせしめよう。

 いやあ、舎弟がいるっていうのは有意義な事だな。


 もう日が経って落ち着いたからか、俺が出かける時にレミ達も泣きそうな顔したり、しがみついたりはしなくなった。

 俺があまりにも自然体で日常風景に復帰しているからだろう。


 大体、会社にいた頃はこんなもんじゃないのだ。

 どんなに凹もうが挫けていようが、仕事は許しちゃくれないのだから。

 たとえ癌で死にかけていたって病院で寝ているなんていう狼藉は許されないのだ。

 そういう人が会社の知り合いで本当にいたから鬱だ。

 俺も結構御世話になった人だったし。


 第一、あんな事が早々あっては俺だって堪らない。

 勘弁してほしいわ。


 俺は燃えていた。

 なぜなら時は十一月、日本ならとっくに日本海で蟹解禁の時期で、テレビで蟹一杯が幾らとかいうニュースが流れる季節なのだ。

 これで燃えなかったら日本人ではない。

 異世界の新鮮な蟹への期待に魂が震えんばかりだ。


 待ってろよ、みんな。

 御父ちゃん、蟹を獲りまくってくるからな~。

 幸いにして猫の獣人とかでも海鮮は全然問題ないとの事だ。


 俺はまだ知らなかった。

 千年前に武も同じような事をしていた事を。


 なんだったら、蟹料理屋をプロデュースしてやってもいいな。

 この異世界の王国ならば、店の名前は蟹王、蟹王子、蟹王太子、蟹皇子、蟹皇帝、蟹皇太子、蟹太子、蟹帝国、蟹王国、蟹連合軍あたりだろうか。

 おっと、本家の蟹公爵を忘れちゃいけないな。


 鋏と足の動く、でかい蟹の看板は必須だ。

 実は、そいつはもう試作済みなのだ。

 夕べ、もう蟹が待ちきれなくて。


 この国の場合、蟹王妃や蟹王女も店名候補に入れておかないと駄目かもしれない。

 きっと王様よりも先に蟹を差し出されるのに違いないからだ。

 アントニオの結婚式で見た女上位の光景を思い出した。


 山本さんには、既に蟹味噌豆腐の製作を予約済みだ。

 この間持ち帰った蟹の足もコピーして、みんなで試食済みである。

 葵ちゃんもたくさん食べていた。


 異世界でも蟹を食う時はみんな無口になる。

 おチビ猫には、食べやすいようにちゃんと剥いた奴を出してやった。


 ラスベガスのバフェイみたいに、たくさん食べられないように塩辛くしてあるなんていう事はない。

 実にいい感じの塩加減だ。

 あの帝国、こういうところが本当に侮れない。


 蟹を茹でるって素人には少し難しい。

 俺はどうしても上手に茹でられなかった。

 ちゃんと蟹茹で専用のアルマイトの大鍋まで買ったのに。

 塩も御湯の量に合わせて入れていたんだが。


 あれだけ大きい鍋だと他に使い道がないんだけど。

 学区でやる避難訓練の炊き出しで非常食を湯にかけていた鍋があのサイズだった。 

 あれも、ずっとマンションのガスコンロ下の収納に仕舞いっ放しだわ。

 最近は生きた蟹なんてスーパーでもとんと見かけなくなったしな。


 山本さんは蟹茹でも得意なんだそうだ。

 確かに子供の頃から鍋でうどんを茹でまくっていたしな。


 前回の騒動で一番の収穫がこの方なのだ。

 うちにいる稀人さんの中で、戦闘力や生産能力を差し引くと一番使えない奴が実は園長先生だったりする。


 この異世界のどこかに、まだ素敵な稀人さんがいたりするのだろうか。

 次の稀人さんは、中華料理のコックか、フランス料理かイタリア料理など、あと会席料理の料理人や寿司職人なんかも悪くない。

 次回の人材も料理人が希望だな。


 そして夢と妄想を膨らませながら、俺は帝国へと転移した。

 もういちいち関所なんぞ越えない。

 最早この国は俺の物も同然だ。


 それが嫌なら、俺に対して余計なちょっかいなんぞかけてこなけりゃ良かったのだ。

 後悔したって今更もう遅い。

