24 うらぶれ冒険者ギルド
「お、待たせたな」
「うん、どうだった?」
「ああ、バッチリだった。いろんな意味で」
「へ?」
「お前ら。
この街は俺が思っていたよりも相当ヤバイみたいだから、絶対に俺とはぐれるな。
大丈夫そうな宿は紹介してもらえたから、後は冒険者ギルドで金を工面しないとな」
「そ、そうなの?
そんな風には見えないけどな」
「この街の裏の顔は物凄い事になっているらしい。
俺も、そういう事は半ば予想出来ていたがなあ。
そんな予想よりも、遥かに右斜め上の展開だった。
なんか胡乱な気配が漂っているなと思っていたら。
この異世界は油断も隙もないぜ。
一泊したら速攻で明日はこの街からトンズラだあ。
悪いが街の探索は一切無しだ。
紹介された宿の中くらいは安全だと思うがな」
「ひゃあ、そうなの⁉」
「わー、残念。
せっかく大きな街へ入れたのに」
ただいま絶賛好奇心に溢れる年頃である玲は、この街を見て回りたかったものらしい。
「ははは、街の見物はまたニルヴァで回るとしようよ。
俺だって残念さ」
せっかくの商業の街で、交易の要みたいな街なんだ。
本当なら、冒険者に子供達の御守りを任せて、自分は商業ギルドに入り浸ってもいいくらいに思っていたのになあ。
なんとか冒険者ギルドで金を工面して、ニルヴァで良い商売に恵まれるように弾みをつけなくっちゃあ。
それから俺達は冒険者ギルドへ向かった。
言われた通りに道を行き、確かにそれはあったのだが、これは酷い。
殆ど掘っ建て小屋だった。
いかにもバラックっていう感じの、もう『家』そのものだった。
建て直したというのも憚られるような代物だ。
冒険者ギルドの御印らしき、赤地に剣と槍をあしらったような金房の旗が翻っていなかったなら、それとは気付かないようなものだった。
これはもしかして地代を払えなくて立ち退きをさせられたのか?
「う、確かに冒険者ギルドは寂れているような事を言われてきたのだが、まさかここまでとはなあ」
「おいちゃん、ここって本当に大丈夫なん?」
もう、澪の『おいちゃんがパパ設定』さえも瞬刻の間に吹き飛ばすほどのボロっちさだった。
「う、それは中に入ってみん事にはなんとも。
ここが本日の我々の貴重な金蔓なんだけど、こいつは期待出来ないな。
買い取り用の魔物を広げるようなスペースさえないんじゃあないか」
そして、おそるおそる中へ入ってみて驚いた。
「こいつは!」
「ええっ」
「凄いや!」
なんというか、一言でいえば『大変広かった』。
「なんでやねん」
「いいな、これ。
魔法っていう奴なのかしら」
「秘密基地みたいー」
そこには古びたカウンターと同じく古びた机に椅子、おまけに古びたキャビネットなんかがあった。
「誰もいないのか?」
「調度は相応に古い物が置いてあるんだね」
「魔法のギルドだ。
ファンタジー映画のセットみたい!」
俺達が騒いでいると気付いてくれたものか、奥の壁? のようなところが開いて眼鏡をした鷲鼻のおじさんが中から出てきた。
もう五十歳をとうに過ぎたような、頭も白い、ちょっとだけ恰幅がいい感じの人だった。
「あれっ、そんなところに部屋があったのか」
「隠し部屋?」
「忍者屋敷みたいだ!」
このボロイと言うしかない趣である冒険者ギルドも、男子小学生にとっては素晴らしいギミック満載の秘密基地にしか見えないらしく、玲が大興奮だった。
「おやまあ、騒がしいと思ったら御客さんだったのかい。
こいつは珍しい。
こっちへ引越してからは殆ど誰もやってこないのに。
客どころか出入りしとった冒険者達さえ、いい機会だという事で全員いなくなったわ。
して、お前さん達は何用かな」
どうやら、この人が一人っきりでこのギルドを切り盛りしているらしい。
一人代表取締役ならぬ一人ギルドマスターか。
それはちょっと辛いな。
奥の部屋は、四畳半みたいな生活スペースなんだろうか。
確かにうらぶれてる。
無駄に凄い技術が使われているのが更に物悲しい印象を与えてくる。
「あ、ああ。
ちょっと魔物素材の買取を頼みたかったのだが、えーっと買い取りは出来そう?」
「はっはっは、そんな依頼も久しぶりじゃのう。
最近は簡単な仕事を孤児院の子供達にやらせておるくらいでのう。
ああ、よいよ。
見せてもらおうかね」
「えーと、かなり大きいので、もっと広いところがいいんだが。
ここは空間魔法か何かで広げているのかい」
「まあ、そんなものかの。
アイテムボックスの技術の応用じゃ。
希少なアイテムボックスの魔道具も久しく入荷しておらんな。
もう、わしが生きている間に入荷はせんじゃろうなあ」
「へえ、そんな物があるんだ。
アイテムボックスのスキルなら持っているけどなあ。
それって他の人間に教え込む事って出来ないのかね」
澪と玲にもアイテムボックスを覚えさせられたら、今の内にいろんな物資を渡しておけるから、俺がいつ死んでも二人が困らないのだし、お金なんかも安全に保管出来る。
「そうさのう。
空間魔法の適性があれば、なんとかといったところか。
覚えさせたいのは、そっちの二人か?」
「ああ、そうか。
魔法が使えないと駄目なのかあ」
「む? なんじゃ、そいつらもアイテムボックスを持っておるではないか。
空間魔法の適性もあるようじゃの。
お前さんの子供なのか?
