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8 忠犬八百八狸

「そら、お前達。

 この御屋敷、がっつり守ったるで。

 気張りや」


「ええけど、大将。

 あんた、もうすっかり番犬に成り下がってまへんか?」


「うるさいな。

 儂は山本家の忠犬クロちゃんなんやで。

 ワンコは一宿一飯の恩義は忘れへんのや!」


「もう、ホンマに締まりまへんなあ、大将」


「やかましわ。

 ではゆくで、忠犬八百八狸どもよ」


「ええっ、わしらも番犬扱いなんでっか」

「ええやろ、わしら皆イヌ科なんやから!」


 そういう感じでコントっぽい感じに会話しつつも、狸軍団は皆が中入道と化していく。

 ビジュアル的なサービスで一つ目になっておいたので、サイクロプス系の魔物っぽい感じになっている。

 その数とスケールは実に圧巻であった。


「うおおおお、何故このような怪物どもが多数貴族街に現れるのだあっ」


「さあてねえ。

 自分らの胸に手を当てて訊いてみちゃあどうだい。

 え? 悪徳騎士団様よ。

 いや貴様ら如き奴儕(やつばら)など只の賊よ。

 悪事千里を走る。

 貴様ら如き不貞の輩は、この正義の大入道様が退治してくれようぞ」


 そして、ぶうんと振るわれる大槍。

 その風圧だけで並みの人間ならば飛んでいってしまいそうだ。


 そして鳩尾へ打ちつけられる槍の柄。

 刃先で惨く刻むような事はしない。


 無様に吹き飛んでいく公爵家の騎士団員達。

 本日は夜襲にて奇襲をかけ、菓子職人を攫うだけの行事なので、邪魔になる騎士の鎧は着用していない。

 というか、あれは隠密行動をするには目立ち過ぎる。


 だがいくら軽装とはいえ、人間が大妖怪軍団相手に速度で敵うはずもない。

 ましてや、刑部達は稀妖怪となり魔素によって各種能力がグレードアップしているのだから。


「ぐはあっ。

 一体こいつらは何物だあ。

 何故我々の任務を邪魔するのだ」


「さあてねえ。

 この世に悪が蔓延る限り、わしら闇の大入道が大暴れ。

 悪漢どもを見事退治て御覧にいれよう。

 かっかっかっか」


「おのれ、胡乱な怪物めが」


 だが、その特別威勢のいい騎士団員も、大槍の石突で鳩尾を打たれて無様に転がっていく。

 形勢は圧倒的に不利だと認識したものか、指揮官らしき男が号令をかけた。


「引けっ、ひとまず引けい。

 怪我人は残らず回収しろ。

 総員退却~」


 そして全員、見事なまでに満身創痍で引き上げていくベッケンハイム公爵家騎士団員達。

 それを送る調べは、半霧の闇の中からポンポンと響き渡る無数の腹鼓であった。

 皆もう狸の姿に変わり、それは楽し気に叩いていた。


 深夜の異世界貴族街に、隠神刑部と四国八百八狸の腹鼓がいつまでも鳴り響いていた。



 そして、這う這うの体で帰還したベッケンハイム公爵家騎士団を待っていたものは、真夜中にも関わらずに起きて待っていたベッケンハイム公爵による叱責というか、癇癪の大噴火であった。


