17-3 戦士なるもの
鉱山国エルドア。
それはとても厄介な国だ。
一言で言うと、人の言う事など聞かない系の国である。
あるいは人の言う事など最初から聞いていない系ともいえる。
それは何故なら、その国の住人がドワーフだからの一言に尽きる。
職人気質といえば聞こえがいいが、ただそれだけなのである。
基本的に鍛冶以外の、他の事は全てどうでもいいという。
あの国にドワーフばっかりが住んでいるわけではないのだが。
そうでないと国家機能が麻痺してしまうので。
更に面倒なのが、このドワーフの住む鉱山国エルドア王国が大陸のど真ん中にあり、全ての国と国境を接しているということだ。
ロス大陸で唯一海の無い国だとも言える。
それゆえ、一つの国に便宜を図るという事は出来ない。
というよりも、それ以前に連中には人の言う事がまったく耳に入っていないので、ドワーフに便宜を図ってもらいたい国は多く存在するにも関わらず、とてもじゃないが便宜など図ってもらえないというだけの話なのだが。
彼らにとり、最も大事なものは鍛冶という仕事であり、最も有意義なものは酒なのである。
それ以外の価値観はピコ1ミリグラムも1PPMも持ち合わせていない。
ある意味で、すべてにおいてシンプルなのではあるが、それ故に小細工など通じないレベルで手強い。
貴公子然とした生粋の王子様が相手をするのは、ちと骨が折れる超癖者集団なのであった。
だがやらねばならない。
そして結果は見事に惨敗であった。
まるで御話にならない。
完全なる玉砕に終わった。
ミハエル王子はドワーフの王に謁見を求めたにも拘わらず、まずいきなり鍛冶場へ通された。
そこには上半身裸で大ハンマーを振るう、身長二メートルを越す髭面の大男がいた。
ついでに言うならば、横にも広く、また激しく下半身に重心が置かれ、鍛冶には著しく向いた一際逞しい体格の持ち主であるといえよう。
その方こそが、このエルドア王国が盟主であるハンニバル大王その方である。
さすがの疾風のミハエルも、思わず圧倒される存在感を持った筋肉大王であった。
屈強な肉体、鋼の筋肉。
一般的なドワーフに対するイメージである、寸足らずのずんぐりむっくりではありえない。
とにかく巨漢である。
そう、この国のドワーフは全てが戦士。
しかも圧倒的な力の持ち主だ。
しかも、それでいて鍛冶で使うための魔力も豊富なのだ。
元は精霊を祖とする精霊族なので、エルフや獣人と同様に、人族とはその根本がまったく異なる。
自ら鍛えた魔法武具に身を固め、戦などは武器の試し切りに他ならないとか豪語しちゃうような御方達だ。
でも王様くらいは、ちゃんと仕事したほうがいいと思うのだが。
ドワーフ全員が魔法剣士ならぬ魔法戦士といった佇まいで、しかもやっぱり全員が人の話は聞いていないし。
訪問すると、まず開口一番に『飲め』と言われる。
しかも相手は鋼鉄の、いや魔法金属性の肝臓の持ち主ばかりだ。
とはいえ飲まないとエルドア相手では外交にならないし。
そう言う訳で、外交官から見た嫌われ者ナンバーワンの国なのである。
そんな感じで碌に話も聞いてもらえずに、重度の二日酔いで唸っているミハエル王子の元へアルフォンスはやってきた。
追加の情報を貰うためであった。
◆◇◆◇◆
「あれ? 珍しいね。
どうしたの。
ミハエル殿下、昼中からあんたのそんな姿が拝めるなんてなあ」
俺は目を丸くする。
「ああ、聞いてくださいよ。
あの連中と来たら本当に……」
話を聞いて俺は大爆笑した。
「あっはっは。
それは一度見てみたいもんだなあ。
馬耳東風系ドワーフかあ」
「だったら、代わりに君が行ってきてくださいよ。
委任状を書きますから」
「そりゃ、いいけどさ」
俺はさも可笑しそうに笑った。
そして悪戯っぽい笑顔を浮かべて訊いてやった。
