17-8 開戦
灼熱のバランが散った、その翌日。
ベルンシュタイン皇帝崩御の報せが各国にもたらされた。
その報は大陸中を駆け巡った。
そして帝国は皇帝葬儀の準備に入った。
次の皇帝はまだ発表されていない。
帝国はもう国中がてんやわんやだろう。
だが俺は知っていた。
混乱していると見せかけて、今夜奴らが奇襲をかけてくることを。
いやあ、監視カメラや偵察衛星って実に便利なもんだ。
うちの偵察衛星は惑星上空を自由自在に動かす事が可能で、好きな時に好きなところで静止させられる事もあって、軌道や時間に左右される地球のそれよりも遥かに優秀なのだ。
準備は万端だ。
国王陛下やミハエル殿下との打ち合わせは終っている。
彼らも俺のプランに乗ってくれた。
王太子殿下は出陣なされるそうだ。
あの人だってやる時はやるのだ。
別に本人が直接戦うのではないのだし、その気概が大事なのだから。
次期国王が戦場に立つ。
それだけで兵士の士気は違ってくる。
ケモミミ園は非常警戒態勢を発令した。
アルスを主戦力とし、前に来てくれたBランクの冒険者二人もギルマスに頼んで応援に来てもらってある。
いざとなれば、今回は精霊の森へ退避する手筈だ。
エリ一家もうちに呼んである。
チビ達にも不安な気持ちが移っていたようだが、しっかりと頭を撫でたりもふったりしておいてやる。
そしてキュッと俺の服の袖を掴む奴がいた。
レミだった。
俺は笑いかけてチビを抱き上げた。
いつもは少々の事があっても笑って手を振ってくれるのに、今日は何故か泣きそうな顔をしている。
俺はもう一度強めに抱き締めてやってから、そっとチビを下に降ろし、その頭を優しく撫でた。
「じゃあ、みんな。
いってきます。
あとは烏合の衆の帝国軍狩りだ。
そう心配する事はないよ。
一番ヤバイ奴は先に片付けられたんだから」
開戦前に、あのバランの奴を片付けられたので俺の気持ちは大変に軽かった。
後は只の片付け仕事なんだと思っていたのだ。
俺は早速、帝国との国境である大河エール川の方面へと向かった。
引き続き使っている精霊による魔導衛星で現場の監視は出来ている。
奴らは続々と河を渡ってきているのだ。
もし、そのままにしておいたなら色々とまずかっただろう。
もちろん、この俺がそのままになどしておくはずもない。
小隊単位、三十人の単位で上陸してくる帝国軍の奴ら。
正式に戦争をしにきているので、ちゃんと帝国軍である事を示す装備を身につけて、ついに侵攻してきた。
奴らの最初の兵がこちら側の岸へ一歩目を印したその時、それが宣戦布告のない奇襲による開戦の瞬間である。
これなら俺も大っぴらに手が出せる。
もちろん、その無法な侵攻の様子は全てバッチリと撮影しているのだ。
21世紀の日本からやってきた稀人の前でシラなんか絶対に切らせないぜ。
御丁寧な事に、連中の中にもインビジブルの魔法を使用している特殊部隊のような奴らはいたのだが、遥かな上空より偵察している精霊からは全部丸見えだった。
あいつらが『ファルスの敵』を見逃すはずもない。
こちらもインビジブルと感知無効のスキルなどで待ち伏せをし、魔導ライフルをスタンモードにしていたゴーレム達が、奴らが上陸する端から倒しては装備をすべて剥がし、ぐるぐる巻きにしてからガラスの園へ転移魔法で運び無造作に転がしていく。
無事上陸出来て、ふっと気が緩む瞬間を狙って速やかに倒し、転移させていく。
魔法を使う奴には首にマジックキャンセラーを括り付けて。
それでも倒せないような強敵には容赦なく透明な人外兵士が取り付いて、多勢に無勢で押し寄せ捲って容赦なくフルボッコにしていく。
ほぼゾンビ映画のイメージだった。
敵が予想もしていないような大量の迎撃者である強大な人外兵士津波の前に、敵兵士達は精鋭部隊も含めて敢え無く軍門に下った。
この辺りの様子は、まるでハリウッドのB級映画レベルのような惨状だ。
俺って重度のB級映画マニアなんだよね。
河のこちら側に、あらかじめズラリと百万体のゴーレムを配置しておいたのだ。
帝国め、俺のコピー能力を舐めんな。
なんだかこう、卵を産む女王蟻か何かになったような妙な気分だったがな。
勤勉な日本人が作ったゴーレムは実に働き者だった。
一晩がかりで攻め込んできた敵の十個旅団三十万人を捕縛し、更に後方支援部隊二十万人を襲撃して縛ってから転がした。
よくもまあ、こんな世界でこれだけの数の兵を集めたもんだ。
たぶん、こいつらは徴兵で集められた農民などが主力なんだろう。
特に給料も貰っていないのに違いない。
普通なら使い物になるような戦力ではないはずなのだが、おそらく長年に渡って農閑期に訓練を積んできたのだろう。
丸々素人の動きではなかった。
しかし、現在の専門化された兵士で構成される地球の軍隊では考えられない、昔の戦い方だ。
日露戦争あたりの頃に要塞への突撃兵にするなら通用したかもな。
大量のヒロポンが要ったのかもしれないが。
太平洋戦争で赤紙を貰った一般人とかが、ちゃんと戦えていたのだろうか。
当時の兵器も、おそらく専門的な扱い方が必要だった筈なのだが。
