30 お絵描きタイム
「ふんふんふんふん」
楽し気に椅子に座って、机の上で御絵描きに邁進する小学三年生。
御姉ちゃんの方は、ギルドのキッチンにて御菓子作りに夢中だ。
そして、俺はといえば唸りながら必死で魔法インクを付けた羽ペンを振るっていたが、玲が十枚描く間に一枚の失敗作を生産していた。
「玲は本当に魔法使いとしての才能があるのう!」
「図工はいつも十だったよ。
写生大会やポスターコンクールじゃあ、いつも賞の常連だったし。
書道もクラスで一番さ。
国語の書き取りは字が綺麗だって先生がいつも褒めてくれてたの」
「うんうん。
それに引き換え、この駄目なおじさんはのう」
やれやれといった感じに、わざとらしく大きな嘆息を響かせるギルマス。
「うるせえ。
こう見えて美術は五段階評価でいつも二さ。
課題をちゃんと出していれば、かろうじてそれくらいはキープ出来たのだ。
字の方は、書道は言うに及ばず、それはもう駄目駄目だったよ。
まあ国語の評価は、字の上手さは関係なかったんで評価五だったな。
本を読むのが好きな子供だったし。
あと図工はなんとか三だったかなあ。
はっきり言って、その手の事に関しての技能にはまったく自信がない」
「そういう奴の事を才能が無いというんじゃ。
ああ、ああ。
羊皮紙や高価なインクが勿体ないのう」
「う。ま、魔物をもう一匹置いていこうか?」
「何、気にするでない。
魔法インクなんぞ念のために置いてあるだけで長年減りもせんのでな。
ニルヴァで使う分の羊皮紙や魔法インクは現地の魔道用品店で買うがよい。
あそこは王都とも主街道一本で直行便があるから、その種の品物も豊富じゃ。
羊皮紙もニルヴァ産の魔力の豊富な魔物の皮を用いると効果も高い。
もちろん、そういう高級品は値段も高いがの」
もう俺はスクロールを描くのを諦めて、玲が描いてくれたスクロールを貰ってコピーして試射する事に専念していた。
やはり自分で描いたスクロールは、真面に魔法を発動出来るような物は一枚もなかった。
そして覚えていないスクロールが貯まると、その魔法を玲に教えてもらうというルーチンを繰り返していた。
面白い事に、貰ったスクロールに大魔力を込めてからコピーして、更にそいつに大魔力を込めてという感じに魔力の強い重ね掛けをしていくと、多段式宇宙ロケットのように効果がブーストされて上積みされていくようだった。
それをギルマスに説明すると、また溜息を吐かれてしまった。
「呆れた真似をする奴よのう。
今まではそのような事を考える奴はおらんかった。
というか、お主ほどの魔力がないので、やりたくても出来んかったのだろうな。
お主、それがお前さんのスクロールのせいだと知れると、また欲しがるような馬鹿な奴がおって面倒じゃ。
他の奴から見てスクロールを使っておるとわからぬような感じに使えるよう練習せい」
「えーっと、どんな感じに?」
「スクロールという物はな、実を言うと何もそれを広げてしまわなくても使えるものなのじゃ。
基本は魔力と術式が合わさればよいのだから。
何か手の平の部分にポケットの付いた革の手袋のような物を作って、その下に畳んだスクロールを入れておくとか。
あるいは更に丸めて、小型の魔法の杖の中に仕込んでおけるようにするとか。
そんな感じじゃな」
「なるほど。
じゃあアイテムボックスを使ってスクロールを再装填していけば、いろんな魔法を連続して使えるな。
俺ってそういう事だけは器用なんだよね」
「まあ頑張るがよい。
お前さんは、他にどうしようもないしのう」
そうして何日かかけて玲が使える魔法をありったけ覚えて、すべてのスクロールを描いてもらい、今度は玲が魔法の応用の授業を受ける事になった。
そして俺はスクロールをコピーしたり、それを使ってもバレないように使うための仕組みの構築に全力を挙げたのであった。
毎日宿に戻ってはまたギルドへ通うという生活をして、なんとかこれでニルヴァへ行けるかなという態勢がようやく整った。
面白い事に、玲はルームなどのような魔法の応用をスキルという形では覚えないのだが、何故か俺はそういう応用編をスキルというか魔法というか、覚えるだけは覚えてしまうようだった。
これはイコマの御蔭なのだろう。
俺が魔法を覚える時の要領で、玲にさえスキルのような形で覚えられない応用魔法を習得してしまうのだ。
もちろん、そのままだと俺には使う事の出来ない絵に描いた餅だった。
それだと玲にはスクロールが描けないので、そういう特殊な物に関してはギルマスが描いてくれた。
「それって、どうやって描いているんだい?」
「それは、お前。
各魔法の術式を精密に描いて、それを応用する部分も書き込んで、スクロールを使用した時に応用部分の魔法まで発動するように描いてみせただけの事よ。
