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17-5 取引

 あれからドワーフの大王様は、俺が空けた三本のビール缶と自分で空けた五本の計八本分を材料に試してみて、アルミ加工の難しさを思い知ったらしい。

 あと意外な事にアルコール度数の低いビールも喉越しが気に入ったらしく、もっと出せと言う。

 それは別にいいんだけどさあ、とりあえず人の話は聞けよな。


「世の中は奥が深いな。

 こんな金属がまだ存在していたとは」


 甘いな、ドワーフのおっさん。

 世の中にはベスマギルなんていう、とんでもない代物がまだあるんだぜ。

 さすがに、これは出せないけどなあ。


「ところで、俺の話を聞いてくれる気はあるの?」

「ん? ああ、確かサイラス軍を帝国に内緒で通過させてくれとかいう話だったか?」


「この野郎、ミハエルの話もちゃんと聞いているんじゃねーかよっ」


「何、今思い出しただけだ。

 奴の話は退屈でな。

 お前はちょっと面白そうな奴だ」


「そいつはどうも」


 しょうがないから、今度は泡盛の古酒を注いでやる。

 悪戯して段々と熟成度を上げていったら、奴はなんだか凄い顔になった。


「なんだ、この酒は。

 これで全部同じ酒なのか?」


 (やっこ)さんはパッケージを覗き込みながら聞いてくる。


 くくく、見たってわからんさ。

 瓶とラベルは全部一緒なんだよね。

 元は同じ物をコピーした酒なのだから。

 アイテムボックスの力で強制熟成させただけだから。

 鑑定すればわかるだろうけど。


 地球だと超音波熟成なんていうやり方もあるらしいが、俺はピラミッドパワーの方が好みかな。

 あれは手軽で設備費が不要なのに、無茶苦茶に酒が美味くなる。

 ついでに、つまみも美味くなるしな。

 なんかこう、手作りのピラミッドジェネレータの上に置いておいた赤ウインナーとかが皺皺な感じになる。


 たぶん、それは燻製と原理が同じなのだ。

 燻さずにピラミッドパワーで水分を飛ばしている感じか。

 それなら味は濃くなるわな。

 おつまみのミイラだ。


 なんで、あんな簡単な工作で作ったボール紙製のピラミッドジェネレータでつまみが美味くなるのだろうか。

 あれは本当に不思議だ。


 今度、幼稚園の授業でピラミッドパワーを使った御遊びでもやるか。

 主に、がっつり系のおやつ関係でやるかな。


 どうでもいいけど、このドワーフのおっさんと一緒にいると飲んでばっかりだな。

 最近は子供の相手ばかりをしているので、おっさんと酒を飲んでばかりという、以前の俺なら当たり前のシチュエーションが希少に感じる。


「この酒はどれくらいある。

 儂が満足するだけ寄越したら、言う事を聞いてやろう」


 悪くない提案なんだけど、こんなに飲兵衛なドワーフが満足するだけの量って……一体どれくらいなんだ?

