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17-9 終戦

 馬鹿皇子は一人で気を吐いている。


「馬鹿者! 何をやっているか。

 さっさと奴らを蹴散らせ!」


 全帝国軍兵士が一斉に奴の方を向いた。

 それを見て、俺は笑いが込み上げてしょうがない。

 なんで兵士にわかる事が偉い指揮官にわからんのか。

 しかも現場にいるのに。


 まあ上の連中っていうのはそういうものかな。

 戦前の日本でもノモンハン事件のような悲劇があったよな。


 203高地の時なんかでも、日本軍の上がもっと真面だったなら、あんな酷い事にはならなかったはずだと言われている。

 あれは軍の上の方がちゃんとしていなかったので、現場の指揮官は激しい人命損耗を伴う無謀な突撃を命じるしか手段がなかったという意見もあるが。


 こいつは所詮傀儡の皇子なのだ。

 一人じゃ天幕はおろか、毛布すらきちんと畳めないのだろう。

 いっそ自衛隊へ修行にでも行っておけばよかったのだ。


 うちの王太子様なんか、修行だとかいって戦場の天幕で飯まで自分で作らないといけないというのになあ。

 あの王家は相変わらずスパルタだ。

 俺の持っている便利なキャンプ道具類は差し入れで持たせておいたのだが。


「帝国兵士諸君。

 一人わかっていない奴がいるようだが、どうするね?」


 三万の軍勢を沈黙が支配し、そして武器が地面に落ちる音が続いた。

 最初の一人が武器を捨てると、その木霊から次々と武装放棄の連鎖反応が広がっていった。

 三万人が自ら武装解除した。


「貴様ら~、軍法会議にかけるぞ。

 すぐに五十万人の応援が来るのだ。

 戦え!」


 シャリオンが吼えた。

 馬鹿が、さっきのガラスの園の映像を見ていなかったのか?


 たぶん、あれを目で見ていただけで頭の中をそのまま通過していったんだな。

 下手をすると、今目の前で起きていた光景すら。

 馬耳東風系皇子か。

 ドワーフじゃないんだからな。


 もう、なんという無能者か。

 いや知っていたけどな。


 だが俺はずっと決めていたのだ。

 皇帝とこいつだけは殺すと。


 生憎な事に皇帝は親殺しのそいつに殺された。

 それは独裁国家では地球でも代替わりの際に度々あったようなシーンだ。

 そいつに関しては、地球のニュースで見るかのように俺も首を竦めておいただけであった。

 俺の身元引受人にも等しいギルマスから帝国皇帝回復禁止令が出されちゃっていたしな。


 あらかじめファストの魔法を重ね掛けしておいた俺は、待機状態であった魔道鎧を展開して一瞬のうちに奴との距離を詰めた。

 次の瞬間、シャリオンの首は俺の手の中にあった。


 俺の高速サイボーグのようなパワーを駆使すれば、それはチーズを切るかのように容易い作業ではあるものの、相変わらず嫌な感触だった。

 俺は人殺しには向いていない。


 今日はやらざるを得なかった。 

 現場の俺がその仕事をやらないと、この戦争は終わらないだろう。

 自分のこの手でやると、この国の偉い人達に向かって啖呵を切ったのだから。

 俺はそういう性分なのだ。


 日本での仕事でも常にそうだったから、あんな酷い事になってしまっていたのだ。

 賢い奴は、そこの今は首だけになってしまった奴のように上から下の人間を鞭打つだけだ。


「まだ俺と()り合いたい奴はいるか?