よくそういう血縁間で能力を継承する話は聞くものじゃが」
「あ、いや俺の子じゃないんだけど。
え、二人がアイテムボックスを持っているのか?」
「そうじゃ。
それ、そっちの男の子、ちょっとアイテムボックスを使ってみなされ」
「えー、どうやって?」
「玲、この御菓子を持って『収納』と念じてごらん。
最初は口に出してもいいから」
「えー、僕に出来るのかなあ」
そう言いつつも、興味津々で取り掛かる玲。
「収納!」
元気いっぱいに叫んだ途端に、御菓子の袋は消え失せた。
「わあ、仕舞えた。
ねえ、出す時は?」
「さあなあ。
俺は自然に出来たから。
仕舞ったもんは出せるのが道理だ。
さっきの御菓子を出したいと念じてごらん」
「よーし、御菓子出ろっ」
御菓子は無事に例の手の中に現れた。
「凄いや!
これで僕も今日から空間魔法使いだ」
「うーん、これって使えるとそう呼ばれるのか?」
「まあ、そう言えん事もないがのう。
空間魔法の才がある者なら、こういう拡張空間のルームを生成したり、空間転移の魔法を使えたりするから練習してみるとよかろう。
よかったら、少し教えてやろうかの」
「本当~」
だが、そこでおずおずと声をかける、アイテムボックス関連ブームに乗り損ねた澪。
「あのう、私のアイテムボックスは?」
「使ってみればよかろう。
そっちの子がやっていたのを見ておったじゃろう?
これは自分が持っておるスキルなのじゃから絶対に使えるものじゃ」
「そうかなあ」
「澪、これはスプーン曲げみたいな一般人向けの異能のようなものじゃなくて、スキルとして持っている人間じゃないと使えない特殊なものなのさ。
そしてギルマスは、お前がアイテムボックスのスキルを持っていると言った。
車のオプションみたいな物だと思え。
家電みたいにスイッチを入れたら動くのさ。
普通に使えるはずだよ。
お前らって、自分のステータス画面みたいな物は見られんのか?」
「え、そんな物があるの⁉」
「俺は入用な時に勝手にポップアップしてくるがなあ。
自分の意思で呼び出す事も出来るが。
もしかすると、あれは俺が元々持っていた能力が見せてくれているだけなのか?
なあ、ギルマス。
スキル持ちとか冒険者とか魔法使いの人って、そういう自分の能力や特殊技能みたいな物を見られる画面とかは出せないの」
「さてのう。
そういう話は聞いた事がないから、よくわからんのう。
そういう能力や技能があれば魔導具で調べられるから見てみるか?」
「あ、ああ。
やってもらえるなら、ありがたい」
そういう訳で、この暇そうだけど能力は高そうなギルマスに俺達の能力を見てもらえることになった。
「それで、どいつからなのじゃ?」
「はい、はい、はい、はい、僕から御願いいたします~」
出たよ、こういうのが大好きな男子小学生が。
年長の女子小学生の方は、かろうじてアイテムボックスを使えたようだが、うーむと唸っている感じだ。
澪はまだアイテムボックスの力にさえ馴染めていないようだった。
なんとか使えているようだが、スピーディーさに欠ける上に何故か唸らないと使えないらしい。
奇天烈なやっちゃなあ。
料理を作る時なんかは物凄く器用で手早いのに。
「なんか見てくれるみたいなんだけど、あたしにまだ何か能力があるの⁇
とてもそんな気がしないわ。
出来たら裁縫スキルとかが身に付くと嬉しいんだけど」
「ミシンなら、例の瓦礫の山の中からかなり発掘したぜ。
案外と無事な奴もあるもんだ」
「マジで⁉
嬉しい~。
それ、もっと早く言ってよ」
「だってこの街に来る前って、殆ど魔物とカーチェイスばっかりだったじゃん。
それどころじゃねえって」
「ま、まあねー」
「ぶふぉおおおっ」
そしてギルマスが素っ頓狂な声を上げたので、俺達はミシン談議を止めた。
「どうしたい、ギルマス」
「いや、どうしたもこうしたも、お前らは稀人なのか!」
「え、何それ。
そんなの俺は知らんぞ」
「あたしも知らない」
「それ、なんか格好いいの?」
するとギルマスは何か呆れたような顔をして言った。
「お前達のように世界を越えてきた者の事を稀人と言うのだ。
お前達は、そうなんじゃろう?」
「ああ、それ。
世界を越えたというか、迷宮に喰われただけというか」
「なんと! それは真か?」
「あれって、なんか意味があんの?