二重魔法陣とか三重魔法陣とか呼ばれるような代物じゃな。
さすがにこれは初心者には難しかろうよ。
しかしまあ玲ならば、そのうちには描けるようになるじゃろう」
「僕、頑張るよ」
玲も、なんとか応用編も覚えられる分だけは覚えて、そいつのスクロールも貯まって来た。
まるでゲームのインベントリ画面のように、各種魔法の大量のスクロールが俺のアイテムボックスを埋めていった。
俺は多段式に効果を上げていったスクロールをランク分けして補完しておいた。
元本は元本として別管理しておき、各種スクロールの一定数をパッケージングしておき、銃筐体で遊ぶアーケードゲームのリロードのようにそれをコピーして、不足分の補充を自動でやれるようにしておいた。
なんとか、もうこれ以上はオリジナルの魔法を作るしかないところまできた。
こうして準備が出来た頃合いにギルマスが呟いた。
「さて、それではそろそろ行くとしようかの」
「ああ、頼む」
「最初は慣れぬだろうから目を瞑っておれ。いきなり景色が変わるから目を開けたままだと頭が混乱してしまうぞい。心構えが出来れば大丈夫じゃがな」
ギルマスは、指定座標を含む空間転移魔法の術式を発動させた。
そして俺達四人は、魔法で見事にニルヴァへ転移したのだった。
行った事がある場所は空間座標を獲得し、その場所を思い起こすだけで行先を決められるようだ。
もちろん、これもスクロールが出来ていて俺も魔法として覚えているから、俺達はいつでもニルヴァとリタを行き来可能だ。
玲はもちろん自力で魔法を使えるので、澪にはスクロールを渡しておいた。
こうしておけば、何かあった時に澪だけでも転移魔法で脱出が可能だ。
その他のスクロールも、必要なら彼女に渡しておくとしよう。
あたりの空気が揺らめき、どこかの部屋の中へ着いた。
「ここは?」
「ここはな、ニルヴァにあるわしの別邸じゃ」
「え、ニルヴァに家があるのにリタのギルドに居たの」
「ほっほっほ。
この雑多な迷宮都市の街ニルヴァと落ち着いた街であるリタを行き来する事が出来る暮らしが気に入っておってな。
金はこちらの方が稼げるが、年寄りが住むのなら向こうのリタに限る。
最近はまたあっちも情勢がキナ臭くなってきたがのう。
元々、ここはリタとニルヴァを安全に行き来するための転移魔法のポータルのようなものじゃ。
落ち着く先が見つかるまで、お前達はここに住むがよい。
ここにずっとおってもよいしの。
わしも必要があれば、こちらへ来る。
では行くとしようか」
「どこへ行くんだ?」
「ほっほっほ、このニルヴァの冒険者ギルドじゃ。
ここの冒険者としてお前と玲の二人を登録する。
特にまだ幼な過ぎる玲には、わしのような立場の人間が紹介者としておった方がよい。
そっちのおじさんなんか、一人でいくらでもやれるだろうがのう」
「はははは、そいつは違いない。
じゃあ遠慮なく世話になるぜ」
「ありがとう、御師匠様」
「うーん、あたしは一人だけ場違いだなあ」
「よい。
冒険者の家族という事で、もし二人に何かあって困った場合はニルヴァの冒険者ギルドを頼るがよい。
お前も顔繋ぎのために一緒に行く方が良い。
という訳で二人とも、澪のためにギルドにある程度貯金をしておくがいい。
お前達に万が一の事でもあったなら、留守番をしている澪が一人で困ってしまうじゃろう。
金を預けておけば、ギルドがその範囲内で遺族の助けとなってくれよう」
「う、そいつは縁起でもないなあ」
「そう言う事を言っていて、ちゃんとしておかなかった連中が残した孤児が、リタだけでなくこのニルヴァ界隈にもようけおるわい。
今は儂も、そういう連中にも冒険者ギルドの出来そうな仕事を割り振って面倒を見ておるのじゃ。
こう見えて儂も、ニルヴァではまだまだ顔が利くでのう」
「そういや、そういう事を言っていたなあ。
まあ、俺も貯金は必要だと思っているし。
それじゃタンス預金ならぬアイテムボックス預金だけでなく、ギルドにも金を預けておくとするか」
そして俺達は世話焼き好きのギルマスの後を付いていき、迷宮都市ニルヴァの冒険者となるべく迷宮都市へと一歩を踏み出したのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
全部で十一万字ちょいの本一冊分見当です。
外伝的な内容でもないので、別の小説として分けた方が良かったかもしれません。
特に書籍になる物ではないので、これで「おっさんリメイク0」は終了です。
何しろ途中で書くのを止めて、一から書き直した物が「おっさんリメイク」本篇でありますので。
今回のために大幅に書き足して、キリがよいところまで書いてみました。
まあなんといいますか、サイトに発表する前の、小説を書き始めた当初はこういうお話でありましたという事で。




