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17-6 精霊達の宇宙旅行

 俺はアルバ大神殿にやってきた。

 目聡い精霊が具現化して、ネコミミをつけた子供の姿になっている。

 まるで日本で初めて猫を擬人化して描かれたという、あの漫画のキャラクターのような可愛さだ。

 それは俺が子供の頃に姉ちゃんの少女漫画で読んだ奴だから、精霊に心を読まれたかな。


 嬉々として手を引っ張って案内してくれるのだが、所詮はチップの魔力が目当てなので若干興醒めかな。

 まあ可愛いので喜んで許す。

 他の奴らも俺の周りをうろうろしている。


 ここで簡単な教育マニュアルにより、衛星搭乗員の訓練をしてもらっていたのだ。

 衛星といっても、やはりなんちゃって製品だ。

 その性能の全てを精霊で補おうというものだ。


 ゴーレムを使おうと思ったら、これが意外と厳しくて。

 なんていうか、精霊は小器用で融通が利く。

 ゴーレムを無理使いして、ここぞという時に役に立たなかったらどうしようもない。

 もうどんな展開になるのかわからないからな。


 なんたって聞く人聞く人から「歴戦の強者」とか「凄まじい能力者」だの、剰え「いくら君だって無事に済むだろうか」などという碌でもない話しか聞こえてこない相手なのだ。


 今回は失敗すると、おっさんの命に関わるので。

 何しろ、あのいかにもヤバそうなバランという男が相手なのだから。

 今おっさんが死んでしまうと、残された後の人が大変困ってしまうのだ。


 一応ギルドにも結構な金額を預けておいて、俺に万が一の事があったら後は頼むとギルマスには頼んであるのだが。

 代官にも声をかけてあるが、今まで程手厚くはなるまい。

 真理がどれだけやれるかなあ。


 精霊どもには、打ち上げ用の衛星ポッドに乗り込んで色々と扱いに慣れてもらってある。

 機能の殆どを精霊頼みにした、殆ど「どんがら」だけなんだけど。

 そうでなけりゃ、衛星なんてこんなにさっとは作れない。


 衛星にはホーミング機能もあるので、精霊が宇宙から帰るのは自在だ。

 静止軌道まで打ち上げるわけではない。

 あまり上空は魔素が少ないようなのだ。


 魔素は宇宙に満ちている力ではなくて惑星由来の力なのか?

