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5 御菓子作り

 刑部は昭二の影の中より這い出て、暇に飽かせてあちこちを見物に出かけたり、あるいは街を検分してこの世界の情報を集めたりしていた。


 一つ気になるのは、このベルンシュタイン帝国という国が、元の世界でいうところの強権国家という物らしい事だった。

 そういう国は大体碌な事にならないのが世の常で、最初にこの国へやってきた時に、なかなか昭二の庇護者になりそうな人物と出会えなかったのを思い出す。


 そして屋敷にあった書物も紐解いて、なんとこの世界における文字も早々とマスターしてしまった。

 なんというか、人間とは言語や文字の習得のやり方が違うというか。

 文字列同士の関係を、それらが纏ったオーラの結び付きから類推して理解していくというか。


 また言語による会話に関しては、稀妖怪として異世界言語のスキルを見事に習得していた。

 元々人に化けるのも得意で人語をよく解する狸系であり、また大妖怪であるため能力全般が高いせいでもあるのだろう。


(なんにせよ、その内には昭二の奴も仕事を見つけんとアカンやろなあ。

 ずっと、あそこの屋敷で面倒を見てもらえる訳でもなかろう。

 しかも、あいつの職業的スキルときたら主に和菓子とうどんだからな。

 他の料理なんかも並外れて上手なんだから、そっちの方面がええんやろうなあ。

 というか、あいつは他に能がない)


 そんな守護霊? の心配を他所に、山本昭二は実に御気楽に『御菓子の製作』に邁進していた。


 元々、店を出た用件というのが、店主に頼まれて特別な和三盆の砂糖を取りに行くというものだった。

 それを使って作ってみたユキトウという御菓子がブラウン伯や屋敷の人間に好評だったので、市場へ出してみようという事になったのだ。


 真っ白で花林糖のような形をしていて粉砂糖がまぶしてあり、サクっとしていて口の中で上品に溶ける。まずはブラウン伯爵が主催する御茶会にて仲の良い貴族達に試食してもらうという話になっていたのだ。


 最初に持ってきた特別な和三盆は使い切ってしまったのだが、なんとスキルなるもので特製和三盆を出す事が出来た。


 和三盆だけではない。

 その他の御菓子の材料も扱ったことがある物なら好きなだけ出せた。

 しかも完成品の御菓子まで、今まで作った事がある物なら出せたのだ。


 だが昭二は敢えて材料から御菓子を作っていた。

 純粋に御菓子を作るのが楽しいのだ。

 スキルで御菓子を出すのは、まるでスイッチを入れたらポンっと機械から出て来るみたいで、なんというか落ち着かない気分であった。


 それでも材料を好きなだけ出せるし、御菓子の量が必要な時にはパッと出せて便利だなと思っている。 

 そもそもスキルなんていう物自体に馴染めていないし、なんだかよくわからない。

 どうしてこんな事が出来るようになったのかも昭二には不明だ。


 だが、あまり物事を気にしない性格の彼は、とりあえず本業である御菓子作りに専念する事にしたのであった。

 御菓子作りに必要な道具は、絵や図面を書いてブラウン伯に頼んで作成してもらった。

 さすがは帝国首都だけあって、そんな初めて作るような物でも十分製作出来た。


 何も大製菓工場を作ろうというのではない。

 和菓子といえども超大量に作ろうと思ったならば近代的な工場設備が必要だが、職人技で作るだけなら厨房の隅を借りれば済む。

 今は厨房の空いたスペースに御菓子作り専用の作業場を作ってもらっていた。


「どうです、御菓子作りの方は」


「ええ、とりあえずユキトウは作ってみました。

 結構な量が出来ましたよ。

 なんだったら、どこかへ出荷してみますか」


「そうですね。

 宣伝もしたいですし、試しにベルンの商業ギルドに出してみますか。

 あそこなら、色々な商会が出入りしていますので」


「では、そこで試食もしていただけるよう、納品用とは別で試食分も作っておきますか。

 こいつも見た目は素朴な感じですが、食べてもらえば一発でその価値をわかっていただけるでしょうから」


 ブラウン伯も頷くと、その手配のために作業所を後にした。


「さて、じゃあ作っていこうかな」


 たとえ試食用といえども、スキルで出していくのではなく、丁寧に真心を込めて作っていく昭二なのであった。

 そういう心根もきちんと味に反映されているはずだ。

 もちろん刑部に御菓子を抜かれている事になど気付く事はないのであった。


(いやあ、こいつもなあ。

 このちょっと抜けたところとか見ているとなんかこう、心配になってくるな。

 まあ、この御菓子は確かに美味い。

 あの伯爵も商売は上手そうだから、そっちの方は具合良さげなのだが、果たしてこのまま順調に上手くいくものかどうか。

 だが昭二、世の中は甘くあらへんで。

 ここはちいとワイが見ておいてやらんとアカンのやろなあ)


 もちろん、その長年存在してきた古狸妖怪の予感は、当然のように当たっているのであった。


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