 今なら誉れのうちに死ねるぞ」


 俺は血塗れなシャリオンの首を高々と掲げて叫んだ。

 だが彼らは身動きもせずに、ただそこに立ち尽くすのみで、誰も前に出てこなかった。


「じゃあ、これでお終いだな。

 この戦争は『俺の勝利』という事で、たった今この瞬間に終了だ」


 巨大ゴーレム二万体が、一万組の大型サイズ仁王像のように身動ぎ一つせずに見守る中、帝国軍の御偉方の指揮の下で、完全武装解除である武器回収と捕虜化が進んでいった。


 帝国軍の今の責任者が、ここの兵士達を身包み剥ぐのは許してほしいと言って土下座するので、それは勘弁してやったが、その代わりにこう宣言しておいた。


「その条件は飲もう。

 その代わり、お前はこの先もずっと俺の舎弟、子分ね」


 そう言ってやったら、そいつはなんだか凄く絶望したような顔をしていた。

 それから、本陣を構えて作戦が終了するのを待っていた王太子殿下のところへ転移して終戦を報告する。


「終わりましたよ」

「御疲れ様でした」


 一言、シンプルに王太子殿下に報告し、同じくシンプルに労われた。

 この人も戦争にはあまり向いていないタイプだが、今日はきちんと大将を務めていた。


「これで本当に終わりでしょうかね?」

「さあ、どうでしょう」


 王太子殿下も俺の心の内を汲んでくれたものか、それ以上何も言わなかった。

 俺の臨戦態勢はまだ解かれていなかったので。

 その気迫が可視化せんほどに、全身からまるで湯気のように滲みあがっていた。


 俺は彼の傍らに直立するアントニオに謝っておいた。

 王国の剣たる彼を差し置いて、正式な貴族でもない俺が敵の大将の首を取ってしまったから。

 本作戦は俺が強引に発案したものなので、どうしても俺自身がやらなくてはならなかったのだ。


「済まんな、お前の出番が無くて。

 新設の武闘派伯爵家なんだから戦働きは欲しいところなのに。

 こっちも、いっぱいいっぱいでよ」


「何、こっちは本陣の御守りで手一杯だ。

 新米伯爵なんだから、むしろ何もなくてホッとしているよ。

 本来なら、敵の伏兵がこっちへやってきていたっておかしくないくらいの状況なのだからな。

 敵の大将が無能な奴で助かった。

 いや、こうして会うのも久しぶりだな、アル」


「おお。

 俺はまだ帝国で最後の決戦がある。

 こっちの方は任せたぜ」


「瞬神か……」

「ああ」


「任せた」


 アントニオにとっても因縁のある敵なのだ。

 自分の奥さんをあんな目に遭わせた極悪非道の男なのだから。

 本来であるならば、ここは一緒に行きたかろうに。

 自分の手で討ちたいと思っていただろう。


 だがアントニオはシンプルな一言で壮行に代えた。

 色々と想いはあるのだろうが、今は彼も伯爵家当主なのだ。


 奴の立場からすれば、このような状況下で勝手な動きなど許されるはずもない。

 まだ伏兵の残党が本陣へやってくる可能性は捨てきれない。

 王太子殿下にも専任の優秀な護衛はいるが、護衛は本来敵と戦う兵士ではないのだから、本陣詰めのアントニオが動いてしまっていいわけがない。


 それに『アルバトロス王国次期国王が、新たな王国の剣と共に本陣にて指揮をして勝利をもぎ取った』という必勝の構図は後世にまで残しておかないといけない。

 同盟国の大使なども祖国の将軍扱いとして帯同し、共に本陣に詰めていたのだし。


 絵姿師も大勢いてその勝利図をあれこれと描き記していた。

 俺が提供したカメラやビデオだけでは、この世界のルールからはみ出してしまうので駄目なのだ。

 俺達は、上げた拳の甲を軽く交えて別れる。


 そういや奥さんは、そろそろ臨月だな。

 あいつとの片だけはつけておくよ、マルガリータさん。



 俺は帝国へ転移魔法で飛んだ。

 行き先は当然ニールセン侯爵邸だ。

 そこに(やっこ)さんがいるとは思えんがな。


 静まりかえっている。

 やはり、もぬけの空か?


 いや『いる』。

 いるな。


 わかる。

 理屈でなくわかる。

 セブンスセンスがそう告げる。


 だが俺は、どうしようもない違和感に襲われる。

 眉が寄るのを止められない。


 何故なら、俺は『ここに奴がいない事の確認』のためにやってきただけなのだ。

 この大敗した敗戦の状況で、何故奴がここに残っている?