 ブラック企業育ちの俺は、たかが一介の皇帝如き雑魚の泣き言なんか聞く気は毛頭ないからな。


 皇宮へ一気に転移して、門番におっすと一言だけ言って堂々とまかり通る。

 俺がズカズカと皇宮を行くと皆が逃げ回るし。


 まだ皇太子、もとい新皇帝にはマーカーを付けてある。

 もちろん、死んでしまった前皇帝や第二皇子のマーカーは消滅して十個枠の余力に戻っている。

 レーダーを見ながら彼に向かって一直線に進む。

 行先は皇帝執務室だ。


 あいつめ、相変わらず仕事に埋もれていやがるな。

 俺が余計な仕事を増やしてやった気もするし。

 今からもまた増やすけどね。


 部屋の前に衛兵が二人いる。

 一張羅である爆炎スタイルをした俺は、にこやかに手を上げて挨拶してやったのだが、彼らは顔を引きつらせている。


「入るよ~」


 ノックをして、ちゃんと一声かけてから中へ入った。

 礼儀って大事な事だよな。


「まだ返事をしていないのだが」


 皇帝ドランが書類から目を離さずに言った。

 見なくても誰が来たかわかっているのだろう。

 他に皇帝に対してこんな無礼な真似をする者はいないのに違いない。


「えーと、初めまして?

 俺がグランバーストだ。

 取立ての御時間になったぜ」


 俺は彼の事を何度も見ているが、向こうが俺を見るのは初めてだろう。

 こいつって戦争の時も幽閉されていたしな。


 皇帝は諦めたように書類から離れ、こちらへやってきた。

 俺に椅子を勧めようと思ったら勝手に座ってふんぞり返っていたので、言うのはやめて自分も優雅に腰掛けた。


 うん、さすが様になってるな。

 あのいつも軍服を着込んでいた厳めしい第二皇子だったら、こうも典雅にはいかない。

 あの狡猾で我儘三昧だった彼も、今では首だけになってしまい大変大人しくしているのだが。


「ぶっちゃけ、まず蟹を寄越せ。

 何をさしおいても、まずはそれだ。

 その話を円滑に進めるためだけに、お前の兵を殺さずに、お前の敵だけを始末してやったのだから」


「出来たら、残ったもう一人も片付けておいてくれたらよかったのに。

 なんなら今からでもいいぞ」


 もちろん、それはあのベッケンハイム公爵の事だ。

 この堅物の皇帝の下で甘い汁を吸えない連中が、ああいう馬鹿を担いだりするからな。


「あいつは生かしておいた方が王国にとっては有意義なんでな」


「公爵殺しの称号持ちが、そんなケチくさい事を言うな。

 こっちは密かに楽しみにしていたのだぞ」


「ふん。

 とびきりの楽しみは後に取っておくものさ。

 それで俺の権利は何がもらえるんだい?

 蟹なんて当然すぎて権利にもなっていないが」


 一応はそのあたりを確認してみる。


「特に決まってはいないさ。

 そこは話し合いだな。

 どうせ、こっちはそうそう断れない」


 おやまあ。

 白紙の小切手とは、これまた豪儀な事だね~。


「じゃあ、エロフ全部」

「エロフ?」


「エルフさんの事だ。

 お前の国の奴ら、エルフさんを奴隷にしてエロイ事をしているだろう。

 そのエルフを全部寄越せ」


「全部とはまた欲張りだな」

「いや、別に彼らに対してエロイ事をするつもりはないのだが、こういうのは御約束というものだ」


「御約束?

 この国の貴族共が果たして大人しく従うと思うのか?」


 甘いな。

 従う従わないではない。

 もう全て決着がついたのだ。

 まだ俺の軍門にくだらないというのなら、精霊軍団と大小ゴーレム軍団を放ってやろう。


 そして空を真っ黒に覆い尽くす、遙か天空を轟然と羽ばたく死の使いたる戦略爆撃機の群れ。

 この国には高射砲も対空ミサイルも対空レーザー砲もないから、やりたい放題だ。

 ついでに帝国中の夜空を埋め尽くすほど圧巻の打ち上げ魔法の嵐。

 ここまでやれば演出も完璧っていうものじゃないか?


