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16 御見合い空間

 そこはなんというか、適度な空間というべきか。

 そこそこの広さ、一続きの長机で遠すぎず近すぎずの、なんというかもう絶妙な距離で二人が並んで作業する感じだ。


 緊張は覚えず、しかし離れすぎてもいない、やや期待感のある間合い。

 何かの拍子で二人が同時に手を伸ばせば手が触れ合ってしまってドキっとする。

 そんなアクシデントを期待するかのように、二人の真ん中に文房具などが置いてある。

 しかも、若干山本さんが取るのに便がいいように。


 葵ちゃんが少し便を良くしようと思って、自分から椅子ごと彼に近づいていくシチュエーションもあるかもしれない。

 それらは皆、副園長先生の『二人の距離を縮める』ための細かい配慮なのであった。

 それに。


「ねえ、山本さん」

「なんだい?」


 二人しかいないため、ごく自然になんとなく会話が弾む。

 心なしか、昭二の口調も砕けている感じだ。

 なんたって可愛い女子高生と二人っきりの空間なんだから。


 まさにそのための空間なのであり、なんというか隣同士に座って行う自然体の御見合いのような物だ。


「良かったら、あなたの事を何か話してもらえませんか。

 なんというか、日頃そういう話をする機会もあまりないもので。

 園長先生は割と何かにつけお話したりするんですけど。

 なんたって三人しかいない日本人ですからね」


 しかも園長先生はジョーカー扱いなので、男女ワンペアしかない組合せなのだ。

 実をいえば、今こうして二人きりでいる事を女子高生側は結構意識していた。

 朴念仁の三十男の方はまったくであったのだが。


(あーあーあー。

 せっかく作ってもらった機会を。

 むしろ、女子の方が乗り気な雰囲気やないけ。

 見た目は平然としておるようだが、可愛いくらい緊張している感じが妖怪のわしらには伝わってきよる。

 それがあいつと来た日には)


(行け、そこだ。

 昭二、押し倒せ)


(いきなり押し倒したらあかんやないけ。

 その子って粗暴な男は嫌いらしいぞ)


(そうそう。

 せっかく昭二の持ち味に好感を抱いてくれていそうなのに)


(まあまあ、皆の衆。

 そうがっつくなって。

 御見合いはまだ始まったばっかりやで)


(ここは、わしらは静観の構えやな)


(だがサポ出来る機会があったなら容赦はせんで)


(そうじゃのう。

 あの鈍感男が相手なんだから少しは押してやらんと、却って女の子の方が可哀想なのかもしれん)


(まったく相変わらずなやっちゃのう)


(まあまあ、それがあいつのいいところっていうか、持ち味なんだから。

 なんだかんだいって、わしらは皆あいつの事が好きなんや)


(そうよのう。

 では草場の影ならぬ、あいつの影の中から見守るとしようかい)


「そうだねえ。

 私は子供の頃から黙々と何かやっているのが好きでね。

 仕事も、実家でうどんを茹でていたり、和菓子屋さんで御菓子を作っていたり。

 そういう職人仕事みたいな事が好きだったなあ。

 あ、そういえば犬を飼っていたんですよ」


「あ、うちも小型犬を飼ってました。

 拾ってきた雑種だったんですけど可愛かったですよ」


「あっはっは、うちもそう。

 狸明神の祠で拾ってきた子だったんですが、そのせいでなんかタヌキにちょっと似ていたように思えたな」


「あはは、同じですね。

 その子、実は狸の子だったりして。

 同じイヌ科の動物ですもの」


「あっはっは、そうかもねえ」


「今頃どうしてるかなあ、うちの子」

「うん、うちのクロちゃんも」


 だが、そのクロちゃんは、彼の影の中で今まさに縁結びの仕事をしていたのであった。


 そんなたいした事がないようなカンバセーションをしつつ、二人の距離を少し縮め加減にしばしの刻が過ぎた。

 そして唐突に昭二が立ち上がった。


「あら、どうしました?」


「ああ、ちょっとトイレに。

 ついでに御茶でも淹れてきましょうか」


「あは、すみません」


 後ろの空間が狭い中、足元には『何故か』コードが伸びていた。

 少々緩めな感じに。

 そして葵ちゃんは入り口側に座らせられていた。


 そして些か鈍臭い昭二が、その罠に御約束のように引っ掛かって「うわああ」と言いながら、彼女の胸にポフンっと突っ込んでいってしまった。

 少々柔らかい弾力に包まれてしまった昭二の顔。

 二人とも固まってしまって、なんか真っ赤になってしまっている。


 昭二は両手を掲げて上へ上げた状態で葵ちゃんの胸に突っ込んだまま固まってしまっていて、もしその手が真面に胸へ当たっていたらちょっとまずかったかもしれないというような、まるで何か丸い物を掴んだかのような形に開いていた。


 彼女の方は、やはり驚いて手で彼を支え、何故か優しく抱き締めるような格好に。

 パッと見ると彼女の方が彼の頭を自分の胸に押し付けているように見えない事もない。


 少し心臓が、いやかなり動悸が激しくなってしまっていた。

 御互いどうしようかと思ったようだったが、何故かこの二人はその姿勢で固まったまま動かない。

 どっちも男女交際の経験がないので、圧倒的に経験値が不足しているのに違いなかった。


(なあ、お前ら)

(なんすか、大将)


(誰か、今なんかしたか)

(さあ)

(あっしはなあんも)

(さすがにこれは)


(でも昭二は鈍臭い奴なんだし、あのコードは真理の姐さんの仕業でっせ)

(なんだと)


(なんかこう、「コードの緩ませ具合はこれくらいがいいかしらねー」とか言いながら弄ってましたぜ)


(あの人はもう)

(本当に強引やなー)

(でもいい感じやないすか)

(まあ、なんもないよりはいいんじゃないすか)


 その後、あんな態勢で固まっていた二人がどうしたのかは知らないが、その御蔭もあるのか物凄く仲良くなったのは確かだ。


 やがて四月の下旬頃には『御目出度』の発表があり、それから日本にいる家族も巻き込んで大騒動し、二人は異世界にて無事に結婚したのであった。


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コミックス紹介ページ

https://www.gentosha-comics.net/book/b518120.html

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