 通信の魔導具くらい連中も持っているから、戦争で帝国が負けた事は知っているはず。


 あの戦人の侯爵ならば、ここで俺が『本陣』へ攻め入ってくると知っているはず。

 もう頼みの綱であるバランはいないのだし。


 どうするか。

 後はもうこいつだけなんだが。


 また感知無効を持っている奴でもいるといけないので用心しながら進む。

 そして銃を引っ張り出す。

 魔法銃ではない火薬式の銃だ。

 何故かこれがいい気がした。


 感じるのだ。

 セブンスセンスで。

 だから、それに従った。

 この命の安い世界でそれに従わないと、俺の首筋あたりにそっと死神の吐息が忍び寄るだろう。


 いや、この世界では確か天使の御迎えだったか。

 だが実際に首を狩るのは鎌を手にした死神らしいしな。

 俺も本日、その御役目を見事に果たしてきたところだ。


 俺が手にするのは、ダークネットで設計図を見つけて、とうとう完成させた火薬式の旧式なサブマシンガンだ。

 そして様々な隠密系スキルを展開しながら、音を発さず気配を殺して忍び足で進む。


 レーダーで見つかるのはニールセン侯爵本人のみか。

 マーカーも確かに彼の豪奢な執務室を指している。

 この帝国に限っては、他に誰もいないなんていう保証はないがな。


 更に激しく覚える違和感。

 ますます足取りは慎重になる。


 ヤバイ……もしかして、俺は何か勘違いをしていたのか?

 バランが帝国最強のカードだと誰が言った?

 俺が勝手に決め付けていただけだ。


 拡大したレーダー画面で確認したが、ニールセンは執務席に座っているようだ。

 何度も忍んだ、奴の部屋の間取りは熟知している。


 俺は慣れ親しんだニールセン侯爵の部屋にそっと転移した。

 そして益々濃くなるセブンスセンスの焦燥に胸を焦がす。


 ヤバイ。

 ここ一番ヤバイ。

 しかし、何故か止まれない。

 何かがおかしい。


 殺す、いや殺される?

 まるで、この世の名残りの如くに子供達の顔が脳裡にちらちらと浮かぶ。


 いかん、何をやっているんだ、俺は。

 ここは、そんなシーンじゃないだろう。  

 こいつは必ず殺しておかないといけないのだ。

 帝国急進派残党からの余計な反撃は食らいたくない。


 こいつを逃がすとまた思いもよらない方法で、ケモミミ園を、あの子達を襲撃してくるかもしれない。


 今までこの世界で培ってきた技術により、全ての気配を殺して奴の後ろに忍び立つ。

 そして銃口を奴に向ける。


 だが、次の瞬間には銃を撃つのではなく、無意識に魔道鎧を発動していた。

 続けて間髪入れずに横っ飛びに逃げた。


 はずなのだが。


 突き刺さる奴の右手が見えた。

 そう、俺の左肩に。


 まるでそこに俺の体が吸い込まれたかのような、あるいは俺自らそれに向かっていったのではないかとすら思うほど、馬鹿げた結果が生じていた。


 走る激痛に顔が歪む。

 まるで神経を引きずり出されて引き毟られるかのような痛みが迸った。

 俺はとっさにフルパワーで魔道鎧の出力を上げて奴を弾き飛ばした。


 引き抜かれる奴の手がもたらす激痛に、俺は傷口及び口から吐いた赤い液体と一緒に、体の奥から苦鳴を吐き出した。

 間違いなく、今まで味わった中で人生最大威力の苦痛となる痛覚だった。


「ぐがあっ」


 引き続き焼け付くように、肩に猛烈な激痛が走り、俺は奴を突き飛ばした反動で壁に叩きつけられる。

 目に入るのは床を濡らす(おびただ)しい真っ赤な血。

 うぐう、これは紛う方なき俺の血だ。


 くそ、直接内臓をやられたわけでもなく、ただ肩をやられただけのはずなのに、何故口からもこんなに血を吐くのだろう。

 理由は不明なのだが、奴の攻撃を食らった影響で、どこか内臓を損傷しているようだ。

 そこへ迫ってくるニールセン侯爵。


「ば、馬鹿な……俺がこんな……」


 奴は薄ぼんやりとした何かを体に纏っている。

 ただのシールドのような物ではない。


 それは黒き物、悪しき想念のような物。

 精霊の力にも似た何か、しかしそれは聖なる物ではなく、なんというか呪いにも似た何かだ。

 いや、呪いそのものであるように感じる。


 それは近づくにつれて、この俺の全ての力を剥ぎ取っていくかのようだった。

 ありえない事だ。


 このドラゴン百頭分に近いような耐久力とパワーを持つ、たとえ相手が最新型のハイテクな重戦車であろうとも真正面から指一本で倒せるようなこの俺の体が、生身の人間を相手にこうも易々と屈するなんて。


 俺は力なくずり下がっていき、低い姿勢で壁にもたれかかっている感じになってしまった。


 なんだ、奴が纏っているのは。

 魔道鎧のような魔道のもの?


 違う、もっと禍々しい何かだ。

 呪術?

 黒魔術?