「大丈夫。

 あんたさえOKなら一軒ずつ取り立てに行く。

 その場合は全部ぶっ壊して家捜しするから。

 この魔王様に訪問していただきたいなら、いつでも喜んで」


「よかろう、許可しよう。

 まあ俺には関係ない事だし」


「おや、ぶっちゃけたな。

 じゃあ布告の方は宜しく。

 とりあえず布告の前に、見せしめとして何軒か灰にしておくか。

 それで後の取立てが大変スムーズだ」


「おい! そいつはさすがにやり過ぎだぞ」


 ああ、御茶が美味い。


「あと、俺の肩書きは知っているかな?」

「色々あるように思うが」


「基本、ケモミミ幼稚園・園長先生しかないよ。

 今度の春にケモミミ学園・学園長先生に昇格するけど。

 ケモミミ虐待は許さんぞ」


「いきなり亜人奴隷を廃止しろというのか?

 それは無理だ。

 国が破綻する。

 お前のところの王国にだって亜人奴隷くらいはいる」


 そうだったのか。

 今言われるまでまったく気が付かなかった。

 獣人は、うちの子や冒険者くらいしか気に留めていなかったもんでな。


「まあ奴隷廃止とまでは言わないけど、待遇改善策を提出してほしい。

 内容次第では俺がその場で暴れちゃうから、担当者には宜しく言っておいてくれ」


「わかった。

 とりあえずは待遇改善案を出させよう。

 頼むから暴れるな。

 帝国はもう、お前にちょっかいをかけるつもりはない。

 そもそも、私は最初からお前と事を構える気など更々ないのだから」


「それならいい。

 あと、ブラウン伯爵の件をなんとかしてくれ。

 俺はあいつに埋め合わせをしてやらないといけないんだが、まだ貴族社会で村八分なんだろう」


「ああ、叔父上に無法な真似をやられていたあいつか。

 あの叔父上には本当に困ったものだ。

 わかった、善処しよう」


 それからニヤリとして付け加えておいた。


「あとは……お前は当然、俺の舎弟だよな。

 舎弟ってわかるか?

 要は子分みたいなもんだ」


「むう。

 嫌だといっても、どうせ聞かんのだろう」


 ドランは凄く嫌そうに顰めっ面をしている。

 せっかくの色男が台無しだ。


「まあまあ。

 俺のところとアルバトロス王国にちょっかいをかけないというなら、俺もあんたと対立する理由がない。

 俺のような人間とは御友達になっておいた方がいいぞ。

 あんたも皇帝になり立てで色々とあるんだろう。

 あんたが俺に居てほしい時なんかがあったら、居てやっても構わんし。


 後、子供の神聖エリオンはうちにいるからな。

 親の方の神聖エリオンも俺の友達だし。

 必要なら子供の方は連れてこれるぞ。

 お前の前の帝国関係者がやらかしまくっていたから、あれこれと国際的に追及も厳しいし肩身も狭いぞ。

 お前も神の御使いの関係者という事にしておけば、何かと都合がよかろう。

 あ、でも学園の用事が優先ね」


「承知した……」


 返事は不承不承だったが、なんとかベルンシュタイン帝国は俺の傘下に収めた。

 これでケモミミ学園の安全保障がぐっと向上したぜ。


「あと一つ。

 第二皇子派であるニールセン侯爵は魔界の鎧というスキルを持っていた。

 そいつの出所が知りたい」


「なんだと!?

 ば、馬鹿なっ!

 いくらなんでもそれは無法が過ぎるぞ。

 それは確かな事なのか?

 そんな話、俺は聞いていないぞ」


 やれやれ、帝国新皇帝様はまだ新しい職場を掌握しきれていないようだ。


「アレがとんでもなくヤバイ代物なのは聞いている。

 まだ他にも持ってる奴がいたら事だから、よく調べておいてくれ。

 そして俺にもその情報を回せ。

 場合によっては、そいつを始末せにゃあならんのだろう?

 多分、その役目はうちの面子でないと無理だと思うし」


「わかった。そのように指示しておこう……」


 皇帝陛下は、就任早々いきなりの問題山積みの状態に頭が痛いようだ。

 俺は親分子分の盃代わりに、異世界語で用法の書かれている日本製の頭痛薬を机の上に置いてやった。


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