15 年末年始は恋の香り
「ああ、クリスマスだ。いや懐かしいなあ」
「ふふ、去年はみんなクリスマス前にこっちの世界へ来ちゃいましたからね~」
特に理由はないのだが、クリスマスが近いという事で浮かれている稀人の男女。
何しろ御節料理の準備にも余念が無いし、それをやるのがまた山本さん本人なのだ。
クリスマスケーキは立派な物を作ってくれるケーキ屋さんが育っているのだし。
子供が多いから賑やかなクリスマスになる事請け合いだった。
イベントが大好きな葵ちゃんとしても浮かれるしかない。
また和食大好きっ子としては正月が楽しみでしょうがない。
本人も多少の料理くらい出来るのだが、ここは専門家みたいな人に御任せだった。
「山本さん。
御節、楽しみにしていますから」
「御任せください。
特に蒲鉾は実家で手作りにしていましたから」
それをじっと見つめている副園長先生と神の御使い、それに浮かれている本人の影の中にいる八百九体もの妖怪の群れ。
「なあ、あれって固いのお」
影の中から特殊な術で話しかけられて、真理は訊き返す。
「何が?」
「呼び方だよ、呼び方。
さすがに、さん付けじゃのう。
あの二人、仲が進展する気がまったくせんわい」
「それは仕方がないわよ。
かなり年上なんだし、なんていうか、あの人って凄く丁寧な感じに話すじゃない。
なんとなく、さん付けになっちゃうのよね。
園長先生だってそうよ。
特にあの人は、この世界で荒事に巻き込まれまくってきてヤクザみたいな口の利き方ばっかりしていたから、山本さんと日本語で話すとホッとする感じらしいし」
「まあ、あいつの事だからそういう感じなのかもしれんがのう。
わしらがくっつけたいと思うとる女子からもそうだというのはなあ」
「まあ、そこはね。
それよりも、ムードよ、ムード。
いつもよりもロマンチックな気分になるクリスマスに少し距離を詰める感じでさ」
「それはええんじゃが、どんなものかのう。
見たところ、ロマンチックとは、ほど遠い感じなんじゃが」
見れば、今も子供達が昭二に背中から何人も抱き着いている。
彼本人も素晴らしい笑顔で子供達の頭を撫でまくる。
「まあ、いつも御飯や甘い御菓子の匂いをいっぱいさせているし、優しくて子供好きな人だしね。
最初来た時におじちゃん呼ばわりだったから、ああいう風に子供達から懐かれるのが凄く嬉しいらしいわよ。
それに、ほら。
葵ちゃんも満更じゃなさそう」
なんというか、世界を越えて家族とも離れ離れになっていた環境で、頼り甲斐のある年上の日本人男性と一緒にいる事になったのだ。
それに少々歳は離れているが、あまりそういう事を感じさせないタイプの人だった。
しかも、こんな風に人好きのする笑顔をして、また子供にもそういう慈愛の表情を向け、子供からも愛されている人なので。
現在非常に限定的な結婚相手の選択肢の中で、彼女としても結婚相手として考えるのなら、そう悪い気はしていないのだ。
しかも、和食に御茶・御花、更に書道に着物に和楽器と非常に趣味も合う人なのだった。
彼も一般向けのアニメくらいは見ていたので、そういう話も出来る。
特に、対比となる日本人男性である園長先生が歳も含めて色々自分とかけ離れているので余計にそう思うのだ。
園長先生はオタクではないし、SFやファンタジーなんかが守備範囲で、和風な事にもあまり興味がない。
映画も洋画しか見ないし。
どう贔屓目に見ても、園長先生は彼女から見た結婚選択肢としては完全に落第だった。
ここへ連れてきてもらった事に恩義は感じているし、異世界でこれだけの事をやってのけている事実はまさに尊敬に値するのであったが、それはなんというか校長先生に対する尊敬の念みたいな物で、結婚対象である男性として見るのは非常に難しい。
向こうもそう思っていないというか、もうとっくに結婚する気なんかないようで、既にその時点で結婚対象としては論外なのであった。
「じゃ、ちょっと二人だけでやるような仕事を頼んでくるわ。
他の人とは別の場所にして」
「そうじゃなあ。
では頼みましたで」
真理は二人に近づいていき、笑顔で話しかけた。
「ねえ二人とも、ちょっと御願いがあるんだけど」
「何ですか、真理さん」
影(の中)でそういう企みがある事など露とも知らず、浮かれ気分で振り向く葵ちゃん。
「あのね、子供達のクリスマスプレートに付ける楽しいポップみたいな物を作ってあげてほしいの。
こっちの世界の職員さんには、そういう事はまだ敷居が高いのよね。
こっちの支度の方はあたしが見ておくから。
クリスマスについてはインターネットで調べまくってあるし、わからなかったら園長先生に聞くわ」
「そうですか、まあ最初は日本人がそういう事をやった方がいいかもですね。
あの人達、まだパソコンも使えないし。
わかりました。
どこでやります?」
「ええ、作業小屋として用意した拡張空間があるから、そっちで御願い」
「それって、ある意味で物凄いですよね」
「そうね。
ワンルームマンションかアパートの一室で何もかも出来ちゃうわね」
コロコロと楽しそうに笑うと、昭二の手を引いて葵ちゃんは副園長先生の後をついていった。
ちょっとびっくりした加減の昭二を見て、狸達の忍び笑いが影の中に木霊する。
特に意識したわけではないのだが、なんとなく、なんとなくで彼女はそうしたのであった。
やはり普段とは異なるクリスマスの空気がそうさせたものなのだろうか。
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