 時間がスローモーションに流れ、その中をニールセンが俺に迫る。

 その笑顔は、紛れもなく勝利を確信した処刑者のものだった。

 何しろ俺はその場から一歩も動けないのだから。


 手も碌に動かないから反撃も出来ないし、アイテムボックスからの武器射出も不可能だった。

 どうにも頭が上手く働かない感じだ。

 緩慢な刻の中、死まで約数メートル。

 最初に出会ったグリオンとの対決を思い出させるような無力感と焦燥が俺を襲う。

 


 くそっ、死ぬ。

 畜生。


 あの〇団連企業の人類奴隷化計画、地獄の裏トップダウンさえ切り抜け生き延びたこの俺が、こんなところで無様にお終いなのかよ。

 は、泣けるぜ。


 だが、次の瞬間に俺のアイテムボックスからゴーレム共が飛び出していった。

 何故か命じてもいないのに、まるで俺を守るかのように奴に向かっていく。

 次々とニールセンの力で切り払われていくゴーレム達。

 なんてこった。


 だがそれでも数を頼みに執拗に立ち向かうゴーレム達の、執念にも似た、あまりもの数の多さとしつこさに閉口したものか、彼らが壁となって庇う俺を倒すのを諦めて逃げようとしているニールセン侯爵。

 まあ俺はこのままだと、止めを刺されなくても御陀仏っぽい雰囲気だしな。


 しかし、強化された俺のゴーレム達があんな簡単に切り裂かれるのだと?

 そんな馬鹿な。

 だが、それは紛れもない現実だった。

 なんなんだよ、くそ。


 そして右手が動いた。 

 というか、ついに力なく右腕を体の上から床へ落とした衝撃で『トリガーを引いていた』。


 力があまり入らなくて、射撃の反動で銃口が跳ね上がる。

 そして丁度、暖炉の奥にあった秘密の脱出通路に消えようとしていたニールセン侯爵に弾が当たる。


 ゴーレム達は俺の射線の邪魔になると思ってか、いつの間にか全員消えている。

 銃口は「たまたま」その方向を向いていたのだ。


 いやそんな訳がない。

 これは「セブンスセンスのいつものやつ」なのだろう。


 軽い反動が来て、丁度その辺りに撃ち込むような狙いになっていて、手がいい具合に上下する。

 腕が垂れ下がって落ちようとする力と、反動で跳ね上がる力が見事に釣り合って。


 この銃は反動の少ない三十二口径の集弾率のいいものだ。

 そして俺は腐ってもHP八百万の圧倒的なパワーの持ち主なのだ。

 死にかかってはいても、その程度の反動くらいで銃が手の中から飛んでいってしまう事はなかった。


 弾薬はアイテムボックス内のインベントリからどんどんと自動供給されているので途切れない。

 反動が傷にもろに堪えるが、どうしても指がトリガーから離れない。

 へたをするとセブンスセンスが俺に代わって引き金を引いているのかもしれない。

 こういう感じでイコマが俺の体を勝手に動かすような事は、今までもちょくちょくあるのだ。

 ゴブソンの武器屋でも強引に体を動かされたっけな。


 途切れない、俺とニールセンが互いに放つ苦鳴の連鎖だけが部屋の空気を満たしていく。

 侯爵は脱出路に選んだ狭い暖炉の中で弾丸を浴びせられまくって、真面に身動きも取れないようだ。


 マガジンが空になる事はないから、俺が呻き続ける中で大量の空薬莢だけが一分間数百発の高速で辺りに四散していく。


 俺がこの世界で作った銃は異常に耐久力が高いため、簡単には作動不良に陥らないし、魔法金属製の銃身は焼けたりせず撃ちっぱなしにできる。

 発射ガスによるカスも浄化機能によって常時消し去られ、それでもこびりついてしまったようなしつこいカスは収納によるアシスト機能で除去されている。


 どれだけ撃ち続けていたものか、もう認識出来ない。

 死の淵に在るせいで起きている時間拡大現象は、正確な時間の把握を妨げている。

 

 奴は倒れていて、もう動かない。

 呻いてもいない。

 呻いているのは俺だけだ。

 奴は死んだのか?