 王様一人でも物凄く飲みそうなのだが、他の奴らの分も要りそうな雰囲気だ。

 八岐大蛇算(バレル単位)で計算した方がいいのかもな。


 それにしても即決だな。

 いいけど、帝国との関係とかが気にならないのだろうか。

 きっと脳筋なんだな。

 そのあたりの事は考えたら負けな気がする。

 こいつらって、きっと酒が美味かったら後の事はどうでもいいんだろう。


「わかった。

 その期待にはなんとか答えよう」


 すると国王は、笑顔でバンバンと思いっきり人の背中を叩いた。

 これをやられたら普通の人間だったらちょっとキツイだろう。

 俺みたいな痩せっぽっちだと、普通なら一発で軽く吹き飛んでしまうレベルなんじゃないか。


 まるで万力というか、鍛冶に使う大きな金床で殴られているみたいだ。

 HP800万の防御力に感謝する。

 普通なら向こうの方が手が痛いはずなんだが、まあそれは言うだけ野暮っていう奴だな。


 約束の酒を大量に出しつつ、さっきの話はきちんと書面に記してもらう。

 豪く力強い達筆な字で書かれた書状をアイテムボックスに仕舞い込むと、満面の笑顔を浮かべた奴に言われた。


「さあ、飲むぞ」


 おっさん、その笑顔があまりにも怖すぎるぜ。

 だが、それが通常というか、それを越えた無情の喜びを表しているのだと、もう理屈でなくわかってしまった。

 なんというセブンスセンスの無駄遣いだ。

 過去最高レベルじゃないのか、これ。


 やれやれ。

 仕方が無いので飲み会に付き合う事にした。


 その国王に、必殺のなんちゃってテキーラを飲ませてみる。

 そのアルコール度数のあまりの高さに、酒呑み魔人なドワーフの国王が思いっきりテキーラ擬きを吹いた。


 へへえ、虹が眩しいぜ。

 なんか勝負に勝ったような素敵な気分だ。

 だが奴はそれを飲み直して、今度はしっかりとそいつを楽しんでいた。


 他にもウオッカにアクアビット、日本酒まで出して豪快にちゃんぽん宴会を楽しむ。

 あと日本のワインも出してやった。


 それに加えて、こっちで俺が作らせた食い物や、今回仕入れたばかりの蒲鉾をつまみとして並べていく。

 むろんチーかまとかもあるし、持ち込みした高級缶詰やハムなんかも並べていく。


 キリが無いので、トイレへ行く振りで一旦ミハエル王子のところへ戻り、貰った書状を渡しておいた。

 だが、あまりに酒臭いんで顔を顰められた。

 まだ夕方の十六時なんだが、いや本当に困ったもんだ。


 ミハエルも今のところはまだサイラスへの要請は出さないものらしい。

 サイラス軍も準備が整い次第、国境に待機といった段階か。


 平時にそんな事をしようものならエルドア王国も黙ってはいないのだろうが、国王様に話を通したから大丈夫だ。

 国境警備隊があのザマだから、それでも気付いちゃいないのかもしれないが、勝手に国境を越えたりしたら後で大揉めになるだろう。


 行軍のための物資の調達にも応じてくれるようだ。

 細かい部分の調整は文官さんの仕事だ。


 兵は事が起これば馬で先に行くようだ。

 回復魔法や回復薬のおかげで、かなりのスピードで進軍できる。

 兵站はエルドア王国とアルバトロス王国が担当する事とした。


 その他物資は本国から馬車で輸送か。

 あとアイテムボックス持ちのスキルかアイテムがあれば、先陣と共に兵站の係が馬で出られる。


 開戦前に兵が国境を越えれば、帝国からいちゃもんがつく。

 サイラスからの出兵だけでなく、エルドア王国経由の越境にも。

 それに帝国に侵攻のための正当な大義名分を与える事になるからな。



 それからすぐにエルドア王国へ戻って、更に夕方の宴会タイムに突入した。

 俺が主賓らしいので、さすがに逃げられない。

 まあ、こっちの要求はちゃんと聞いてもらった事だしな。

 こうなりゃ、とことん付き合おうじゃないか。

 今の俺はどれだけ飲んだって適度にしか酔えないからな。


 とにかく飲む。

 まず飲む。

 それがドワーフの生き様、流儀。

 ここまで来ると一種の美学のような物さえ感じる。


 一度でいいから、下戸のドワーフなんて奴に会ってみたいもんだ。

 まあ、そんな奴は一人もいないと思うのだが。

 何しろ、こいつらと来た日には『人間じゃあない』んだからな。

 亜人というか、いわゆる精霊族という種族に当たるらしい。

 代謝機能からして人とは異なるのだろう。


 そして宴会は朝まで続いた。

 この人達って、仕事をしているか飲んでいるかのどっちかだよね。


 そして、おっさんは朝帰りで、みんなから酒臭いと言われて顔を顰められた。

 接待? だったんだから仕方あるまいと思っても、子供達は寄ってこない。

 寄ってくるのは魔力を要充電なファルだけである。


 だが寝ていると酒が抜けてきたのか、そのうちに子供達が上に乗っかり出す。

 御願い、もうちょっとだけ寝かせて。

 だが俺が昼中から寝ているのが珍しいのか、子供達はちょっかいをかけまくりだ。


 俺も諦めて起き上がる。

 大広間では、猫族の子達がマイ段ボールのデコに熱中していた。

 箱の外装にマジックやクレヨンで装飾を施したり、中に色々敷き詰めたりと個性豊かに飾られていた。

 御裁縫グループの子達も、彼らから色々な中敷の注文を受けて張り切っている。

 色取り取りの素材を大量に積んでおいてやったし。


 おチビ猫の箱には、ファルやおっさんやアルスに葵ちゃんと色々書いてある。

 この子の絵は誰が誰だかすぐわかる。

 ちなみに葵ちゃんは馬の役だ。

 新馬アルス号に乗り換えても、愛馬葵号はまだ捨てられていなかったものらしい。



 リフレッシュしようと思って久しぶりに王宮の風呂へ行ったら、なんと昼間から王太子殿下がいらした。

 目の下に真っ黒な隈を作って。


 御付きの人達に無理やり風呂へ放り込まれたらしい。

 戦の準備で、てんてこまいなのだろう。

 リフレッシュヒールの魔法をかけてやり、足ツボを少し押してやった。


 いよいよ戦が始まるのか。

 もうちょい時期というものを考えて欲しかったな。

 学芸会も近いというのに。

 まあ、今までだって園の行事が重なって大変だったわけだが。


 うちは父兄の対応がないだけまだマシだ。

 ネットで幼稚園の学芸会を検索すると、思わず俺の顔色が青くなるようなヤバイ事がたくさん書いてある。

 俺は日本の幼稚園で園長先生は務まりそうもない。


 それから次に、打ち上げ用の衛星のチェックをしておく。

 後はアストロノーツの仕上がりを見に行こう。


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