『彼ら』が生み出しているのだとしたら、それも合点がいくのだが。

 他の星にも魔素は存在するのだろうか。

 そこにも彼らがいれば、それも有り得る話なのだが。


 無人機を打ち上げて実験して、上空にこちらから魔力を送り込む事は出来たが、あまり地上を離れると心配だ。

 何かの弾みで起きた事故で精霊が帰還出来なくなっても困る。

 今はまだ遭難した衛星を救援できる宇宙船がないのだ。

 まだ最初の衛星だしなあ。


 せいぜいISSと同じ程度の高度にしておいた。

 ただし移動せずに、魔法を付与して強引に上空に留まるようにしている。

 そのあたりの高度なら、最悪の場合は俺の特別な視力なら目視で確認出来るから収納で回収出来るかもしれない。

 非生物たる精霊はゴーレムと同じようにアイテムボックスに潜ませる事が可能な存在なのだ。

 普通の存在じゃないしな。


 VTOLの離陸用の垂直ノズルと推進ノズルを常時全力で吹かしているようなもんだ。

 作戦の間の短時間だけ宇宙に留まれればいいので、魔力量頼みで無理押ししているのだ。


 アイテムボックスにベスマギルバッテリーも大量にぶち込んで入れておく。

 衛星が遭難しちまわないように、精霊が魔力をつまみ食いしないようにロックをかけて。

 そいつは必要な時に解除する方式になっている。

 おやつ魔石は別で渡すようにしてあるから問題ない。


 精霊達を乗せて有人テストを行う。

 乗っているのは人じゃないけれど。


 最近、重力魔法の素晴らしい使い手を発見し、そいつを教えてもらった。

 これは魔物を押さえつけるような使い方しか習っていなかったので、目から鱗だった。

 この衛星もそれを使用して打ち上げている。


 今回打ち上げる高度でも、重力魔法の使用で惑星重力の九十パーセント以上を確保出来るはずだ。

 もしここが地球と同じような構造の星なら。


 上の方の魔素や空気の薄いところで、飛行動力として普通の魔法を使用するのが心配だったのでそうしてみたものだ。

 こちらから遠隔でも魔力は送れるのだが、やはり基本的には安全を考慮したい。


 下へ降りてきたら風魔法も補助に使えるから、万が一転移魔法が使用不能になっても大気圏突入に耐えられるだろう。

 だから形状もアポロの帰還船のような形にしてあるのだ。


 そうしないと、ソ連の初期タイプの帰還カプセルみたいな奴だとクルクルと不規則に回転しまくって、見た目が墜落しているようにしか見えない。

 強権国家による人命軽視の国家方針がああいうヤバイ物を開発させてしまうんだよな。

 国家の威信を賭けて、アメリカより少しでも早くと。

 


 一応衛星は十機用意してあるので、訓練のために十機全て打ち上げた。

 精霊達も珍しい乗物へ乗ったので結構大はしゃぎしていて、色々と好き勝手にやっている。

 空には障害物もないし、ここからでもレーダーで監視は出来る。

 そして一通りの訓練を終えて地上に帰還させる。


 一応、訓練は毎日やる予定だ。

 これで切り札はなんとかなったと思う。


 