 ああ、死んだろうな。

 わかる。

 理屈でなくわかるぞ。


 奴の体を纏っていた、あの『何か』は既に解除されていた。

 生身の体であれだけの量の弾を食らっては、さすがの瞬神様も生きてはいられまい。


 それを見て取って気が緩んだものか、銃を握る俺の右手から力が抜ける。

 あるいはセブンスセンスが、もう不要であると判断したものか。

 やっと銃が手の中から転げ落ちる音が聞こえた。

 ふかふかな高級絨毯はそれを微かな振動として伝えたのみだった。


 くそ、肩をやられただけなのに、何故こんなにダメージが通っている。

 見事なまでの相打ちじゃねえか。

 一体何なんだ。

 俺はまだかろうじて息があるが、このままではすぐに人生が終わっちまいそうだ。


 うう、転移すら出来ん。

 念話……アルス、真理……治療ポッド……。



 

 気が付くと、そこはケモミミ園にある俺の部屋だった。

 俺はベッドの上で寝かされており、レミとファルが泣きながら俺に縋りついていた。

 一体何がどうなったのだ?


 その疑問に対しては、枕元に立っていたアルスが状況を説明してくれた。

 いきなりレミが、「ああっ」と言って立ち上がったのだそうだ。

 丁度、俺がピンチを迎えた頃らしい。


「アルスちゃん、おねがい。

 おいちゃんを、おいちゃんをむかえにいってきて!」と。


 レミは目に涙をいっぱい溜めて、アルスに頼んだという。

 アルスも驚いたらしいが、さすが場数を踏んだ(えすらんく)

 こういう話も聞いた事があったのだ。


 すぐにパーティを組んでいた俺の転移先をトレースして迎えに来てくれたようだ。

 そして倒れていた俺に回復魔法をかけたが、まったく回復しない。

 ポーションも駄目だった。


 思い当たったものか、ケモミミ園に連れて帰ってきてくれ、ファルに頼んで祝福を与えさせた。

 それでなんとかなったらしい。


 まったく……。

 ついこの前、俺がバランにくれてやった無慈悲が、そのままブーメランで『ザマア』として回ってきやがった。

 いや、この人生でそういう事も日本じゃ、あれこれと体験してきたがなあ。

 まったくもってヤバイったらありゃあしないぜ。


 傷はまだ癒えていないのだが、俺は自前の強大なHPの御蔭か、もう回復に向かっている。

 何か呪いのような物からダメージを受けたようなので、俺が大量に持つ精霊の加護も影響しているのだろう。


 ニールセン侯爵は、凄まじく穴だらけになって死んでいたそうだ。

 跳ね上がった銃口が、奴をずっと捕らえていたらしい。


 あまり威力のない三十二口径拳銃弾とはいえ、実用射程内で身動きも出来ず避けられない状態にて生身の体に一分で数百発以上もぶち込まれれば、体の後ろ半分がほぼミンチになっていただろうな。

 おそらく二千発くらいは撃たれまくって、そのうちの数百発が命中していたと思われる。

 なんというか、親族に対する恨みを晴らすため多人数のマフィアによるピストル・リンチでも食らったかのような有様だぜ。


 もっとも、こっちはそんな物を観察している余裕はなかったがね。

 意識すら朦朧としていたので。


 やはり、あの火薬式の銃にしておいて正解だった。

 こういう事がセブンスセンスの醍醐味の一つともいえる。

 だから俺はあの感覚に無闇と逆らいたくないのだ。


 だが奴は何故あのスキルを解いてしまっていたのか。

 長い時間は使えないような代物だったのだろうか?

 ニールセンはあそこで俺を待っていたのか? 


 そして、あんなにも疑念や焦燥があったにも拘わらず、俺は敢えて一人で進んでしまった。

 いつもなら逃げ出すか応援を呼んだはずなのに。


 俺がああなっていたのも、奴のスキルによる影響なのだろうか?

 何か精神に影響を与えるような、異常な物だったのかもしれない。

 この俺だから、まだあの程度で済んだのかもしれないし。


 そして俺のゴーレムが奴にあっさりと切られていた。

 強化されたうちのゴーレムは、そう簡単に切れるはずがないのだが。


 それに奴らは俺を救うために勝手に飛び出していったな。

 真理のコアをベースにしていたからだろうか。

 まるで童話に登場する玩具箱から飛び出した鉛の兵隊か何かのようだ。


 何一つわからないのだが、とにかく生きて帰ってこれたし敵は全て滅んだ。

 この大切な場所も子供達も守れたのだし。

 俺は、ただそれでいい。


 眠い。

 ただただ眠い。

 今は寝かせてもらおう。

 何も言わずに俺は目を閉じる。


 小さな手がいくつも俺の手を握る。

 それは何だか、とても暖かくて気持ちがよくて。

 俺は安心して、すぐに深く、まるで子供時代の時のような眠りについた。


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