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28 魔法習得

「来たよ~、ギルマスー」


 約一名、物凄く張り切っていらっしゃる御方がいる。

 それは言わずもがな、我らが玲君だった。


 そして俺はといえば、何かこう不透明感が漂う自分の怪しげなスペックに些か醒めているというか、もう五十歳もとうに過ぎているというのに今更魔法の習得なんかを目指してテンションを上げて沸き立てという方が無理あり過ぎてな。


 そもそも、俺に魔法が習得できるものかどうかすらよくわからないレベルの話で、魔法習得力そのものに不透明感が漂っているのだ。

 物体をコピーするというよくわからないような方法で築き上げた俺の強大なマジックポイントとやらが、果たして魔法を使うために使い物になるものなのかどうかも不明だ。


 もうこういう事は、元気いっぱいで好奇心溢れる若い子に任せるに限る。

 しかも、もう一人の若い子は急遽自分が置かれた謎の立場にまだ悩んでいる様子だ。


 それに本日のイベントに澪はまったく関係なくて、ただ身内である幼い弟の保護者として一緒に来ているだけなのだしな。

 どうやら澪自身は魔法を覚えられないものらしい。

 おそらく例のヤバそうなレアスキル群にリソースを食われ過ぎているのだろう。


 あれは有り得ないようなヤバイ能力だしなあ。

 しかも、あれは完全封印案件の能力なので、澪は家事全般を除けば現在ほぼ無能な人間扱いなのだ。


 まさに家事手伝姫以外の何物でもない。

 早いところ姫を封印するための城ならぬ家をニルヴァあたりで手にしないといけないと思うのだが、それにはダンジョンあたりで稼ぐのが最速の道ではないかと思う。


 それをいくら魔法力が凄いからといって幼い玲君に丸投げするわけにもいかず、まあこの俺も一つ魔法の習得にでもチャレンジしてみるかというような非常に消極的な気持ちで、本日このギルマス主催の魔法講習会に参加する予定だった。


 澪も、自分には他にもまだ不明なスペックがあり、それもたぶん封印しておかねばならないから使い物にならないだろう事が判明しているのが更に哀愁を誘っている。


 俺達の中でも澪の能力が一番凄いと俺は思っているのだが、まあ絶対に表に出せないタイプの能力だしなあ。


 世界を滅ぼす女魔王路線でも目指すのならば話は別なのだが、性格的に澪はそっちの方面もあまり向いていないと思う。

 まだ弟の世話を焼きながら家事手伝いをしていた方が有意義だ。


 もしもダンジョンを攻めないといけなくなった場合には女神の加護とやらで、何らかの底上げをしてもらうのもいいかもしれない。

 あのスキルを使うなら身内限定でな!


「おうおう、来たか、玲よ」


 ほらギルマスだって俺達の事なんか只の付録扱いなんだぜ。

 まあ彼にしたって『生ける女神の化身』みたいな訳のわからない女の子や『主神様の契約者』などという彼からみても非常に厄介で如何ともしがたいような連中よりも、やる気に満ちて嬉々として彼に師事したがっている、魔法の才能のある可愛い子供の方が教え甲斐もあるのに決まっている。


 そもそも澪は魔法を覚えられないし、俺だって覚えられるのかどうかもわかっていない。

 もう既に魔法は免許皆伝で、後は応用を覚えるだけというスペシャル魔法使いの玲の事が可愛いのも無理がないわ。


「よし、では最初はお前さんからじゃ」

「え、俺? なんで」


「そもそも、アキラはもう魔法を全部覚えておる。

 ミオは魔法を使えん。

 始めは、お前さんが魔法を使えるかどうかからじゃ。

 そうせんと二度手間になる可能性があるじゃろうが」


「そいつは至極ごもっとも。

 それで、俺はどうしたらいいんだい?」


「まず簡単な魔法を覚えて使ってみよ。

 各属性で順番にな」


「へえ、じゃあ最初は風魔法なんかどうだい。

 水魔法は水も出せるだろうから便利そうだけど、俺は自前のスキルで水くらい幾らでも用意出来るし、火系は爆発燃焼系の物理兵器があるからな。

 風の次は便利そうな土魔法がいいかな」


「よかろう。

 では、まずこれからじゃ。

 エアボール。

 相手をさほど傷つけずに空気の塊をぶつけるためだけの物じゃ。

 なかなか使い勝手がいい魔法じゃぞ。

 そらっ」


 ギルマスは魔法らしきものを放ち、その飛んでいったと思しき空気の塊は拡張空間の壁にぶつかった衝撃で鈍い音を立てた。


 俺はイコマに、そいつの解析を任せていた。

 こいつなら、もう魔法の理を完全に理解出来ているのではないかと思っているのだ。

 こいつイコマは、俺がどうしてそんな事を知っているのかと思うような事をいつも知っている奴なのだから。


「さあ、イコマ。

 魔法を使ってみてくれ」


 だが応えはない。

 魔法も出ない。

 あれ?