当時の日本はアジア随一の科学技術と教育水準を誇っていたので、数か月訓練すればちゃんと戦力になったのかもな。
帝国軍兵士の装備は全て隈なく剥ぎ取っておいた。
正確には全裸だ。
俺の名誉のために言うと、その中に女性は誰もいない。
この小説に挿絵が無い事を、これほどありがたいと思ったことはない。
野郎の全裸五十万人分って一体誰得なんだ。
中でも魔法使いにはスペルキャンセラーの首輪を進呈しておいてやったので、そいつらは全裸に奴隷風の首輪だけという更に酷い絵になっていた。
そんな事になっているとは知らないシャリオンの野郎は、先遣隊三万人を引き連れて王国軍十万人と対峙していた。
そいつらは全員がエリートの職業軍人なのだろう。
近衛部隊だからな。
あの国なら貴族が指揮官として率いる軍勢なんだろうな。
連中は続々と集結する自軍の存在を露とも疑う事さえなく、自分達の三倍以上の数の軍勢と対峙していた。
だが相手が悪かったな。
帝国にも強大な魔法戦力はあるのだ。
通常ならばアルバトロス王国は数の暴力によって蹂躙され、大陸最大の覇権主義国家が誕生したはずだった。
中央にエルドア王国が陣取っているため、他国は直接攻めてこられない。
帝国西方の、勇猛ではあるがあまり近代的ではない草原の王国さえ抑えておけば、後はこの大陸における最終攻略目標であるハイドの港へと、アルバトロス王国を抜けて真っすぐな街道沿いに快進撃だったろうよ。
アルバトロスから有用な魔導製品も大量に接収出来ただろうしな。
絶対に表に出せないような王宮宝物庫の中身なんかを持っていかれたら最悪だ。
そして出してやったぜ。
お蔵入りになっていたロボット軍団を。
全長二十メートルの正にロボット然とした奴だ。
中身も自立型ゴーレムにグレードアップしてある。
その数、実に二万体。
ちょっとやりすぎたかなと思ったけど気にしない。
大丈夫。
帝国軍三人で二体を相手にすればいいだけだ。
命が惜しかったら逃げればいい。
降伏しないで逃げた奴は背中から撃つけど。
そしてゴーレム同士が模擬戦を展開する。
素手で組み合う者、剣で打ち合う者。
顔に塗料で歌舞伎のような隈取りをして、槍を頭の上でぶんぶんする大技を披露する者。
巻き起こる烈風で両国軍の兵士が飛ばされそうだ。
それを目の当たりにした帝国軍は完全に沈黙した。
馬鹿皇子は何が起きてるのか理解出来ていない様子だった。
まあ俺が出した連中は尋常な物ではないからな。
この世界の常識から考えたら理解出来ないような存在なのだ。
完全にロボット・アニメの世界だからな。
しかも大量にロボットを消耗する戦争物アニメだ。
敵軍にロボットが存在しないので、うちの連中は消耗しないがな。
これらは俺の魔法で全世界へ生中継中だ。
皇子の馬鹿面は特に四方向から写して、画面を四画面割りにして映してある。
ここからはコスプレ大会だ。
髑髏の死神が大鎌をヒュンヒュンと振り回す。
この世界でも死神はこんなスタイルで、死が身近な世界だから地球よりも更に嫌がられている。
そして俺の渾身の作であるドラゴンの登場だ。
姿形はバルドスの爺さんからキャプチャーした物なので迫力があるなんていうものじゃない。
可愛い孫娘が見ているんで、爺さんも張り切りまくりだった。
盟友船橋武の子孫と溺愛する孫娘のために、ウルトラ張り切った齢五千歳の爺さん竜の熱演をトレースしたドラゴンゴーレムを、ゴーレム部隊が死闘の末? やっつけた。
これらの映像は全世界が息を飲んで見ていただろう。
そう、これはエンターテインメント。
ただ勝つんじゃない。
圧倒的に勝つ、見せ付ける。
王家の面々や軍の司令官に向かって、そう言い放った。
世界を相手に映像メディア戦略で戦争の生中継だ。
それはこの世界の国家には無い発想なのだ。
伊達に長年エンターテインメント・シティであるラスベガスとかへ通いまくっていなかったぜ。
二度とこの国に手を出すな。
それくらいの意思を込めて。
無論帝国以外の他の奴らにも伝わるようにと。
もっと正確には「俺んちには手を出さないよね?」という意思をきっちりと込めて。
映像はガラスの園上空にも見せ付けた。
素っ裸の身動きも取れない状態で、これから味方が惨敗するところを見せ付けられるのだ。
大方の奴の心はへし折れるはず。
そして、そんなガラスの園に素っ裸で転がされながら絶望に嗚咽する五十万人の友軍の姿に同じく絶望する三万人の近衛部隊。
もちろん、帝国軍の連中にもガラスの園からの魔法映像はサービス済みであったのだ。
俺は実にエンタメ精神に溢れた男なのだ。
そして俺は声高らかに宣言した。
とても悪い笑顔と共に。
「別にお前らは降伏なんてしなくてもいいぞ。
すでに捕虜なら五十万人もいるし。
潔く軍人としてこの場で散るもよし。
早めに降伏するなら命は助けてやってもいいがな」
もちろん、これらの映像は帝都を始め、全帝国中にも隈なく放映されていた。
他の国家の主要都市にも。
「降伏するの? しないの?
まあ俺はどっちでもいいぜ。
どうする?」
全世界が息を飲んで事の結末を見守っていた。