迷宮の胃袋という円形をした透明な壁に囲まれて、俺達の街の人間は皆殺された。
俺だけは特別な能力と加護があったので、自ら構築したスキルの御蔭で生き延びたのさ。
同じ部屋にいたその子達と一緒にな。
その子達のスキルは、その時の俺の影響を受けて派生したか、あるいは次元を超えたせいで身に付いたものか。
たぶん最低でも十五万人はいたはずの、迷宮の胃袋の中にいた街の人間は皆、その中で湧いてきた魔物に喰われ、残っていた者も迷宮の胃袋の壁に押し潰されて死んだ。
街で生き残ったのはこの三人だけだろう」
正確には、スキルというかステータス画面を構築してくれたのは『俺の中のあいつ』だけどな。
「うむ。
迷宮は定期的にそうやって別の世界で命を喰らい、それによって成長する。
迷宮の胃袋は、迷宮が持つ次元スキルなのじゃ。
それを次元の彼方に在る世界へ飛ばし、そこで迷宮としての能力で魔物を派生させて命を食らう。
お主らが現れたのがこの近辺であるならば、それは間違いなくニルヴァの仕業じゃのう。
あれは超大型の迷宮なのじゃ。
そうか、今はあれの成長時期じゃったか。
あの図体でまだ成長を続けているとは恐れ入る」
「うはあ、やっぱり?
俺達は、アルバ・ラギン・リタ・ニルヴァが囲む四角形地帯のほぼ真ん中に出現した。
そうなのかもと思って、何かわかるかもとニルヴァへ行こうと思ったんだ。
教えてくれ。
俺達は、その次元スキルとやらのせいで、こちらへ来てしまったらしい。
元の世界へ戻る方法はないのかい?」
しかし、ギルマスは難しい顔をしている。
「それはのう……その話をするのは、お主らの能力を見させてもらってからでもいいかのう」
「それは帰還の方法と何か関係があるのか?」
「そうじゃ」
「わかったよ、見てくれ。
そこの小学生が、さっきからお待ちかねみたいだし」
そしてまた、ギルマスは素っ頓狂な声の二回目を上げた。
「ひょほおおっ。
これはまた凄いわい。
まるで伝説の稀人を彷彿とさせるのう」
「本当~」
おーおー、小坊主が小躍りしとらっせるわ。
「一体この子の何が凄いんだい」
「魔法じゃよ。
全魔法に適性を持っており、しかも最強クラスの魔法まで、あーその。
すべて習得済みじゃ」
「は? 最初からもう魔法を全部覚えているっていう事?
カンストなのか?」
「そうじゃ。
これ以上が欲しかったら、自分で欲しい魔法を編み出すほかはないのう」
「マジか。
いくらなんでも、いきなりチート過ぎないか?」
まったくこれだから、御子様っていう奴はよ。
「そうじゃのう。
その子は、たとえば空間魔法なんかでも空間転移やゲート魔法なんかは覚えておるが、魔法を応用したスキルである、この空間拡張の力は持っておらん。
そういう物は自分で応用して使うやり方じゃからのう。
だからルームという『空間魔法を応用した能力』は存在するが、ルームという名の魔法やスキルは存在せんのじゃ」
「ああ、そういう話か。
じゃあ、この子に教えてやってくれよ。
それはあったら便利そうなスキルだ」
「気楽に言うのお。
こんな指導は、本来なら物凄く金を取る案件なんじゃがな。
まあ今日は面白いからロハでやってやろう。
お主ら、しばらくここリタに滞在するがいい」