「お主、何をやっておるのじゃ。

 まずは魔力を発動させてみるのじゃ」


「あー、どうやってだ?」

「こうやってだよ、おいちゃん」


 なんと玲が右手を突き出して、前方に小さな炎を出した。

 それは自由自在に飛んでいき、くるくるとスパイラルを描きながら空中で消え失せた。


「それ、魔力の発動どころか魔法を発動しているじゃないか」


「簡単だよ」

「まあ、お前にとってはそうなのかもしれないがな」


 魔法の発動ねえ。

 はて……。


「わからんか。

 そうじゃな。お前さんのいうところの魔力量を表すというMPとやらを薪のように燃やすイメージでどうじゃ?」


「そうかあ。

 じゃあ、あれを消費するイメージでやってみるか」


 俺は頭の中に赤い棒で表したメーターのような物を設定して、そいつを減らしていくイメージを持った。


「どりゃあああっ」


 だが減らない。

 イメージとして減らそうとしても何故か減っていかなかった。


「あれ?」


 だが反響はあった。


「お、お主!」

「おいちゃん、すごーい」


「え、何が⁉」


 肝心の俺本人は何が凄かったものかさっぱりわからなかったし、当然魔法の才が無いらしい澪にも理解出来ていないので彼女も小首を傾げているだけだ。


「今の魔力放出は、凄まじい魔力の放出じゃった!」


「本当かよ。

 今あったのか、魔力の放出なんていうものが。

 なんだか全然、イメージしてみた魔力の残量メーターが減っていない気がするし」


「うん。

 それが魔力になったら、凄い魔法が出ちゃいそう」


「ほう、この俺にそんな魔力なるものがたくさんあるのだと?」


 やっぱりMPの量が凄いと大魔力の持ち主って言う事なのか。

 なんか、まったく魔力みたいな物を感じ取れないのだが。

 それは俺が駄目駄目魔法使いだっていう事なのかね。


「では、次にそれを魔法の形にしてみるのじゃ。

 さっきのエアボールあたりが無難じゃろう。

 さあ、やってみい」


「じゃ、ちょっとやってみっか。

 えいっ、出でよエアボール!」


 そして何も起きなかった。


「むう、また魔力だけが無駄に吹き抜けていったのう」

「おいちゃん、頑張って」


 あれまあ。

 さすがにスキルとして各魔法を覚えていないだけの事はあるなあ。


「う、うーん。

 どうやってやればいいんだ?

 よし、気合を入れてみよう」


「えー。

 それ、ちょっと違わなくない?」


「何を言うか、澪。

 魔法力なんていうものは、きっと精神力のような物なのではないか。

 発動時に気合を入れなくてどうする」


「玲は特に気合なんか入れてないよ」


「あいつはもう免許皆伝っつうか、全部覚えていて使えるんだろ?

 俺はきっと、お前がアイテムボックスを使う時みたいに唸らないと駄目なんじゃないか?

 はっきり言って俺も、お前並みに魔法の才能がなさそうな気がする」


「あっはっは、そうかも。

 でも魔力は凄いのが出せるんだから、頑張って」


「ではもう一回行くぞ。

 はああああああっ」


 俺は、なんかのアニメみたいに気合を込めたポーズと表情で魔法を出そうと試みた。

 それは五十代のおっさんにしては、なかなかの気合ではなかったか。

 だが。


「あかんのう。

 お前には魔法の才能がないみたいだのう。

 あんなに魔力がある癖しおって」


「えー、おいちゃん、もうちょっと頑張ろうよ」


「くっ、そんなような気がしたんだよなあ。

 では最後の手段だ。

 なあイコマ、この如何ともし難い状況をなんとか出来んもんか?」


 すると、奴は頭の中に白抜き鍵括弧で挟んだメッセージを寄越した。

 それは俺の頭の中を左側からやってきて右方面へと駆け抜けていった。


『才無き者にも道はある。師に訊くがいい』


「はあ? なあ、よくわからんのだが、そこの師匠様よ。

 俺みたいに魔力があっても魔法を使えない奴にも魔法を使う手段があるらしいんだけど、どうやったらいい」


「なんじゃと。

 うーむ、そうか。

 そういえば、あれがあったのう。

 じゃが、あれはのう……」


「なんだよ、あるんなら勿体つけないで教えてくれよ」


「う、うむ。

 あれは、ちと厄介な代物でのう。

 あんまり外に出したくない物なんじゃが……まあ仕方があるまい。

 お前さんみたいな奴には魔法が使えた方がいいじゃろうしのう」


「へえ、どういう方法なんだい?」


「何、昔はそれなりに使われておったが、魔法を使えない犯罪者どもが、それを使って悪さをする方法になってしまったので、国家から使用禁止になってしもうた代物でな。

 そいつをやたらと使うと、あちこちの管轄で一悶着あるぞい」


「うわあ、裏社会専用魔法なのかよっ。

 そんな物は堂々と使えないじゃないか」


「まあ待て。

 そこはそれ、冒険者ギルドで許可を出せば冒険者が使ってもよいのじゃ。

 だがのう、それを使っておると仲間の冒険者達から思いっきり馬鹿にされる上に、裏社会との繋がりを疑われてしまうような代物でな。


 実際に、そういう奴には裏社会の連中も寄ってくる。

 そういう物は、お前らみたいな素性と厄介な封印案件のスキル持ちにとってはどうなのかのう。

 わしも、はっきり言って積極的には勧め難い方法なのじゃ」


「う! またそいつは碌でもない案件だなあ。

 なんていうか、やり方を覚えられても使うかどうか激しく迷うような代物だな……」


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