「なんだ、貴様ら。

 そのザマはあっ。

 それでも栄えあるベッケンハイム公爵家騎士団の一員か。

 恥を知れっ」


 そして俯いたままビクっと体を震わせた騎士達の体を乗馬用の鞭で打って回った。


 恥を知れもへったくれもない。

 その栄えある騎士団に野盗か人攫いのような真似をさせておいて、雇い主の公爵として恥ずかしくないのか。

 だが、そんな事は帝国の恥たる人物にとっては考えの隅っこにさえなかった。


「おのれ、ブラウンめ。

 このわしに盾突くとはいい度胸だ。

 よし、騎士団で駄目なら奴らを使うか」


 その醜悪な面相と腐った瞳に姦計の炎を滾らせながら、彼は憤怒に燃えた。


 そして翌日の夜、黒衣に身を固めた人間達がブラウン伯爵邸へ忍び寄る。

 その身のこなしは騎士団とは明らかに違う物だが、まさしく手練れといってもよいものであった。

 そのうちの一人がボヤいた。


「ねえハイリッヒ。

 これって公爵家の騎士団が任務に失敗したから回ってきた仕事なんですよね。

 本当に大丈夫なんですか?」


「仕事中に無駄口を叩くな、ハイネ。

 だからこそ、いい報酬を貰えるんだから。

 俺達隠密に長けた冒険者チーム向きの仕事だ。

 その御蔭で、とびっきり良い報酬を頂けるんだからな」


 だが、他の一人の女性が不安そうに口を挟んできた。


「でも大丈夫なんでしょうか。

 あのベッケンハイム公爵からの仕事を請けるなんて、あなたらしくもない。

 公爵家の騎士団が失敗した理由もはっきりとは知らされていないのでしょう?

 街の衛視も私達の事を見て見ぬ振りをしています。

 きっと性質の良くない仕事なのでしょう」


 同じく残りの一人もボヤいた。


「こんな情報も少なく怪しげな仕事をするくらいならダンジョンに潜っていた方がマシだな」


 だがリーダーの男はメンバーを叱りとばした。


「てめえら、今更ゴチャゴチャ言うんじゃねえ。

 この帝国でそんな事は日常茶飯事だ。

 このベルンの冒険者ギルドだって帝国のいいなりなんだからな。


 大体そのダンジョンでの仕事をしくじったんだから仕方がねえだろ。

 まあ、今日は貴族の屋敷に忍び込んで男を一人攫ってくるだけの簡単な仕事だ。

 貴族本人に手を出すわけじゃねえし、そもそもその貴族は皇帝さえその悪事を見て見ぬ振りをするあのベッケンハイムから睨まれている奴なんだから、そいつに手を出したからってベッケンハイムに雇われた俺達に帝国からの御咎めはねえよ。

 さあブツブツ言っていないで、さっさと行くぞ」


 だが、もちろんそうはいかなかった。

 うっすらと漂い始める夜霧。

 そして今回は、しょっぱなからアレが聞こえてくる。

 ポンポンポンポンと軽いリズムで。


「なんだ、こんな音は聞いた事がないな」


 それは聞いた事があったならおかしかろう。

 異世界地球でも日本の極一部の地域でしか拝聴出来ない特異な代物なのだから。


「みんな、警戒して。

 これはきっと普通の物じゃないわよ」


「ああ、この霧も自然に発生したものじゃなさそうだ」

「何かの魔法か?」


 残念。

 日本の大妖怪御得意の妖術でした。

 そして、その腹鼓の音は不気味さを増しながら速く強く打ち鳴らされ、大通りから忍び寄っていた彼らを包囲する態勢だった。

 まるでソナーで音を放ち相手の居場所を特定して追い回し、死地へ追い込むかのような。


 だが狸達は脅しているだけだった。

 これで退散するなら良し、さもなくば。


 今までの経験では伺い知れぬ謎の恐怖に包まれた冒険者達。

 本能的に危機を察した歴戦の強者であるリーダーの取った行動とは。


「退避っ! 総員退避ーっ」


「だから言わんこっちゃないのに~」

「喧しい! とっとと引くぞ」


 それを見送るかの如くに、愉しそうな太鼓の音が鳴り響くのであった。


 こういう正体不明の脅威に出会った時には一旦引くのが冒険者としての正しい選択であった。

 だが雇い主が雇い主であるだけに、なんと言い訳をしたものか苦悩するハインリヒなのだった。


 それが正しい事であるとチームの全員が理解していたが、もちろんそれで穏便に済まされる事はなく、報告に戻った彼らを待っていたのは騎士団と同じく厳しい叱責と折檻なのだった。


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コミカライズ連載サイト

https://comic-boost.com/content/00320001


コミックス紹介ページ

https://www.gentosha-comics.net/book/b518120.html


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