「勝利条件は?」
「開戦となった時に、サイラスからの援軍を最短で通行させる許可を取れば勝ちです。
もちろん帝国には内密で。
エルドア王国への報酬は……ふう。
あなたに御任せしますよ。
あまり無茶な条件は付けないでくださいね」
「何、王国に負担はかけないさ。
自分が手持ちの中から渡せる範囲の裁量にしておこう。
俺が面白そうだから受けるだけの話だ。
まあ駄目元くらいに考えておいてくれ。
こっちの準備も大方は片付いた。
後はアストロノーツの準備が出来るのを待つだけだ」
「アストロ?」
「いや、こっちの話さ。
それにしても筋肉隆々の大男ドワーフかあ。
また笑いが取れそうだぜ~」
インターネットの掲示板でね。
ドワーフか。
挑戦のし甲斐があるな。
俺が日本から持ってきた珠玉の酒達。
日本でも超酒飲み設定で知られた希代の酒飲み連中から見た、その評価はいかに。
打ちひしがれて蹲ったまま生きていた俺にとって最後の心の拠り所である酒だけはケチってこなかったんだからな。
ブレンド種である販売用の製品から分解して作りだした、高級ウイスキーの原酒の数々、そしてそれを再ブレンドした酒達。
原酒を更にインベントリ内でスキルにより加工した物まである。
日本酒やワインも分解して同様にしてみた。
混ぜ物なんぞは完全に排除した。
ウオッカに、ジャガイモから作った酒アクアビットなんて物まであるのだ。
貴重な泡盛古酒も、アイテムボックスの特殊機能を利用して、百年物二百年物の逸品に変えてやった。
こいつはちょっと凄いんだぜえ。
更にネットの情報を元にエセ材料で作ってみた、あの最強と謳われる純アルコールに近いような超アルコール度数の火酒。
連中、甘ったるいようなカクテルは駄目かな?
いやあ、ドワーフどもと一緒に飲むのがもう楽しみでしょうがないな。
俺がやけに楽しみにしまくりなので、ミハエル殿下は逆になんだか不安になったらしい。
失礼な。
彼に回復魔法を大量にかけまくっておいてから、エルドア方面のアルバトロス王国内で南側にあたる、既に転移ポイントがあるエルミアの街に転移した。
久しぶりに教会を訪ね、新作の御菓子なんかをプレゼントする。
入り口でもう子供達から大変な歓迎を受けた。
「おじちゃん、久しぶりー」
「おう、お前らも元気だったか?」
「オミヤゲは~?」
「いっぱいあるぞー」
「こんにちは、神父様。
ちょっと、こっちの方面に用事がありまして」
「そうですか。
いや御元気そうで何よりです」
みんなが俺の事を覚えていてくれて、とても嬉しい。
あと、神父様にはあれこれと大量の服なんかも渡しておいた。
修理用の端切れなんかも。
この世界で、特に辺境にある孤児院の子供服なんて、放っておくとすぐに継ぎ接ぎだらけになってしまうからな。
日本の児童養護施設とは訳が違う。
「いや、いつもすみませんね」
「なんの、今はこっちも孤児院持ちの身ですから、あなたの御気持ちも今ならよくわかりますよ」
「ははは、それは苦労が絶えないでしょうね」
「まあね~」
一番苦労するのが『敵からの防衛』なんだけどな~。
子供達と一緒にわいわいとおやつタイムを楽しんでから、フライでエルドアとの国境へ向かった。
こちら側の国境をマントの威光でさっと越えてから思わず沈黙した。
「……」
あれ、エルドア側の国境警備隊が誰もいない。
警備所みたいなところはあるんだが。
ま、まさかと思うが。
国境警備所の奥を覗くと槌の音が大量に響いていた。
こ、これはあかん。
思った以上にあかん。
確かに皆が戦士の国ではあるから、少々のおかしな奴らが国へ入ってきてもどうにでもなるのだが、そんな理由じゃないからな、あれ。
面白そうだったので思わず安請け合いしちまったが、こいつはちょっと失敗だったかな。