 その後、ミハエル殿下の下へ向かった。

 ある情報が欲しかったのだが、残念ながらなかった。

 更に情報を求めて帝国へ向かう。

 タヌキ大使さんを訪ねてみたのだが、情報はお持ちでなかった。


 次に、久しぶりにニールセンのところへ行ってみたのだが、なんと尋ね人はそこにいた。


『灼熱のバラン』


 初めて御目にかかるというか、ただの盗み見だ。


 不気味な男だ。

 あまり表情が無い感じの情報通りの容貌で、一見すると只の陰気な学者風のおっさんにしか見えないのだが。


 だが、何故か気にかかる。

 心に警戒信号が点る。

 あの男はヤバイよと言った、アルスの言葉を思い出す。

 ささっとマーカーをバランに付けておく。

 これで奴の動向をいつでも監視可能だ。

 ミッションクリヤ。


 ところがその途端に、バランがすっと顔を上げて周りを見回す。

 あぶねー、てっきり見つかったかと思った。


 いけねえ、こいつ。

 完全にセブンスセンスのような何かの能力持ちだ。

 主に製造業の仕事や趣味の中で磨いてきた俺と違って、殺して殺して殺しまくる中で磨きあげてきたモノホンの殺し屋さんのスキルですわ。


 リックのような小者とは訳が違う。

 あの感知無効のスキルをくれたスライムに改めて感謝する。

 奴も何者かの存在は確信したものの、はっきりとその所在については突き止められなかったようだ。


「侯爵よ。

 鼠がいるようだな」


 その言葉を耳にして即時転移して逃亡した。

 もしかしたら転移したのがバランにバレたかもしれんが、もたもたしているうちに下手をすると転移防止の結界くらい張られかねん。


 そういう魔導の仕組みは実際に存在するので、こいつほどの男ならそういう仕組みの魔道具かスキルくらい持っていてもおかしくない。

 魔法には相当長けているらしい。


 今、即交戦は避けたい相手なので即時撤退した。

 万が一、転移魔法の航跡を追尾されているといけないので一旦ガラスの園へと逃げ延びる。

 後は転移しまくってから最終的に魔素の流れが混濁したような探知されにくい場所へ移動してから帰還する。

 こういう事もあろうかと、そういう場所の転移ポインも幾らか作ってあるのだ。


 俺自身はそういう転移サーチのような真似も出来るので、魔法巧者な奴に同じ事が出来ないという保証はどこにもない。

 あいつの能力に関して詳細を知る人間はいなかった。


 まだ動悸が収まらない。

 ヤバかった。

 この世界へ来て、始めて危機感を持った気がするわ。


 今思えば、初めての盗賊との戦いもドラゴンも大した事がない。

 あんな物はチートであっさりと狩れる代物だった。

 だが、あいつは違う。

 こっちは生まれて初めて自分を狩る者の存在を知った草食獣の気分だ。


 ただ、セブンスセンスのような力は狩るものだけの持つ力じゃない。

 狩るものと狩られるものが共に持つ力。

 能力と使い方が勝るものが生き残るのだ。

 俺もただ狩られるだけの生き物じゃないがね。


 バランは、いわゆる『セブンスセンスなる者』を持っているわけじゃないと思うのだが。

 あれは少し特殊な物で、自分の意思で勝手に持てるような物ではないのだ。


 俺の知る限りでは、今の帝国に与するような悪辣なタイプの人間で、あれを持っているような事はないはずなので。

 そういうタイプの人間には『与えられない』物のはずなのだ。

 選別試験が厳しいからな。


 それも、後から心が闇に落ちて帝国に加わったのであれば、わからんのだが。

 あいつは元々帝国貴族ではなく冒険者なのだからな。


 地球でもセブンスセンスなんて何十万人もの人間が持っているはずなのだ。

 この世界にも、きっと俺と同じ人間はたくさんいるだろう。

 ここはもう一つの地球のような世界なのだ。


 俺はバランがどういう心根を持っている人間なのか、本当はどういう人間なのか知らない。

 少なくともセブンスセンスは、おかしな悪党のような変節的な人間なんかには『持たせられない』力のはずなのだ。

 システム的にそうなっているはずなのだが。


 心根のような物まで試験(というか試練)を受けてチェックされ、『気に入られた人間』だけしか貰えない『ギフト』のようなものだからな。

 

 本来なら、そういうセブンスセンスを持った人間は、こういう時に俺の敵には回らないはずなのだ。

 もし、そのような者が敵の中にいたとしたならば、その事自体が何かの意味を持つ。

 それは宿命という名の消滅線となり、俺の命をその敵もろともに断つだろう。


 今回はそういう気配は特に感じないのだがな。

 そういう奴がいれば、きっと俺にはわかるはずだ。

 そうであれば心は重く、まるで宿命を運命を受け入れるかのような神妙な気持ちとなり、自然とそういう荘厳な面持ちになってしまう。

 きっと遺言を書いて身辺整理を行い、友人知己と別れを惜しむ時間になった事だろう。


 地球には、俺にもそういう有難くない相方が一人居たようだ。

 セブンスセンスそのものが、かつて俺にそう言った。

 幸いな事に、俺がそいつと出会う運命にはなかったようなのだが。


 相手は俺とは違って自由に国を出る事が許されておらず、また地球の反対側に住む人間だったのだ。

 そこは外国人が入国するのは相当困難な国で、あんな特殊な国に俺も用はないからな。

 あれは普通の人が観光に行くような所ではない超特殊な国だったので、俺にとっては幸いした。


 バランの奴はおかしな力を使いこなしているみたいだが、おそらくセブンスセンスという物の本質もわかっていないし、その概念さえ持っていないのだろう。


 これで、あいつが異世界からの転移者などであるのなら尻尾を巻いて、多くの場数を踏んできたアルスにでも外注に出すところだったが。

 あいつは昔、バランとやりあって撃退した事があるそうだから。


 こうなった以上、俺はバランに対して無謀で直接的な戦いは挑まない。

 死ぬのは奴の方だ。

 いや、今日あいつと出会っておけて大変有意義であった。


 このアルさんの座右の銘は、備えあれば憂いなし。

 準備は万端だ。


 帝国軍自体は、そうたいした事はない。

 皆殺しにするだけなら、あっという間だ。

 そんな真似を本当にやってしまっていいかどうかは、いろんな意味から別問題なのだが。


 バランは必ず殺す。

 あまり手強ければ、アルスの応援を貰ってでも斃す。

 問答無用で抵抗さえ許さない。

 でも帝国軍兵士は殺さない。


 ミハエル殿下にも一応はそう言ってある。

 後々の事を考えて、そんな風に決めた。

 地球での紛争とかを見ていると、多分ここでもそれが正解だろう。


 血で血を洗うような泥沼化の報復合戦になる帝国との怨恨の応酬は避けたい。

 それは何もかもを巻き込んで長く永く両国を苦しめ続けるだろう。

 だから、そうはさせない。

 だが帝国の連中の心だけはしっかりと折らせてもらうがな。


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